平成4度 運輸白書

第5章 国民のニーズに応える鉄道輸送の展開
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第5章 国民のニーズに応える鉄道輸送の展開 |
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第1節 鉄道整備の推進 |
1 鉄道整備の基本方向
2 鉄道整備基金
3 幹線鉄道の整備
4 都市鉄道の整備
5 地方鉄道の整備
- 1 鉄道整備の基本方向
- 21世紀においても、鉄道が我が国の交通体系の中で中枢的な役割を果たすためには、鉄道が抱える各種の問題を克服しつつ、鉄道に対する国民の期待に応えていくことが必要であり、そのためには、相当の規模の投資が必要と考えられる。他方、近年における鉄道投資には、用地費の高騰、工事の複雑化等に伴う建設費の増大、空間の確保の困難性等から膨大な資金と長期の懐妊期間が必要であり、鉄道事業者にとってそのリスクがますます大きくなってきている。
社会資本としての鉄道が社会の期待に応えていくため、国が、今後の鉄道整備の方向を示し、効率的な鉄道整備を進めるための方策を講じていくことが重要であり、中長期的な視点に立った方針を持って計画的な鉄道整備を進めるための施策を遂行していく必要がある。
以上のような認識の下、平成3年6月、運輸大臣から運輸政策審議会に対し、21世紀に向けての中長期の鉄道整備に関する基本的考え方について諮問し、4年6月にこれに対する答申が出された。同答申で示された今後の鉄道整備の基本的方向は、以下の通りである。
都市間を結ぶ幹線鉄道については、基礎的ネットワークは、ほぼ完成したものと考えられるが、質の面からみると、現在のニーズに十分応えているとはいい難い。今後は、21世紀に向けて、高速性・大量性等という鉄道の特性の発揮できる分野において、高速化・快適化を主な内容とする既存幹線鉄道ネットワークの質の高度化を図り、航空網、高速道路網とあいまって、全国の高速交通ネットワークの高度化を図ることを目標とする。
また、大都市圏の鉄道については、通勤通学時の混雑緩和対策が緊急の課題であり、特に東京圏においては、依然として主要区間の平均混雑率は200%以上であり、250%を超える区間も存在するなど極めて深刻な状況にある。また、地価の高騰等に伴う居住地の一層の外延化により通勤通学時間の長時間化がもたらされている。今後は、より所要時間が短く混雑の少ない快適な通勤通学を実現するため、列車本数の増加、列車の長編成化、地下鉄等の新線建設、複々線化工事等を内容とする輸送力増強対策と、通勤通学輸送の需要の分散のための対策の両面から効果的な施策を進める必要がある。需要分散の方策としては、「時差通勤通学」について企業や社会の協力と理解を求めていくとともに、その機運を促す一つの方法として、時差通勤通学定期の導入を検討する必要がある。
さらに、鉄道が地域独占性を持つ公益事業であることにかんがみ、鉄道事業者が利用者ニーズに応える努力を示すため、また、国や地方公共団体が限られた財源を有効に利用して効率的に鉄道整備にインセンティブを与えていくためにも、鉄道事業者は自ら中長期の鉄道整備の計画を策定する必要がある。
今後、鉄道事業者の投資意欲を醸成させつつ必要な鉄道の整備を推進していくためには、鉄道整備促進のためのインセンティブについて、財政、政策金融、税制、運賃政策、地域社会の支援、開発利益の還元等あらゆる立場から検討していくことが必要であり、国、地域社会、利用者等の関係者がそれぞれ必要な負担を行い、鉄道整備の実現のため一層の努力を行っていく必要がある。
- 2 鉄道整備基金
- (1) 基金設立の目的
- 鉄道整備基金(以下「基金」という。)は、鉄道整備基金法に基づく特殊法人であり、国土の均衡ある発展と大都市の機能の維持及び増進を図る観点から緊要な課題となっている整備新幹線、主要幹線鉄道及び都市鉄道の計画的かつ着実な整備を促進するとともに、鉄道の安全性や利便性の向上を図るための改良等鉄道事業の健全な発達を図る上で必要となる事業又は措置を支援するため、鉄道事業者等に対して補助金の交付、無利子の基金の貸付けその他の助成を総合的かつ効率的に行うことを目的として、3年10月1日に設立された。
- (2) 基金の行う業務
- 基金が行う助成の財源は、既設新幹線の譲渡代金の一部(特定財源)並びに一般会計及び産投会計(NTT−B)からの繰入金であり、基金が行う助成業務は、この財源に応じて、特定財源を活用した助成と国の一般会計等財源による助成とに大別できる。
- (ア) 特定財源による助成業務
