平成元年度 運輸白書

第9章 安全対策、 環境対策、 技術開発等の推進
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第3節 災害対策の推進 |
- 運輸省、海上保安庁及び気象庁は、災害対策基本法に定める指定行政機関として、防災業務計画を策定し、災害の予報体制の強化、輸送施設及び交通機関の災害予防対策、国土保全対策、災害復旧事業を総合的かつ計画的に推進している。
また、1987年12月の第42回国連総会において、1990年代を「国際防災の10年」とする旨の決議が採択された。我が国においても、平成元年5月、内閣総理大臣を本部長とする「国際防災の10年推進本部」を設置し、国内外を問わず自然災害による被害を軽減するための積極的な対応を図ることとしている。
1 災害予防の強化
2 国土保全の推進等
3 伊豆半島東方沖海底噴火等への対応
- 1 災害予防の強化
- (1) 予知・予報情報の提供等
- (ア) 気象情報の提供等
- 気象庁は、昭和63年度の東京L−ADESS(気象資料自動編集中継装置)に続き、平成元年度は仙台L−ADESSを更新し、仙台管区気象台管内にコンピュータネットワークを整備するなど、気象資料伝送網の更新・整備を行い、地域ごとのより細かい予報・警報の発表、防災のための的確な気象情報の提供に努めている。
また気象資料総合処理システム(COSMETS)の稼動により、より高度な数値予報モデルの運用及び予測時間の延長が可能となった。これにより平成元年度には、週間天気予報の毎日発表を全国的に実施するとともに、台風進路の48時間予報も開始し、また、降水短時間予報の拡充を図った。さらに東アジア地域各国の台風業務の質的向上に資するため、国際的な協力業務として元年度から北西太平洋域の台風進路予報資料等をそれらの国々に提供している。
船舶の安全運航、海洋性レクリエーションの安全確保等のため、気象・海水象情報について一層の資料収集の強化、予報精度の向上を図り、詳細な波浪予測図や海流・海面水温予測図の作成を行っており、海流実況図の範囲を平成元年10月から北西太平洋全域に拡大した。
気象レーダーについては、引き続きデジタル化装置の整備を進め、平成元年度は、釧路、名瀬に整備する。アメダス(地域気象観測システム)については、積雪深計を引き続き整備する。また、沿岸における災害防止のため、遠隔自記検潮装置の更新を進める。
- (イ) 地震対策
- 気象庁は、全国的な地震観測を行い、津波予報、地震情報等防災上必要な情報を提供している。また、気象庁長官は東海地震の発生の恐れがあると判断した場合は、内閣総理大臣に「地震予知情報」を報告することとされている。このため、東海・南関東地域の地震計、体積歪計の整備を行うとともに、各種観測データをリアルタイムで処理し、総合的に監視するため、「地震活動等総合監視システム」(EPOS)を運用している。このシステムは、本年6〜7月の伊豆半島東方沖の群発地震等にも威力を発揮した。
また、平成元年度は、津波予報の一層の迅速化を図るため、気象資料伝送網の更新・整備の中で仙台管区気象台に地震波形の自動検測・震源決定等を行う地震信号処理装置を整備するとともに、小地震観測装置(3000倍)の改良・更新等を行う。
海上保安庁は、地震予知に必要な基礎資料を得るため、昭和63年度には遠州灘付近、須美寿島東方等において、海底地形・地質構造調査、潮汐観測、地磁気観測、重力観測等を実施し、これらのデータについては、地震予知連絡会にも提供している。
- (ウ) 火山対策
- 気象庁は、全国約70の火山のうち、活動的な18火山について常時監視を行っている。その他の火山については定期的に基礎調査を実施し、火山活動の異常時には、火山機動観測班が出動して緊急観測を行っている。これらの観測結果に基づき、適時「臨時火山情報」を、特に必要な場合には「火山活動情報」を関係都道府県知事に通報し、火山現象による被害の軽減に努めている。
昭和63年には十勝岳の噴火活動が活発になり、12月24〜25日の噴火では小規模な火砕流が発生した。このため、昭和63年度予備費により観測施設を整備し、監視体制の強化を図った。
海上保安庁では、海底火山活動を的確に把握するため、航空機により定期的に南方諸島及び南西諸島海域の火山活動観測を実施し、そのデータを火山噴火予知連絡会に提供している。また、火山活動の連続的監視・状況把握手法の確立を図るため、航空機及び人工衛星から取得したデータの解析技術の開発を行っている。
- (2) 防災対策
- ア 鉄道の防災対策
- 鉄道事業者は、鉄道運転規則等により、鉄道施設の定期点検を行い、危険箇所の把握に努めるとともに、橋りょう、トンネル、のり面工等構造物の取替え及び改良を実施し、災害の予防に努めている。
- イ 港湾の地震対策
- 観測強化地域及び特定観測地域とその周辺の港湾137港において、地震時の避難者や緊急輸送物資の海上輸送を確保するため大規模地震対策施設の整備を行うこととしており、昭和63年度末で91バースの整備を完了した。
また、地震に伴う地盤の液状化災害を防止するため、既存の大型岸壁について対策工事を実施している。
- ウ 海上防災体制の整備
- 海上保安庁は、排出油防除資機材の整備、消防艇の配備を行っている。また、船舶所有者、海上災害防止センター等における排出油防除資機材の整備等民間防災体制の充実を図るとともに、流出油災害対策協議会等の設置の促進、防災訓練の実施等官民協力体制の一層の強化を図っている。さらに、多様化する海上災害に対応するため、海上災害防止センターにおいては、種々の調査研究の実施、災害応急対策に関する助言組織の設置等防災体制の整備を推進している。現在各地で整備が進められている国家石油備蓄基地については、防災対策の強化の指導を行っている。
