平成4年度 運輸白書

第8章 豊かなウォーターフロントの形成

第1節 港湾及び海岸の整備

    1 豊かなウォーターフロントをめざして
    2 進展する港湾及び海岸の事業


1 豊かなウォーターフロントをめざして
(1) 21世紀を展望した長期政策
 21世紀の成熟化社会に備えて、運輸省は、平成2年4月、長期港湾整備政策として「豊かなウォーターフロントをめざして−「21世紀への港湾」フォローアップ」を取りまとめた。
 この長期政策では、豊かなウォーターフロントを形成するために、総合的な港湾空間の質の向上を図ること、国土の均衡ある発展に貢献することを政策目標として掲げている。そして目標の実現に向けて、@港湾の機能の充実に加え、使いやすさや美しさの追及、A輸入促進のための港湾の整備、B旅客船時代に備えた港湾の整備、C地方地域や大都市圏の問題への対応の強化等の点に政策の重点をおく必要があるとしている。
 また、今後の海岸整備の進路を明確にするため、2年8月、長期政策として、「豊かな海辺づくりのために−21世紀への海岸−」を取りまとめた。この長期政策の中では、人口・資産の集積が著しい“みなとまち”の海岸の特色を踏まえて、今後は面的な防護方式を積極的に活用し、安全性の確保に加えて、快適で利用しやすい海岸の整備を図ることを基本方針とし、@ふるさとの海岸づくり、Aマリンリゾート開発の中心となる人工ビーチの整備、B「美しい港づくり」とタイアップした海辺づくりの3つを主要施策として豊かな海辺づくりを推進することとしている。
(2) 第8次港湾整備五箇年計画〔2−8−1図〕
 我が国の経済発展を支えるうえで、港湾は物流、生産の拠点として、また、地域の生活基盤として重要であることから、経済基盤の強化を図り、国民経済の健全な発展に寄与することを目的として、昭和36年以来7次にわたり港湾整備五箇年計画を策定し、計画的に整備を進めてきてた。
 第8次港湾整備五箇年計画については、計画期間を平成3〜7年度とし、総投資規模を5兆7,000億円とすることが3年3月に閣議了解され、同年4月には、これに伴う港湾整備緊急措置法の改正が行われた。
 第8次五箇年計画における港湾整備事業の実施の目標及び事業の量については、3年11月に閣議決定され、3年度以降についても引き続き計画的に港湾整備を進めることとしている。なお、4年6月に経済審議会から「生活大国5カ年計画」が答申され、@安全で快適な質の高い国民生活の確保のための社会資本の整備、A国土の均衡ある発展の基礎をつくる社会資本の整備、B環境、エネルギー、労働力供給制約等の問題に対応しつつ、新たな発展基礎となる社会資本の整備、C国際的な観点からの社会資本の整備、の4項目の社会資本整備の重点に沿って「生活大国」の実現を目指すこととされ、港湾整備の計画的な推進が求められている。
(3) 第5次海岸事業五箇年計画 〔2−8−2表〕 〔2−8−3図〕
 我が国の海岸の整備は、昭和45年度以来4次にわたる海岸事業五箇年計画に基づき進められてきたが、我が国の防護を必要とする海岸線の延長約16,000km(海岸線総延長約34,400km)に対する海岸の整備率は平成3年3月現在44%である。このため、引き続き計画的に海岸の整備を推進するため、新たに3年度を初年度とし、総投資規模を1兆3,000億円とする第5次海岸事業5箇年計画が、3年11月に閣議決定された。
 新五箇年計画は、国土保全のための海岸保全施設の整備及び快適でうるおいのある海岸環境の保全と創出を図り、計画期間中に整備率を10%向上させることとしている。
 なお、「生活大国5カ年計画」においても、安全で安心できる生活の確保を図るため、海岸事業の着実な推進が求められている。

