平成元年度 運輸白書

第9章 安全対策、環境対策、技術開発等の推進

第2節 環境の保全

 健全な運輸の発展のためには、環境保全に対する取組が必要不可欠であるとの認識に立ち、運輸省においては、従来から運輸に関連する環境対策を実施している。
 交通機関の運行に伴い生じる大気汚染、騒音、振動等の問題については、発生源における公害防止対策、周辺地域における障害防止対策等、各種の対策を実施している。
 海洋汚染の防止については、船舶からの各種排出規制の強化等の国際的な動向への適確な対応とともに、海洋レクリエーションの普及等に伴う海洋活動の活発化への対応等、総合的な見地から海洋汚染防止施策を展開している。
 また、大規模な事業については、その実施前に環境に与える影響を評価することが公害の防止、自然環境の保全の観点から極めて重要であることから、環境評価の手続等について、政府としての統一的ルールが定められているが、運輸省としても、昭和60年4月に新幹線鉄道の建設、飛行場の設置、公有水面の埋立て等について環境影響評価の実施要領を策定し、さらに同要領の的確な運用を図り、公害の防止、自然環境の保全に努めているところである。

    1 交通公害対策
    2 海洋汚染対策
    3 その他の環境対策


1 交通公害対策
(1) 自動車公害対策
(ア) NOx問題への対応
 (NOx問題への取組み)
 二酸化窒素の環境基準については、60年7月にその達成期限が到来したが、大都市地域の幹線道路周辺地域を中心として、依然として環境基準を超える測定局が多く残されているなど、改善がはかばかしくない状況にある。
 このような状況に対応するため、運輸省においては、関係省庁と協力しつつ、@自動車排出ガス規制の強化、A最新の規制基準に適合した自動車への代替の促進、B低公害車としてのメタノール自動車の導入・普及等の発生源対策、@自家用車から営業車へのトラック輸送の転換、A共同輸配送等の物流合理化施策の推進、B公共交通機関の整備等を通じた自動車交通量の抑制対策等、環境改善のための諸施策を実施しているところであるが、今後ともこれらの施策を強力に推進していく。
 (自動車排出ガス規制)
 自動車に係る発生源対策としては、自動車の構造及び装置の面から排出ガスに係る規制を順次強化してきている。
 しかしながら、排出ガスのうち特にNOxについては、自動車台数の伸びに伴う交通量の増加等により、大都市等自動車交通量の多い地域において、一層の排出量低減が必要となっている。このため、運輸省では自動車排出ガス規制については、昭和61年7月の中央公害対策審議会の答申に基づき、NOxに関して、大型ディーゼルトラック等について15%削減、ライトバン等軽量トラックについて乗用車並みの低減等の規制強化を63年から平成2年にかけて逐次実施し、また、ディーゼル乗用車では、小型車について2年から29%削減、中型車については4年から33%削減の規制強化を実施することとしている。
 なお、最新の規制基準に適合した自動車への代替促進を図るため、元年度からは、2年規制に適合する自動車について、自動車税及び軽自動車税並びに自動車取得税の課税軽減措置が講じられている。
 (メタノール自動車導入のための施策の推進)
 メタノール自動車は、ディーゼル車に比べNOxの排出量が少なく、さらに黒煙をほとんど排出しない等低公害性に優れており、自動車の燃料の多角化の観点と併せ、自動車公害対策の面からその導入が有効とされている。運輸省においては、運送事業者等関係者の協力を得て、東京地区、大阪地区、神奈川地区、愛知地区において平成元年9月末時点で合計60台のメタノールトラックによる市内走行試験を推進している。この試験を通し、都市内集配、区域貨物輸送等の用途で営業用車両としての運転性能、排出ガス性能等についてのデータを収集しているところである。このほか、自治体においても20台以上のメタノール自動車が環境測定車、清掃車等として使用されている。
 なお、メタノール自動車の導入促進を図るため、同自動車について、自動車税並びに自動車取得税の課税軽減措置が講じられている。
(イ) 自動車騒音対策
 自動車騒音対策については、昭和51年6月の中央公害対策審議会の答申に基づき、新車に対する加速走行騒音規制をすべての車種について実施している。また、使用過程車に対しては、消音器等の不正改造による騒音の増大を排除するために、簡易測定方法である「近接排気騒音測定方法」による規制を61年6月から二輪車、63年6月から乗用車、平成元年6月からトラック等について実施している。さらに、暴走族が消音器を取り外す等の不正改造を行って爆音走行をしていることが社会問題となっていることから、元年7月に消音器の備え付けを義務化した。
(ウ) スパイクタイヤによる道路粉じんの対策
 近年、積雪寒冷地におけるスパイクタイヤ使用による道路粉じんが問題化している。
 運輸省では、公害防止と安全確保の観点から、昭和63年6月、従来より実施していた調査・研究結果を踏まえてスパイクタイヤの打ち込み本数の減少等を内容として「スパイクタイヤの構造基準」を策定し、平成元年1月以降、我が国において製造されるスパイクタイヤについては、本基準に適合したものとなっている。
 さらに、自動車の使用者に対して不要期における普通タイヤへの取替えの促進、道路破損の恐れの少ないスタッドレスタイヤへの転換等について指導している。今後も、公害防止と安全確保の両面を考慮しつつ、脱スパイクタイヤに向けて、関係省庁とその方策を検討していくこととしている。
(エ) オゾン層破壊物質の排出抑制・使用合理化
 地球的規模で問題となっているオゾン層破壊に対処していくことが必要であり、運輸省では、自動車のカーエアコンの冷媒に使用されているフロン12の排出抑制・使用合理化を図るため、カーエアコン装着時及び修理時における取扱上の具体的マニュアルを作成し、これにより適切な整備を行うよう関係団体を指導している。
(2) 新幹線鉄道公害対策
 新幹線の騒音・振動対策に関し運輸省は、「新幹線鉄道騒音に係る環境基準について」(昭和50年7月環境庁告示)、「新幹線鉄道騒音対策要綱」(51年3月閣議了解)等に基づき具体的な対策の実施等について、東日本、東海及び西日本の各旅客鉄道株式会社に対し指導を行っている。
 東海道及び山陽新幹線については、60年7月に騒音に係る環境基準の達成目標期間が経過したが、未達成の地域がみられたため、住宅密集地域が連続する地域について、61年5月より5年以内を目途に、レール削正の深度化、新型防音壁の設置、ハンガー間隔縮小架線の採用等各種の対策を組み合わせた総合的な音源対策を実施している。
 一方、東北及び上越新幹線については、62年6月及び11月に環境基準の達成目標期間が経過したが、建設段階で逆L防音壁の設置等の対策を講じたため、東海道・山陽新幹線に比べ環境基準の達成状況は良いものの、なお未達成の地域が残っているため、特に住宅が集合する地域において、平成2年度末を目途に、吸音板の増設、逆L防音壁の増設、レール削正の深度化等さらに対策の充実・強化を図っているところである。
 また、新幹線鉄道の騒音レベルが75ホンを超える区域における住宅等に関する防音工事の助成等並びに新幹線鉄道の振動レベルが70デシベルを超える区域における住宅等に関する防振工事の助成及び移転補償等については、対象家屋のうち申し出のあったもの全てに対し実施している。
(3) 航空機騒音対策
(ア) 航空機騒音対策の推進
 航空機騒音対策については、低騒音型機の積極的導入、騒音軽減運航方式の実施等の発生源対策の他、航空機騒音障害防止法等により、空港周辺地域において、学校・住宅等の防音工事の補助、公民館等の共同利用施設整備の補助、移転補償、移転跡地等を活用した緩衝緑地帯の整備、公園・緑道等の周辺環境基盤施設の整備等の周辺対策を促進してきた。さらに、大阪国際空港においては、大阪府等との共同事業として都市計画手法を用いた合計74ヘクタールに及ぶ緑地整備事業を昭和62年度から進めている。
 また、住宅防音工事に伴い設置された空気調和機器の機能回復工事及び生活保護世帯の当該空気調和機器の稼動費補助を平成元年度から実施している。
 今後とも積極的にこれらの対策を推進し、空港と周辺地域との調和ある発展を図ることとしている。
(イ) 福岡空港騒音訴訟
 本訴訟については、51年3月、周辺住民から国を被告として提起され、審理されてきたが、63年12月、福岡地方裁判所において、差止請求及び将来の損害賠償請求は却下、過去の損害賠償は一部認容する判決が言渡された。国は、同月、同空港の公共性、現在まで実施した環境対策等についての認定につき不服があるとして福岡高等裁判所に控訴した。これに対し、住民側も平成元年10月、附帯控訴した。

