平成3年度 運輸白書

第5章 国民のニーズに応える鉄道輸送の展開

第3節 国鉄改革の総仕上げに向けて

    1 JR各社の事業運営の状況
    2 残された課題への取り組み


1 JR各社の事業運営の状況
(1) 輸送の動向
 平成2年度の旅客会社及び貨物会社の鉄道輸送は、好調な国内景気や国際花と緑の博覧会の開催による旅客需要の増加等に支えられ、輸送量は各社とも前年度を上回り、旅客輸送量は6社計で国鉄時代の最高値(昭和49年度2,156億人キロ)を含め過去最高値となり、対前年度比6.7%増の2,377億人キロとなった。貨物輸送量もコンテナ輸送が好調に推移したことにより対前年度比8.1%増の267億トンキロとなるなど順調に推移した。
 その概要は、〔2−5−5表〕のとおりである。
 このような輸送量の増加は、旅客会社においては、利用者のニーズに合わせた列車の増発や運転区間の拡大、スピードアップ、接続改善等地域に密着した輸送サービスの提供、新型車両の投入や駅施設の改良等によるサービスの向上、営業面における企画乗車券の販売や旅行需要を喚起するためのキャンペーンの展開等積極的な施策を実施したこと、貨物会社においては、クールコンテナ輸送やピギーバック輸送の拡大、適切な発着時間帯の確保等利用者のニーズに合った輸送方式の充実や、営業活動の積極的な展開を図ったこと等国鉄改革の趣旨に沿った営業努力、経営の活性化が図られたことが大きく寄与しているものと考えられる。
(2) 決算の状況
 JR各社の2年度の収支の状況及び資産・債務の状況は、〔2−5−6表〕及び〔2−5−7表〕のとおりである。
 2年度において、JR各社は国内景気の持続に伴う輸送需要の増大を背景として、地域のニーズに即応した輸送サービスの提供、多様な企画商品の設定等積極的な営業施策の展開に努めたほか、関連事業の拡大を図るなど経営基盤強化への努力を継続したこと、また、経費節減、長期債務の償還の進捗に伴う利払費用の減少等により、7社とも営業収益及び経常利益ともに前年度を上回り、営業収益については7社合計で対前年度比7.4%増の4兆3,538億円となり、経常利益については7社合計で対前年度比44.4%増の3、876億円を計上するなど好調な決算内容となっている。また、本州3社においては、利益処分において初めて配当(配当率1割)等を行った。
 なお、設備投資については、JR各社とも安全対策、輸送力増強対策等を中心に積極的に投資を行っており、2年度実績は7社で対前年度比15.2%増の5,285億円となった。
(3) 事業の積極的展開
ア 鉄道事業の展開
 2年度の鉄道事業においては、前年度に引き続きサービスの向上や輸送需要の拡大を積極的に図った。
 旅客会社については、在来線において、通勤・通学時における輸送力確保や都市圏輸送での利便性・サービス向上のため、フリークエンシーアップ、快速列車の増発、新製車両の投入、車両の冷房化等を行ったほか、都市間輸送での高速道路等を利用した他輸送機関との競争力の強化のため、新型特急車両の投入や車両の居住性の改良を行うとともに、津軽海峡線において在来線最高の140キロ運転を開始するなどのスピードアップを図った。
 新幹線輸送においても、輸送力増強のため増発を行うとともに、東海道新幹線「こだま」の全列車の16両化や東北新幹線「やまびこ」の一部16両化を行った。また、東海道新幹線及び上越新幹線において高速走行試験を行い、それぞれ最高速度300キロ以上を達成するなど、環境問題等に十分配慮したうえで、将来のスピードアップをめざした研究開発を推進した。
 貨物会社については、状況に即応した列車の増発、増結等荷主のニーズに対応したサービスの提供やピギーバック輸送の拡大、近距離専用コンテナ列車の設定、新型20フィートコンテナや氷温コンテナの導入等新商品の開発を行うとともに、商品紹介などの広告宣伝活動を積極的に展開するなど利用の拡大に努めた。
イ 関連事業の展開
 関連事業については、JR各社は経営基盤の確立を図るとともに企業全体の活力を維持していくため、各社の創意と工夫のもとに、それぞれの所有するノウハウ、技術力、資産、人材等の経営資源を最大限に活用し、出資会社等関連会社と一体となって事業展開を行っている。
 具体的には、旅行業について、独自ブランドにより商品の浸透を図るとともに、より高い資格を取得して取扱い範囲を拡大するなど積極的な営業展開を行っているほか、同種の事業を営む地域の中小企業者に配慮しつつ、不動産業等の新規事業分野へ進出している。また、関連事業の今後のあり方に関連して、JR各社は、直営事業の子会社化等を行い、経営責任の明確化を進めている。
(4) 3年度の事業運営の状況
 JR各社は3年度事業計画を基本方針として事業運営に取り組んでいるが、各社の事業計画については、2年度に引き続いて輸送の安全の確保、利用者サービスの向上、財務体質の強化等を積極的に推進することとしている。輸送の安全の確保については、社員教育の充実、ATS−Pの導入の拡大、踏切保安装置の改善等の対策を講ずることとしている。利用者サービスの向上については、混雑緩和のための列車の増発や増結等輸送力の増強や新製車両の投入や、駅改良による乗継ぎ利便の改善を図ることとしている。また、本州3旅客会社については、株式の上場に向けてより一層の財務体質の強化を図ることとしており、さらに三島会社については、他輸送機関との競争の激化等厳しい経営環境にあるため、一層の経営努力を図っていくことが必要である。
 JRが作成した3年度事業計画における経営見通しによると、7社合計で営業収益は4兆3,753億円(対前年度比5.0%増)、経常利益は2,796億円(対前年度比0.1%減)となっており、2年度に引き続いておおむね順調な経営状況を維持できる見込みとなっている。また、設備投資については、JR7社合計で対前年度比23.1%増の6,889億円となっており、各社とも安全対策、輸送力増強対策等に強力に取り組むこととしている。
 また、6月20日に東北新幹線上野〜東京間が開業したほか、10月1日には、これまで新幹線鉄道保有機構が保有していた新幹線鉄道施設が、各新幹線を運営している本州3社にそれぞれ譲渡された。
 なお、3年度上半期の経営状況を取扱収入の面からみると、上半期合計で旅客会社については対前年度比4.0%増となっている。また、貨物については対前年度比7.0%の増加となっている。

