平成4年度 運輸白書

第7章 海運、造船の新たな展開と船員対策の推進
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第7章 海運、造船の新たな展開と船員対策の推進 |
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第1節 海上交通の充実 |
1 外航海運対策の推進
2 海上旅客輸送の充実
3 内航、港湾運送事業の構造改善
4 海事思想の普及・宣伝
- 1 外航海運対策の推進
- (1) 外航海運の活動概況
- 平成3年の我が国海上貿易量は、世界経済の成長鈍化にもかかわらず、比較的堅調な伸びを示した我が国経済の状況を反映し、輸出入計で対前年比2.5%増と5年連続の増加となり、我が国商船隊(外国用船を含む。)の輸送量も対前年比8.1%増となった。しかし、主要航路においては依然として船社間の競争が激しく、船腹過剰傾向が続いており、邦船社が今後とも安定的かつ信頼できる輸送サービスを提供していくためには、航路秩序の安定化努力が必要不可欠である。
(北米定期航路)
北米定期航路は、荷動きが最も多く活発な航路であるが、従来より競争が激しく船社経営を圧迫してきた。こうした情勢の中で、同盟においては、メガ・キャリアを中心としたサービスの向上、コストの合理化等を狙った新たなグループ化の動きが始まり、現在、北米定期航路に配船している邦船社は3社2グループとなっている。また、盟外を含む内外定期船社12社で締結されたTSA(太平洋航路安定協定)の効果が徐々に浸透するなど、ようやく航路秩序の改善の兆しが見え始めてきている。
(欧州定期航路)
欧州定期航路では、極東出し貨物を中心に好調な荷動きが続いているが、同盟船社がシェア協定により加盟各船社の活動を相互に制限している間に、極東地域を基盤とする盟外船社が大きく伸長し、同盟の積取シェアが大幅に低下した。その結果、同盟船社のグループからの離脱、グループの再編成等の動きがあり、欧州定期航路は、現在、5グループ体制に再編されている。各社とも船隊の拡充を進めており、同盟の弱体化とあいまって、今後は運賃競争の激化も懸念される。このため、同航路においても、EATA(Europe Asia Trades Agreement)が4年9月に締結された。
(アジア域内航路)
アジア諸国の経済は、世界的にみても成長が著しく、アジア域内の荷動きも活発な状況を呈しており、我が国とアジア諸国とのコンテナ荷動きをみると北米定期航路に次ぐものとなっている。しかしながら、アジア域内における定期航路の配船会社は多く、これら船社間の競争により運賃水準が低迷するなど、各船社は厳しい航路運営を強いられている。また、このほかにも船員の養成、老朽船のスクラップ、マラッカ・シンガポール海峡の海賊問題等関係国の協力により対応すべき諸問題を抱えている。
- (2) 海運助成対象企業の経営状況
- 3年度の海運助成対象企業32社の経営状況は、営業段階で増収増益を確保したが、経常損益、税引後当期損益についてはほぼ2年度並みの黒字を計上するにとどまり、配当実施会社も2年度と同様6社となった。また、海運大手5社については、定期航路を運営する3社は営業段階で増収増益となったが、不定期船を主力とする2社においては減収減益となり、全体として経常損益はほぼ2年度並みの黒字にとどまった〔2−7−1図〕。世界経済の成長鈍化等により、不定期船市況、タンカー市況が下期に入り軟化傾向で推移し、さらに円高による収入の目減りというマイナス要因があったにもかかわらず営業収益が増加したのは、年度上期を中心に荷動きが好調であったこと、北米コンテナ航路の運賃水準が比較的安定していたこと等によるものと考えられる。また、湾岸危機の影響で2年度大幅に上昇した燃料油価格が低下したこと等により営業費用が安定し、営業損益の黒字幅が拡大した。しかしながら、有価証券売却益の減少等により、経常損益段階では2年度の水準にとどまった。
4年度においては粗鋼生産の回復の遅れ等不定期船市況にとって厳しい状況が続くものと予想され、またタンカー市況も大幅な回復は見込めないなど、海運市況の先行きは不透明な状況にある。さらに北米定期航路の赤字体質も基本的には未だ改善されてないこと、外航海運企業は円高になると減益となる収支構造を有していること等を勘案すれば、今後とも楽観できない状況が続くものと考えられ、引き続き収益の確保及び国際競争力向上に努めるとともに経営基盤の充実・強化に取り組んでいく必要がある。
- (3) 我が国商船隊の整備等