2 海洋汚染対策
(1) 海洋汚染対策
(ア) 海洋汚染の状況
 海洋汚染の発生確認件数は、昭和60年を境として増加傾向に転じたが、63年は927件と62年の975件より48件(約5%)減少した(2−9−3図)。また、廃油ボールの状況は、63年の調査結果によれば、漂流については、全体として前年とほぼ同じになっているが、海域別では日本海沿岸海域での増加が目立っている。漂着については、60年から横ばい状態が続いているが、海域別では南西諸島海域で多く認められる。さらに、海洋気象観測船による日本周辺及び西太平洋海域における観測によれば、外洋域での浮遊廃油ボールは57年以降低いレベルを維持している。
 一方、日本周辺海域、廃棄物排出海域として「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律」(以下「海防法」という。)で定められたA海域及び主要湾において海水並びに海底堆積物中の油分、COD、PCB、重金属等についての汚染調査を実施しているが、これらは全体的に低レベルである。プラスチック等の海面浮遊物による汚染は日本周辺海域で依然として顕著である。
(イ) 未然防止対策
 海洋汚染の未然防止対策としては海防法を中心に、@船舶からの油、有害液体物質及び廃棄物の排出規制、A海洋汚染防止設備等に関する技術基準の設定及び検査の実施、B船舶から生じる廃油、有害液体物質及び廃棄物の陸上における受入体制の整備等を行っている。
 さらに、海洋汚染防止推進週間、海洋汚染防止講習会等あらゆる機会を利用して、@海防法の規制内容の周知徹底、A海洋汚染防止思想の普及・啓蒙、B海洋汚染の防止指導等を行っている。
(ウ) 浄化対策
 港湾区域内における公害の防止を図るため、堆積汚泥の浚渫、覆土等の事業を実施するとともに、海面の浮遊ゴミの回収を行っている。
 また、港湾区域外の一般海域では東京湾、伊勢湾、瀬戸内海において、ゴミ・油の回収事業を実施している。
 さらに、近年のより快適な海域環境への要請に対応して、シーブルー計画を進めている。この一環として、ヘドロの堆積した海域において、覆砂や海浜整備による水質・底質の浄化、生物相の回復を図る海域環境創造事業を平成元年度には瀬戸内海等の2海域及び2港で実施している。
(エ) 監視取締り
 海上保安庁では、海洋汚染発生のがい然性の高い海域に巡視船艇・航空機を重点的に配備するとともに、監視取締資機材、汚染物質の分析手法の開発・研究の活用等により監視取締りを実施しており、昭和63年には、1,651件の海上公害関係法令違反を送致した。また、公海上での外国船舶による油等の不法排出については、国際条約に基づき当該船舶の旗国に対し、違反事実の通報を行っており、63年には28件の通報を行った。
 海上保安庁では、地球的規模の海洋汚染防止対策の観点からも、さらに監視取締りを強化することとしている。
(2) 国際的な動きへの対応
 我が国は、58年6月に「1973年の船舶による汚染の防止のための国際条約に関する1978年の議定書」(MARPOL73/78条約)に加入したが、同条約に定める規制物質のうち、油に関する規制は同年10月から、有害液体物質に関する規制は、62年4月から、廃棄物に関する規制は、63年12月末から国際的に実施され、我が国においてはこれらの実施時期にあわせ、国内法制を整え、その規制強化を図ったところである。
 なお、同条約のうち、容器入有害物質及び汚水に関する規制については、現在のところ発効要件を充足するには至っていないが、国際海事機関(IMO)においてその早期発効のための努力が続けられている。
 また、一方で、油濁二条約及び民間協定により、タンカー事故による油濁損害の被害者の救済等が図られている。

