平成4年度 運輸白書

第5章 国民のニーズに応える鉄道輸送の展開

第3節 国鉄改革の総仕上げに向けて

    1 JR社の事業運営の状況
    2 残された課題への取組み


1 JR社の事業運営の状況
(1) 輸送の動向
 JR各社の3年度の輸送の動向は、〔2−5−4表〕のとおりである。
 旅客会社においては、東北・上越新幹線の東京駅乗り入れによる新幹線輸送の拡大や、利用者のニーズにあわせた列車の設定・増発、スピードアップ、接続改善等地域に密着した輸送サービスの提供、新型車両の投入や駅施設の改良等によるサービスの向上、営業面における企画乗車券の販売や旅行需要を喚起するためのキャンペーンの展開等積極的な施策を実施したことで、3年度の旅客会社の鉄道輸送量は各社とも2年度を上回り、6社計で対前年度比3.9%増の2,470億人キロと過去最高値となったが、景気の減速によりその伸びは、2年度を下回るものであった。
 一方、貨物会社においては、スーパーライナーの増発、ピギーバック輸送の拡大、適切な発着時間帯の確保等利用者のニーズに応じた輸送方式の充実や営業活動の積極的な展開を図ったが、国内景気の動向及び2ヶ月間におよぶ武蔵野線線路災害事故の影響で貨物輸送量は年度後半に落ち込み、その結果、2年度と同水準の267億トンキロにとどまった。
(2) 決算の状況
 JR各社の3年度の収支の状況及び資産・債務の状況は、〔2−5−5表〕及び〔2−5−6表〕のとおりである。
 3年度において、JR各社は前年度に引き続き利用者のニーズに応じた輸送サービスの提供、多様な企画商品の設定等積極的な営業施策の展開を行うと同時に、輸送業務の効率的運営、経費の節減などに努め、また関連事業の拡大を図るなど経営基盤強化への努力を継続した。営業収益は、旅客会社において、3年度首の見込みを上回る対前年度比4.0%増の4兆3,155億円と順調に推移した。貨物会社においては、対前年度比5.0%増の2,152億円となったが、武蔵野線線路災害事故等の影響があり、3年度首の見込みを55億円下回った。経常利益については、本州3旅客会社において新幹線鉄道施設買い取りに伴う支払利息の負担増もあり、7社合計では対前年度比21%減の3,063億円となった。
 また、本州3旅客会社は、3年12月に初めて中間配当(配当率5分)を行い、年度末の配当とあわせて2年度に引き続き1割の配当を行った。
 なお、設備投資については、JR各社とも安全対策、輸送力増強対策等を中心に積極的に行っており、3年度実績は7社合計で対前年度比12.2%増の5,982億円となった。
(3) 事業の積極的展開
(ア) 鉄道事業の展開
 JR各社の鉄道事業においては、引き続きサービスの向上や輸送需要の拡大を積極的に図った。
 旅客会社については、在来線において、山手線11両化をはじめとする編成の増強や貨物線の活用によって通勤・通学時の輸送量を確保し、都市圏輸送における利便性・サービス向上のため、フリークエンシーアップ、新製車両の投入、車両の冷房化等を行った。一方、都市間輸送では、他輸送機関との競争力強化や移動の快適性の向上のため、スピードアップ、特急列車の増発、「つばめ」型等の新型特急車両の投入を行った。また、3年3月には成田空港駅、4年7月には新千歳空港駅が開業し、空港への直接乗り入れによるアクセス改善が図られた。新幹線輸送においても、輸送力増強のための増発、編成の増強を行うとともに、東海道新幹線「のぞみ」による最高時速270km運転の開始、東北・上越新幹線の東京駅乗り入れ、さらに4年7月から「つばさ」による山形までの新幹線直通運転の開始によって、高速ネットワークの充実を図った。また、将来のスピードアップをめざした研究開発を引き続き推進した。
 貨物会社については、スーパーライナーの増発、ピギーバック輸送の拡大など需要に応じた列車の増発、設定や石油ピギーバック輸送の開始、自動車専用輸送コンテナの開発等新たな輸送方式を導入し、積極的な事業の展開に努めた。
