平成3年度 運輸白書

第2章 新たな交通体系の構築をめざして
 |
第2章 新たな交通体系の構築をめざして |
 |
第1節 新たな国内交通体系の構築 |
1 幹線旅客交通システムの構築
2 大都市交通の整備
3 鉄道整備の促進方策
- 1 幹線旅客交通システムの構築
- (1) 幹線旅客交通がめざすべき基本的方向
- 更に活発化していくと考えられる人々の広域的な活動を担う幹線旅客交通においては、出発地から目的地まで短時間かつ快適に、希望する時刻に到着できるサービスを、利用したいときにいつでも利用できるシステムの構築が強く求められている。
また、東京一極集中を是正し、多極分散による国土の均衡ある発展を実現するためには、幹線旅客交通システムを全国に展開することによって、人々の移動、交流の円滑化を図り、地域における経済、文化、生活等のさまざまな機能を向上させていく必要がある。
なお、このような全国規模のシステムの展開にあたっては、地球環境問題をはじめとした環境問題への対応の必要性の高まりや将来の需給が不透明な石油エネルギー問題への対応の可能性を考慮し、環境への負荷が少なく、省エネルギー型の高速交通機関である高速鉄道ネットワークの形成・充実を積極的に推進していくことが望ましい。
- (2) 幹線旅客交通システム構築の基本的考え方
- (ア) 幹線旅客交通システム構築の基本的な課題
- 幹線旅客交通システムを構築していくためには、@現在及び将来の需要に的確に対応した交通施設容量の確保、Aドア・ツー・ドアでのトータルの移動時間の短縮、B随意に利用できるサービスを提供するためのフリークエンシーの向上、Cハード、ソフト両面での快適性、利便性の向上といった基本的な課題に取り組んでいく必要がある。
- (イ) 幹線旅客交通システム構築にあたっての考え方
- 幹線旅客交通システムの基幹となる部分については、地域間のつながりの特色と交通機関の特性を十分に生かして、高速の基幹ネットワークを展開することが重要であり、三大都市圏相互間、三大都市圏と地方圏間、経済的な結び付きが強い地方圏相互間及び圏域内の主要都市間の交流の円滑化に重点をおいて進める必要がある。また、基幹ネットワークの展開よりもアクセス部分の充実による対応の方が、利用利便性の高いシステムの効率的な構築に有効な場合もあることから、基幹ネットワークとアクセス手段をトータル・システムとして地域に適用することも重要である。
- (3) 21世紀に向けての幹線旅客交通システム構築のための具体的対策
- (ア) 鉄道ネットワークの整備
- (a) 高速鉄道ネットワークの再構築
- 鉄道ネットワークは、在来鉄道ネットワークがおおむね全国をカバーしており、新幹線ネットワークも逐次、充実が進められているが、高速ネットワークの構築という点からみれば、まだ途上にあるといえる。
特に、在来鉄道ネットワークでは、現在のところ津軽海峡線の一部区間で140km/hが最高速度、常磐線、湖西線等の一部区間で130km/hが最高速度となっているが、線形の良い区間が少ないため、最高速度の出せる区間は限られており、表定速度(駅の停車時間も含めた平均速度)でみれば、一般的に60km/h〜90km/hの線区が大半となっている〔1−2−1図〕。世界的には、西欧先進国の在来鉄道では最高速度160km/h以上、表定速度100〜120km/h程度の線区が多く、また、ECが2年12月に発表したヨーロッパ高速鉄道網に関する中間報告書によれば、西暦2010年を目標年次として、新たに最高速度250km/h以上の線区を9,000km整備するとともに、在来幹線の改良により、最高速度200km/hの線区を1万2,000km建設することとなっている〔1−2−2図〕。これに比較して、我が国の在来鉄道については、高速化の立ち遅れが目立っている。加えて、人々の時間価値の高まり等に伴い、鉄道の高速化へのニーズが一層高まることが予想され、この点は、近年高速化を行った路線において、輸送量の顕著な増加が見受けられることからもうかがえる〔1−2−3図〕。
