平成3年度 運輸白書

第5章 国民のニーズに応える鉄道輸送の展開
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第5章 国民のニーズに応える鉄道輸送の展開 |
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第1節 鉄道ネットワークの充実 |
1 鉄道整備基金
2 幹線鉄道の整備
3 都市鉄道の整備
4 地方鉄道の整備
- 1 鉄道整備基金
- (1) 基金設立の目的
- 鉄道整備基金(以下「基金」という。)は、鉄道整備基金法に基づく特殊法人であり、国土の均衡ある発展と大都市の機能の維持及び増進を図る観点から緊要な課題となっている整備新幹線、主要幹線鉄道及び都市鉄道の計画的かつ着実な整備を促進するとともに、鉄道の安全性や利便性の向上を図るための改良等鉄道事業の健全な発達を図るうえで必要となる事業又は措置を支援するため、鉄道事業者等に対して補助金の交付、無利子の資金の貸付けその他の助成を総合的かつ効率的に行うことを目的として、平成3年10月1日に設立された。
- (2) 基金の行う業務
- 基金が行う助成の財源は、既設新幹線の譲渡代金の一部(特定財源)並びに一般会計及び産投会計(NTT−B)からの繰入金であり、基金が行う助成業務は、この財源に応じて、特定財源を活用した助成と国の一般会計等財源による助成とに大別できる。
- ア 特定財源による助成業務
- @ 整備新幹線の建設を行う日本鉄道建設公団(以下「鉄道公団」という。)に対し、建設費の一部(国及びJR負担分の一部)に充当するための交付金を交付する。
3年度においては、北陸新幹線高崎〜軽井沢間の建設を引き続き推進するほか、新たに東北新幹線盛岡〜青森間、北陸新幹線軽井沢〜長野間及び九州新幹線八代〜西鹿児島間の着工等に対して助成を行う。
- A 東海道新幹線の輸送力増強工事を行う鉄道事業者(東海旅客鉄道株式会社)に対し、工事費の一部に充てるための長期かつ低利の資金の融通を行う。具体的には、基金から日本開発銀行に対して無利子資金を寄託し、同銀行から鉄道事業者に対して公共特利並みの低利の貸付けが行われることとなっている。
- B 主要幹線鉄道の建設又は高規格化等の改良工事及び都市鉄道の建設又は複線化・複々線化工事を行う鉄道公団又は帝都高速度交通営団に対し、当該事業に要する費用に充てる資金の一部を無利子で貸し付ける。
- イ 一般会計等財源による助成
- @ 整備新幹線の建設を行う鉄道公団に対し、建設費の一部(国負担分の一部)に充当するため、国の補助金の交付又は無利子貸付け(NTT−B)を受け、これを財源として、補助金の交付等を行う。
- A 主要幹線鉄道又は都市鉄道の建設又は改良を行う鉄道事業者、軌道事業者又は鉄道公団に対し、当該事業に要する費用に充てる資金の一部について、国の補助金等の交付を受け、これを財源として補助金等を交付する。3年度においては、奥羽線福島〜山形間の新幹線直通運転化、北越北線の高速化、地下高速鉄道の建設、ニュータウン鉄道の建設及び鉄道公団におけるCD線、P線の整備に対する助成を行う。
- B 鉄道軌道整備法又は踏切道改良促進法による国の補助金の交付を受け、これを財源として、鉄道事業者に対し、補助金を交付する。3年度においては、中小民鉄に対する欠損補助、豊肥線等の災害復旧補助、踏切保安設備整備費補助を行う。
- C @からBまでに掲げるもののほか、鉄道施設や軌道施設の建設又は改良、鉄道事業に係る技術の開発、鉄道事業の業務運営の能率化等鉄道事業の健全な発達を図るうえで必要となる事業又は措置を行う鉄道事業者等に対し、これらの事業等に要する費用に充てる資金の全部又は一部について、予算で定める国の補助金等の交付を受け、これを財源として補助金等を交付する。
平成3年度においては、超電導磁気浮上式鉄道の技術開発、鉄道公団におけるAB線の建設等に対して補助を行う。
- 2 幹線鉄道の整備
- (1) 整備新幹線の整備〔2−5−1図〕〔2−5−2図〕
