平成4年度 運輸白書

第4章 運輸サービスの高度化・多様化をめざして
 |
第4章 運輸サービスの高度化・多様化をめざして |
- 国民の所得水準の向上やライフスタイルの多様化、さらには労働時間の短縮等による自由時間の増大等により、運輸サービスに対する利用者ニーズは高度化・多様化してきており、利用者が自分の好みに応じたさまざまなサービスを求めるようになっている。特に最近は、利用者が物の豊かさよりも心の豊かさを求める傾向にあるほか、ある程度の負担をしてでも質の高いサービスを享受したいという利用者が多くなっている〔1−4−1図〕。しかし一方で、近年労働力不足や環境問題等運輸サ一ビスをとりまく制約要因が顕在化しつつあり、サービスを無制限に拡大していくことには問題がないわけではない。このため、例えば労働集約的で高付加価値なサービスには、そのコストに見合った相対的に高い運賃・料金を設定するなど、これらの制約要因と利用者ニーズのバランスを考えながら、利用者の選択の幅を広げていくことが重要な課題となっている。
 |
第1節 旅客輸送サービスの高度化・多様化 |
1 予約段階のサービスの向上
2 乗車段階のサービス向上
3 移動中のサービス向上
4 深夜輸送サービスの向上
-
1 予約段階のサービスの向上
- 近年、情報システムの発達等に伴い、コンビニエンスストア、スーパーマーケット等でも航空機や新幹線の切符の予約・発券が可能となってきているほか、プッシュホン、キャプテンシステム(電話回線を利用して家庭や会社等でテレビやパソコン等のディスプレイ装置と各種情報センターを結び、画面で情報を提供するシステム)等による自動予約システムも導入されている。また、国際的なコンピュータ・リザーベーション・システムの発達に伴い、海外旅行に行く際には、国内にいながらにして、海外のホテル、レンタカー、鉄道、さらにはイベントチケット等の予約までできるようになっており、利便性の向上が図られている。
-
2 乗車段階のサービスの向上
- (1) プリペイドカード
- 昭和58年以降、埼玉新都市交通を皮切りに、プリぺイドカードの導入が始まり、乗車券を購入する際に小銭の用意が不要となるなど利用者利便の向上に貢献している。
- (2) ストアードフェアカード
- ストアードフェアカードシステム(改札時運賃自動引き落としカードシステム)は、プリペイドカードを自動改札機に直接挿入すると、利用区間の運賃をカードから自動的に差し引くものであり、乗車券を購入する手間を省けるというメリットを有する。すでに平成3年3月からJR東日本の山手線内で導入されたほか、阪急電鉄の全線、営団地下鉄の南北線等でも導入されている。さらに4年6月からは横浜市の地下鉄とバス、川崎市のバス及び神奈川中央バスの三社間の共通化が実施された。これは、公営・民営、鉄道・バスの間の共通化としては全国で初めての試みであり、その成果が注目される。
さらに、今後は技術開発の進歩等に伴い、運賃が利用者の口座から自動的に引き落とされるタイプのもの、自動改札機に挿入しなくてもよい非接触型のタイプのもの等の導入が期待されている。
- (3) 都市新バスシステム等バス輸送サービスの向上
- 環境問題等への対応の観点からもバスの活用を図ることがこれまで以上に求められているが、深刻化する道路交通混雑のため、都市部では定時性の確保が困難になっている。このため、バスロケーションシステム(バスの動きを電波でとらえて、運行の乱れを解消するするようバスに指令するシステム)、バス接近表示システム(バスがバス停の400〜500m程度手前まで近づくと、その接近を利用者などに表示し、バス待ちのいらいらを軽減するシステム)、さらには、都市新バスシステム(バス接近表示器、シェルター付停留所等の設置、低床・広ドアバスの導入等総合的なサービスの改善を行うシステム)等の導入を進めている。また、面的に、きめの細やかなバス輸送サービスを提供するため、デマンドバス(利用者が迂回ルートで呼び出しをすると、バスが通常ルートから迂回してその利用者の待つ場所に向かうシステム)の導入も行っている。
-
3 移動中のサービスの向上
- (1) 車両の快適性等の向上
- オフィス、ホテル、劇場等快適性の優れた施設が多くなってきている今日、車両やターミナルにおいても、その快適性が問われる時代になっている。このため、鉄道の車両については、混雑の目立つ都市鉄道を中心として、冷房化が進み、大手民鉄の冷房化率が100%近くになっており〔1−4−2図〕、利用者からも高く評価されている〔1−4−3図〕。このほか、シートピッチの拡幅、個室付き車両の導入等の試みが進められているほか、ホテル並みの居住性と食事を兼ね備えたJR西日本のトワイライトエクスプレスが登場するなど、快適性の向上とサービスの多様化に向けてさまざまな努力が行われている。また、高速バスについては、2階建てバス等ハイグレードな車両が導入され、ゆとりある座席空間が提供されている。さらに、最近における海への関心の高まり等を背景に、長距離フェリーの利用者は増加しており、新造船においては、利用者ニーズの高度化に対応して、レストランを充実し、ラウンジ、プール等各種施設を設けるなど快適な船旅を享受できるようサービスの向上が図られている。一方、ターミナルについては、エスカレーターの設置、冷房化の推進、さらにはコンビニエンスストア、地方公共団体の出張所等の設置等も進められている。
- (2) 乗継ぎ利便の向上
- また、最近は、車両等の快適性のみならず、移動中の時間の有効活用に対するニーズも高まってきており〔1−4−4図〕、液晶テレビの設置、車内でのニュースや天気情報の提供、ビデオカメラの貸出等これに対応したサービスの向上が図られつつある。
個別の交通機関でのスピードアップや快適性の向上等サービスの向上が進む中で、乗継ぎ段階での利便が確保されなければ、そのメリットが半減してしまう。このため、地域内交通では、複数鉄道事業者による相互乗り入れ、鉄道とバスのダイヤの調整、エスカレーターの設置等ターミナルの改良等を行ってきており、例えば、平成3年3月には北総開発、京成電鉄、都営地下鉄及び京浜急行の4社にまたがる相互直通運転が開始され相互乗り入れ区間が全国で114区間(3年度末現在)になるなど乗継ぎ利便の向上が図られている。また、幹線交通においても、東北・上越新幹線の東京駅乗り入れ等利用者利便の増進が図られつつあるが、今後ともその向上に努める必要がある。
-
4 深夜輸送サービスの向上
- 大都市圏を中心に生活や業務の24時間化が進み、深夜まで活動する人が多くなってきたことから、深夜輸送サービスへのニーズが高まってきている。このため、東京圏においては、昭和63年度以降、深夜の時間帯における列車の増発、運行区間の延伸、終電時刻の繰り下げ等を行うほか、終バスの延長や郊外駅と団地を結ぶ深夜バスや都心部と郊外を直接結ぶ深夜急行バスの運行の充実を図るなど、5次にわたる対策を講じている〔1−4−5表〕。

平成4年度

目次