平成4年度 運輸白書

第8章 豊かなウォーターフロントの形成
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第2節 ウォーターフロントの質の向上|
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1 港湾空間の質の向上をめざして
2 快適な港湾および海岸の創造
3 明日を担う海洋空間の開発・利用の推進
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1 港湾空間の質の向上をめざして
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(1) プロジェクト調査の推進
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高度化・多様化する港湾への要請に応えるため、再開発等を通じた総合的な港湾空間の質の向上に向け、昭和61年度以降全国各地の港湾において、ポートルネッサンス21調査、臨海部活性化調査、マリンタウンプロジェクト調査、コースタル・リゾート調査を実施しており(平成3年度までに159プロジェクト)、すでに111プロジェクトが事業化している。
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(2) 民活事業の進展
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(ア) 民活制度の充実等
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豊かで潤いのあるウォーターフロントの実現のためには、従来からの公共事業等による基盤施設の整備に加え、総合的なマスタープランのもとに民間の資金力、経済力、技術力等の導入が不可欠である。このため、昭和61年度以来、開発整備の拠点となる民間の施設整備に対し、税制、財政上の支援、規制緩和等の措置を講じている。
現在、港湾関係の民活事業としては、@民活法特定施設整備事業、A特定民間都市開発事業、B沖合人工島の整備、C小型船拠点総合整備事業、D多極分散型国土形成促進法関連事業、E総合保養地域整備法特定民間施設整備事業の6つの制度がある。これらの制度については、年々、支援措置の拡充を図っており、平成4年3月には、「輸入の促進及び対内投資事業の円滑化に関する臨時措置法」の制定に伴い民活法特定施設の追加(輸入促進高度化施設)が行われた。
なお、3年12月には、港湾民活事業者相互の意見交換・情報交換等を通じてウォーターフロント開発事業の健全な発展を図ることを目的として、社団法人ウォーターフロント開発協会が設立され、活発な活動が展開されている。
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(イ) 民活事業の推進〔2−8−6図〕
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民活制度の充実や港湾に寄せられる様々な要請の増大を反映して、全国各地で民活プロジェクトが推進されている。
3年度までに、民活法の特定施設として、27プロジェクト41施設を認定するとともに、特定民間都市開発事業として、38プロジェクトに事業着手しており、さらに4年度には、稚内港の港湾文化交流施設、三河港の複合物流施設、那覇港の旅客ターミナル施設等の事業を展開するなど、民活プロジェクトの大都市圏から地方圏への一層の展開・定着を図ることとしている。
また、4年3月には長崎県早岐港の「ハウステンボス」(旅客ターミナル施設、港湾文化交流施設)、同年7月には伏木富山港の「日本海交流センター」(港湾交流研修施設)が開業するなど、市民が海に親しむ拠点施設として、地域の活性化に大きく貢献している。
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2 快適な港湾および海岸の創造
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(1) 美しく快適な港湾空間の創造
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豊かさを実感できる国民生活の実現が強く求められる中で、港湾においても人々が憩い集う、美しく快適な空間の形成が重要となってきている。港湾空間には、港の歴史を物語る歴史的港湾施設が至るところに残っている。また、大小さまざまな船舶やダイナミックな港湾施設、さまざまな形態の水際線と水面等個性ある美しい港湾景観を形成するための資源が豊富に存在している。
運輸省では、豊かな国民生活の実現に向けて、港湾の持つこれらの恵まれた資源を活かした、個性ある美しい港づくりを積極的に推進している。具体的には、運河、煉瓦造りの倉庫等の歴史的港湾施設を港湾文化の貴重な財産として保全するとともに、周辺地域を歴史的な情緒の漂う美しいウォーターフロント空間とする歴史的港湾環境創造事業を推進しており、4年度は小樽港等10港で事業を実施している。また、港湾に存する景観資源を活用した美しい港づくりを進めるため、モデル的な港湾において景観形成のための計画を策定し、それに基づいて良好な景観形成を進める港湾景観形成モデル事業を青森港等で実施する。
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(2) 親水性豊かな緑地、人工ビーチ等の整備〔2−8−7図〕
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レクリエーンョン活動や憩いの場の創出、交流や賑わいの場の提供等を通じ港湾空間を豊かな生活空間として活用しようとする要請に対応して、4年度は公共事業費の特別枠である生活関連重点化枠も充当し、イベント広場の提供、魚釣り施設や親水護岸の整備等を含む緑地等施設の整備を伏木富山港、名古屋港等124港で推進している。
また、安全で快適な海辺づくりの要請に対応して、4年度は海岸環境整備事業により、人工ビーチ、緩傾斜護岸等の整備を博多港海岸等105海岸で実施しているほか、親水性豊かで多目的な利用が可能となる空間を創出する公有地造成護岸等整備事業を境港海岸等8海岸で実施している。
特に、海浜の多様で高度な利用を図るため、4年度から、新たにリゾート地等において、マリーナ等とあわせた大規模かつ複合的な人工ビーチの整備を促進する「ビーチ利用促進モデル地区制度」を海岸環境整備事業の中で創設し、宮崎港海岸で実施している。
