平成3年度 運輸白書

第2章 国際化の進展と運輸

第2節 国際社会への貢献

    1 国際平和への貢献
    2 国際協力の推進
    3 国際科学技術協力
    4 国際船と海の博覧会への参加


1 国際平和への貢献
 平成2年8月の湾岸危機発生に際しては、邦人及びヴィエトナム人等のアジア人避難民を湾岸地域から帰国させるため、外務省の依頼に基づき、運輸省から、日本航空、全日本空輸に対して救援機の運行を要請し、これを受けて両社は延べ11回の救援機運航を行った。
 また、平和回復活動に対する協力の一環として、運輸省から、(社)日本船主協会及び全日本海員組合に対し協力を要請し、政府において2隻の日本籍貨物船を定期用船して建設資材、生活関連物資等の輸送を行った。このほか、サウディアラビア政府からの日本政府に対する要請に基づき、運輸省は、全日本空輸及び日本貨物航空に要請を行い、政府がチャーターした航空機により救急車の輸送を実施した。
 さらに、ペルシャ湾岸地域の環境汚染問題に対応するため、運輸省では、我が国の貢献策の一環として海上災害防止センターの協力を得て、オイルフェンス約10kmを湾岸諸国に供与した。また、ペルシャ湾流出原油防除・環境汚染対策調査団及びイラン大気・海洋汚染対策専門家チームに海上保安庁、気象庁等の専門家を参加させるとともに、2次にわたる流出原油回収のための国際緊急援助隊専門家チームに海上保安庁等の専門家を、それぞれ参加させた。

2 国際協力の推進
(1) 運輸分野における国際協力の動向
 鉄道、港湾、空港等の輸送基盤施設は、経済発展を図っていく上で不可欠な役割を担うものであることから、我が国の国際協力の中で運輸分野は従来から重要な地位を占めてきている。
 また、最近の国際社会は、大きく変化しており、人の流れ、物の流れも活発化しているが、その中で、開発途上国においては、増大する輸送ニーズに応えるとともに経済発展を図るため輸送体制の整備が急務となっている。しかしながら、開発途上国においては、施設の整備、その管理運営を図っていくための資金及び技術の不足が著しく、経済大国であり、運輸分野における高い技術力を有する我が国に対する期待が高まっている。
(ア) 資金協力〔2−2−1図〕
 我が国の有償資金協力において、運輸分野は開発事業計画の実施に必要な資機材及び役務を調達するための借款全体の約2割を占めている。2年度は、17件、総額1,676億円に及ぶ円借款の交換公文が締結された。また、無償資金協力としては、12件、総額70億円を供与する交換公文が締結された。
(イ) 技術協力
 開発途上国のプロジェクトについて開発基本構想の作成又は個別のプロジェクトの実現可能性を検討するための調査については、運輸分野に関する協力要請が全開発調査案件の約13%を占めている。2年度は、37件について国際協力事業団を通じて開発調査を行った。また、同事業団を通じ、270名の専門家を派遣し、334名の研修員を受け入れるとともに、専門家の派遣、研修員の受入れ及び機材の供与を総合して実施するプロジェクト方式技術協力6件を実施した。
(2) 開発途上国のニーズへの対応
(ア) 援助指針の策定
 運輸分野における国際協力を整合性のあるものとしていくため、主要援助対象国について、また、鉄道、港湾等各分野について、援助に関する基本的な方針を明確にした援助指針の策定を行っている。
(イ) ニーズの把握
 運輸分野における国際協力を効果的に進めていくため、民間の専門家による案件発掘・形成調査団の派遣を支援するとともに、既往の協力案件について事後評価を実施し、その成果の活用に努めている。
(ウ) ニーズに見合った国際協力
 ニーズに見合った国際協力を行っていくためには被援助国の経済水準、技術水準に適合した技術の開発も重要な課題である。このため我が国の有する技術を基礎として開発途上国側の実情に合った技術の開発に努めている。
 また、近年、開発途上国においては、国際的な観光地の整備に対する意欲が高まっていることから、元年度に、開発途上国における国際的な観光地の整備を総合的に支援する「国際観光開発総合支援構想(ホリディ・ビレッジ構想)」を定め、その推進に努めているところである。
 さらに、2年度から、船員の養成に必要な教育訓練体制が整備されていない開発途上国からの研修生を受け入れ、民間の協力を得て実地訓練の場を与えるとともに技術指導を行っている。
(3) 国際社会の変化への対応
(ア) アジア・太平洋地域協力への貢献
 近年のアジア・太平洋地域における経済活動の活発化、相互依存関係の緊密化に対応し、この地域の一層の発展を促進するため、アジア太平洋経済協力閣僚会議(APEC)、太平洋経済協力会議(PECC)等が設けられているが、これらの会議への積極的な参加を通じ、域内諸国の輸送体制の整備、観光開発の促進に協力していくこととしている。
(イ) ソ連、東欧への協力
 ソ連に対し、国内物流システムの改善に関する技術的助言を行うため、3年1月に我が国調査団の派遣を、また5月にソ連物流専門家招へい事業を実施している。その他、東欧に対しても、観光関係の専門家の派遣を実施している。
(4) 環境への配慮
 環境問題への対応は地球規模での重要課題となってきていることから、運輸分野における協力案件の企画、実施にあたって開発途上国側の自然状況に配慮するための指針を作成することとしている。
 また、アセアン諸国の海域における大規模海洋汚染事故に対する国際的地域防除体制の整備を図るため、2年度から「OSPAR計画(Project on oil Spill Preparedness and Response in Asia)」を推進している。
(5) 運輸分野における国際協力実施体制の整備
 運輸分野における国際協力を効果的なものとしていくためには、開発途上国の政策担当者との対話の機会を充実していくことが重要である。このため、開発途上国の要人や専門家の招へい、経済協力に関するシンポジウム開催等を行っている。
 また、開発途上国からの運輸分野の専門家派遣の要請に的確に対応していくため、運輸分野の専門家についてそれぞれの専門分野、語学能力等の情報を登録し、データベースとしてシステム化するための調査を行っている。