このため、国土の基軸となる新幹線ネットワークの形成を進めるとともに、これを骨格として、連携する在来鉄道の高速化を推進し、高速鉄道ネットワークの再構築を図る必要がある〔1−2−4図〕。
- (b) 実現に向けての施策
- @ 整備新幹線の建設の推進
- 新幹線は、需要が大きい中・近距離帯輸送において優れた特性を発揮するが、その整備には巨額の投資が必要となることから、投資効果に十分配慮しつつ、段階的に整備を進める必要がある。このため、建設規格、着工優先順位、財源対策等の基本事項について定めた基本スキーム〔1−2−5表〕
に沿って、整備3線の整備を推進する。
- A 鉄道ネットワークの高速化の推進
- 在来鉄道については、新幹線と在来鉄道の直通運転の推進、新幹線と在来鉄道の乗継利便の向上によりトータルでの所要時間の短縮を図る。また、最高速度160km/h以上、表定速度100km/h以上の特急の運行をめざすなど、表定速度の大幅な向上を目的として、線形改良、軌道強化、車両改良、新型車両の投入等を推進する〔1−2−6図〕。なお、既設新幹線についても、新型車両の開発等の技術開発を進め、速度の向上を図る。
- B 東海道新幹線の容量逼迫への対応
- 東海道新幹線は、ピーク時間帯には混雑が慢性化している〔1−2−7図〕。このため、列車運行本数の増加方策等について検討し、輸送力増強のための有効な施策を推進する。
- C 中長期的な指針の策定
- 鉄道については、投下資本が多額にのぼること、投資の懐妊期間が長いこと等から、計画的にその整備を図っていく必要がある。このため、鉄道整備に関する中長期的な見通しに立ってめざすべき鉄道整備の姿を示し鉄道整備を計画的かつ着実に進めていくため、平成3年6月17日の運輸政策審議会総会において「21世紀に向けての中長期の鉄道整備に関する基本的考え方について」の諮問を行ったところであり、同審議会の鉄道部会において審議が進められることとなっている。
- (イ) 航空ネットワークの整備
- (a) 二極ネットワークの充実と多極ネットワークの形成
- 航空は、長距離帯輸送を中心に、高速交通機関としてその特性を発揮しているが、人々の活動の広域化、所得水準の向上等に伴って、需要が急増しており、国内ネットワークの集中する大都市圏においては、空港の整備の遅れによりネットワークの形成が追いつかないのが現状である〔1−2−8図〕。このため、できる限りジェット機による直行サービスを提供できるようネットワークの形成を進めるとともに、需要量から直行サービスの提供が困難な場合には、乗継ぎによるサービスを提供できるようネットワークを充実する必要がある。
具体的には、東京国際空港及び大阪国際空港が能力の限界となっているので、東京圏、大阪圏の二大都市圏において空港能力を拡大させることによって、二大都市圏を中心とした全国的な放射状のネットワーク、すなわち、二極ネットワークの充実を図る必要がある。また、札幌、名古屋、福岡、那覇等の地方中枢都市の地域的・全国的な役割の高まりに対応して、地方中枢都市の母空港である地方拠点空港等を中心とした全国各地への直行サービスの充実を図るとともに、地方拠点空港を幹線航空と域内航空路線の乗継拠点として、一層の活用を図ることにより、多極ネットワークの形成を推進することも必要である。
- (b) 実現に向けての施策
- @ 二大都市圏の空港能力の拡大
- 依然として、東京・大阪の二大都市圏の空港に集中する国内航空需要〔1−2−9図〕に対応するため、東京国際空港の沖合展開事業及び関西国際空港の第1期工事を進めるとともに、大阪国際空港の一層の活用を図る。さらに、東京圏における空港能力の一層の拡大のため、新規空港の設置、既存の空港・飛行場の活用等について総合的な調査を進め、その結果を踏まえて具体的に対応していく。また、大阪圏における空港能力の一層の拡大のため、関西国際空港について、第2期計画に関して早急に本格的な調査を行うこととする。
- A 地方拠点空港等の整備
- 新千歳空港、福岡空港等の地方拠点空港については、需要に応じて二大都市圏の空港を経由しない直行サービスの充実を図るとともに、直行サービスの提供が困難な地方都市間等についての乗継拠点としての利用を進めるため、ターミナル施設等を整備する。
