1 鉄道技術の開発
- (1) 超電導磁気浮上式鉄道〔2−11−3図〕
- 昭和37年に国鉄が開発を始めた超電導磁気浮上式鉄道については、超高速、低公害等の性格を有する将来の都市間大量輸送機関として期待され、現在は、(財)鉄道総合技術研究所において開発が進められている。
宮崎実験線(単線高架構造、延長7km)においては54年に、無人の実験車両で517km/hを達成し、また、62年には有人の実験車両で400km/hを達成するなど実験成果をあげてきている。
平成2年度からは、山梨県において新しい実験線の建設を進めており、高速連続走行試験等を経て、9年度末までに実用化のめどを立てる予定である。
なお、3年10月3日、宮崎実験線の車両MLU002で車両火災が発生したことにより、一時実験線での走行試験は休止せざるを得なかったが、現在旧型式車両MLU001を使用して走行実験を行っているとともに、難燃化等を十分に考慮した新しい車両MLU002Nを制作中である。
- (2) 常電導磁気浮上式鉄道
- 常電導磁気浮上式鉄道については、昭和49年より日本航空によって開発が進められたHSSTがあり、現在、(株)エイチ・エス・エス・ティで開発が続けられている。平成3年5月からは、第3セクターにおいて、愛知県内の実験線(延長約1.5km)で最高速度100km/h程度のシステムについて実用化のための各種試験を行っている。
また、運輸省においても、検討会を開催してその安全性、信頼性等に関する技術評価方法等の検討を行っている。
- (3) 鉄道の高速化
- 鉄道の高速化は、運輸政策審議会及び運輸技術審議会の答申でも指摘された重要な課題であるが、JR各社においては、このための技術開発を積極的に行っており、速度向上が図られている。
新幹線においては、90年代に300km/h台での営業運転を行うべく、4年度から次世代の高速試験車両を投入して高速走行試験が実施されている。
在来線においても、ブレーキ性能の向上等の技術開発を行って、130km/hでの高速営業運転を行っており、振り子台車及び高加減速度車両の導入等による表定速度の向上も併せて実施されている。また、一部線区においては160km/hを超える高速営業運転を目指して、各種の技術開発を行いつつ高速走行試験が計画されている。
2 造船技術の開発
- 造船技術の高度化、海上輸送の効率化のため、造船業基盤整備事業協会を通じ高度船舶技術の研究開発を推進しており、現在、テクノスーパーライナー(航空機やトラックよりも大量の貨物(積載重量1,000トン)を高速(速力50ノット)かつ低コストで輸送することができ、トラック輸送から海上貨物輸送へのモーダルシフトにより労働力不足、交通渋滞等の緩和に貢献しうる新形式超高速船)の研究開発及び高信頼度舶用推進プラント(6カ月間メンテナンスフリーの高い信頼性を有し、熱効率等も現状を大きく上回るエンジン)の研究開発を進めている。さらに、地球的規模で顕著化する環境汚染に対処し、世界最大の造船国である我が国が、国際貢献策の一環としてその責務を果たすため、船舶からの油流出防止技術及び排気ガス浄化のための研究開発を進めている。
一方、原子力船「むつ」は、約1年間の実験航海を行い、原子動力の優秀性、安全性を実証した。「むつ」により得られた貴重な知見等を踏まえ、日本原子力研究所等では改良舶用炉の研究開発を進めている。
この他、造船業のコンピューター統合生産システム(造船業CIM)、超電導電磁推進実験船等のさまざまな研究開発を推進している。
3 人工衛星の開発利用
- (1) 気象観測
- 元年9月に打ち上げられた静止気象衛星4号は、台風等の気象観測により災害の防止・軽減等に活躍するとともに、アジア、オセアニアの天気予報や世界気象機関の世界気象監視(WWW)計画等に貢献している。また、気象衛星の安定的・継続的な運用を図るため、静止気象衛星5号の開発を進めている。この衛星では、水蒸気分布の観測と海面水温測定の精度向上等のため赤外チャンネルの増加により、利用の拡大等が図られる予定である。
- (2) 航空管制
- 洋上の航空機は、不安定かつ容量の少ない短波通信を用い、パイロットからの位置通報を基に管制を行っている。将来の航空交通量の増大に対応していくためには、衛星を利用することにより、管制機関と航空機との間の通信が大幅に改善でき、洋上の航空機の正確な位置の把握等安全性及び管制処理能力の飛躍的向上が期待できる。今後、衛星導入に向けての実用化のための研究を行うこととしており、2年度から衛星データリンクの研究を行っている。
- (3) 捜索救助
- 海上における遭難情報をよりリアルタイムに入手できるよう、静止衛星を利用したシステムの実験を行うこととし、元年より静止気象衛星5号に搭載する遭難信号中継器の開発を進めている。
- (4) 海洋測地
- 我が国の管轄海域の確定のためには、海図上の本土及び離島の位置を世界測地系で表示しておく必要がある。このため、海上保安庁では、世界測地系に基づくこれらの位置関係を高精度で求めるため、測地衛星「ラジオス」、「あじさい」等を利用した海洋測地を推進している。
- (5) 運輸多目的衛星