- 整備新幹線については、現在、全国新幹線鉄道整備法に基づく整備計画が定められている整備5新幹線(北海道、東北(盛岡〜青森間)、北陸、九州(鹿児島ルート、長崎ルート))のうち工事実施計画の申請がなされている東北新幹線、北陸新幹線(高崎〜小松間)、九州新幹線(鹿児島ルート)について、建設を進めるにあたっての基本スキームが決定されているところであるが、3年度においては、「全国新幹線鉄道整備法の一部を改正する法律」が第120回国会において成立、3年4月26日に公布、施行され、標準軌新線(いわゆるフル規格新幹線)に加えて新幹線鉄道に準ずる高速鉄道である新幹線鉄道規格新線(いわゆるスーパー特急)や新幹線鉄道直通線(いわゆるミニ新幹線)によって暫定的に新幹線鉄道と同様の手続、助成措置により建設を行うことができることとなった。また、鉄道整備基金による整備新幹線の建設に対する交付金制度が創設された。
これらを受けて、元年6月に工事実施計画が認可され、現在工事が進められている北陸新幹線高崎〜軽井沢間に加えて、3年度からフル規格新幹線、スーパー特急及びミニ新幹線を組み合わせて東北新幹線盛岡〜青森間、北陸新幹線軽井沢〜長野間及び九州新幹線八代〜西鹿児島間について着工することとなった。
- (2) 在来幹線の高規格化等〔2−5−3図〕
- 在来幹線の高規格化等については、@新幹線と在来線の直通運転化、A在来線の高速化、B鉄道貨物の輸送力増強工事、C新幹線鉄道輸送力増強工事等が挙げられるが、2年度までに、@については、奥羽線福島〜山形間(平成4年夏開業予定)で、Aについては、北越北線(上越線・六日町〜信越線・犀潟間、平成7年度開業予定)で実施されてきている。
3年度からは、鉄道整備基金から@〜Cに挙げる事業に対しての無利子貸付制度が創設され、これにより、これらの事業についてより円滑な整備の促進が図られることになる。
- 3 都市鉄道の整備
- (1) 都市鉄道の整備の計画
- 運輸省は、都市鉄道の計画的かつ着実な整備のため、運輸政策審議会、地方交通審議会の答申に基づき、また、各種の助成制度を活用するなどにより、都市鉄道の整備に努めている。
東京圏については、昭和60年7月に西暦2000年を目標年次とした鉄道網整備計画が答申され、大阪圏については、平成元年5月に、西暦2005年を目標年次とした新たな鉄道網整備計画が答申されたところであり、その実現に向けて努力しているところである。また、名古屋圏については、従来、昭和47年の都市交通審議会答申に基づいて鉄道整備を行ってきたところであるが、近年、都市構造や人口分布等の情勢変化が生じていること等からこれを見直すこととし、平成2年4月、運輸政策審議会に諮問しているところである。
- (2) 旅客会社(JR)の鉄道の整備
- 旅客会社(JR)については、JR東日本相模線(茅ヶ崎〜橋本間)の電化工事が完成し、JR東海瀬戸線(勝川〜枇杷島間)の新線建設工事が進められている。
- (3) 大手民鉄の整備
- 首都圏の大手民鉄5社は、混雑緩和に資する複々線化等の抜本的な輸送力増強を図るため、運賃収入の一部を非課税で積み立て、これを工事資金に充てることができる特定都市鉄道整備積立金制度の活用による大規模工事を進めている。また、大手民鉄15社は、新線建設を始めとする輸送力増強工事、安全対策工事及びサービス改善工事を内容とする輸送力増強等投資計画を昭和36年度以降7次にわたり推進し、輸送サービスの向上等に努めている。
なお、関東、関西の大手民鉄13社は、3年7月、複々線化、列車の長編成化等の輸送力増強のための設備投資の負担の増加等による収支悪化を理由に運貨改定の申請をしていたが、運輸省は、同年10月、平均13.8%の運賃改定を認可した。
- (4) 地下鉄の整備
- 地下鉄は、平成3年8月現在、帝都高速度交通営団及び9都市(札幌市、仙台市、東京都、横浜市、名古屋市、京都市、大阪市、神戸市及び福岡市)の公営事業者によって総営業キロ514.7kmの運営が行われており、2年度の輸送人員は4,632万人、輸送人キロは30,982万人キロとなっている。
