平成5年度 運輸白書

第1章 利用交通手段の変化
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第1章 利用交通手段の変化 |
1 交通手段の利用状況の変化とその背景
2 自動車利用の増大とその背景
- 1 交通手段の利用状況の変化とその背景
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我が国の経済は、高度成長期以降、二度の石油危機による低迷はあったものの、拡大を続けており、これに伴い、産業・国民生活における人員、物資の移動も大幅に増加している。そして、所得水準の上昇、交通基盤の整備、産業・経済構造の変化、国民意識の多様化等により、交通手段の利用状況にもさまざまな変化がみられる。このような交通手段の利用状況の変化を振り返ってみることとしたい。
なお、最近の輸送活動は、経済動向を反映して、旅客、貨物とも低迷しているが、景気回復に向けて政府の総合的な経済対策が講じられているところであり、二度の石油危機や円高不況時にも輸送量は伸び悩みないし減少したが、その後再び増勢に向かっており、今後も基調としては、輸送量の増加が続くものと考えられる。
(1) 旅客輸送の利用状況の変化
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(ア) 自動車利用の増大が著しい国内旅客輸送
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国内旅客輸送量の推移を人キロベースでみると、高度経済成長時代に高い伸びを示し、第1次石油危機以降、伸び率が鈍化したものの、バブル経済期には再び高い伸びをみせた〔1−1−1図〕。
この間における交通手段の利用状況の変化をみると、昭和40年代から本格化したモータリゼーションの進展を背景として自家用乗用車の分担率が著しく伸長している。50年代前半には鉄道の分担率を追い抜き、交通機関の中では最大の割合を占めるようになり、その後も分担率が増加している。
鉄道は、分担率については漸減しているが、輸送量をみると、50年代前半に減少がみられたものの、その後は増加傾向が続いている。また、航空は、分担率としては大きくないが、着実に伸長している。
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(イ) 鉄道への依存度が大きい大都市圏内旅客輸送
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大都市圏内の旅客輸送の利用状況の変化をみると、東京圏、大阪圏について、鉄軌道が5割を超える高い分担率で推移しており、一貫して中核的交通機関としての役割を果たしている〔1−1−2図〕。
一方、自家用乗用車の進出も著しく、輸送人員が大きな伸びを示している。乗合バスについては、道路交通混雑のため、定時運行の確保が図れなくなったことなどにより、輸送人員の減少が続いていたが、平成3年度には、東京都の乗合バスの輸送人員が増加に転じるなどバス復権の兆しも一部にはみられるようになっている〔1−1−3図〕。
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(ウ) 自家用乗用車の分担率の高い地方部の地域内旅客輸送
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地方部地域内における旅客輸送の交通手段の利用状況の変化をみると、自家用乗用車の分担率が非常に大きくなっており、年々増加が続いている。これに対し、鉄道、乗合バスの分担率は低下が続いており、特に、乗合バスの分担率については、低下の度合が著しい〔1−1−4図〕。
次に、交通手段の利用状況を地方都市の人口規模別にみると、人口規模の大きい中枢都市では、地下鉄等の公共輸送機関の整備水準が高いことから、公共輸送機関の分担率が相対的に高くなっている〔1−1−5図〕。
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(エ) 高速輸送サービスの伸長がみられる地域間旅客輸送
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地域間における国内旅客輸送は、最近の国民所得の向上等に伴う地域間交流の活発化や地域間の交通基盤整備の進捗を背景として年々増加を続けている。三大都市圏相互間の輸送では、鉄道の分担率が高い割合を占めているが、これは、新幹線等が整備されていることによるものと考えられる。三大都市圏とその他の地域間及びその他の地域相互間の輸送では、自動車の分担率が高くなっている〔1−1−6図〕。
利用状況の変化を距離帯別にみると、500〜750kmの距離帯で鉄道のシェアが70%強を占めており、10年前に比べてもわずかではあるがシェアが拡大している。
300〜500km距離帯では鉄道と自動車のシェアがほぼ拮抗しているが、300km未満の距離帯では自動車が7割以上のシェアを占めている。750km〜1,000kmの距離帯では航空が鉄道をやや上回っているが、1,000km以上の長距離では航空が8割強を占めている〔1−1−7図(a)〕〔同図(b)〕。