- 運輸行政の各分野で衛星利用の重要性が増大している一方、民間においても衛星利用に対する期待が高まっており、運輸省としてはこのような状況を踏まえ、さまざまな衛星利用ニーズを効率的かつ経済的に満たすため、11年度頃の実現を目指して運輸に関する多目的な衛星システムの検討を行っている。
4 海洋及びウォーターフロント
- (1) 港湾技術〔2−11−4図〕
- 運輸省は、21世紀初頭をめざした我が国の港湾技術の開発の促進に必要な政策を、「人と地球にやさしい港湾の技術をめざして−港湾の技術開発の長期政策−」として取りまとめ、4年6月に発表した。本長期政策は、運輸技術審議会答申「21世紀を展望した運輸技術政策について」(3年6月)を踏まえ、今後の港湾の技術開発について、その課題を明確に示すとともに、その推進方策を示したものであり、また、長期的な港湾整備政策「豊かなウォーターフロントをめざして−「21世紀への港湾」フォローアップ−」及び海岸整備政策「豊かな海辺づくりのために−21世紀への海岸−」との整合性を図り、経済社会の変化にも対応するものである。
この長期政策を踏まえ、現在、高波浪下でも耐波浪安定性に優れ、軟弱地盤上で有利な半円形防波堤、効率的で安全な施工と作業環境の改善が図れる施工ロボット、使いやすく美しい港づくりという要請に対応するための景観設計手法等の技術開発を行っている。
一方、近年進展の著しい民間企業の技術力の一層の向上を図るため、「港湾に係る民間技術の評価制度」、「共同技術開発制度」等の有効活用を図るとともに、必要に応じ税制面、財政面での支援を行っている。
また、安全・快適な港湾空間の創出に資するため、一般市民の利用する親水性施設やマリーナ等の技術基準の充実、及び新しい技術的知見による臨港交通施設の技術基準の充実等を主要課題として、現行の港湾施設の技術上の基準の見直しを進めている。
- (2) ウォーターフロント等における都市型索道システムの開発
- 索道は、地上部分の構造物が少なく、従来の鉄道等に比べ建設費が低廉であり、また、支柱間を運行することにより運河等の水域の横断等にも対応が可能という特性を備えていることから、ウォーターフロント等における中規模程度の旅客交通ニーズに対応する新しい交通手段として、都市型索道システムの開発を進めている。4年度にはこれまでの検討結果を踏まえて実験等を行い、引き続き風対策、速度向上及び輸送力増強等の基礎的な技術開発を推進することとしている。
5 交通安全のための技術開発
- (1) 自動車
- 近年の交通事故による死亡者数の増加、特に自動車乗車中の死亡者数の増加が顕著であることにかんがみ、4年の運輸技術審議会答申も踏まえ、事故の回避及び事故時の乗員の保護の両面からの調査・研究・評価を推進している。
また、エレクトロニクスを応用し、車両の周囲の交通環境・路面状況等を検知するセンサー等を車載することにより自動車を高知能化し、最も適切な安全動作を行うことができる先進安全自動車(ASV)を21世紀初頭に実用化すべく3年度から調査研究を行っている。
- (2) 船舶
- 近年、高速船の導入が活発化するなど多様化する海上交通の安全を確保するため、船舶技術研究所では、高速航行シミュレーションによる安全性評価等の研究、船舶運航の評価技術と高速船の国際基準に関する研究、人工知能を応用した船用機関の保全性向上の研究及び浮遊式海洋構造物へのアクセスシステムに関する研究等を行っている。
港湾技術研究所では、港湾における高速船に対応した安全な航路、泊地等の水域施設をシミュレーションを用いて計画設計できる技術の開発を行っている。また、あわせて、船舶の高速化に対応した、高速荷役システム及び天候に左右されずに荷役及び客扱いが可能な全天候型施設の開発を行っている。
- (3) 鉄軌道
- 鉄軌道の安全のための技術開発については、高密度化運転保安システムの開発やこれに対応した抜本的な踏切遮断システムの改善方策について検討を進めている。また、降雨時や地震時における鉄軌道輸送の安全を確保する観点から、降雨災害の予知及び検知システム(ラミオス)の技術開発の成果並びに地震による事故防止及び地震発生後の運転再開の迅速化を図るための地震防災及び復旧支援システム(ユレダス、ヘラス)の技術開発の成果を踏まえ、複合した災害にも対処できる総合防災システムの開発を行い、技術の深度化を図っていく。
- (4) 航空
- 将来の航空ニーズに適合するために、地形による制約が少なく、正確で自由度の大きい複数の進入着陸コースの設定を可能とするマイクロ波着陸システム(MLS)や航空機間のデータ通信機能を利用して、衝突の危険性を警告し回避する航空機衝突防止システム(ACAS)等の新しい航空保安システムの開発・評価を重点的に推進している。
6 地震・噴火, 気候変動, 気象予測のための技術開発
- 災害を未然に防ぐため、地震・噴火予知、気象予報及び気候変動予測の精度向上のための技術開発が必要である。特に、気象研究所では元年度より「直下型地震予知の実用化に関する総合的研究」を実施し、実用化のための手法開発を進めるとともに、「火山活動度の定量化に関する基礎的研究」等火山噴火予知のための基礎的な研究を行っている。また、温室効果気体増加による気候変動の予測精度向上のため3年度より「地球温暖化予測技術の高度化に関する研究」を実施している。気象庁では数値予報技術の高度化を図り、中・長期予報モデルの開発を進めている。