平成4年度 運輸白書

第2章 地域間交流の促進をめざして
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第2章 地域間交流の促進をめざして |
1 高速交通ネットワークの役割
2 幹線鉄道ネットワークの構築
3 航空ネットワークの構築
4 高速バスネットワークの構築
5 海上交通の高速化
6 高速交通ネットワークへのアクセスの向上等
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1 高速交通ネットワークの役割
- 新幹線や航空等により形成される高速交通ネットワークは、地域間の移動に要する時間の大幅な短縮をもたらす。このような移動時間の短縮は、人々の生活空間を拡大し、生産、販売、居住、就学・就労、旅行等人間のあらゆる活動の可能性を拡げるものである。20世紀初めにライト兄弟によって発明された航空機が今や世界中を網の目のように飛び回るようになるなど、高速交通に対する人類のあくなき願いは、その英知と努力の上に実現が図られてきた。そして、この移動時間の短縮が、世界及び我が国における今日の地域間の人的・物的交流と文化的交流をもたらしたといっても過言ではない。特に、最近では、時間価値が非常に高まっていることから、交通機関の高速化による移動時間の短縮へのニーズがこれまで以上に高まっているといえる。
また、国内的には、いわゆる東京一極集中の是正が大きな問題となっており、多極分散型国土を形成し、国土の均衡ある発展を図るためにも、全国的な高速交通ネットワークを整備し、地域間交流を促進していくことが重要になっている。高速交通ネットワークの整備が、人的・物的交流の活発化等を通じて地域の経済社会の活性化に果たす役割は大きいと考えられるからである。
そこで、このような点を東北新幹線を例にとって考えてみると、その開業によって、それまで減少傾向にあった東北線全体の輸送実績が向上し〔1−2−1図〕、これに伴い沿線地域の人口や製造品出荷額等が大きく伸びており〔1−2−2図〕〔1−2−3図〕、東北新幹線による高速交通サービスが地域の経済社会の活性化に大きく貢献しているものと思われる。
なお、全国的な高速交通ネットワークの整備が進展していることから、地域間交流を東京、大阪からの所要時間でみると、3時間以内ではそれぞれ約64%、約59%の地域への移動が可能となっている〔1−2−4図〕。
- 2 幹線鉄道ネットワークの構築
- (1) 幹線鉄道ネットワークの現状
- 全国的な幹線鉄道ネットワークについては、昭和30年代までに基礎的な部分がほぼ完成し、東海道・山陽新幹線、東北・上越新幹線等の開業はあったものの、これらを除けば、必ずしも高速化が進捗しておらず、地域間移動に要する時間の短縮が十分に実現しているとはいいがたい。
また、新幹線については、すでに整備新幹線3線4区間が着工されているほか、平成3年6月の東北・上越新幹線の東京駅乗入れ、4年3月の営業最高速度270kmで走行する新型車両(のぞみ)の導入等ネットワークの整備に向けた努力が着実に続けられている。これに加えて、在来線を活用して比較的低い投資額と短い工事期間で高速交通ネットワークの拡大をもたらす新幹線と在来線の直通運転化を推進しており、4年7月には福島から山形までの区間が開通し、大きな効果をもたらしている〔1−2−5図〕ほか、4年3月に盛岡から秋田までの区間について工事に着手した。
- (2) 幹線鉄道ネットワークの整備方策
- (ア) 幹線鉄道ネットワークの質の高度化
- 今後は、鉄道特性のある分野において幹線鉄道ネットワークの質の高度化を図り、航空網、高速道路網とあいまって、全国の高速交通ネットワークの高度化を図ること〔1−2−6図〕が、鉄道整備の目標となる。特に、地球温暖化等地球環境問題がクローズアップされつつある中で、CO2の排出量が少なく環境負荷の小さい鉄道の果たす役割はより一層重要になると考えられる。このため、安全の確保や環境問題にも配慮しつつ、既存の鉄道路線を最大限に活用することとし、次のような路線についてその整備を進めていくことが適当である。
