平成4年度 運輸白書

第10章 地球環境の保全
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第10章 地球環境の保全 |
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第1節 地球的規模の環境問題への対応 |
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運輸省は、環境と調和した交通体系の形成、海洋汚染の防止、気候・海洋変動の観測・監視・予測等の充実を図るとともに、技術・知識の途上国への移転を図るなどの国際的な協力の推進を通して地球規模の環境問題の解決に向けて積極的な努力を進めている。
1 地球サミットをはじめとする国際機関での主要な動き
2 地球環境問題の解決を目指した運輸の対応
- 1 地球サミットをはじめとする国際機関での主要な動き
- (UNCEDの開催)〔2−10−1図〕
平成4年6月3日から6月14日までブラジルのリオ・デ・ジャネイロにおいて国連環境開発会議(UNCED:地球サミット)が開催された。会議では、環境と調和した持続可能な開発に向けて人と国家がとるべき原則を定めた「環境と開発に関するリオ宣言(リオ宣言)」、それを踏まえた具体的な行動計画を定めた「アジェンダ21」等が採択されるとともに、地球温暖化防止を目的とした「気候変動枠組み条約」等への署名が行われ、環境問題への国際的な共同歩調のための基本的枠組みが構築された。
「アジェンダ21」は、各国政府、国際機関、非政府組織(NGO)、一般市民がそれぞれ協力して又は独立して積極的な行動をとることを念頭において定められた行動計画であるが、運輸に関わりの深い項目としては、交通分野における省エネルギー、公共輸送機関の利用促進、汚染の少ない交通システムの形成、海洋環境の保護、観測・監視の強化、エコツーリズムの推進、技術移転等の国際協力が挙げられており、運輸行政においてもこれらを踏まえた積極的な取組みが求められている。
(海洋汚染をめぐるIMOの動き)
国際海事機関(IMO)では、船舶からの海洋汚染を防止するための国際条約である「1973年の船舶による汚染の防止のための国際条約に関する1978年の議定書」(MARPOL73/78条約)を基礎に、常に新たな課題への対応を進めてきており、4年3月には、@油の排出基準の強化、Aタンカー事故に伴う油流出を防止又は低減するための二重船体構造等の義務付け等を内容とする条約改正を採択したほか、船舶からの排出ガス抑制対策についても検討を始めている。
また、大規模な油流出事故に対する国際的地域緊急防除体制の整備等を目的とする「1990年の油汚染に対する準備、対応及び協力に関する国際条約(仮称)」(OPRC条約)を2年11月に採択し、現在、5か国が批准を終っている(同条約は15か国が批准した後12か月で発効)。
(オゾン層保護をめぐる動き)
モントリオール議定書は、地球を有害紫外線から守る働きを持つオゾン層の保護について、その破壊物質である特定フロン・ハロンの生産を2000年までに全廃すること等を定めているが、オゾン層の破壊は予想以上に進行しており、規制の前倒しが提案されている。
4年11月コペンハーゲンで予定されているモントリオール議定書締約国会合においては、カーエアコン、冷蔵倉庫等の冷媒に使用される特定フロンの生産全廃時期の前倒し、鉄道、船舶等の消火剤に使用される特定ハロンの生産全廃時期の前倒しが決定される見込みであるほか、その他の物質についても規制強化の動きが強まっている。
- 2 地球環境問題の解決を目指した運輸の対応
- (1) 観測・監視体制の充実〔2−10−2図〕
- (地球温暖化問題)
気象、水象、地象等の総合的観測、予報等を通じて災害の予防、交通の安全の確保等に寄与する業務を行っている気象庁では、地球温暖化現象の実態解明を進めるための気温、降水量、海水温、海面水位等の変動について、世界気象機関(WMO)が推進している世界気象監視(WWW)計画等に基づく観測網の一翼として観測・監視を強化するとともに、温室効果気体やオゾン層の地球規模での変動を監視するための全球大気監視(GAW)計画等の国際的観測・監視計画に資する体制の充実・強化を図っている。特に、4年1月からは、西太平洋での海洋気象観測船による温室効果気体等の海洋深層観測を充実するとともに、民間定期航空機による上層大気中の温室効果気体の定常観測を日航財団の協力により開始したほか、5年1月からは、南鳥島気象観測所の設備、機能を充実し北西太平洋域で初の大気バックグランド汚染基準観測所として機能させることを目指して、大気中の二酸化炭素濃度の観測を開始することとしている。また、地球温暖化に関する世界各国の観測・監視データについては、気象庁に設置された「WMO温室効果気体世界資料センター」の役割を兼ねる「温暖化情報センター」で収集・管理・提供を行っており、4年3月には、温室効果気体と気候変動の動向及びオゾン層の状況についてとりまとめた「地球温暖化監視レポート1991」を公表した。