- B 地方空港等の整備
- その他の地方空港については、二大都市圏の空港制約を勘案しつつ、需要の増大に対応するため、滑走路を延長するなど、乗り入れる航空機を大型化するための整備を進めるとともに、ジェット化への対応の仕上げに向けて整備を進める。新規空港の設置については、需要確保の見通し、既存空港へのアクセス改善の可能性、他の交通機関による代替可能性、需要規模との関係における利用利便性の向上の可否について十分調査・検討のうえ対応する。また、地域的なネットワークとして、離島路線の充実を図るとともに、高速交通体系の空白地域の解消や定期航空輸送の補完において特性を発揮するコミューター等の活用のための施策を講ずる。
- C 空域等の効率的利用
- 関東や関西空域等の航空交通の集中する特定の空域や主要航空路では、空域容量が飽和状態にあり、また、現在整備中の三大空港プロジェクトが完了すれば航空交通の一層の増加が予想されるため、関係機関と協議しつつ、効率的な空域利用に向けての調整、空域の再編成等を進め、必要な空域を確保するとともに、新しい技術や管制方式を開発、導入し、空域の効率的利用を促進する。また、既存の空港能力を最大限に活用するため、利用利便性の向上効果、周辺環境対策の推進等について総合的に勘案しつつ、空港の発着時間の拡大にも取り組んでいく必要がある。
- D 中長期的な空港整備計画の策定
- 航空ネットワークの土台となる空港の整備を進めるためには、長期間にわたって多額の投資を計画的に行う必要があることから、昭和42年度以後、中長期的な空港整備計画である「空港整備五箇年計画」を策定し、空港等の整備を推進している。平成3年度からの5年間は、3年秋に決定が予定されている「第6次空港整備五箇年計画」に基づき、所要の空港等の整備を計画的に進めることとしている。
- (ウ) 幹線道路ネットワークの有効利用とその整備
- (a) 道路交通混雑問題及び環境問題への対応
- 幹線道路は、自家用車や都市間バスを使用した、主として圏域内及び隣接圏域間の高速移動に利用され、また、物流においては、全国的な輸送にも利用されている。
しかしながら、道路交通量の増大に伴い、大都市圏とその周辺部の幹線道路や東名・名神高速道路等における混雑は慢性化しており、自動車輸送の高速性、定時性及び利用利便性の低下が著しい〔1−2−10図〕。また、二酸化炭素(CO2)による地球温暖化、窒素酸化物(NOx)による大気汚染等の環境問題が顕在化しているが、自動車は、その大きな排出源のひとつとなっている。
このため、これらの問題に対応していくため、モーダルシフト(トラックからより効率のよい鉄道や海運を利用していくこと)を推進するとともに、幹線道路ネットワークの整備及び他の交通機関との接続の強化を図っていく必要がある。
- (b) 実現に向けての施策
- @ モーダルシフトの推進等
- モーダルシフトを推進するために、貨物を積載したトラックを貨車に積み込んで輸送するピギーバック輸送に適合したトラック等の整備の促進を通じて物流事業者や荷主企業等が鉄道及び海運を利用しやすいような環境の形成を図るとともに、コンテナ列車の長大化のための発着線等の鉄道施設や内航コンテナ船、フェリー等の貨物を取り扱うための港湾施設等のインフラ整備等を推進することによって、モーダルシフトの受け皿となる鉄道及び海運の輸送力の増強を進めることとしている。
また、鉄道駅及び港湾へのアクセス道路の整備を進め、鉄道及び海運と道路輸送との接続の円滑化を図ることも重要である。
- A 幹線道路ネットワークの効率的整備と他の交通機関との接続の強化
- 幹線道路ネットワークを効率的に整備するため、高規格幹線道路については、縦貫道がほぼ完成していることを踏まえて、横断道の整備を推進する。また、道路交通混雑の激しい都心部を通過することなく幹線輸送を行えるようにするためのバイパス、環状道路等高規格幹線道路と一体となって機能する一般国道の整備を促進する必要がある。さらに、他の交通機関との接続を強化するため、高規格幹線道路や都市の中心部等と新幹線駅、空港等との連絡道路の整備を進めることも重要な課題となっている。
