平成3年度 運輸白書

第11章 運輸における安全対策等の推進
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第3節 技術開発の推進 |
- 運輸技術の分野は、鉄道、自動車、船舶、港湾、航空、気象、海上保安等広範囲にわたっており、その技術開発の成果は、多くの人々の生活の向上に貢献することが期待される。平成3年6月10日には運輸技術審議会より諮問第十六号「21世紀を展望した運輸技術施策について」に対する答申が出された。答申の内容は交通政策を進めていく上で必要となる運輸技術施策全般についてまとめたもので、技術分野も多岐にわたり、それぞれの技術について実現を目指す時期を90年代と21世紀以降に分け今後の開発の方向性を示したものとなっている。運輸省では、今後、本答申の内容に沿って運輸技術施策を推進することとしている。
以下に現在進めている主な技術開発事例を紹介する。
1 鉄道技術の開発
2 造船技術の開発
3 人工衛星の開発利用
4 海洋及びウォーターフロント
5 交通安全のための技術開発
6 地震・噴火、気候変動、気象予測のための技術開発
- 1 鉄道技術の開発
- (1) 超電導磁気浮上式鉄道の開発
- 昭和37年に国鉄が開発を始めた超電導磁気浮上式鉄道については、超高速、低公害等の性格を有する将来の都市間大量輸送機関として期待され、現在は、(財)鉄道総合技術研究所において開発が進められている。
宮崎実験線(単線高架構造、延長7km)においては54年に、無人の実験車両で517km/hを達成し、また、62年には有人の実験車両で400km/hを達成するなどの実験成果をあげてきている。
今後、鉄道システムとして実用化するためには、連続した高速走行列車を制御する装置の開発、トンネル内等における高速すれ違い試験等を行う必要があり、このため、平成2年11月より山梨県において新しい実験線(延長約43km)の建設が開始された。建設期間は2年度から6年度の5年間で、一部区間が使用可能となる5年度から走行実験を開始し、9年度末に実用化のめどを立てる予定である。
なお、3年10月3日、宮崎実験線の実験車両MLU002で車両火災が発生し、当面宮崎実験線での走行実験は休止せざるを得ないこととなったが、9年度末に実用化のめどを立てるという予定には大きな影響はないものと考えられる。
- (2) 常電導磁気浮上式鉄道の開発
- 常電導磁気浮上式鉄道については、昭和49年より日本航空によって開発が始められたHSSTがあり、現在、(株)エイチ・エス・エス・ティで開発が続けられている。平成3年5月からは、第3セクターにおいて、愛知県内の実験線(延長約1.5km)で最高速度100km/h程度のシステムについて実用化のための各種試験を行っている。
また、運輸省においても、検討会を開催してその安全性、信頼性等に関する技術評価方法等の検討を行っている。
- (3) 鉄道の高速化
- 鉄道の高速化は、運輸技術審議会鉄道部会においても指摘された重要な課題であり、このための技術開発が積極的に進められている。
新幹線については、新型車両の開発等が進められ、JR東日本が345km/h(3年9月)、JR東海が325km/h(3年2月)、JR西日本が275km/h(2年2月)での高速走行試験を行っている。
在来線においてもブレーキ性能の向上等により、元年から一部の線区で最高速度130km/hが実現されており、また、曲線等の通過速度の向上及び高加減速度車両の導入等による表定速度の向上も図られている。
- 2 造船技術の開発
- 造船技術の高度化、造船業の活性化のため、造船業基盤整備事業協会を通じ高度船舶技術の研究開発を促進している。そこで、テクノスーパーライナー(航空機やトラックよりも大量の貨物(積載重量1,000トン)を高速(速力50ノット)かつ低コストで輸送することができ、トラック輸送から海上貨物輸送へのモーダルシフトにより労働力不足、交通渋滞等の緩和に貢献しうる新形式超高速船)の研究開発及び高信頼度舶用推進プラント(6ヶ月間メンテナンスフリーの高い信頼性を有し、熱効率、出力率等も現状を大きく上回るエンジン)の研究開発が進められている。さらに3年度からは、地球的規模で顕在化する環境汚染に対処し、世界最大の造船国である我が国が、国際貢献策の一環としてその責務を果たすため、船舶からの油流出防止技術及び船舶からの排気ガス浄化技術について研究開発を進めている。
