平成4年度 運輸白書

第6章 安全で環境と調和のとれた車社会の形成と自動車輸送サービスの充実

第2節 自動車運送事業の活性化

    1 自動車旅客輸送の活性化
    2 トラック輸送の効率化及び近代化


1 自動車旅客輸送の活性化
(1) バス
(ア) 現状と課題
 バス事業については、都市部の走行環境悪化、地方の人口減少や自家用車の普及等から、事業者の努力にかかわらず厳しい状況が続いている。しかしながら、バス交通は、国民生活の足となる重要な交通手段であり、環境保全、省エネルギー、都市における道路交通の円滑化等の要請に応えるものであるため、バスを魅力ある交通機関とし、自家用車からバスへの誘導を図っていくことが必要である。
(イ) 大都市、地方中核都市におけるバス交通の活性化と道路交通の円滑化
 大都市、地方中核都市の過密化する道路交通において、バス等の公共交通機関の利用を促進することは、道路空間の有効活用、道路交通の円滑化に資するものであることから、自家用車からの誘導を図るため、バス等の利用者利便を向上させるとともに、都道府県警察、道路管理者、地方公共団体、バス事業者等関係者が一体となって、バス専用レーンの設置、違法駐車の排除等の走行環境改善の実現に向けた諸施策を推進しているところである。
 こうした努力等により、乗合バスの輸送人員が微増に転じてきている〔2−6−5表〕が、なお引き続き諸施策を強力に推進する必要がある。
 このため、運輸省は、平成4年3月に警察庁、建設省との中央レベルの「バス活性化連絡会」及び地方公共団体、地方運輸局、都道府県警察本部、道路管理者等から成る各都道府県ごとの「バス活性化委員会」を設置し、諸施策を総合的に推進している。
 また、バス輸送サービスの改善施策については、低床・広ドアバスの導入や停留所におけるバスシェルターの設置等をバス事業者に指導するとともに、バス活性化システム整備費等補助金を交付することにより、需要の喚起及び利用者利便の向上を支援している。具体的には、3年度事業として、金沢市においてバスシェルター、バス運行管理システム、バス接近標示器等を総合的に整備した都市新バスシステムの導入、神戸市におけるバス総合案内システムの設置、名古屋市におけるカードシステムの導入等の一般事業のほか、岡山市におけるガイドウェイバス導入に関する調査事業や低公害性に優れるディーゼル・電気ハイブリッドバスの導入実証を行う先駆的事業等に対して約4億円を交付した。
 さらに、都市及びその周辺地域における深夜輸送需要の増大に対応するため、鉄道部門との調整を図りながら、終バス以後に割増運賃を徴収して運行する深夜バスや都心と郊外を直結する深夜急行バスの増強等を行っている。
(ウ) 地方バスの維持・整備
 地方バスは、地域住民の足として重要な役割を担っているが、輸送需要が年々減少しているため、大部分の事業者が厳しい経営状況にあり、路線の維持が困難になっている。
 このため運輸省は、バス事業者に対し、車両の冷房化、フリー乗降制、デマンドバスの導入等サービスの改善や地域の実情に応じた路線の再編成による運行の効率化等、自主的経営努力を指導するとともに、それらの経営改善努力を前提とした助成措置によるバス事業の維持や地域住民の足の確保に努めており、3年度においては、乗合バス事業者156事業者、424市町村等に対し、約104.8億円の国庫補助金を交付した。
(エ) 高速バスの進展
 高速道路の伸長に伴い、高速バス(運行系統キロの2分の1以上で高速道路を用いる路線バス)の進展が著しく、特に63年度以降、300kmを超える長距離の夜行便の開設が急増し、4年8月現在171路線が運行されている〔2−6−6表〕
 高速バスがこのように伸長した理由としては、高速道路網の整備に伴い、様々な都市間の便の設定が可能となるとともに、運賃が低廉であること、3列独立シート車両等ハイグレードな車両が導入されゆとりある座席空間が提供されるようになったこと、夜行便の設定等適切な市場調査に基づき利用者ニーズに沿ったサービスの提供が行われるようになったことによるものであると思われる。
(2) タクシー
(ア) タクシーサービスの高度化・多様化
 多様化・高度化する利用者のニーズに的確に対応するため、都市部や郊外においては、深夜輸送需要の増大に対応した乗合タクシー及び夜間の一定の時間帯に限って稼働するブルーラインタクシーの増強や特定の地区への計画配車、空港等において大きな荷物を同時に運べるワゴンタクシーが導入されている。また、バス路線の維持が困難な過疎地においてタクシーを利用して乗合輸送を行う過疎地型乗合タクシーや観光ルートを定額運賃で巡回する観光タクシーのように地域の実情に応じたサービスが提供されている。さらに、病人や身体障害者等を乗せるためのベッドを備えた患者輸送タクシー等きめ細かなタクシーサービスが実施されている。
 また、タクシー車両の構造に関し、利用者の乗降性、居住性に配慮したタクシー専用車両の開発が進められている。
(イ) 運賃・料金制度の多様化
 労働条件の改善による労働力確保の観点から、順次運賃改定を行っているところであるが、その際、領収書発行システムの導入等利用者利便の向上を逐次図っている。また、障害者の生活圏の拡大等のため、一部の地域で行われていた身障者割引の適用地域を拡大するとともに新たに精薄者割引の導入を進め、両割引とも全国で実施されることとなった。このほか、4年5月の東京都特別区・武蔵野市・三鷹市地区の運賃改定に際し、効率的な配車、長時間の駐停車の排除の観点から無線待料金を導入し、7月の静岡地区の運賃改定では早朝迎車料金を導入するなど、運賃・料金制度の多様化を図ったところである。
(ウ) 今後のタクシー事業のあり方等の検討
 最近の国民生活の向上を背景に利用者ニーズの多様化が進むとともに労働力の確保が困難になるなどタクシー事業を取り巻く状況が変化しており、また、4年6月の臨時行政改革推進審議会答申においても、消費者重視の視点に立って、タクシーの規制について、利用者を始めとする関係者の意見を十分反映した上で見直すこととされたところである。このような情勢に鑑み、4年9月に運輸政策審議会に対し「今後のタクシー事業のあり方について」諮問したところであり、現在、地域交通部会タクシー事業特別委員会において、今後の経済社会の変化に対応したタクシー事業の望ましいあり方、その達成に向けた事業規制、労働力確保等の方策につき総合的な検討が行われている。
(3) その他の輸送サービス
 自家用自動車の使用・保有形態としては、これまで急速な成長を遂げてきたレンタカー事業及びリースカー事業に加え、近年、主に企業等との長期的な契約に基づき、自家用自動車の運転、整備、燃料等の管理等を請け負う自家用自動車管理業や、主に飲酒等のため自己の車両を運転することができなくなった者に代わってその運転を代行する運転代行業の発展がみられる。これらの事業については、道路運送に関するサービスとして、利用者ニーズに的確に対応したサービスの提供、輸送秩序の確立を図っていく必要がある。自家用自動車管理業については、全国で約100の事業者が存在しているが、4年3月、(社)日本自家用自動車管理業協会の設立を許可し、同協会を通じて事業適正化のために必要な指導を行っているところである。また、3年9月末現在で地方都市を中心に全国で約2,500事業者存在している運転代行業については、利用者保護の観点から事業の実態把握及び適正化指導を推進していくこととしている。