(イ) 関連事業の展開
 JR各社は、国鉄の分割・民営化の趣旨にかんがみ、経営基盤整備の一環として関連事業を鉄道事業と並ぶ重要な柱と位置づけ、各社の創意と工夫のもとに、それぞれの所有するノウハウ、技術力、資産、人材等の経営資源を最大限に活かして事業展開を行っている。
 具体的には、駅ビル、ホテル等の不動産賃貸業の拡大や不動産販売業への参入等不動産事業の充実に努めるとともに、旅行業の本格的な展開を進め、積極的な営業展開を行っている。さらに、従来から行われてきた飲食、物販の事業の拡充を図るとともに、保険媒介代理業、スポーツ施設などの事業分野への進出も行われた。
 また、JR各社は、出資会社等関連会社と一体となって事業を行っているが、弾力的な事業運営と経営責任の明確化を図るため、直営で行われてきた事業の子会社化を進めている。
(4) 4年度の事業運営の状況
 JR各社は4年度事業計画を基本方針として事業運営に取り組んでいるが、3年度に引き続いて輸送安全の確保、利用者サービスの向上を推進するとともに、4年度は景気の減速により厳しい経営が予想されることから、経営基盤の整備に一層努めることとしている。輸送の安全の確保については、社員教育の充実、ATS−Pの導入拡大等の安全設備の整備、踏切保安対策の推進を行うこととし、利用者サービスの向上については、駅設備・車両の改善を進めるほか、ニーズに対応した列車の設定等により利便性、快適性の向上を図っている。また、経営基盤の整備については、輸送需要の確保、営業活動の充実強化、業務の効率化等の経営努力を図るとともに、本州3旅客会社においては、株式上場に向けた財務体質の強化を、さらに三島会社においては、他輸送機関との競争力の強化を図ることによって、健全な経営を維持していくこととしている。
 JR各社の4年度事業計画における経営見通しによると、7社合計で営業収益は4兆6,036億円(対前年度比5.2%増)、経常利益は2,604億円(対前年度比6.9%減)となっており、新幹線施設買い取りによる支払利子負担増もあり、経常利益は減少する見込みである。また、設備投資については、JR7社合計で対前年度比3.7%増の7,144億円となっており、各社とも安全対策、輸送力増強対策等に取り組むこととしている。

2 残された課題への取組み
(1) 国鉄長期債務等の処理
(ア) 概要
 国鉄改革により、昭和62年4月1日に国鉄が移行して日本国有鉄道清算事業団(以下「事業団」という。)が発足した。
 事業団に帰属した国鉄長期債務等(62年度首25.5兆円)の処理については、63年1月26日に閣議決定された「日本国有鉄道清算事業団の債務の償還等に関する基本方針について」(以下「償還基本方針」という。)及び平成元年12月19日に閣議決定された「日本国有鉄道清算事業団の債務の償還等に関する具体的処理方針について」(以下「具体的処理方針」という。)に従って進められているものの、地価上昇への配慮等から一般競争入札による土地処分を見合わせざるを得なかったこと等もあって、長期債務等の額は利子により増加し、昭和62年度首の25.5兆円から平成2年度末には26.2兆円と増加することとなった。3年度においては、土地処分、JR株式売却により長期債務等が減少することが期待されたが、不動産及び金融をめぐる厳しい状況の下で土地処分が必ずしも順調に進まず、また、当初予定されていたJR株式の売却も見送られたことから、3年度末における債務等の額は、0.2兆円増加し、26.4兆円となった。
 土地売却収入、JR株式売却収入等の自主財源を充ててもなお残る債務等については、償還基本方針において、最終的には国において処理することとしているが、土地及びJR株式の効果的な処分の推進により、事業団の債務等の本格的な処理の早期実現を目指し、最終的な国民負担を極力軽減するため、運輸省及び事業団は全力を挙げて取り組んでいる。
(イ) 土地の処分について