一方、原子力船については、日本原子力研究所において原子力船「むつ」の実験航海が3年2月から実施されている。この成果は経済性、信頼性等の向上を目指した船用炉の改良研究に反映され、今後の原子力船の研究開発に大きく寄与することが期待されている。
この他、造船業のコンピューター統合生産システム(造船CIMS)化等のさまざまな研究開発を推進している。
- 3 人工衛星の開発利用
- (1) 気象観測
- 元年9月に打ち上げられた静止気象衛星4号は、台風等の気象観測により災害の防止・軽減等に活躍するとともに、アジア・オセアニアの天気予報や世界気象機関の研究計画等に貢献している。また、気象衛星の安定的・継続的な運用を図るため、5年度打上げを目標に開発中の静止気象衛星5号は、水蒸気分布の観測と海面水温測定の精度向上等のため赤外チャンネルの増加と遭難信号の実験用中継機能の搭載により、利用の拡大等が図られる予定である。
- (2) 航空管制
- 洋上の航空機は、短波通信を用い、パイロットからの位置通報を基に管制を行っている。しかし、短波通信は不安定かつ容量が少なく、将来とも安全かつ適切に管制していくためには、これらを抜本的に改善する必要がある。衛星を利用すれば、管制機関と航空機との間の通信が大幅に改善でき、洋上の航空機の正確な位置の把握等安全性及び管制処理能力の飛躍的向上が期待できる。今後衛星導入に向けての実用化のための研究を行うこととしており、2年度からは衛星データリンクの研究を行っている。
- (3) 捜索救助
- GMDSSのコスパス/サーサットシステムでは極軌道衛星を利用するため、遭難情報をリアルタイムに入手できないことがあるので、我が国としても、静止衛星を補完的に利用するシステムの実験を行うこととし、元年より静止気象衛星5号に搭載する遭難信号中継器の開発を進めている。
- (4) 海洋測地
- 我が国の管轄海域の確定のためには、海図上の本土及び離島の位置を世界測地系で表示しておく必要がある。このため、海上保安庁では、世界測地系に基づくこれらの位置関係を高精度で求めるため、測地衛星「ラジオス」、「あじさい」等を利用した海洋測地を推進している。
- (5) 運輸多目的衛星
- 運輸行政の各分野で衛星利用の重要性が増大している一方、民間においても衛星利用に対する期待が高まっており、運輸省としてはこのような状況を踏まえ、さまざまな衛星利用ニーズを効率的かつ経済的に満たすため、10年頃の実現を目指して運輸に関する多目的な衛星システムの検討を行っている。
- 4 海洋及びウォーターフロント
- (1) 港湾技術
- 港湾の沖合展開等に伴う施工条件の苛酷化、景観性、親水性等港湾施設に対する要請の多様化、労働力不足の深刻化等に対処するため、さまざまな技術の開発が求められている。このため、2年度から21世紀に向けての港湾の技術開発の指針となる「港湾の技術開発の長期政策」について、有識者からなる委員会を設置し検討を進めている。また、港湾技術研究所等の研究成果を踏まえ、次のような技術開発を推進している。
堤体形状が曲面であるため、部材強度を確保しやすい構造であり、耐波安定性や景観性にも優れた半円形防波堤の開発を進めている。また、使いやすい美しい港づくりという要請に対応するための景観設計技術の開発、効率的で安全な施工と作業環境の改善を図るためのケーソン製作自動化技術等の技術開発を行っている。
一方、港湾の技術開発は従来国主導であったが、近年、民間の技術力も飛躍的に向上しており、民間が得意とする分野の技術開発に期待するところも大きいものがある。このため、民間の技術開発を支援する方策として、民間が開発した技術について国がその成果を評価し普及を図る「港湾に係る民間技術の評価制度」、民間が開発した技術の実証的確認を行うための「実海域実験場提供システム」、国と民間が共同で技術開発を行う「共同技術開発制度」等を整備している。
