平成3年度 運輸白書

第6章 自動車交通の発展と公共輸送サービスの充実

第3節 貨物自動車運送事業の活性化

    1 貨物自動車運送事業法の施行
    2 貨物自動車運送事業の活性化に向けて


1 貨物自動車運送事業法の施行
 貨物自動車運送事業法は、我が国の経済構造の変化や国民生活の向上を背景として、物流に対するニーズが高度化、多様化する中で、事業者が創意工夫を活かした事業活動を迅速かつ的確に行えるようにすることによりこれらのニーズに対応するとともに、輸送秩序を確立し、過労運転、過積載等の輸送の安全を阻害する行為の防止を徹底するために、貨物自動車運送事業に関する規制を約40年ふりに見直したものである。
 本法のポイントは、経済的規制の緩和と社会的規制の強化にある。
 まず、経済的規制の緩和は、事業者間の競争を促進する方向での規制の見直しであり、具体的には一般貨物自動車運送事業についての参入規制の免許制から許可制への移行、貨物の積合せの自由化、運賃及び料金の認可制から届出制への移行等である。また、社会的規制の強化は、過労運転、過積載といった輸送の安全を阻害する行為を是正し、輸送秩序を確立するための規制の強化であり、具体的には過労運転及び過積載の防止についての事業者の義務の明確化、運行管理者に対する国家試験導入による資格要件の強化、事業者団体による輸送の安全等の確保のための自主的な活動として新たに貨物自動車運送適正化事業を実施すること等である。また、このほか過労運転及び過積載といった違反行為が荷主の行為に起因して発生しているものがあることにかんがみ、一定の要件のもと違反行為の再発の防止を図るため、運輸大臣の荷主に対する勧告制度が新たに導入された。
 本法の施行後の状況をみると、経済的規制が緩和された中で、新規参入申請は急激に増加していない。これは近年の地価の高騰や労働力不足等の要因によるところが大きいと考えられる。しかし、今後、本法が定着化するに従い、多様な運賃及び料金の届出、貨物の積合せの自由化による新たな輸送サービスの出現や共同輸配送が促進されるなど、事業全体の活性化が期待できると考えられる。一方、社会的規制の強化については、運行管理者試験が平成3年3月及び8月に実施され、延べ約8万人が受験し、約5.3万人が合格したほか、貨物自動車運送適正化事業の実施体制の整備が進められており、今後その充実が一層期待されているところである。

2 貨物自動車運送の活性化に向けて
 これまで我が国の陸上貨物輸送の分野、特に貨物自動車運送の分野は事業者の約99%が中小企業で占められていることもあり、その大半が荷主に専属する形態の事業展開が行われており、このため、物流システムの構築が荷主の主導によって行われてきた側面がある。こうした物流システムの中には豊富な労働力を背景に「トラック輸送はいつでも、いくらでも利用できる」という意識のもとに構築され、過度に在庫の圧縮を図るために少量の貨物を多頻度に分けて輸送させ、トラックの輸送効率の悪化を招いていたシステムも一部にある。そうした物流システムにおいては、トラック輸送自体の効率化の観点があまり重視されてこなかった。
 しかし、近年広がりを見せているトラック運転者の不足等の労働力不足や輸送回数の増大による道路交通混雑、窒素酸化物(NOx)に代表される自動車排出ガス公害等の問題により、このような非効率的な物流システムに対して見直しの必要性が指摘されている。このような中で、事業者としては、積合せ運送の推進や多様な運賃及び料金設定により効率的で多様な輸送サービスを提供することにより、非効率的な物流システムを事業者の事業活動にとっても荷主の事業活動にとっても効率的なものに転換させていく必要がある。
 また、商品管理、保管、流通加工、配送といった一連の管理及び作業を一貫して行うなど、新しい事業法のもと、これまで荷主主導のもとで行われてきた物流を事業者が主体的にシステム化していくことが求められている。このためには、これまで多くの事業者において設備面での近代化が遅れていたことや荷主との力関係において劣位に置かれていた場合もあることなどを克服し、事業経営の充実を図ることが必要となっており、情報化による経営管理の強化や事業協同組合等による事業の共同化・協業化を図っていくことが今後ますます必要となっている。



平成3年度

目次