3 その他の環境対策
(1) 有機スズ化合物を含有する船底塗料問題への対応
 有機スズ化合物の一種であるトリブチルスズ(TBT)化合物及びトリフェニルスズ(TPT)化合物は海藻や貝類の付着を防止することから、船底塗料や漁網の防汚剤として使用されているが、これらの物質が内湾等の魚介類を中心に検出されている。 中央公害対策審議会化学物質専門委員会は、TBT化合物による汚染状況について、「現在の汚染レベルは、直ちに危険な状況にあるとは考えられないが、使用状況等を勘案すれば、今後とも環境汚染の状況を監視し対策を推進していく必要がある。」旨の評価を行っている。
 こうした状況から、63年度、TBT化合物13種、TPT化合物7種が「化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律」に基づき、人の健康を損ねるおそれがある化学物質に該当する疑いがあるとして、同法の指定化学物質に指定された。これを受けて、運輸省においては、船舶所有者等に対しTBT・TPT化合物の低含有率の塗料の使用等の指導を行った。
 さらに、平成元年7月には、昭和63年度TPT化合物の環境調査結果に基づき、同委員会は、TPT化合物による汚染状況について、「現時点では直ちにヒトの健康に問題を生じるとは考えられないが、現在の汚染の程度が長期にわたって継続するならば、将来、影響を及ぼす可能性があり、所要の対策を講じる必要がある。」旨の評価を行ったことなどから運輸省においては、TPT化合物を含有する船底塗料の製造及び使用を取り止めるよう船舶所有者等を指導したところである。
 また、平成元年9月に公表された昭和63年度の生物モニタリング調査の結果では、TBT化合物による汚染状況は概ね横ばいであったが、運輸省は、船舶所有者等に対し低含有率の塗料の使用等について一層の徹底を図るよう改めて指導したところである。
(2) 港湾における廃棄物の処理
 廃棄物発生量の増加と都市化の進展による内陸最終処分場の確保難を背景として、海面処分に対する要請が高まっている。このため、廃棄物を適性かつ安全に埋立処分するための廃棄物埋立護岸の整備を実施している。
 特に、大都市圏では、広域臨海環境整備センター法に基づき、複数の自治体が共同で利用する広域処分場を整備するフェニックス計画を推進している。大阪湾圏域では62年度から処分場建設工事に着手しており、平成2年1月に廃棄物の受入れを開始する予定である。東京湾圏域においては、平成7年度までには、既存の廃棄物処分場が受入限界に達する見込みである。このため、運輸省では、昭和62年4月に厚生省と共同で東京湾フェニックス計画の基本構想を発表した。現在、この構想を受けて、関係地方公共団体、港湾管理者等において検討が進められている。



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