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(3) 快適な海域環境の創造−シーブルー計画−
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快適なウォーターフロント空間の形成には良好な海域環境の保持が欠かせない。これには、従来から実施している公害防止のための施策に加え、快適な環境を積極的に創造する施策を推進する必要がある。
これに応え運輸省では、このような快適な海域環境、すなわち「美しい海」を創造するため「シーブルー計画」を推進している。この一環として、4年度は、ヘドロの堆積した海域において覆砂や海浜整備を行うことにより水質・底質等を改善する海域環境創造事業を瀬戸内海、松島港等2海域3港で実施している。また、湾奥部や運河部等水質・底質の悪化した水域の改善事業と併せ、緑地整備等の陸域の環境を整備する事業を複合的に実施してアメニティ豊かなウォーターフロントとして整備する水域利用活性化事業(リフレッシュ・シーサイド事業)を伏木冨山港等4港で実施している。
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(4) マリーナ等の整備
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プレジャーボートの保有隻数は増加の一途をたどっているが、これらを収容する施設が絶対的に不足しており、4年2月の実態調査によれば、マリーナ等に収容されているプレジャーボートは約4万隻であるのに対し、保管施設に収容されていない放置艇は全国で約10万隻に達している。これら放置艇が、船舶の安全航行や港湾機能の阻害等社会問題化しており、放置艇解消は緊急の課題となっている。運輸省では、プレジャーボートの保管需要が12年には40万隻程度に達すると見込み、昭和63年9月に「全国マリーナ等整備方針」を策定し、放置艇を解消しつつ将来の需要増に的確に対応するため、平成11年までに新たに28万隻分の保管施設の整備を図ることとしている。また、マリーナはプレジャーボートの保管機能のみでなく、海洋性レクリエーションの拠点として魅力あるウォーターフロント空間の中核施設であり、地域振興にも資することから、積極的にその整備を推進している。公共マリーナの整備については、4年度には、公共マリーナの整備を博多港等37港において、また、プレジャーボートスポットの整備を塩釜港等23港で実施している。
他方、民間及び第三セクターが行うマリーナの整備に対しては、重要港湾において国及び港湾管理者から無利子貸付を行う制度のほか、総合保養地域整備法に基づく助成措置、小型船拠点総合整備事業等を活用し、その整備を支援している。
また、量的充足に加え、施設のみならず、管理・運営の面でも安全性、利便性に優れた質の高いマリーナの普及を目的とする優良マリーナ認定制度に基づき、認定事業者である社団法人日本マリーナ・ビーチ協会は、4年6月までに44マリーナを優良マリーナとして認定している。
3 明日を担う海洋空間の開発・利用の推進
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(1) 沖合人工島の整備〔2−8−8図〕
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港湾における新たな利用可能空間の創出のため、貴重な既存水際線の保全を図りつつ、諸機能を展開するための用地、水際線に加えて背後に利用価値の高い静穏海域を創出し、海陸複合した空間を計画的に創造できる沖合人工島の整備を進めている。現在、「和歌山マリーナシティ」等の整備を推進しているほか、横須賀等のプロジェクトについて、「沖合人工島事業化推進調査」等を実施している。
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(2) 海上浮体施設の整備〔2−8−9図〕
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近年、経済社会の基盤の整備を図ることが重要となる一方で、国民の海洋性レクリエーションへの関心も高まっている。
このような状況の中で、造船技術を活用し海洋空間の有効利用を図るため、テーマパーク、駐車場等各種の海上浮体施設の整備が進められている。元年度には「フローティングアイランド(尾道市)」が、3年度には、国際交流施設や教養文化施設を備えた施設を海上に設置した「呉ポートピアランド」が開業した。これらの計画は、地域経済の活性化、国民生活の質的向上に重要な役割を果たすとともに、造船業の経営の多角化に資するため、運輸省としても各種の支援措置を講じている。また、海上浮体施設については、船舶安全法に規定される安全基準、港湾の施設の技術上の基準等に基づいて安全確保を図っている。
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(3) 海洋・沿岸域の計画的利用の推進
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東京湾、大阪湾、伊勢湾の三大湾については、複数の港湾が近接し、その背後圏が相互に重複し、経済社会活動が高密度に展開されていることに鑑み、広域的かつ総合的視点から調整を行いつつ、計画的に利用することが求められている。このため、運輸省ではこれら三大湾における湾全体の開発、利用及び保全の指針となる「港湾計画の基本構想」を策定している。
このうち、東京湾及び伊勢湾については、昭和63年6月及び平成4年3月に、それぞれ新たな基本構想を策定した。また、東京湾についてはフォローアップのための調査を進めている。大阪湾については、3年7月に超長期の大阪湾の将来像である「オーバル ビジョン2025」を策定したところであり、これを踏まえ5年度中を目途に基本構想の策定を行う予定である。
また、三大湾以外においても、沿岸域の効率的かつ適正な利用のため、広域的な視点に立った一体的な開発・利用を推進することが必要であり、このため、主要な沿岸域の開発・利用構想を策定するための調査を進めている。
一方、技術進歩による海洋利用の可能性の高まり、海洋に対する要請の多様化等の海洋の利用に関する新しい動きに対応し、港湾は、今後も海洋利用の中核となる重要な役割を担うことが求められているため、海洋・沿岸域利用の進むべき方向等を長期的な観点から明らかにする「海洋利用の長期展望」について、現在検討を進めている。

平成4年度

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