2 進展する港湾及び海岸の事業
(1) 輸入促進のための港湾の整備 〔2−8−4図〕
 我が国では、産業構造の転換と水平分業の進展、そして内需拡大のもと外貿貨物量が著しく増加し、3年には、外貿貨物量は、9億9,800万トン(対前年比3.1%増)、うち輸入貨物量が8億2,000万トン、輸出貨物量が1億7,800万トンといずれも過去最大の値となっている。特に製品輸入の増加に伴い、外貿コンテナ貨物量は1億2,500万トン(輸出6,600万トン、輸入5,900万トン)と増加の一途であり、中でも輸入コンテナ貨物量の伸びは顕著であり、対前年比12.6%増を記録するところとなった。
 また、我が国の経常収支黒字は、昭和62年の870億ドルから平成2年には358億ドルにまで減少したにもかかわらず、3年には729億ドルにまで再び拡大の傾向を示している。このような状況の中で、輸入対応型の港湾を整備することにより輸入を促進し、貿易不均衡の是正に向けて引き続き積極的に努力する必要がある。
 しかし、既に整備された従来の外貿コンテナターミナルの施設量ではこのような輸入貨物量の増加に十分対応できない状況にあり、特に輸入コンテナ貨物は、輸出コンテナ貨物に比べターミナル地区における滞留時間が長く、さらにターミナル内で流通加工や在庫管理が行われることもあり、広いヤードや流通関連施設、さらに貨物の円滑な流動を図るための高規格臨港道路等が強く求められている。また、世界的なコンテナ物流の拡大とともに、船型の大型化が急速に進んでおり、バース水深の主流は10〜12mから14〜15mへとシフトしているが、我が国のバース整備現状はこうした世界の趨勢に追いついていないのが現状である。また、多目的外貿ターミナルについても、木材、自動車、穀物等の外貿貨物量の増加や輸送運搬船の大型化、輸送形態の変化等に対応する港湾施設の不足が問題となっている。こうした我が国の外貿ターミナルの状況は輸入促進を阻害する要因の一つと海外からも指摘されており、2年の日米構造協議においては、輸入関係インフラの要である外貿コンテナターミナル、多目的外貿ターミナル等を水際線延長で約30km整備することとされた。
 このため、これら外貿ターミナルの整備の促進を図るとともに、輸入対応型の広い埠頭用地、流通関連用地、高規格臨港道路、大水深バース等を備えた港湾整備を進めており、4年度は外貿コンテナターミナルの整備を神戸港、博多港等15港で、多目的外貿ターミナルの整備を八戸港、三河港等69港で実施している。また、荷捌き、保管、流通加工の機能を有するとともに、輸入品の円滑な流通を促進するための展示機能、輸入品等の情報提供機能等を有する総合輸入ターミナルを民活法の特定施設として3年度から整備している。
(2) モーダルシフト推進のための港湾の整備 〔2−8−5図〕
 ここ数年来、都市部での交通渋滞やトラック運転手等の労働力不足により、都市内あるいは都市間での物流効率の低下、物流コストの上昇が問題となっている。また、自動車から排出されるNOxによる大気汚染問題やCO2排出に伴う地球温暖化問題等もクローズアップされている。こうした状況を背景として、トラック輸送から鉄道及び海上輸送へのモーダルシフトが重要な課題である。
 内航海運によるモーダルシフトの受け皿となる内航コンテナ船、RoRo船、フェリーによるユニットロード(パレット、コンテナ、オンシャーシ貨物等)輸送については、年々着実な増加を示しており、3年には1億4,300万トン(対前年比約2%増)となっている。これと平行して航路も充実してきているが、輸送量の伸びとともに一部の港湾ではターミナル、駐車場規模の不足や背後圏とのアクセス等の問題が顕在化している。
 このような状況に対応して、モーダルシフトを誘導し、複合一貫輸送を支える海陸の結接点としての内貿ユニットロードターミナルの整備を進めているところであり、4年度は北九州港、塩釜港等12港においてこれらの整備を実施している。また、並行して、陸上における円滑な貨物流動を確保するため、ターミナルと幹線道路を直結する幹線臨港道路の整備を進めており、4年度は、新潟港、東京港等15港で整備を実施している。また、物流関連施設用地の確保等が要請されており、こうした要請に対する港湾における対応を検討するため、3年12月、「新たな物流体系への対応をめざした港湾懇談会」を設置、4年3月、検討内容が中間的に取りまとめられたことから、今後、これに基づき所要の施策を講じることとしている。
 さらに、モーダルシフトを誘導する新形式超高速船(テクノスーパーライナー)の導入に向けて、「港湾局TSL対策本部」を設置し、港湾配置、荷役システム等港湾のあり方に関する検討を行っている。
(3) 快適な旅客交通を形成する港湾等の整備
 近年、豪華客船等の寄港が増加しているほか、ジェットフォイル等の高速旅客船の導入も全国で相次ぎ、旅客ターミナルの整備が要請されており、4年度には大阪港、佐世保港等47港で旅客ターミナルの整備を実施している。
 また、港湾と都心部、港湾内の地区相互間の交通の不便さを解消するため、新交通システム等の整備を進めている。4年度は東京港臨海部副都心、大阪港南港地区で整備を実施している。
 以上の他に、エネルギーの安定供給を確保するための港湾整備、地域産業の振興に資する港湾の整備、生活に不可欠な離島、辺地における港湾の整備、安全かつ円滑な海上輸送を確保するための船舶が輻輳する海域における航路の拡幅・増深、荒天時の船舶の安全を確保するための避難港、防波堤、避難泊地の整備等を進めている。
(4) ふるさとの海岸づくり
 “みなとまち”には、人口・資産の多くが集中しており、高潮、津波、海岸侵食に対する安全性の確保はもちろんのこと、最近では利用しやすく快適なウォーターフロントの形成が強く求められている。こうした要請に対応して、安全性の確保とあわせ、人々の海とのふれあいや良好な海岸景観を創出する「ふるさとの海岸づくり」を積極的に推進し、国民生活の質の向上を図っている。施設の整備にあたっては、沖合いから順次施設をつくって波の力を順々に柔げる面的防護方式による整備や人々が気軽に海へ出られるための親水性護岸等の整備を推進し、利用しやすい海岸空間の確保に努めることとしている。
 4年度には全国287の港湾海岸で高潮、浸食対策事業を推進しており、特に、元年度に創設した「ふるさと海岸整備モデル事業」によって、消波機能を持つ海浜等を整備するとともに、地域住民が気軽に海辺とふれあえる質の高い海岸保全施設の整備を津田港海岸等19海岸で重点的に実施している。



平成4年度

目次