平成3年度 運輸白書

第10章 地球環境の保全
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第10章 地球環境の保全
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第1節 地球規模の環境問題への対応 |
1 地球環境問題をめぐる内外の動き
2 地球環境問題への対応
- 1 地球環境問題をめぐる内外の動き
- 1980年代に入り、地球温暖化、オゾン層の破壊、酸性雨、熱帯林の減少、海洋汚染といった地球規模での環境問題が次々と顕在化し、これらの問題が人類の生存基盤を脅かしかねないものであるという認識が世界共通のものとなってきた。
こうした認識のもとに、関係の国際機関を中心にこの問題に的確に対応するための国際的枠組みづくり等が活発に進められている。特に、地球温暖化については、平成4年6月にブラジルで開催予定の国連環境開発会議(地球サミット)で、「気候変動に関する枠組み条約(仮称)」の採択をめざして、外交交渉が展開されているところである。
我が国においては、元年5月「地球環境保全に関する関係閣僚会議」を設置し、2年10月には、二酸化炭素(CO2)の排出抑制対策の推進等を図るため、実行可能な対策から直ちに実行に移していくことを定めた「地球温暖化防止行動計画」を策定したところである。
また、運輸省においては、早くから地球環境問題に対して積極的に取り組んでおり、地球温暖化、オゾン層の破壊、酸性雨、海洋汚染等の各分野において重要な役割を果たしている。
- 2 地球環境問題への対応
- (1) 地球温暖化
- CO2等の温室効果気体の大気中濃度は、近年増加を続けており、気象庁では、現在の増加率で増え続けると、地上気温は、2030年代には1960年頃に比べて平均1.2〜3.0℃程度上昇し、降水量、降水分布、海面水位に変動が起きると予想している。
(観測・監視、メカニズムの解明)
気象庁では、従来より、世界気象機関(WMO)が推進している世界気象監視計画や大気バックグランド汚染観測網等の国際的観測・監視計画に沿って、気候変動や温室効果気体等の実態把握のため、観測・監視体制の充実・強化を図っており、3年度には、従来からの西太平洋での海洋気象観測船による洋上大気及び表面海水中の温室効果気体の観測を海洋表・中・深層にまで拡大した。また、2年10月から、WMOの要請を受けて気象庁に設置した温室効果気体の世界資料センターの運用を行っている。
海上保安庁及び気象庁は、地球温暖化に密接に関連する海洋循環の解明のため、海況、海面水位の変動の監視を実施している。また日本海洋データセンターにおいては、地球温暖化関連の海洋データの収集・管理・提供を実施している。
また、気象庁はWMOの推進している世界気候研究計画等に沿って、気候変動の予測精度向上をめざした気候モデルの高度化の研究に取り組んでいる。加えてそれに必要な雲の温暖化への影響、海洋大循環、温室効果気体の大気・海洋交換過程等、気候変動のメカニズム解明に係るさまざまな研究を実施している。これらの成果は国内関係機関に提供され、行政施策に活かされるとともに、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)等の国際会議等で発表報告され、施策決定に反映されるなど、科学的分野での国際貢献に寄与している〔2−10−1図〕。
(運輸部門からの温室効果気体の排出抑制対策)
エネルギーの98%を石油に依存している運輸部門においては、CO2排出量が我が国の排出量全体の2割以上を占めており、CO2排出抑制を強力に推し進める必要がある。
@ 交通機関単体のCO2排出低減・抑制対策
自動車については燃費性能のより一層の向上の推進、ディーゼル・電気ハイブリッド自動車、電気自動車等の導入促進等CO2排出低減に有効な対策を推進している。また、鉄道、航空、船舶においても、燃費効率の向上を図ることとしている。
A CO2排出低減・抑制に資する交通体系の形成
物流部門では、モーダルシフトの推進、自家用車から営業用車への転換や営業用車の積合せ輸送の推進等物流の効率化を図ることとしている。また、旅客部門では、鉄道輸送力の増強、バス活性化対策の推進等により、エネルギー効率の高い公共輸送機関を整備し、利用の促進を図ることとしている。
(温暖化による海面水位の上昇とその対策)
地球温暖化に伴う海面水位の上昇は、その程度によっては、人口・資産が集中する臨海部の諸機能に重大な影響を及ぼすものと予想される。このため、臨海部への影響の予測と被害を未然に防止するための対策について、有識者からなる委員会を設置し検討を進めている。
(国際的動向と対応)
地球温暖化防止については、国連環境開発会議での「気候変動に関する枠組み条約(仮称)」の採択という頂点に向けて、数次にわたり準備会合が開催されるなど国際的取組みが進められている。
運輸省もこれらの取組みに積極的に参画していくこととしている。
- (2)海洋汚染及び海洋変動
- 油、廃棄物等による地球的規模での海洋汚染の進行、大型タンカーの事故等による大規模な海洋汚染事故等に対し、全世界的な取組みを推進していく必要がある。また、海洋変動について、知見を蓄積することも重要な課題となっている。