- (a) 鉄道にとって有効距離帯である100km〜800kmに収まる大都市や地方中核都市(人口20万人以上の都市及び県庁所在都市間)を結ぶ鉄道
- (b) 鉄道輸送の特性である大量性が発揮できる一定以上の輸送量が期待される区間
- また、具体的な整備にあたっては、線路等の鉄道施設の整備と車両等設備の整備を適切に組み合わせるなど、輸送需要に適合した投資を行うとともに、新幹線と在来線の直通運転化等の方策により幹線鉄道ネットワーク全体の質の高度化を図ること等が必要となる。
整備新幹線については、当面、いわゆる基本スキームの3線5区間のうち既に着工した4区間(北陸新幹線高崎〜長野間及び石動〜金沢間、東北新幹線盛岡〜青森間、九州新幹線八代〜西鹿児島間)について着実に建設を進めるとともに、基本スキームに従い、残る北陸新幹線魚津〜糸魚川間についても適切に対処することが望ましい。
なお、東海道新幹線については、逐次輸送力の増強を図ってきているものの、輸送需要がこれを上回って伸びている状況にあり、混雑が改善されない状況が続いているほか〔1−2−7図〕、今後とも輸送需要の伸びが予想される。このため、二階建車両の導入や品川新駅構想等を踏まえた列車運行本数の増発等の輸送力増強のための有効な施策の推進を急ぐ必要がある。
また、現在の在来線の幹線鉄道ネットワークは、表定速度(駅の停車時間を含めた平均速度)が60〜90km/hの路線が大半となっている。このため、利用者ニーズや投資効果等を踏まえつつ、線形の改良、新型車両の開発等を行い、そのスピードアップを進めていくことにより、利用者利便の向上を図り、輸送需要を自家用車から鉄道に誘導していくこと等が求められている。
- (イ) 幹線鉄道整備のインセンティブの強化
- 鉄道事業者は、企業性の観点から、その競争力を交通市場で長期的に保ち得るように投資を行うことが求められる。
しかしながら、幹線鉄道は、都市鉄道と同様に、その建設に膨大な資金と長期の回収期間を要することやその資金の回収が困難であること等から、必要に応じ、鉄道事業者に対する公的支援を行い、資本費の負担軽減を図るなど鉄道事業者の投資意欲を醸成するための投資インセンティブの強化が必要である。
- (3) 技術開発への取組み
- 安全や環境に十分配慮しつつ、これまで以上に幹線鉄道の高速化を進めていくためには、今後解決していくべき技術的課題が少なからずある。
新幹線については、将来的に営業最高速度毎時300km〜350kmでの走行を可能とするため、空気抵抗・騒音の低減化を進める。また、幹線鉄道については、営業最高速度毎時160km〜200kmでの走行を可能とするための狭軌車両の開発等を進める必要がある。さらに、超電導磁気浮上式鉄道については、営業最高速度毎時500kmをめざして、2年度から新実験線の建設を進めている。
- 3 航空ネットワークの構築
- (1) 航空ネットワークへの期待
- 我が国の国土は、概ね南北3,000キロメートルに及んでおり、地形的にも、航空ネットワークが重要な役割を果たしていくことが期待されている。このため、従来から東京、大阪を中心として航空ネットワークの構築が進められてきたが、東京−北海道、東京−福岡といった1,000キロメートルを超える広域的な移動においては、航空輸送がその約9割のシェアを占めるなど〔1−2−8図〕、国内の交通ネットワークにおいて航空輸送の伸びが目立つ〔1−2−9図〕。
また、最近では、東京、大阪以外の地域相互間の交流も活発化しつつあり、さらに、海外との交流も大幅に拡大しており、利用者ニーズを踏まえた国内及び国際の航空ネットワークの充実が求められている。
- (2) 航空ネットワークの整備方策
- (ア) 二大都市圏における航空ネットワーク
- 航空ネットワークについては、二大都市圏から全国各地への国内航空ネットワークの充実を図るほか、新東京国際空港及び関西国際空港については、国際ハブ空港として全方向への利便性を有するネットワークを形成していくこととしている。
このため、新東京国際空港について、関係者との話し合いを進めるなど二期施設の早期完成に向けて全力を挙げて取り組むほか、東京国際空港の沖合展開に伴う平成5年の西側ターミナル施設の供用開始等に向けた整備、関西国際空港の一期計画部分の6年の開港をめざした整備、首都圏における新空港構想の調査等を鋭意進めることとしている。