2 残された課題への取り組み
(1) 国鉄長期債務等の処理
ア 概要
 国鉄改革により、昭和62年4月1日に国鉄が移行して日本国有鉄道清算事業団(以下「事業団」という。)が発足した。
 事業団に帰属した国鉄長期債務等(62年度首25.5兆円)の処理及び事業団職員の再就職対策という国鉄改革に残された最重要課題のうち、後者については平成2年4月1日をもって終了した。前者については、昭和63年1月26日に閣議決定された「日本国有鉄道清算事業団の債務の償還等に関する基本方針について」(以下「償還基本方針」という。)に従い進められてきたところであるが、事業団の土地の処分が地価対策との関係もあり進まなかったことなどから、平成2年度首には債務等の額は27.1兆円となった。
 このような状況に対応するため、債務処理の主たる財源である事業団の土地、JR株式の処分方針を中心とする「日本国有鉄道清算事業団の債務の償還等に関する具体的処理方針について」(以下「具体的処理方針」という。)を元年12月19日に閣議決定し、効果的な資産処分をより一層促進することとした。
 具体的処理方針を受け、2年度においては、土地等の固定資産売却収入の大幅な拡大(対前年度比約3倍の8,113億円)に加え、帝都高速度交通営団に対する事業団の出資持分の政府への一括譲渡と引換えに、当該出資持分の適正評価額(9,372億円)相当額の債務を一般会計が承継する措置等が講じられた結果、債務等の額は2年度末には26.2兆円と初めて減少に転じた。3年度末における債務等の額は、3年度の事業団予算においては、25.8兆円と見込んでいる。
 土地売却収入、JR株式売却収入等の自主財源を充ててもなお残る債務等については、償還基本方針において、最終的には国において処理することとしているが、土地及びJR株式の効果的な処分の推進により、事業団の債務等の本格的な処理の早期実現をめざし、最終的な国民負担を極力軽減するため、全力を挙げて取り組んでいる。
イ 土地の処分について
 事業団の土地の処分については、具体的処理方針において、以下のような土地処分促進策により9年度までにその実質的な処分を終了することとしている。
(a) 一般競争入札による処分
 事業団の土地の処分に当たっては、その公正さの確保及び国民負担の軽減の観点から、一般競争入札によることが原則とされている。これについては、「緊急土地対策要綱」(昭和62年10月16日閣議決定。地価高騰地域における一般競争入札を見合わせる旨定められている。)及び「国鉄清算事業団用地等の一般競争入札による処分について」(平成元年2月10日土地対策関係閣僚会議申合せ。個別用地ごとに関係者間で地価に悪影響を与えないと判断されるものについて、一般競争入札を実施する旨定められている。)に従い、地価対策に配慮しつつ実施している。
(b) 随意契約による処分
 事業団の土地の処分は一般競争入札によることが原則であるが、公的主体が公的用途に供する場合等には随意契約によることができることとなっている。その要件については、地方公共団体等からの要望を取り入れつつ、多様化する地域整備のニーズに対応して緩和を行って、土地処分を推進してきた。
(c) 地価を顕在化させない土地の処分方法
 地価高騰問題が国家的緊急課題となったことから、事業団は昭和62年9月に「地価を顕在化させない処分方法」について事業団の資産処分審議会に諮問を行い、63年5月に、その基本的な考え方について答申がなされた。
 このうち、土地信託方式については、渋谷駅及び蒲田駅につき平成3年度中に信託受益権を売却する予定であり、その他6件につき受託銀行が決定している。建物付土地売却方式については、津田沼電車区用地につき3年9月に販売を完了し、名古屋白鳥町宿舎につき3年度中に販売する予定である。