 事業団の土地の処分については、具体的処理方針により9年度までにその実質的な処分を終了することとしている。昨今の金融及び不動産を取り巻く環境の激変により、事業団の土地処分については極めて厳しい状況にあり、従前の土地処分方法を適用するだけでは、事業団の使命である早期かつ円滑な債務等の処理に支障をきたし、ひいては債務等の累増にもつながりかねないとの認識から、3年9月に土地処分方法の見直しについて、事業団の資産処分審議会から「日本国有鉄道清算事業団の土地処分に関する緊急提言」が出された。
 運輸省及び事業団は、これを踏まえ、関係省庁等の協力も得つつ、随意契約による土地売却の要件緩和、上限価格付競争入札制度の導入等を行い、土地処分をめぐる極めて厳しい状況が続く中で、事業団用地処分の推進のためにあらゆる方面で最大限の努力を傾注してきている。
(a) 一般競争入札による処分
 事業団の土地の処分に当たっては、その公正さの確保及び国民負担の軽減の観点から、一般競争入札によることが原則とされている。これについては、「緊急土地対策要綱」(昭和62年10月16日閣議決定。地価高騰地域における一般競争入札を見合わせる旨定められている。)及び「国鉄清算事業団用地等の一般競争入札による処分について」(平成元年2月10日土地対策関係閣僚会議申合せ。個別用地ごとに関係省庁で地価に悪影響を与えないと判断されるものについて、一般競争入札を行うことができる旨定められている。)に従い、地価対策に配慮しつつ実施してきている。さらに、地価に悪影響を及ぼさない入札の仕組みとして、上限価格付競争入札を関係省庁等の協力を得て3年11月に導入して順次実施してきている。その後、同年12月28日閣議決定された「平成4年度に講ずべき措置を中心とする行政改革の実施方針について」において、上限価格付競争入札の実績等を踏まえ、地価対策に配慮しつつ、入札の拡大等につき検討を行うこととされ、現在入札の拡大について関係省庁等の協力を得ながら検討しているところである。
(b) 随意契約による処分
 事業団の土地の処分は一般競争入札によることが原則であるが、公的主体が公的用途に供する場合等には随意契約によることができることとしている。これについては、3年10月に、随意契約対象者に民間の公益事業者を加えること、公法人に対する随意契約の要件緩和を行うこと、国・地方公共団体等の公共用地の先行取得のニーズに対応すること等を内容とする制度改正及び運用改善を行った。
 さらに、4年8月の「総合経済対策」において、地方公共団体による公共用地の先行取得の促進のため、土地開発基金、土地開発公社の活用、公共用地先行取得債等による積極的な対応及び清算事業団用地等の先行取得等に対する利子負担軽減措置が定められた。これを受けて清算事業団では地方公共団体等による公共用地の先行取得促進に対応するための土地売却の要件緩和を4年9月に行ったところである。
(c) 地価を顕在化させない土地の処分方法
 地価高騰問題が国家的緊急課題となったことから、事業団は昭和62年9月に「地価を顕在化させない処分方法」について事業団の資産処分審議会に諮問を行い、63年5月に、その基本的な考え方について答申がなされた。
 このうち、土地信託方式については、平成3年度から渋谷及び蒲田で、4年度からは川崎で信託受益権を売却中である。建物付土地売却方式については、3年度に津田沼電車区用地を、4年度に名古屋白鳥町宿舎、横浜宿舎で販売を完了している。
 次に、出資会社活用方式については、不動産変換ローン方式を2年12月に新宿南(中央病院跡地)で実施した後、3年12月に恵比寿、4年8月に新宿(貨物駅跡)で実施した。現在、不動産変換ローン方式の改善として、投資家からの借入金の分割受入れ、ローン期間の短縮、実需タイプの投資家に対する優先的な床利用権の付与、応募口数制限の緩和等を行っている。また、汐留等極めて資産価値が高く一体的開発を必要とする土地について実施することとしている株式変換予約権付事業団債方式については、汐留貨物駅跡地の開発のための出資会社を4年10月に設立し、基本整備計画の策定等、所要の準備を進めているところである。