- (a) 整備新幹線の建設を行う日本鉄道建設公団(以下「鉄道公団」という。)に対し、建設費の一部(国及びJR負担分の一部)に充当するための交付金を交付する。
- (b) 東海道新幹線の輸送力増強工事を行う鉄道事業者(東海旅客鉄道株式会社)に対し、工事費の一部に充てるための長期かつ低利の資金の融通を行う。具体的には、基金から日本開発銀行に対して無利子資金を寄託し、同銀行から鉄道事業者に対して公共特利並みの低利の貸付けを行っている。
- (c) 主要幹線鉄道の建設又は高規格化等の改良工事及び都市鉄道の建設又は複線化・複々線化工事を行う鉄道公団又は帝都高速度交通営団に対し、当該事業に要する費用に充てる資金の一部を無利子で貸し付ける。
- (イ) 一般会計等財源による助成
- (a) 整備新幹線の建設を行う鉄道公団に対し、建設費の一部(国負担分の一部)に充当するため、国の補助金の交付又は無利子貸付け(NTT−B)を受け、これを財源として、補助金の交付等を行う。
- (b) 国の補助金等の交付を受け、これを財源として鉄道事業者等に対して補助金等を交付する。具体的には、在来幹線の高規格化、地下高速鉄道の建設、鉄道公団による民鉄線等の建設、超電導磁気浮上式鉄道の技術開発、中小民鉄の近代化のための施設整備等に対する助成を行っている。
- 3 幹線鉄道の整備
- (1) 整備新幹線の整備〔2−5−1図〕〔2−5−2図〕
- 全国新幹線鉄道整備法に基づく整備計画が定められている整備新幹線については、現在、建設を進めるにあたっての基本スキームが決定されているところである。
3年度に全国新幹線鉄道整備法が一部改正され、標準軌新線(いわゆるフル規格新幹線)に加えて、新幹線鉄道規格新線(いわゆるスーパー特急)や新幹線鉄道直通線(いわゆるミニ新幹線)による整備が可能となり、また、鉄道整備基金による整備新幹線の建設に対する交付金制度が創設された。
これらを受けて、元年8月に着工した北陸新幹線高崎〜軽井沢間に加えて、フル規格新幹線、スーパー特急及びミニ新幹線を組み合わせて、3年9月に東北新幹線盛岡〜青森間、北陸新幹線軽井沢〜長野間及び九州新幹線八代〜西鹿児島間について、さらに4年8月には北陸新幹線石動〜金沢間について着工した。
また、4年度には駅を中心とした魅力ある町づくりを行おうという動きに対応して、これと一体となる新幹線駅施設を先行的に整備する「町づくりと一体となった鉄道駅緊急整備事業」が創設され、北陸新幹線金沢駅及び九州新幹線西鹿児島駅について着工した。
- (2) 在来幹線の高規格化等〔2−5−3図〕
- 3年10月の鉄道整備基金の設立により、新幹線と在来線の直通運転化、在来線の高速化及び鉄道貨物の輸送力増強工事に対する無利子貸付並びに新幹線鉄道輸送力増強工事に対する長期低利融資制度が創設され、より円滑な整備の促進が図られるようになった。これを受けて、既に幹線鉄道活性化事業として工事が進められていた奥羽線福島〜山形間の新幹線直通運転化(4年7月開業)、北越北線の高規格化に加え、4年3月に田沢湖・奥羽線盛岡〜秋田間の新幹線直通運転化、智頭・因美線の高速化について着工した。
- 4 都市鉄道の整備
- (1) 都市鉄道の整備の計画
- 運輸省は、都市鉄道の計画的かつ着実な整備のため、運輸政策審議会及び地方交通審議会の答申に基づき、また、各種の助成制度を活用すること等により、都市鉄道の整備に努めている。
東京圏については、昭和60年7月に平成12年を目標年次とした鉄道網整備計画が答申され、大阪圏については、元年5月に17年を目標年次とした鉄道網整備計画が答申されたが、名古屋圏についても、4年1月に平成20年を目標年次とした鉄道網整備計画が答申された。
- (2) 旅客会社(JR)の鉄道の整備
- 新線建設については、3年12月にJR東海城北線(尾張星の宮〜勝川間)が開業したが、引き続き同線(枇杷島〜尾張星の宮間)の新線建設工事が進められている。また、複線化については、JR西日本福知山線(新三田〜篠山口間)で進められている。一方、長編成化については、3年12月に、JR東日本山手線の11両編成化を行い、加えて武蔵野線の8両編成化を進めている。このように、旅客会社(JR)においては輸送力増強に努めているところである。
- (3) 大手民鉄の整備
- 首都圏の大手民鉄5社は、混雑緩和に資する複々線化等の抜本的な輸送力増強を図るため、運賃収入の一部を非課税で積み立て、これを工事資金に充てることができる特定都市鉄道整備積立金制度の活用による大規模工事を進めている。また、大手民鉄15社は、新線建設を始めとする輸送力増強工事、安全対策工事及びサービス改善工事を内容とする輸送力増強等投資計画を昭和36年度以降7次にわたり推進してきたが、平成4年度を初年度とする第8次輸送力増強等投資計画が策定されたところであり、引き続き輸送サービスの向上等に努めている。