 また、出資会社活用方式については、不動産変換ローン方式を2年12月に新宿南(中央病院跡地)について実施した。汐留等極めて資産価値が高く一体的開発を必要とする土地については、株式変換予約権付事業団債方式により処分することとしている。この方式は、事業団が土地を現物出資して取得した出資会社の株式と交換することができる権利を付した低利の特別債券を発行し、投資家が交換権を行使すれば特別債券に係る債権が消滅する仕組みであり、事業団にとっては、債券発行時に土地を処分した場合と同程度の債務償還効果が期待できるものである。3年5月に、この特別債券を事業団が発行することができるよう、日本国有鉄道清算事業団法の一部改正を行い、現在、この方式の実施のために必要な準備を進めている。
 事業団の土地の処分は、昨今の金融及び不動産を取り巻く環境の激変により極めて厳しい状況にあり、従前の土地処分方法を適用するのみでは、事業団の使命である早期かつ円滑な債務等の処理に支障をきたし、ひいては債務等の累増にもつながりかねないとの認識から、3年9月に、土地処分方法の見直しについて、資産処分審議会から事業団に対し「日本国有鉄道清算事業団の土地処分に関する緊急提言」が出された。
 運輸省及び事業団は、これを踏まえ、以下のような制度改正等を行い、関係省庁等の協力も得つつ、事業団の土地の処分を一層強力に促進している。
@ 随意契約の拡大策として、随意契約対象者に民間の公益事業者等を加えること、公法人に対する随意契約の要件緩和を行うこと、国、地方公共団体等の公共用地の先行取得のニーズに対応すること等を内容とする省令改正等を3年10月に行った。
A 地価を顕在化させない土地の処分方法の改善として、不動産変換ローン方式につき、投資家からの借入金の分割受入れ、ローン期間の短縮、実需タイプの投資家に対する優先的な床利用権の付与、応募口数制限の緩和等を随時行うこととした。
ウ JR株式の処分について
 JR株式については、売却・上場に関する基本的問題についての指針を得るため、2年3月から、各分野の有識者からなる「JR株式基本問題検討懇談会」を開催するなど売却のための検討・準備を進めているところである。3年5月には、同懇談会においてとりまとめられた「JR株式の売却に関する意見」が運輸大臣に提出された。その主な内容は以下のとおりである。
@ JRの完全民営化及び国鉄長期債務等の償還のため、諸条件が整い次第、できる限り早期に売却を行うべきこと。
A 売却に当たっては、公正な価格決定を行うとともに広く国民に購入機会を提供しうるよう、公正かつ簡明な方法による必要があり、具体的には、売却株式の一部を入札に付して売却価格を決定し、この価格で残りの株式を公正な抽選等「売出の取扱」方式によることが適当であること。
B 売却対象となる株式数が巨大であることから、市場の動向への配慮、情報の適正な開示等が必要であること。
C 現下の株式市場はなお不安定な状況にあることから、今後の市場の動向を十分見極めつつ、弾力的に対応していくことが必要であること。
 運輸省は、この意見を踏まえ、売却方法等の検討を進めるとともに、株式市場の動向を見守っているところである。
(2) 新幹線鉄道の譲渡
ア 新幹線鉄道保有機構の状況
 新幹線鉄道保有機構(以下「機構」という。)は、新幹線鉄道の施設の一括保有及び貸付けに関する業務を行っていたが、2年度の業務運営の状況をみると、新幹線鉄道施設貸付収入7,280億円を含め収入が7,296億円、借入金利息支払等費用が7,147億円であり、差引き149億円の当期利益を生じている。当期利益は、積立金として処理されている。また、2年度末における資産総額は8兆2,176億円、負債総額は8兆1,758億円となった。
イ 既設4新幹線鉄道の譲渡について
 東海道新幹線等既設の4新幹線鉄道については、本州JR3社の経営基盤の均衡化及び利用者負担の適正化を図るため、機構がこれらの新幹線鉄道施設を一括して保有し、関係各社に貸し付けるという制度が国鉄改革時に採用されたところである。
 しかしながら、この新幹線リース制度については、