- (我が国商船隊の整備)
貿易立国としての安定的な経済発展を維持するためには、健全な商船隊を擁する外航海運業の保持が不可欠であり、日本船にコスト競争力のある支配外国用船及び供給力に弾力性を有する単純外国用船を組み合わせ、荷主ニーズに対応させつつ、我が国商船隊を全体として国際競争力あるものとして維持していくことが必要である。
その中で、特に日本船は、@安定輸送力の提供、A我が国外航海運の船舶運航ノウハウの維持、B償却資産として自社船保有による企業経営の安定化、C日本人船員の安定した職域の確保、D低い事故率による環境保全及び安全の確保, E緊急時の対処における信頼性及び紛争勃発時における国家主権による対応の可能性等の観点から、我が国商船隊の中核として位置づけられる。
一方、昭和60年秋以降の急激な円高により国際競争力が喪失し急速に進展した日本船のフラッギング・アウト(外国籍化)については、平成2年3月から日本人船員と外国人船員の混乗を導入した効果もあり、2年から3年にかけてはやや鈍化傾向を示したものの、依然として歯止めがかかっていない状況にある。今後日本船の一層の国際競争力の向上を図るため、混乗船の配乗構成の見直し等の方策について関係者間でさらに検討を進めていくとともに、混乗船の中での近代化船の制度の活用等について具体化を進めていく必要がある。
(LNG船の整備の促進)
LNGについては、地球環境問題への対応、エネルギー源の多様化等の観点から今後さらに需要が高まるものと予想されるが、LNG船は特殊な構造を必要とし、船価も極めて高額で建造期間も長期に亘ることから計画的な整備が必要であり、また、より一層安定的な輸送を確保するため、所要の日本船を整備していく必要がある。
(円滑な船舶解撤の推進)
近年、世界的に老朽船の割合が急速に高まっており、3年央における船齢15年以上の船腹量は約2億総トン、全船腹量の約45%に達し、昭和55年央の約21%に比べ倍増している。さらに、タンカーのダブルハル(二重船殻)規制の導入により、1990年代後半には大量の船舶の解撒が必要になると予想されるが、これらの解撤に対応する能力は国際的に不足している状況にある。
こうした中で、今後船舶の解撤を円滑に実施していくことは、環境汚染・海難事故防止、資源の有効活用、海運市況の安定等の観点から重要な課題であり、安定的に老朽船が解徹に回るための仕組みづくり等について広く調査、検討を進めていく必要がある。
- (4) 外航客船旅行の振興
- 近年、我が国における国民所得水準の向上と余暇利用に対する国民意識の高まりを背景として、外航客船(定期旅客船及びクルーズ客船)を利用する日本人の海外旅行者数は着実に増加してきている。
現在、我が国と近隣諸国とを結ぶフェリー等の外航定期旅客航路は、平成4年11月に日本・上海間の第2船として就航予定の「蘇州」号を加え、運航企業11社により9航路(うち邦船社は8社7航路)が開設されている。これら定期航路の3年の利用者数は約293,900人であり、そのうち日本人は約127,900人であった。さらに、日ロ定期フェリー航路の本格的開設をめざして、同年8月下旬、両国関係者が協力し、新潟/小樽/コルサコフ間で技術的な調査を兼ねた試験運航を実施した。
また、外航クルーズ客船については、我が国海運企業が実質的に運航しているものは、現在、12隻となっている。3年における日本船クルーズ客船に乗船した日本人客数は、湾岸戦争の影響にもかかわらず約38.300人(対前年比0.5%増)と底堅く推移した〔2−7−2図〕。
外航客船旅行に関しては、安全運航対策及び利用者保護対策が最も重要である。安全運航対策としては、運航管理規程の作成、運航管理者の選任を柱とした運航管理体制の整備を行っているほか、スプリンクラーの設置等のハード面の対策を充実することとしている。また、利用者保護対策としては、損害賠償、キャンセルの場合の払い戻し等に関する規定を盛り込んだ運送約款の作成をはじめとする対策を講じているところである。
外航クルーズ旅行の振興を図る上で、我が国周辺海域は必ずしも年間を通じて安定的な客船運航に適した海象条件に恵まれているとは言えず、また、国民の多くがまとまった休暇を取得しにくいというような事情を考えると、東南アジア等自然条件に恵まれたクルーズ海域まで航空機を利用する、いわゆるフライ&クルーズが非常に有効な対策と考えられ、このような商品開発を積極的に図っていく必要がある。このほか、外航客船に対応した旅客夕ーミナルの整備などインフラ面の環境整備も重要な課題である。