2 トラック輸送の効率化及び近代化
(1) トラック輸送の現状と課題
 トラック輸送は、2年度においてトンキロベースで国内貨物輸送の50.1%を占め、そのうち営業用トラックは35.5%に達し、国民生活と経済活動の基盤として重要な役割を担っている。
 近年、労働力不足の深刻化や大都市への過度の集中に伴う道路交通混雑の激化、窒素酸化物(NOx)等自動車排出ガスによる大気汚染問題の深刻化等の制約要因の顕在化が大きな問題となっており、このような制約要因に対処しながら、高度な利用者ニーズに応えて安全で付加価値の高い輸送サービスの実現を図ることが重要な課題となっている。
(2) これからのトラック輸送
 こうした課題に対応していくためには、輸送の効率化及び近代化を図っていくことが重要である。
 まず、幹線トラック輸送においては、車両総重量等車両諸元の制限の緩和や帰り荷の確保についての積極的な取組みが求められる。
 また、都市内・地域内輸送においては、営業用トラックの集配業務の共同化による積合せ輸送等を促進することにより、輸送効率の向上と輸送コストの低減を図ることが必要である。さらに、トラック1台が1日当たり輸送する貨物輸送量をトンキロベースで比較すると、営業用トラックは自家用トラックの約20倍の輸送効率であることから、自家用トラックの営業用トラックへの転換を推進していく必要があり、このため、荷主の高度なニーズに対応した商品管理、流通加工、配送を一貫して行うサービスの提供等トラック輸送の高付加価値化を図っていく必要がある。
 以上の輸送の効率化を推進してもなお、労働力不足は構造的な問題であり、トラック運転者を安定的に確保するためには、労働時間の短縮等労働条件の改善、職場環境の改善、福利厚生施設の充実、イメージ向上のための広報活動等の労働力不足対策を積極的に推進する必要がある。
 なお、中小企業がその約99%を占めるトラック業界において、以上のような施策を講じていくためには、個々の事業者の経営基盤を強化しつつ、経営の近代化を進めることが必要であり、個々の事業者の努力によって推進できない課題については、業界全体としての取り組みも必要である。そのため、従来から中小企業近代化促進法に基づき、3次にわたり構造改善計画を推進してきたところであるが、昭和62年からは経営戦略化型構造改善事業に取り組んでおり、その一環として帰り荷の確保を可能とするシステムの充実及びその一層の普及、教育研修の実施等を推進している。また、社会環境の変化を踏まえ、次期構造改善計画を策定することとしている。さらに、物流施設の近代化、車両の代替促進等を推進するため、税制及び財投に加え、運輸事業振興助成交付金を有効に活用している。



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