また安全・快適な港湾空間の創出に資するため、一般市民の利用する親水性施設やマリーナ等の技術基準の充実、及び新しい技術的知見による臨港交通施設の技術基準の充実等を主要課題として、現行の港湾の施設の技術上の基準の見直しを進めている。
- (2) ウォーターフロント等における都市型索道システムの開発
- 索道は、地上部分の構造物が少なく、従来の鉄道等に比べ建設費が低廉であり、また、支柱間を運行することにより運河等の水域の横断等にも対応が可能という特性を備えていることから、ウォーターフロント等における中規模程度の旅客交通ニーズに対応する新しい交通手段として、都市型索道システムへの期待が高まっており、2年度からその導入の検討を進めるとともに、風対策、速度向上及び輸送力増強等の基礎的な技術開発を推進している。
- 5 交通安全のための技術開発
- (1) 自動車
- 近年の交通事故による死亡者数の増加、中でも自動車乗員の死亡者数の増加が顕著であることにかんがみ、道路運送車両の構造面及び性能面に係る安全性の一層の向上を図るため、事故の回避及び事故時の乗員の保護の両面からの調査・研究・評価を推進している。
事故の回避のための技術としては、追突防止装置等自動車の衝突事故を回避するシステムの開発・評価及びアンチロックブレーキシステムの二輪車への適用についての評価を行っている。さらに、事故時の乗員保護のための技術としては、ダミー(試験用模擬人形)を乗せた実車による衝突試験を行うなど、衝突時の乗員保護性能の評価法の調査・研究を行っている。
また、電子制御技術を応用し、車両の周囲の交通環境・路面状況等を検知するセンサー、情報通信処理装置等を車載することにより自動車を高知能化し、事故回避、衝突による被害の最小化等をめざして、最も適切な安全動作を行うことができる先進安全自動車(ASV)を21世紀初頭に実用化すべく3年度から調査研究を行っている〔2−11−3図〕。
- (2) 船舶
- 近年、高速船の導入が活発化するなど多様化する海上交通の安全を確保するため、船舶技術研究所では、高速航行シミュレーションによる安全評価等の研究、船舶運航の評価技術と高速船の国際基準に関する研究、知能化船のシステム設計と意思決定システムに関する研究等を行っている。
超高速船が有する高速性のメリットを発揮させるため、港湾技術研究所では、港湾における超高速船に対応した安全な水域施設等の計画設計技術の検討を行っている。また、併せて、船舶の高速化に対応した、高速荷役システム及び天候に左右されずに荷役及び客扱いが可能な全天候施設の開発を行っている。
- (3) 鉄軌道
- 鉄軌道の安全のための技術開発については、高密度化運転保安システムの開発やこれに対応した抜本的な踏切遮断システムの改善方策について検討を進めており、また、降雨時や地震時における鉄軌道輸送の安全を確保する観点から、降雨災害の予知及び検知システム(ラミオス)の技術開発を行うほか、地震による事故防止及び地震発生後の運転再開の迅速化を図るため、地震防災及び復旧支援システム(ユレダス、ヘラス)の技術開発を推進している。
- (4) 航空
- 将来の航空ニーズに適合するために、地形による制約が少なく、正確で自由度の大きい複数の進入着陸コースの設定を可能とするマイクロ波着陸システム(MLS)や航空機間のデータ通信機能を利用して、衝突の危険性を警告し回避する航空機衝突防止システム(ACAS)等の新しい航空保安システムの開発・評価を重点的に推進している。
- 6 地震・噴火、気候変動、気象予測のための技術開発
- 災害を未然に防ぐため、地震・噴火予知、気象予報及び気候変動予測の精度向上のための技術開発が必要である。特に、気象研究所では元年度より「直下型地震予知の実用化に関する総合的研究」を実施し、実用化のための手法開発を進めるとともに「火山活動度の定量化に関する基礎的研究」等火山噴火予知のための基礎的な研究を行っている。また、温室効果気体増加による気候変動の予測精度向上のため3年度より「地球温暖化予測技術の高度化に関する研究」を実施している。気象庁では数値予報技術の高度化を図り、中・長期予報モデルの開発を進めている。

平成3年度

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