3 国際科学技術協力
(1) 運輸省における国際科学技術協力
船舶の安全性、航空保安システム、気象サービス等の運輸関係技術は、世界中で使用されており、技術開発の成果が国際基準等に反映されることが多く、国際的な研究協力の意義が非常に大きな分野である。
 我が国は、鉄道、船舶、気象関係等の優れた技術を有し、世界に大きく貢献することが期待されており、このため、運輸省では、二国間科学技術協力協定等の枠組みのもとで、所掌する各分野について、情報交換、専門家交流、共同研究等を積極的に進めている。
 また、今後の国際科学技術協力を推進していくためには、協力案件の増加のみならずその質的な充実を図っていくことが重要と考えており、3年度には、科学技術庁の個別重要国際共同研究の制度を利用して、鉄道、船舶、港湾、海上保安庁関係で計6件の国際共同研究を実施しているほか、国際流動基礎研究の制度を利用して船舶技術研究所 を中心とした研究者の交流を促進している。
 運輸省が関係している国際科学技術協力の案件は年々増加しており、現在、14ヶ国、87テーマ(2年度末)に及んでいる。
(2) 各分野毎の国際科学技術協力活動
(ア) 自動車、鉄道関係
 自動車の排出ガスの計測方法、低減技術等の公害対策に関してアメリカ及びドイツと、常電導磁気浮上式鉄道についてドイツとそれぞれ情報交換を行っている。
(イ) 船舶関係
 「天然資源の開発利用に関する日米会議(UJNR)」の海洋構造物専門部会が日米間で交互に開催されている。3年5月には日本において開催されたところであり、今後、知能化船のシステム等の共同研究が進められることになっている。
 また、昨年に引き続き、ノルウェーと極限波中の船舶・海洋構造物の安全性について共同研究を行っている。
(ウ) 港湾関係
 UJNRの海洋構造物専門部会等において、港湾工学等に関する情報交換を行っている。
 また、オーストラリア、ノルウェーとの沿岸開発に関する共同研究、ドイツ、フランス等との港湾海洋構造物に係る情報交換、アメリカ、ドイツ、オーストラリアとの港湾・海洋の汚染防止・浄化等に関する情報交換を行っているほか、カナダ、ASEAN、中国、韓国等との港湾工学関係の協力を行っている。
(エ) 航空関係
 マイクロ波着陸システム(MLS)、航空衛星の利用、洋上管制ルートの改善等航空保安システム技術に係る協力を日米間で毎年交互に会議を開催して行っている。
(オ) 海上保安関係
 UJNRの海底調査専門部会を日米間で交互に開催している。
 また、人工衛星レーザー測距による海洋測地の研究をアメリカ、フランス、ドイツ、中国等と、海洋及び海底地形等に係るデータ交換に関する協力をアメリカ、フランス、ドイツ、カナダ、オーストラリア、スウェーデン、ノルウェー等と、海洋汚染に係る協力を中国、韓国とそれぞれ行っているほか、中国国家海洋局との日中黒潮共同調査、アメリカとのオホーツク海日米共同観測等を行っている。
(カ) 気象関係
 気象庁では、アメリカ、カナダ、中国等13ヶ国及びECとの間で、気候変動、衛星気象学、天気予報、海洋環境、地震・火山等の各分野にわたり延べ46件の科学技術協力を実施し、情報交換や専門家の交流を行っている。

4 国際船と海の博覧会への参加〔2−2−2図〕
 アメリカ大陸発見500周年を記念して、平成4年5月15日から8月15日まで、イタリアのジェノヴァ市において国際船と海の博覧会が開催される。本博覧会は、「クリストファー・コロンブス:船と海」をテーマとして、コロンブスから現在までの船と海に関する歴史や現状及びその将来を紹介し、この分野の発展を図ることを目的としている。
 歴史・文化・産業など様々な分野で「船と海」に関わりの深い我が国が、本博覧会に参加することは、我が国の国情理解や国際交流の推進に資する絶好の機会である。そのため、運輸省が中心となり公式に参加することが3年1月に閣議で了承された。また、3年3月には、政府出展の準備と日本館の管理運営を担当する(財)国際船と海の博覧会協会が設立された。
 我が国からは、フローティング・パビリオン(旧青函連絡船の羊蹄丸)及び外国展示館の日本ブースにおいて、日本の船と海の関わりや日本の地域特性を紹介するため、地方自治体の参加も加え、展示と催事を行うこととしている。日本に対する理解と認識が深められるような展示・催事とするために、現在、準備を進めている。



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