また、昭和58年の中央防災会議決定に基づき、立川広域防災基地における海上防災関係施設及び横浜海上総合防災基地(仮称)の整備を推進することとしており、昭和63年度から立川においては、海上保安試験研究センターの整備に合わせ施設整備を行っている。
- エ 空港における消火救難体制及び雪害対策
- 各空港ではICAOの基準に基づき化学消防車の配備等消火救難体制の充実に努めるとともに、救急医療資機材の配備など、空港救急医療体制の整備を進めている。
また、積雪寒冷地に所在する空港の雪害対策として、除雪車両等の整備により除雪体制を強化し、降雪期における航空機運航の安全性と定時性の確保に努めている。
- 2 国土保全の推進等
- (1) 国土保全のための海岸事業
- (安全で快適な生活を支える良好な海岸空間の形成)
背後への人口・資産の集中が著しい港湾海岸を高潮、津波、波浪、海岸浸食等の海岸災害から防護し、地域住民が海に親しめる、安全で潤いのある海岸づくりを推進している。
昭和63年度は、ゼロメートル地帯を抱える大都市海岸の耐震性の高い海岸保全施設の整備による高潮・地震対策、三陸・土佐沿岸等津波常襲地帯における津波対策及び外海において砂浜の積極的回復を図る新潟港西海岸での直轄海岸浸食対策、博多港海岸における海岸環境整備事業等をはじめとして、海岸事業の一層の推進が図られた。また、新規に26海岸で海岸事業に着手した。
平成元年度は、良好な定住条件の整備や豊かさを実感できる国民生活の実現に資するべく、良好な海岸空間の創出を図るふるさと海岸整備モデル事業に着手した。また、本事業の推進に向けて面的な海岸防護方式に関する調査・研究を実施している。
さらに、海洋性レクリェーンョン需要の多様化に対応し、海岸環境整備事業費による高質な海岸利用空間の創出方策について検討する。
- (2) 災害復旧事業の実施
- 昭和63年に発生した港湾施設及び区域内の海岸保全施設の被害額は43億円で、その主なものは台風18号及び1月〜2月の冬期風浪によるものであった。
昭和63年度に実施した災害復旧事業費は58億円であり、主な事業箇所は台風及び冬期風浪による被害を受けた北海道、福井、福島県等であった。
- 3 伊豆半島東方沖海底噴火等への対応
- 伊豆半島東方沖の群発地震活動は6月30日から始まり、7月4日から有感地震回数も急増し、本格的な活動となった。
この群発地震は、昭和63年7〜8月の活動よりやや北西側で発生し、震源の深さが浅く、7月9日11時9分に発生したマグニチュード5.5の地震が最大であった。地震活動は10日頃から低下したが、11日20時38分頃からこの地域ではこれまで観測されたことがない火山性微動が断続的に続き、13日18時29分頃から大振幅の微動が観測され、18時33分頃伊豆半島東方沖の海底(北緯34゚59.4'東経139゚08.0'付近、水深約100m)において噴火が発生した。
運輸省においては、交通関係事業者等との連絡体制を確保するとともに、地震・火山情報に十分注意して運行(航)するように指示した。また、噴火地点上空における観測・取材等の航空機が輻輳することが予想されたため、14日NOTAMを出すなど安全の確保を図った。さらに、関係事業者においても、対策本部を設置するなど適切な対応を図った。
気象庁は、地震及び火山機動観測班を伊東市に派遣し、観測及び状況の把握等を行うなど、観測体制を一層強化した。11日の微動では、緊急に関係機関に対して注意を呼び掛け、12日からは火山噴火予知連絡会及び新たに設置された「伊豆半島東方沖の海底火山部会」等を適宜開催し、統一見解等を発表した。また、噴火直後より、注意を呼び掛けるため、臨時火山情報を発表した。さらに、15日からは、現地へ迅速かつ正確に情報を伝達するため、静岡県、伊東市及び熱海市に対し、直接気象庁から情報等の伝達を行うこととした。
海上保安庁は、7月8、9日に測量船「明洋」(450総トン)を伊豆半島東方沖に派遣して、地震観測、海底地形調査等を実施した。さらに、13日には測量船「拓洋」(2,600総トン)を派遣して、同海域の海底地形調査、表層探査等を実施し、「明洋」が平坦であったことを確認した海底域に比高25メートルの海丘が出現しているのを発見した。同船は、同日夕刻に、約500メートルの至近距離で同海丘の位置において噴火を目撃し、これをビデオ及び写真に記録するとともに衝撃音の収録を行った。
また、15日には、測量船「昭洋」(1,900総トン)搭載の自航式ブイ「マンボウ」により噴火地点の調査を行い、比高10メートル、山腹の直径450メートル、火口の直径200メートルに変化した海底火山(「手石海丘」と命名)の存在を確認した。
一方、群発地震による災害発生に備えて、7月7日以降巡視船艇4隻を相模灘に派遣し警戒を実施していたが、海底火山が噴火した後は、直ちに第三管区海上保安本部等に対策本部を設置し、付近航行船舶等に航行警報を発するとともに、ヘリコプター搭載型巡視船を含む12隻の巡視船艇等を付近海域に集結させ、他の第三管区海上保安本部所属の船艇、航空機に即時待機を指示した。以降、7月25日対策本部を解散するまで、巡視船艇延べ109隻、航空機延べ44機を動員して、付近海域の監視・警戒及び変色水等の調査に当たるとともに、災害が発生した場合の初島等の住民避難及び救援物資輸送に備えた。

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