- (4) 地下鉄の整備
- 地下鉄は、4年8月現在、帝都高速度交通営団及び9都市(札幌市、仙台市、東京都、横浜市、名古屋市、京都市、大阪市、神戸市及び福岡市)の公営事業者によって総営業キロ516.6kmの運営が行われており、3年度の輸送人員は4,725百万人、輸送人キロは31,609百万人キロとなっている。
このうち最近では、東京都12号線(光が丘〜練馬間3.8km)が3年12月に開業したが、同線では、車両の小型化及び曲線通過性能・登坂性能の向上によって地下鉄建設費の低コスト化を図ることができる利点を有するリニアモーター駆動小型地下鉄が採用されている。
また、営団7号線(赤羽岩淵〜駒込間6.3km)が3年11月に開業したほか、仙台市営地下鉄南北線(八乙女〜泉中央間1.2km)が、4年7月に延伸開業し、大阪市6号線(動物園前〜天下茶屋間1.7km)、横浜市3号線(新横浜〜あざみ野間10.7km)、福岡市1号線(博多〜福岡空港間3.1km)の開業が5年3月に予定されている。なお、地下鉄全体で61.2kmにのぼる新線建設が進められている。
- (5) モノレール、新交通システムの整備
- モノレールは、現在、東京モノレールの羽田線等8路線あるが、現在東京、千葉、大阪において6路線の延伸工事が行われている。新交通システムは、神戸新交通のポートアイランド線等6路線が営業中であるが、東京、大阪、広島において3路線が工事中である。
- (6) 宅地開発と一体となった鉄道の整備
- 近年の地価高騰等により、大都市地域においては、宅地開発と一体となった鉄道の整備が必要となっている。秋葉原とつくばを結ぶ常磐新線の整備については、3年3月、整備主体として第3セクター「首都圏新都市鉄道株式会社」が設立された。同年10月には、「大都市地域における宅地開発及び鉄道整備の一体的推進に関する特別措置法」に基づき、東京都、埼玉県、千葉県及び茨城県が運輸大臣、建設大臣及び自治大臣から基本計画の承認を受け、4年1月には同会社にこの承認基本計画の内容に従った鉄道事業法上の免許が付与された。
- (7) 空港へのアクセス鉄道の整備
- 空港へのアクセスについては、近年、空港利用者が増加していることから、その改善が求められており、輸送力及び定時性に優れたアクセス鉄道の整備が求められている。新千歳空港には、JR北海道が4年7月に乗り入れを開始した。また、今後関西国際空港、沖合展開後の東京国際空港、大阪国際空港及び福岡空港にも、鉄軌道の乗り入れが予定されている。
- 5 地方鉄道の整備
- (1) 地方鉄道の現状
- (ア) 中小民鉄の維持
- 中小民鉄は、地域における生活基盤として必要不可欠なものであるが、過疎化による運賃収入の伸び悩みや人件費等の諸経費の増加等の理由から大部分の事業者が赤字経営になっている。このため、設備の近代化を推進することにより、経営改善及び保安度の向上又はサービスの改善効果が著しいと認められるものに対し、設備整備費の一部を補助(近代化補助)するなど従来から各種の助成措置を講じているところである。4年度においては、3年5月の信楽高原鐵道の事故等にかんがみ、転換鉄道を含む中小民鉄に対し、安全投資について近代化補助の制度を一層充実し、鉄道係員に対して鉄道の専門家が教育・指導する教育補助の制度を新設したところである。
- (イ) 転換鉄道の現状
- 地方交通線対策の一環として旧国鉄の経営から切り離された転換鉄道は、現在、地元自治体が中心となって設立した第3セクター等により運営されている。転換後、列車の運行回数が増加するなど利便性が高まっているが、収支状況については、経常損失を出している事業者も多く、地方公共団体が中心となって積み立てた基金の運用益等により路線の維持を図っていく必要がある。また今後とも、経費の削減等事業者における一層の経営努力や旅客誘致に対する地元関係者の積極的な協力が不可欠となっている。
- (2) 地方鉄道新線建設の整備
- 地方鉄道新線(旧国鉄の地方交通線対策の一環として国鉄新線としての工事が凍結されていた路線のうち、地元自治体による第3セクターが経営することとなり日本鉄道建設公団による工事を再開したもの)は、現在までに、秋田内陸縦貫鉄道(比立内〜松葉間)等9社が営業中であるが、さらに、北越北線(六日町〜犀潟間)等残る5路線の建設が進められている。

平成4年度

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