平成3年度 運輸白書

第7章 海運、造船の新たな展開と船員対策の推進
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第2節 高度化をめざす造船業 |
1 造船業の現状
2 高度化をめざす造船業
3 国際問題への対応
4 舶用工業対策の推進
- 1 造船業の現状
- (1) 我が国造船業の現状
- 昭和62年度を底として増加に転じた新造船受注量は、その後順調な回復を続け、平成2年度には7年ぶりに1千万総トンを超えた。3年度についても、一時は湾岸危機の影響が懸念されたものの、タンカー、LNG船を中心として依然受注は好調に推移している。また、受注量とともに受注船価も順調に改善しており、我が国造船業の経営状況は急速に改善されてきている〔2−7−4図〕。
しかしながら、一方で、雇用面の歪、創造的な研究開発や生産設備の近代化の立ち遅れ等の長期不況の後遺症ともいうべき問題を抱えており、これらの克服が今後の大きな課題となっている。
- (2) 造船業をめぐる国際情勢
- 造船業は、高度に国際化の進んだ市場を対象とする産業であり、従来から、需給バランス、公正な市場実現等の問題について国際的な協調努力が払われてきたが、OECD(経済協力開発機構)において造船助成削減問題が精力的に協議され、また、環境問題への対応等世界の造船業が協調・協力しつつ解決しなければならない問題も数多く生じてきているなど、造船業をめぐる国際問題は複雑かつ多様化してきている。
このような状況において、世界最大の造船国である我が国が果たすべき役割は一層重要になってきており、これらの問題の克服に積極的な貢献をしていくことが求められているところである〔2−7−5図〕。
- 2 高度化をめざす造船業
- 今後の造船市場を展望すると、90年代は、70年代半ばに集中的に大量建造された超大型タンカーの代替建造需要を中心として大規模な需要が潜在していると見込まれること、世界的に造船能力が宿小し需給関係が改善されたこと等から、経済情勢に大きな変動がない限り、比較的安定した経営を営める条件は整っていると思われる。このように、90年代は長期不況で脆弱化した造船業の基盤を再構築していく絶好機であるか、再構築にあたっては、需給の中長期的安定に配慮しつつ、技術の高度化に重点をおいた政策の展開が必要である。
(1) 需給の安定化
需給の中長期的な安定化を図るためには、現在の回復基調を維持し、造船能力の拡大等により再度の需給不均衡が生じることのないよう市場動向の先行きを踏まえた適切な行動に努めるとともに、国際的にも共通の認識を醸成していくことが必要である。さらに、海運市況の改善等を背景として老朽船の解撤が停滞しているが、需給の安定化及び市場構造の正常化の観点から船舶解撤の促進は重要な課題であり、今後、国際的に取り組んでいくことが必要である。
(2) 造船業の高度化
我が国造船業がより高度な産業として成長していくためには、物流の高度化、地球環境の保全等の社会の要請に応えた船舶を適時に開発・供給できるような商品技術、生産技術を有することが必要であり、このためには、創造的な研究開発体制の整備等を図りつつ、労働集約型産業から技術集約型産業への転換を目指していく必要がある。このような高度化施策の一環として、平成元年度から造船業基盤整備事業協会を通じて、速力50ノット以上、載貨重量1,000トン以上の性能を有する新形式超高速船(テクノスーパーライナー)等の研究開発を推進しているところである。さらに、3年度からは地球環境問題への取組みとして、同協会において、船舶からの油流出防止技術及び船舶用機関の排気ガスの浄化技術の研究開発に着手したところである。
また、造船業の活性化とともに、地域経済の活性化にも資する施策として、造船技術を活用した各種の海上浮体施設の整備を推進しているところである。
- 3 国際問題への対応
- 我が国は、世界最大の造船国として、OECDにおける多国間協議を中心に主要造船国との対話に努め、国際協調の推進に積極的に取り組んでいるところである。
(1) OECD造船部会の動向
OECD造船部会においては、従来から需給バランス及び公正な競争条件の確保等の問題について協議が行われてきたが、元年、米国造船工業会が我が国を含む4ヶ国が不公正な政府助成を行っているとして、米国通商法第301条に基づく措置を求める旨の提訴を行ったことを契機として、政府助成の削減問題が中心議題となっている。現在、従来の紳士協定に替えて、削減すべき助成の範囲、削減時期、違反国に対する対抗措置を含む紛争処理手続き等を盛り込んだ新たな国際条約を策定する方向で鋭意協議が進められている。我が国は、従来から各種の国際取決めを遵守しつつ公正な競争条件の確保に努めてきたところであり、今回の協議にも積極的に参加しているところである。
(2) 韓国との対話
我が国に次ぐ世界第2位の造船国である韓国と協調を図ることは、両国合わせて世界の新造船のシェアの約3分の2を占めることにかんがみれば、単に両国間のみの問題ではなく、世界の造船業の安定的な発展にとって重要な問題である。このため昭和59年以降、政府レベルの協議を定期的に開催し、造船市場の動向についての意見交換等を行うことにより、両国の相互理解を深めるとともに、世界の造船業の安定化に向けて協調を図っている。
- 4 舶用工業対策の推進
- 我が国舶用工業は、船舶に搭載する多種多様な舶用機器の安定供給を担ってきたが、石油ショック等の影響による造船不況のあおりを受けて、舶用工業製品の生産額は長期にわたって低迷していた。しかし、63年以降は造船需要の回復とともに舶用工業製品の生産額は増加に転じ、平成2年には8,119億円、対前年比7%増と活気を取り戻してきた〔2−7−6図〕。
しかしながら、長期にわたった不況の影響は大きく、舶用工業は、労働者の不足・老齢化、生産設備の老朽化等の問題を抱えている。今後の舶用工業対策としては、経済・社会情勢の変化を踏まえた上で、中長期的な需要動向に対応した経営基盤を確立していくことが必要であり、このため、舶用工業製品別の需要動向、将来動向等を分析するとともに、必要な構造改善措置等を適切に図りつつ、中小企業対策関連法、雇用対策関連法等の活用を図っているところである。

平成3年度

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