(観測及び調査研究の推進)
海上保安庁は、国連教育科学文化機関・政府間海洋学委員会 (UNESCO/IOC)の西太平洋海域共同調査の一環として、大型測量船「拓洋」による海洋精密観測及び漂流ブイの追跡による海流調査等の物理調査並びに海洋汚染物質のモニタリング等の化学調査を長期にわたって実施している。また、我が国周辺海域において、油分、PCB、重金属等の化学分析を行っているほか、廃油ボールの実態を把握し、その防止策を講じるため、IOCの海洋汚染モニタリング計画に参加し、漂流・漂着状況の調査を行い海洋環境の保全に努めている。また、これらから得られるデータは、日本海洋データセンターが一元的に収集・管理・提供を行っている。気象庁では、日本周辺及び西太平洋海域で海面水温等の観測を実施し、海洋変動の監視及びエルニーニョ等の予測モデルの開発を行っている。また3年度には、油分、温室効果気体、オゾン層破壊物質等の海洋バックグランド汚染観測の強化を行った。さらに、海上保安庁及び気象庁では、WMO等が推進している世界海洋循環実験(WOCE)計画への協力に努めている。
(OPRC条約と国内対応)
元年3月、米国アラスカ湾で発生した「エクソンバルディーズ」の事故を契機として、国際海事機関(IMO)において大規模油流出事故に対応するための国際協力体制の確立等を目的とする新たな国際条約の作成作業が進められ、2年11月「1990年の油汚染に対する準備、対応及び協力に関する国際条約(仮称)」(OPRC条約)が採択された。
同条約には、船舶等への油汚染緊急計画の備付け、油汚染事故発生時の通報手続き、国家及び地域システムの構築、油汚染への対応における国際協力の促進等に関する条項が盛り込まれている。このため、同条約の作成作業に積極的に参加・協力してきた運輸省としては、同条約の早期締結に向けての所要の国内体制の整備を推進することとしている。
(国際的な海洋汚染防除体制の整備)
アセアン諸国の周辺海域は大型タンカーの輻輳する重要航路となっており、一度事故が起これば周辺各国に甚大な被害を及ぼすことから、大規模油流出事故への対応が国際的に取り組むべき課題となっている。こうした状況を踏まえ、運輸省ではアセアン諸国に対して積極的な技術協力を行うことにより、当該海域における大規模な海洋汚染事故に対する国際的地域緊急防除体制の整備を図ることを目的とする「OSPAR計画(Project on Oil Spill Preparedness and Response in Asia)」を推進している。
3年度には、国際的地域緊急防除体制の具体化のための調査研究及びOSPAR協力会議(於マニラ)等を実施することとしている。
(油タンカーの構造問題)
油タンカーの事故に伴う油の流出の防止又は低減を図るため、油タンカーに関する構造規制の強化を内容とする「1973年の船舶による汚染の防止のための国際条約に関する1978年の議定書」(MARPOL73/78条約)の改正がIMOにおいて検討されている。このほか、全く新しい船体構造等革新的な油流出防止技術の研究開発を進めている。
- (3) オゾン層の破壊
- オゾン層は、有害紫外線を吸収し地上の生命を守る重要な役割を果たしているが、近年フロン等の放出による破壊が懸念されている。
(観測・監視、メカニズムの解明)
北半球の高緯度の冬季平均オゾン全量は、10年当り約3%減少し、南極では1989、90年に87年に次ぐ大規模のオゾンホールが現れた。気象庁は、オゾン層に加え有害紫外線及びオゾン層破壊物質の観測・研究を強化し、オゾン層破壊防止対策に寄与するための情報を提供している〔2−10−2図〕。
(国際的動向と対応)
フロン等の監視・規制は、「オゾン層保護のためのウィーン条約」及び「オゾン層を破壊する物質に関するモントリオール議定書(以下「モントリオール議定書」という。)」に基づき進められており、2年6月に開催されたモントリオール議定書第2回締約国会合では、特定フロン、特定ハロン(エッセンシャルユースを除く。)の生産、消費の2000年での全廃のほか、規制対象物質の拡大及び規制スケジュールの決定を行った。今後は開発途上国に対する協力等国際的取組みがさらに進められることになる。
国内では、カーエアコン充填フロンの大気中への排出防止等について今後とも自動車整備事業者への指導を強化することとしている。
- (4) 中東湾岸地域における大規模環境汚染問題への対応
- 運輸省では、今般の湾岸危機に伴って発生したペルシャ湾岸地域の環境汚染問題に対応するため、海上災害防止センターの協力を得て、オイルフェンス約10kmを湾岸諸国に供与するとともに、3年3月の政府調査団に、海上保安庁、気象庁職員等3名、3年3月末から5月中句の二次にわたる流出原油回収のための国際緊急援助隊専門家チ一ムに、海上保安庁職員等計10名、3年7月のイラン大気及び海洋汚染対策専門家チームに、海上保安庁、気象庁職員等3名をそれぞれ参加させており、引き続き湾岸諸国の要請を踏まえつつ、環境汚染の防止等の支援について、できる限りの協力を行うこととしている。

平成3年度

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