- (エ) 各ネットワークへのアクセス
- (a) アクセス機能の向上
- 出発地から目的地までのモビリティの向上のため、各輸送機関へのアクセスの整備が重要である。
このため、空港に対するアクセスについては、軌道系アクセスその他の需要に応じた高速でかつ定時性の高いアクセス手段を計画的に整備する必要があり、3年3月には成田空港駅への鉄道乗入れが実現したところである〔1−2−11図〕。さらに、高速道路インターチェンジ等との連絡道路の充実も重要であり、また、海上又は臨海部に位置する空港については、海上アクセス網の整備を進めることとしている。
新幹線駅等高速鉄道駅に対するアクセスについては、高速道路インターチェンジ等との連絡道路の充実等道路との連携機能の強化が重要であり、また、地域的な鉄軌道やバスとのダイヤの整合性を一層高めるなどにより円滑な乗継ぎを確保するよう努めている。
- (b) ターミナルにおける結節機能の向上
- トータルでの移動時間の短縮を図るとともに、移動を容易にするためには、空港、高速鉄道等のターミナルの機能の向上を図る必要がある。このため、混雑しているターミナルの容量を確保するとともに、乗降場所の確保及び近接化、ターミナル内の移動を迅速にするための施設整備等を進める。また、搭乗手続き時間の短縮のための体制・設備の整備、円滑な移動に必要な情報提供の充実を進めるほか、自家用車によるアクセスのための駐車場を併設し、レンタカー・サービス等の関連サービスをも備えた複合的なターミナルの整備を進める。
- 2 大都市交通の整備
- (1) 大都市交通問題の現状と公共輸送機関への期待
- 大都市圏においては、人口集中や都市圏の外延化に伴う通勤・通学輸送需要が増大の一途をたどっており、鉄道の混雑と通勤・通学時間の長時間化を引き起こしている。一方、道路交通の分野においては、自家用車、トラック等の増大、違法駐車の増加等による道路交通の機能低下に伴い、バス等が定時走行を行うことが極めて困難となっていることなどから信頼性を大きく損なっているほか、窒素酸化物(NOx)問題、騒音問題、二酸化炭素(CO2)排出増加等の環境問題、交通事故の増加等を引き起こしている。このような過度の集中により生じている弊害を克服するためには、多極分散型国土の形成のための努力が゛引き続き行われる必要があるが、同時に、大都市のこの現状を打開するために、大量の輸送力を有し、かつ、輸送サービスの高度化・多様化への要請に応えうる公共輸送機関への期待が高まっている。
- (2) 大都市交通体系の基本的考え方
- (ア) 大都市中心部と郊外間の輸送
- 我が国の大都市圏は、常住人口密度が極めて広範囲にわたって高密度であり、また、都市構造は基本的に職住分離型である。この結果、郊外部の居住地と中心部の業務集積地との間に大量の旅客流動(通勤・通学客)が発生している。これらの旅客輸送の大半は鉄道によって担われており、今後とも、大都市中心部と郊外間の輸送は主として鉄道により対応する必要がある。
- (イ) 大都市中心部の輸送
- 人口の集積が大きい中心部においては、交通に対する需要も大きいことから、基幹的な部分については、今後とも地下鉄を中心とした鉄道網によって対応する一方、バスについては鉄道と連携しながら路線網の再編・整備を進め、よりきめ細かい交通ネットワークを形成して鉄道を補完することとする。
- (3) 大都市交通体系の整備の基本的方向
- (ア) 大都市鉄道の整備
- (a) 混雑と通勤・通学の長時間化への対応
- 大都市においては、これまでも新線建設等の輸送力増強が行われてきた。この結果、混雑度は漸次改善の方向に向かってきているが、依然として通勤・通学時の車両及びターミナルの混雑は激しく、通勤・通学時間の長時間化も進んでいる〔1−2−13図〕。
なお、混雑のピーク時の輸送需要を分散させるため、混雑のピーク時とオフピーク時との運賃格差の設定等の新たな運賃制度の導入についても検討する必要がある。