@ 新幹線資産に係る減価償却費を計上できないため、投資に関し借入金依存度が高くなるというJR東海の財務体質上の問題が顕在化していること
A リース期間終了後の譲渡条件がその時点における立法政策に委ねられており、現時点において新幹線に係る巨額の資産及び債務を確定しえないこと
等の問題が生じてきているため、JR株式の売却・上場に関する基本的問題について関係各方面の意見を聴取しつつ検討しているJR株式基本問題検討懇談会においても、所要の措置を講ずることが適当であるとされたところである。
 こうした状況を踏まえ、JR株式の売却・上場を円滑かつ適切に実施するうえで必要となる環境の整備を行い、国鉄改革の一層の進展を図るため、機構が一括して保有している新幹線鉄道施設を適正な価額で本州JR3社に譲渡することとし、第120回国会に「新幹線鉄道に係る鉄道施設の譲渡等に関する法律」(以下「譲渡法」という。)を提出し、3年4月19日に成立したところである。機構は、この譲渡法に基づき、3年10月1日にこれらの新幹線鉄道施設を9.2兆円で本州JR3社に対して譲渡し、同日解散したが、解散の時において機構が有する譲渡代金債権等の一切の権利・義務は、同日成立した鉄道整備基金が承継している。
(3) 国鉄改革の一層の推進・定着化に向けて
ア 長期債務の変動からみる国鉄改革の推進状況
 承継法人の長期債務についてみると、JR関係各社(日本テレコム(株)、鉄道情報システム(株)を含む。)の長期債務については、2年度末には東海会社において元年度末と比較して約239億円の増加をみたものの、各社合計で約3.6兆円となり、元年度末の約3.7兆円と比較して約1,000億円、昭和62年度首に各社が承継した約4.8兆円と比較すると約1兆2,000億円減少した。また、機構の長期債務については、平成2年度末には機構が事業団に負担している約1.9兆円を含めて約8.1兆円となり、元年度末の約8.2兆円と比較して約1,000億円、昭和62年度首に承継した約8.6兆円と比較すると約5,000億円減少した。したがって、承継法人の長期債務は、合計で平成2年度末には元年度末と比較して約2,000億円、昭和62年度首と比較すると約1兆7,000億円減少したことになる。
 事業団については、平成2年度末の長期債務は約21.5兆円となり、元年度末の約22.1兆円と比較すると約0.6兆円減少したものの、昭和62年度首に承継した約18.1兆円と比較して約3.4兆円増加したことになる。なお、年金等の将来発生する債務を含めると全体債務は約26.2兆円となる。
イ 国鉄改革の総仕上げに向けて
 以上みてきたように、国鉄改革の推進状況は、JRの収支の状況の面からみるとおおむね順調であり、この点では国鉄改革は順調に進んでいるものと考えられる。しかし、国鉄改革の総仕上げのためには、国鉄長期債務等の処理をはじめ、JRの完全民営化の実現、さらには将来にわたって鉄道事業が健全経営を行っていくための鉄道の近代化・高速化等の課題に今後とも引き続き取り組んでいく必要がある。
 まず、事業団の長期債務については、地価を顕在化させない処分方法等による土地処分の促進及びJR株式の処分によりその本格的な処理の早期実現をめざし、最終的な国民負担を極力軽減する必要がある。
 次に、JR各社については、元年度に引き続き、全体として好調な決算内容が得られるなど、おおむね着実に経営基盤の強化が図られてきているが、今後とも一層の努力が必要である。
 国鉄改革により、JR各社の業績は順調に推移している反面、国鉄長期債務等を償還する事業団が、厳しい状況に置かれている。事業団の順調な債務償還とこれによる最終的な国民負担の軽減なくしては、国鉄改革は終了しないとの認識の下、政府・運輸省としては、これらの課題について諸環境の整備を図るなど、国鉄改革の総仕上げに向けて必要なあらゆる努力を継続していくこととしている。



平成3年度

目次