このほか、気象庁ではWMOの推進している世界気候研究計画に沿って気候変動の予測精度の向上をめざした気候モデルの高度化のための研究及び世界的に解明が急がれている雲の温暖化への影響、二酸化炭素等の大気・海洋間の循環に関わる研究等を進めている。
海上における船舶交通の安全確保等のほか水路の測量、海象の観測を行っている海上保安庁では、地球温暖化への海洋の果たす役割等に関し、定常的な海洋観測や、国連教育科学文化機関・政府間海洋学委貝会(UNESCO/IOC)の西太平洋海域共同調査(WESTPAC)の一環としての大型測量船「拓洋」による海洋精密観測や漂流ブイの追跡観測等による海況変動の監視を行うとともに、地球温暖化に伴う海面水位変動の監視を実施している。
また、海上保安庁の「日本海洋データセンター」では、こうした各種の観測から得られた海洋データの一元的な収集・管理・提供を行っている。
さらに、地球温暖化に係る国際的なプロジェクトである世界海洋循環実験(WOCE)については、気象庁と海上保安庁が参画している。
(オゾン層の破壊)〔2−10−3図〕
気象庁の観測結果によれば、極を除く全球平均オゾン全量は10年当たり約3%減少しており、3年に南極で過去最大のオゾンホールが出現したほか日本においても札幌で3年12月、4年1月及び3月にこれらの月における過去最低のオゾン全量を記録した。このようにオゾン層の破壊は引き続き進行していることから、気象庁ではオゾン層及びオゾン層関連物質の観測・解析並びにオゾン層破壊メカニズムの解明と予測のための研究等を進めている。
(海洋汚染及び海洋変動)
海上保安庁及び気象庁は、我が国周辺海域、主要湾等において、海水及び海底堆積物中の油分、PCB、重金属等の汚染調査、海洋における海上漂流物の定期的な実態調査を行っているほか、IOCの海洋汚染モニタリング計画に参加し、廃油ボールの漂流・漂着状況の調査を行っている。
また、気象庁では日本周辺及び西太平洋海域で海洋変動の監視及びエルニーニョ現象等の予測モデルの開発を行っており、4年4月には、エルニーニョ監視センターを開設し、エルニーニョ現象等の大規模海洋変動等の監視・予測を行っている。
- (2) 環境と調和した運輸の構築
- 地球環境問題の中でも最も重要な課題の一つである地球温暖化問題に関しては、2年10月に「地球温暖化防止行動計画」が定められ、政府全体として二酸化炭素排出を抑制するための各種対策が講じられているが、国際的には4年6月のUNCEDで「気候変動枠組み条約」の署名が行われた。
運輸部門についても、国内における全排出量の約2割を占めることからCO2の排出を抑制することが重要な課題であり、自動車燃費の改善やハイブリッド自動車等の普及導入等の省エネルギー・CO2排出抑制措置を交通機関毎に進めるとともに、物流における内航海運、鉄道の利用促進、共同輸配送等の促進、旅客輸送における公共交通機関の利用促進等により、全体としてエネルギー効率が良くCO2の排出量が少ない交通体系の構築を進めている。
また、地球温暖化に伴い海面水位が上昇した場合、人口、資産が集中する臨海部の諸機能に重大な影響を及ぼすものと予想されるため、臨海部への影響の予測と被害を未然に防止するための具体的な対策について検討を進めている。
オゾン層破壊に関しては、特定フロン及びハロンについて、自動車のカーエアコンの整備時における特定フロンの大気中への放出の抑制、船舶における特定フロン・ハロンの使用抑制等を指導するとともに、代替フロンを利用した施設、設備への転換の促進を図ることとしている。
海洋汚染に関しては、2年11月に採択されたOPRC条約について、早期批准に向けた体制整備を進めるとともに、4年3月に採択されたMARPOL73/78条約の改正を受けて、油タンカーに対する二重船体構造の義務付け等の海防法等関係法令の整備を行うこととしている。
また、我が国への主要タンカールートであるアセアン諸国周辺海域において、大規模な油流出事故が発生した場合の国際的地域緊急防除体制の整備を図ることを目的とするOSPAR計画を2年度から推進しており、4年1月にアセアン各国及びIMOとマニラにおいて第一回OSPAR協力会議を開催した。4年度は、11月に第二回OSPAR協力会議をジャカルタで開催することとしており、9月にはその事前会合として東京で専門家会議を開催した。
- (3) 国際的な協力
- 運輸分野における環境関係国際協力については、我が国における技術、知識、経験の蓄積を生かして、@鉄道等公共交通機関の整備によるエネルギー効率の良い交通体系の形成、A自動車の修理・検査体制の整備等による交通機関からの汚染の低減・抑制、B気象及び海象についての観測・監視体制の整備、C海洋汚染防止技術の普及等の分野において積極的な協力を実施している。
また、運輸分野における交通基盤施設の整備等の国際協力に関して開発途上国の環境保全に十分配慮するための指針作りを進めており、3年度は港湾分野について実施し、4年度には、鉄道分野について実施することとしている。

平成4年度

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