- (b) 宅地開発と一体となった鉄道の整備
- 近年の地価高騰等により、大都市においては、住宅の取得が困難となっており、このための対策として、新幹線通勤者の増加に対応して通勤時間帯における新幹線列車の増発等を行ってきている〔1−2−14図〕が、さらに、抜本的な対策として、都市生活者が妥当な価格で通勤可能な場所に良質な住宅を取得できるよう、「大都市地域における宅地開発及び鉄道整備の一体的推進に関する特別措置法」を活用し、宅地開発との整合性をとりつつ鉄道整備を推進する必要がある。
- (イ) 都市交通サービスの向上
- (a) 利用者ニーズの把握とその対応
- 公共輸送サービスの供給者は、絶えず需要や輸送サービスへの要請についてモニタリングを行い、利用者ニーズを的確に把握し、これに速やかに対応する必要がある。現在、交通機関は、定時に、速く、待時間なく利用でき、また、乗継ぎが容易にできることを求められており、輸送サービス向上のための具体的施策を講ずることにより、これに応じていくことが必要である。
- (b) 交通機関の利用や乗継ぎの円滑化
- 交通機関を利用する場合のわずらわしさ、特に他の交通機関との乗継ぎのわずらわしさを減少させるため、エスカレーター等の施設整備〔1−2−15図〕、駅の乗継ぎ利便向上のための施設の整備、鉄道の相互直通運転、複数事業者による共通乗車券の導入、乗継割引運賃の導入等が必要である。
- (c) 快適性の向上等
- このほか、輸送サービスの質の高度化、アメニティの向上への要請に応えて、交通機関の乗り心地の改善、車両の冷房化等により快適性の向上を図るとともに、輸送サービスの内容や必要な乗継ぎ等に関する情報を容易に入手できるようにすることが必要である。また、高齢者・身体障害者等のいわゆる「交通弱者」にも利用しやすい交通機関とするため、大都市交通においてはもちろん、全国的にエレベーターの設置、低床・広ドアバスの導入等施設・車両の整備を進めるとともに、運賃等の面でも配慮する必要がある。〔1−2−16図〕。
なお、3年12月1日から鉄道、バス、タクシー、航空等において、精神薄弱者に対し、身体障害者と同様の内容の交通運賃割引制度を導入することとしている。
- 3 鉄道整備の促進方策
- (1) 鉄道整備の促進の基本的考え方
- 今後、新たな国内旅客交通体系の構築を図っていくためには、幹線旅客交通システムと大都市交通について、これまで述べてきたような施策を実施していく必要があるが、これにあたっては、多くの課題を克服していかなければならない。特に、鉄道については、国内交通体系の構築全般にわたって大きな役割を果たすことが期待されているにもかかわらず、その整備は着実に進んでいるとは言い難く、逆に、用地費及び工事費の増大等に伴って鉄道事業者の投資意欲が低下している状況にある。このため、安定的整備財源の確保、公的助成の充実等鉄道事業者による投資を促進するための環境の整備を推進するとともに、中長期的な整備指針を策定し、計画的かつ着実な鉄道整備を図ることが重要である。
- (2) 鉄道整備のための財源確保等
- (ア) 運賃のあり方
- 鉄道の整備は、その便益を享受する利用者の負担によることが基本であるが、公共輸送機関として利用者の負担能力を勘案した運賃水準にする必要があること、他の輸送機関との競合があること等から、早期に大規模な投資を回収しうる運賃水準とすることは困難である。このため、鉄道の整備を促進するためには、以下の措置を講ずる必要がある。
@ 工事費の上昇等による設備投資額の増加と鉄道のサービス水準に対する社会的要請の高まりに伴い〔1−2−17図〕、利用者負担が増大せざるを得ないことについて、利用者の理解を得るように努めること。
- A 鉄道の整備期間中であっても、これに要する費用の一部を運賃で回収することができるよう、運賃の平準化措置を講ずること。
- B 大都市鉄道の整備は、通勤・通学の輸送需要に対応する面が大きいが、一般に通勤手当ては企業が支給しており、また、企業が通勤の輸送需要の原因者であると同時に受益者でもあることから、通勤定期券の割引率を引き下げ、通勤・通学の混雑を緩和するための施設の改良等に充てること。