- (イ) 地方拠点空港における航空ネットワーク
- 航空ネットワークについては、二極構造から多極構造への国内航空ネットワークの展開を図るため、全国各地へのネットワークの充実を図ることとしている。さらに、需要の動向に応じて、中・近距離の国際路線を中心に国際航空ネットワークを形成するとともに、新千歳空港、名古屋空港及び福岡空港については、国際ネットワーク上の立地条件等を勘案して方面別ゲートウェイに相応したネットワークを形成していくこととしている。
また、福岡空港、名古屋空港等の地方拠点空港については、ターミナル地域等の整備を進めるとともに、中部新国際空港構想について調査を進めることとしている。
- (ウ) 地方空港における航空ネットワーク
- その他の地方空港については、二大都市圏以外の地域において90分以内で空港に到達できる人口の割合を、1990年(平成2年)の約80%からおおむね2000年(平成12年)には約85%とすることなどをめざして、需要の確保、既存空港や他の高速交通機関の利用状況等を踏まえつつ、新規空港の整備を進め、航空ネットワークの充実を図ることとしている。また、地域における国際交流の促進に地方空港の国際化が大きな役割を果たすことから、地方空港の国際化を進めることも重要である。
- 4 高速バスネットワークの構築
- 全国の高速道路延長は5,000kmを超えるにいたっているが、これに伴い、高速道路を活用した都市間バスの系統数が増加し、平成2年度末には約950系統に達している。このいわゆる高速バスは、輸送量やそのスピードの面で航空や新幹線と同じレベルで比較することはできないが、これらに比べて運賃が安いこと、比較的小さな輸送需要に対しても機動的に対応できること、都市の中心部での発着が可能であること、夜行便が設定され時間を有効に活用できること等のメリットを活かして、これらの高速交通機関を補完するサービスを提供している〔1−2−10表〕 。
このため、今後とも、利用者ニーズに対応した路線の形成、車両の快適性の向上、ターミナル施設の整備等高速バスネットワークの充実を進めていく必要がある。
- 5 海上交通の高速化
- 長・中距離フェリーは、海上における幹線輸送手段として、地域間交流において、従来から重要な役割を果たしている。4年4月1日現在、長距離フェリー(片道航路300km以上)は、12事業者により21航路が運航されている。これらの航路に就航する船舶については、高速化が図られており、また、1隻当たりの平均トラック航送能力について10年前と比較してみると、90台から134台へと増加するなど船舶の大型化も図られている。また、超高速船であるジェットフォイルや半没翼型水中翼船等も各地に就航しており、海上交通の高速化が進んでいる。
これらの動きに対応して、旅客船ターミナル等の港湾整備が行われている。
6 高速交通ネットワークへのアクセスの向上等
- 高速交通ネットワークがその機能を十分発揮するためには、空港や鉄道駅等の高速交通機関へのアクセスの整備を進めていくことが重要である。特に空港については、その立地制約から、都市から離れた場所に設置されるケースが目立っている。
このため、従来より高速交通機関へのアクセス機能の向上を図ってきており、平成3年3月には新東京国際空港のターミナルに、4年7月には新千歳空港のターミナルに高速鉄道が直接乗り入れたほか、沖合展開後の東京国際空港や関西国際空港等にも鉄道、高速道路等による良質なアクセスが実現することとなっている。引き続き、高速交通ネットワークの機能を十分生かせるよう、アクセス手段の整備、道路との連携機能の強化、効率のよいダイヤの設定、ターミナルでの円滑な移動の確保等の対策を進めていくこととしている。
また、ゴールデンウィーク等特定の時期に集中しがちな需要の分散を図ることによって、より快適な高速交通機関の利用が可能となると考えられることから、オフシーズン割引等の充実を進めることも重要である。

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