 なお、4年1月には運輸省全体で、事業団の土地処分努力を全面的に支援するため、中央・地方ブロック並びに各都道府県及び政令指定都市の3つのレベルで土地処分推進連絡会議を設置し随時開催している。
(ウ) JR株式の処分について
 JR株式の処分は、JR各社の完全民営化を達成するため、また、事業団の債務の早期償還を図るために必要であり、3年5月に運輸省のJR株式基本問題検討懇談会が基本的問題についての指針として「JR株式の売却に関する意見」をとりまとめるなど検討・準備が進められてきた。そして4年にはJR株式の適切な売却方法を具体的に検討した事業団の資産処分審議会答申が7月に出され、これを受けて8月には4年度の株式売却の対象会社をJR東日本に決定するなどさらに準備を進めてきた。
 しかし、前記の「総合経済対策」において、証券市場の活性化対策の一環として4年度はJR東日本の株式の売却を見送る旨決定された。
 JR株式の売却は、いわば国鉄改革の総仕上げというべきものであり、早期に効果的な売却を行う必要があることには変わりがないことから、現在、運輸省及び事業団は、5年度にはJR株式の売却を行うべく、所要の準備を行っているところである。
(2) 国鉄改革の一層の推進・定着化に向けて
(ア) 長期債務の変動からみる国鉄改革の推進状況
 承継法人であるJR関係各社(日本テレコム(株)、鉄道情報システム(株)を含む。)の長期債務については、3年度末には東海会社において2年度末と比較して約407億円、また、貨物会社において約155億円の増加をみたものの、各社合計で約3.5兆円(新幹線鉄道の鉄道施設の譲渡に係るものを除く。)となり、2年度末の約3.6兆円と比較して約1,000億円、昭和62年度首に各社が承継した約4.8兆円と比較すると約1兆3,000億円減少した。
 基金の長期債務(3年10月1日に新幹線鉄道保有機構より承継)については、3年度末には基金が事業団に負担している約1.9兆円を含めて約8.0兆円となり、2年度末に新幹線鉄道保有機構が負担していた約8.1兆円と比較して約1、000億円、昭和62年度首に同機構が承継した約8.6兆円と比較すると約5,000億円減少した。
 事業団については、平成3年度末の長期債務は約21.9兆円となり、2年度末の約21.5兆円と比較して約0.4兆円、昭和62年度首に承継した約18.1兆円と比較すると約3.8兆円増加したことになる。なお、年金等の将来発生する債務を含めると全体債務は約26.4兆円となる。
(イ) 国鉄改革の総仕上げに向けて
 以上みてきたように、国鉄改革の推進状況は、JRの収支の状況の面からみるとおおむね順調であり、この点では国鉄改革は順調に進んでいるものと考えられる。しかし、国鉄改革の総仕上げのためには、国鉄長期債務等の処理をはじめ、JRの完全民営化の実現、さらには将来にわたって鉄道事業が健全経営を行っていくための鉄道の近代化・高速化等の課題に今後とも引き続き取り組んでいく必要がある。
 まず、事業団の長期債務については、土地処分の促進及びJR株式の処分によりその本格的な処理の早期実現をめざし、最終的な国民負担を極力軽減する必要がある。
 次に、JR各社については、3年度において、全体としておおむね順調な決算内容が得られるなど、各社とも着実に経営基盤の強化が図られてきているが、今後とも一層の努力が必要である。
 国鉄改革により、JR各社の業績は順調に推移している反面、国鉄長期債務等を償還する事業団が、厳しい状況に置かれている。事業団の順調な債務償還とこれによる最終的な国民負担の軽減なくしては、国鉄改革は終了しないとの認識の下、政府・運輸省としては、これらの課題について諸環境の整備を図るなど、国鉄改革の総仕上げに向けて必要なあらゆる努力を継続していくこととしている。



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