なお、近隣諸国との定期船旅客航路が年々増加しており、これら諸国との旅客船の安全対策に関する政策協調が不可欠となっていることから、4年9月にはフェリーの安全対策に関する日中間の会議を東京で開催した。
- 2 海上旅客輸送の充実
- (1) 海上旅客輸送の現状と課題
- (ア) 旅客航路事業の概況
- 国内旅客航路事業は、旅客及び物資の輸送に欠くことのできない公共輸送機関として重要な役割を果たしており、4年4月1日現在、894事業者によって1,470航路が経営され、これに就航している船舶は2,460隻(約125万総トン)となっている。このうち、フェリーは、181事業者、251航路、467隻(約106万総トン)である。
3年度の輸送実績は、輸送人員については、1億6,200万人(対前年度比0.4%減)、自動車航送台数については、2,394万台(同1.5%増)となった。近年、国民の余暇活動の活発化に伴い、国内におけるクルーズ船等の新しい旅客船事業は増加の一途をたどっており、日本各港間に寄港しながら周遊する豪華クルーズ客船をはじめ、湾内クルーズ、レストランシップ、観光潜水船、流氷観光船といった大小様々な新しい旅客船が就航してきている。
- (イ) フェリー輸送サービスの充実
- (a) フェリーの最近の動き
- 長距離フェリー(片道距離300km以上)は、陸上輸送のバイパス的機能を有するため幹線交通の一翼を担っており、4年4月1日現在、12事業者により21航路が経営されている。最近の輸送量は、輸送人員・自動車航送台数ともに増加しており、3年度の輸送人員は472万人(対前年度比1.9%増)、自動車航送台数は、232万台(同1.7%増)となっている〔2−7−3図〕。これは、@景気拡大及び産業構造の変化により小口雑貨が増加してきたこと、Aトラックによる長距離幹線輸送は労働力不足、交通渋滞等の制約要因が顕在化してきていること、B船舶の大型化、増便等により輸送力の増強が図られてきたこと等によると考えられる。
- (b) フェリーネットワークの充実
- 長距離フェリーは、昭和50年以前に建造された船舶が代替の時期を迎えているため新船建造が相次いでおり、新船にあっては、レストランを充実させ、ラウンジ・プール等を設けるなど、高度化する旅客のニーズに対応している。
また、長・中距離フェリーのネットワークについては、今後の需要動向及び需要構造の変化を踏まえ、リプレースや増便等既存航路の輸送能力の拡充、航路の新設等を図っていく必要がある。
- (2) 離島航路対策
- (ア) 離島航路の現状と国の助成
- 離島航路は、住民に不可欠な生活の足として重要な役割を果たしており、4年4月1日現在、陸の孤島と呼ばれる僻地に通う準離島航路を含め371航路ある。
これら離島航路の多くは、離島の過疎化等の進展に伴って輸送需要が低迷していることに加え、船舶修繕費、減価償却費等の諸経費が上昇していること等により収支の悪化が続き、赤字経営を余儀なくされている。
このため、離島航路の維持・整備を図るため、国は従来から地方公共団体と協力して、離島港湾を整備するとともに、離島航路のうちの一定の要件を備えた生活航路について、その欠損に対し補助を行ってきている。3年度においては、離島航路補助金として121事業者、128航路に対し38億401万円の国庫補助金を交付した。
- (イ) 経営改善方策の実施
- 国庫補助の対象となっている離島航路事業については、近年欠損額の増大の傾向が著しく、このまま放置すれば、離島航路事業者の経営が困難になる恐れがある。
しかしながら、離島航路は住民に不可欠な生活の足として今後とも十分にその役割を果たしていく必要があり、航路の経営を改善し、欠損額の縮減を図ることが、緊急の課題となっている。
このため、離島航路事業者は、観光客の積極的な誘致、運賃割引の弾力化による需要の喚起等により収入の増加を図るとともに、経費の節減に努めるなど、経営改善に取り組んでいるところである。
- 3 内航、港湾運送事業の構造改善
- (1) 新しい内航海運対策の推進
- (内航海運の現況)
内航海運は国内貨物輸送の約44%(トンキロベース)を担う基幹的輸送機関であり、特に、石油、鉄鋼、セメント等の産業基幹物資の輸送においては、概ねその80〜90%を支えているなど、国内物流における役割は極めて大きい。
昭和62年後半からの内需拡大を中心とする景気上昇により、内航海運は活況を呈してきたが、平成3年度以降景気が減速する中で、荷動きにも停滞感が出始めている。
(内航海運対策の推進)