- C 利用者ニーズに対応したサービスの提供を行うため、深夜割増運賃の導入等の料金・運賃の多様化を検討すること。
なお、以上の措置のうち、Aの運賃の平準化措置については、昭和61年に成立した特定都市鉄道整備促進特別措置法により、複々線化等の大規模な輸送力増強工事を行う事業者が運賃収入の一部を非課税で積み立て、これを工事資金に充当して工事の促進を図る特定都市鉄道整備積立金制度が導入されており、現在、東武鉄道等5社が、特に混雑の激しい路線において、積立金を活用した大規模輸送力増強工事を行っている
〔1−2−18表〕。
- (イ) 助成のあり方
- 鉄道の整備には膨大な資金が必要であり、投資の回収期間が長期にわたるため、利用者負担のみでその整備を行うことが困難である場合が多い。また、幹線交通ネットワークを構成する高速鉄道は、一種の社会資本として、全国的・広域的な便益をもたらすことから、利用者利便の向上のみならず、国土の均衡ある発展にも大きな役割を果たすものである。このため、所要の公的助成等を行い、鉄道事業者の投資意欲を醸成する必要がある。このような点を踏まえ、平成3年10月に、鉄道助成を総合的かつ効率的に行う特殊法人として鉄道整備基金が設立された。この基金は、既設新幹線の譲渡収入等の一部を活用しつつ、これに一般会計等からの補助金を加えて、円滑かつ安定的な資金供給を行うことにより、新幹線の整備や在来線の高速化といった幹線鉄道に対する助成と地下鉄等都市鉄道に対する助成を一元的に行うものである〔1−2−19表〕。今後は、この基金による補助、無利子貸付等の助成制度を活用するとともに、国や地域からの負担の充実を図り、整備新幹線の建設をはじめとする円滑な鉄道整備を推進していく必要がある。また、鉄道事業の経営が沿線開発の進捗状況に大きく左右される路線については、住宅・宅地の開発計画との整合性を保つとともに、後述する開発利益の還元を図るなどにより、その整備を進める必要がある。
- (ウ) 開発利益の還元
- 開発利益とは、鉄道の整備によってその整備主体者以外の者が享受する外部経済効果であり、最終的には周辺の土地価格に反映される。このため、鉄道整備のコストを負担していない者に鉄道整備による利益が帰属することになる。一方、鉄道整備により生ずる環境問題等の外部不経済については、主に鉄道事業者が対応している状況にある。このため、鉄道整備に際し、投下資本の額を抑え、負担の公平を図る観点から、開発利益の還元を図ることが必要である。還元の方法については、現在、特定の制度がないことから、ニュータウン線の開発者負担等を活用するとともに、新たな方策について検討すべきである。
- (エ) 事業主体のあり方
- 鉄道の整備は、資金調達力、技術力、事業運営の効率性等に優れた事業主体があたることが適当であるが、都市部における地下鉄や長大な新線については、既存の鉄道事業者が自ら資金調達をし、その整備を行うことが困難である場合が多くなってきている〔1−2−20図〕。このため、必要に応じ、関係者の創意工夫により、民間活力の活用を含め、適切な事業主体が選定されることが期待される。また、整備主体が十分な工事能力等を有していない場合については、鉄道建設技術力の蓄積と資金調達力を有する日本鉄道建設公団の活用を図ることも必要である。
- (3) 建設費の低減方策等
- 鉄道の整備を円滑に推進するためには、財源の確保等に加えて、投資規模を過大にしないようにすることが重要である。このため、鉄道線路敷や道路の上部空間・地下空間等の効率的利用を推進するほか、施行条件に応じたトンネル掘削工法の選択、高架橋等のより合理的な設計の採用を行うとともに、通常の地下鉄よりトンネルの断面積を小さくすることができるリニア地下鉄の導入を図るなど建設費の低減のための施策を推進する必要がある。さらに、比較的短期間にかつ少ない投資で改善を図ることが可能である既存施設の有効利用を推進することも必要である。〔1−2−21図〕。

平成3年度

目次