このうち最近では、車両の小型化及び曲線通過性能・登坂性能の向上によって地下鉄建設費の低コスト化を図ることかできる利点を有するリニアモーター駆動小型地下鉄が、2年3月に国内で初めて大阪市7号線(京橋〜鶴見緑地間5.2km)で開業したが、これに引き続き、同システムを採用した東京都12号線(光が丘〜練馬間4.8km)の開業が3年12月に予定されている。
また、営団半蔵門線(三越前〜水天宮前間1.3km)が2年11月に開業したほか、営団7号線(赤羽岩淵〜駒込間6.8km)の開業が3年11月に予定されている。なお、地下鉄全体で66.1kmにのぼる新線建設が進められている(3年度投資予定額3,027億円)。
- (5) モノレール、新交通システムの整備
- モノレールについては、東京モノレールの羽田線等8路線に加え、3年6月12日には千葉都市モノレール(株)の2号線が延伸開業(千葉〜スポーツセンター間3.8km)したところであり、現在東京、千葉、大阪において路線の延伸工事が行われている。新交通システムは、神戸新交通(株)のポートアイランド線及び3年3月に開業した桃花台新交通(株)の桃花台線(小牧〜桃花台東間7.4km)のほか6路線が営業中であり、3路線が工事中である。
- (6) 業務核都市、大規模プロジェクトへの対応
- 大都市圏内において、業務機能の都心部への過度の集中を是正し人口、産業等の適正配置を図り、大都市地域の秩序ある整備を誘導する観点から、副都心や業務核都市の整備、副次的都心域や新たな業務拠点の整備を支援するため、これら業務核都市相互及び都心との連絡を図る鉄道ネットワークの整備を行うことが必要となっている。また、新たな空港の整備、学術研究都市の整備といった大都市圏の大規模プロジェクトに対応し、これらへのアクセスのための鉄道を整備することも必要となっている。
空港へのアクセスについては、近年、空港利用者が増加していることから、その改善が求められており、輸送力及び定時性に優れたアクセス鉄道の整備が進められている。新東京国際空港については、京成電鉄及びJR東日本が3年3月に乗り入れたほか、関西国際空港にはJR西日本と南海電鉄の乗り入れが、沖合展開後の東京国際空港には東京モノレールの延伸と京浜急行電鉄の乗り入れが予定されている。大阪国際空港についても、大阪モノレール線の乗り入れを行うべく工事を進めている。
- 4 地方鉄道の整備
- (1) 地方鉄道の現状
- ア 中小民鉄の維持
- 中小・民鉄は、地域における生活基盤として必要不可欠なものであるが、過疎化による運賃収入の伸び悩みや人件費等の諸経費の増加等の理由から大部分の事業者が赤字経営になっている。このため、国としても、地方公共団体と協力して、その運輸が継続されないと国民生活に著しい障害が生じるものについて、経常損失に対し補助(欠損補助)を行っている。また、設備の近代化を推進することにより、経営改善及び保安度の向上又はサービスの改善効果が著しいと認められるものに対し設備整備費の一部を補助(近代化補助)している。2年度においては32社に対し約8.5億円の国庫補助金を交付した。
- イ 転換鉄道の現状
- 地方交通線対策の一環として旧国鉄の経営から切り離された転換鉄道は、現在、地元自治体が中心となって設立した第3セクター等により運営されている。転換後、列車の運行回数が増加するなど利便性は高まっているが、収支状況については、経常損失を出している事業者も多く、各事業者は、地方公共団体が中心となって積み立てた基金の運用益等により路線の維持を図っていく必要がある。また、今後とも、経費の削減等事業者における一層の経営努力や旅客誘致に対する地元関係者の積極的な協力が不可欠となっている。
- (2) 地方鉄道新線建設の整備
- 地方鉄道新線(旧国鉄の地方交通線対策の一環として国鉄新線としての工事が凍結されていた路線のうち、地元白治体による第三セクターが経営することとなり日本鉄道建設公団による工事を再開したもの)は、現在までに、秋田内陸縦貫鉄道(比立内〜松葉間)等8社が営業中であるが、さらに、北越北線(六日町〜犀潟間)等残る6路線の建設が進められている。

平成3年度

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