内航海運は、中小企業が大半を占める過当競争体質の業界構造であり、これが輸送の合理化、船舶の近代化等を妨げる要因ともなっているため、従来より事業体質の強化に向けて構造改善を進めてきた。しかし、4年3月末現在、運送業者と貸渡事業者を合わせて6,380事業者(昭和62年3月末では7,426事業者)のうち中小企業が9割以上を占め、貸渡事業者にあっては、その約6割がいわゆる一杯船主であり、未だ構造改善が達成されたとは言えない状況である。このような状況に加え、近年若年層を中心に内航船員不足が深刻化しており、このまま推移すると物資の安定輸送に支障が生じることが懸念されるに至っている。
他方、道路混雑問題、環境問題等を背景に、トラックから海運へのモーダルシフトの社会的要請が高まっており、国内物流における内航海運の役割は今後一層増大することが予想される。
このような内航海運をめぐる環境変化に対応するため、運輸大臣の諮問機関である海運造船合理化審議会は平成4年3月9日、今後の内航海運対策のあり方について答申を行った。
同答申においては、基本的認識として@船員確保対策等新たな視点を加えた構造改善対策等の推進、A今後の経済情勢の進展に対応した安定輸送の確保、Bトラックから海運へのモーダルシフトの社会的要請への対応といった観点からの新たな内航海運対策に重点を移していく必要があるとされており、具体的な構造改善対策等として転廃業、集約・合併の促進、船舶の近代化・大型化の促進、内航海運組合の強化等の内航海運業の体質強化、船員確保対策、荷主ニーズ・物流の効率化への対応等が求められている。
また、日本内航海運組合総連合会(以下「内航総連」という。)が行っている保有船腹調整事業による船舶のスクラップ・アンド・ビルド制度については、中長期的には同制度への依存を解消し得るように、内航海運の事業体質の強化を図る必要があるが、現時点においては、内航海運業の健全な発展のため、構造改善の推進、船腹需給・経済情勢等に対応した同制度の機動的・弾力的運用の実施を前提に、当面制度の維持存続を図ることとされている。
この答申を受け、内航総連は船腹調整制度等の運用に関し、モーダルシフトに適合するコンテナ船、RORO船等について大幅な緩和を4年4月に実施した。
運輸省においては、今後とも、この答申の趣旨に沿って、新たな内航海運対策を推進していくこととしている。
- (2) 港湾運送事業の高度化の推進
- 我が国の産業、貿易構造の変化等に伴う物流ニーズの高度化・多様化、コンテナ、サイロ荷役等革新荷役の進展等港湾運送を取り巻く環境は、大きく変化している。
このような港湾運送事業を取り巻く環境の変化に対応するためには、@荷役の機械化、情報化の推進等による労働集約型産業から装置型産業への転換、A国際複合一貫輸送への進出等による事業の多角化、B事業の協業化、協同化、集約化による事業基盤の強化等を柱とする港湾運送事業の高度化を進めていくことが必要である。
このため、日本開発銀行からの低利融資、(財)港湾運送近代化基金からの助成等により、総合輸入ターミナルをはじめとする大型物流拠点の整備、荷役の機械化、情報化の促進等の施策を講じているところである。
また、若年層の3K職場離れや労働者の高齢化等により、今後、港湾労働者の不足が深刻化することが予想される。このため、労働条件の改善等による魅力ある港湾運送事業を目指した事業者の努力が求められているが、3年11月、総理府に設置されている港湾調整審議会に専門小委員会が設けられ、港湾労働者不足への対応策について集中的に検討が行われ、4年3月に、労働時間の短縮、福利厚生の改善・充実、安全の確保等を内容とする港湾調整審議会の意見が運輸大臣及び労働大臣に提出されたところである。今後、この意見に沿って、港湾労働力の確保のための各種の施策の推進を図っていくこととしている。
- 4 海事思想の普及・宣伝
- 四面を海に囲まれ、貿易立国である我が国にとって海は深く日常生活に関わっている。この海の重要性について、広く国民に理解と認識を深めてもらうため、7月20日を「海の記念日」とし、この日から7月31日までの「海の旬間」に、毎年、全国各地で様々な行事を行っている。今年は、仙台市に秋篠宮、同妃両殿下をお迎えして第7回「海の祭典」が開催された。また、仙台港を中心にシンポジウム、体験クルーズ等多彩な行事が盛大に繰り広げられた。また、この他に海洋レジャーの安全を広く訴える「マリンレジャー・セーフティー・キャンペーン」を新たに開催したところである。

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