(2) 貨物輸送の利用状況の変化
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(ア) トラックと内航海運が大きなウエイトを占める国内貨物輸送
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国内貨物輸送量の推移をトンキロベースでみると、高度経済成長時代に高い伸びを示し、その後二度の石油危機の際にはそれぞれ減少したが、バブル経済期には再び高い伸びを示した。しかし、バブルの崩壊で平成4年度は若干の減少となった〔1−1−8図〕。
この間における交通手段の利用状況の変化をみると、トラックの分担率が伸長している。昭和61年度には内航海運の分担率を追い抜き、輸送機関の中では最大の割合を占めるようになった。自家用、営業用の別では、最近、営業用の伸長が著しく、宅配便をはじめとして組織的な輸送網や効率性の高い輸送が求められていることに対応しているものと考えられる。
内航海運の分担率は、50年代前半から漸減しているものの、平成4年度には約45%とかなり高い割合を占めている〔1−1−9図〕。
鉄道の分担率は、昭和30年代から一貫して低下を続けてきた。60年代に入ってからは、国鉄の民営化により、JR貨物鉄道が発足し、コンテナ化、ピギーバック輸送等の荷主ニーズに対応した輸送サービスを充実させることにより、分担率の低下に歯止めがかかっている〔1−1−10図〕。
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(イ) 自動車のシェアの伸長が著しい地域間貨物輸送
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地域間貨物輸送を距離帯別にみると、300〜500kmの距離帯では自動車と海運がほぼ同じシェアを占めているが300km未満の距離帯では自動車が、750km以上の距離帯では海運が大半を占めている〔1−1−11図〕。
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(ウ) 自家用トラックが大きな比重を占める地域内貨物輸送
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地域内の貨物輸送は、個々の企業あるいは家庭を対象に集配を行うケースが多く、主としてトラックに頼ることとなるが、特に、利便性の面で優れた自家用トラックへの依存度が高くなっている〔1−1−12図〕。
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2 自動車利用の増大とその背景
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(1) 自家用自動車の魅力
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自家用自動車は、利用したいときにいつでも利用できるといった随時性、ドア・ツー・ドアで移動することができるといった機動性、個室内でゆったりと座ったままで移動できるといった快適性など公共輸送機関にはない利点を有しており、これが自家用自動車の大きな魅力になっているものと考えられる。(財)運輸経済研究センターが平成5年7月に実施したアンケート調査においても、自家用乗用車の魅力について「いつでも行きたいときに行ける」、「荷物を持たせずにすむ」、「どこでも行きたいところへ行ける」と回答した人が多くなっている〔1−1−13図〕。
前出のアンケートによれば、東京、仙台、高松ともに買い物、娯楽、旅行・レジャーでの自家用乗用車の利用が最も多くなっている〔1−1−14図〕。
通勤・通学での自家用乗用車の利用は、東京では10%に満たないが、高松では40%を越えている〔1−1−15図(a)〕〔同図(b),(c)〕。また、東京、仙台では自家用乗用車のみを利用する人は極めて少なく、鉄道、バスと自家用乗用車を乗り継ぐパーク・アンド・ライドやキス・アンド・ライドがほとんどであるのに対し、高松では、自家用乗用車のみを利用する人が多くなっている。
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(2) 自動車保有台数の増加
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(ア) 自家用乗用車の著しい増加
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我が国の自動車保有台数の推移をみると、昭和40年度から平成4年度までの30年間に約8倍という急激な伸びを示している。その結果、4年度末の保有台数は6,400万台を超えている〔1−1−16図〕。特に、自家用乗用車については、この30年間に約17倍の伸びを示しており、面積当たりの乗用車保有台数についてみれば、国際的に極めて高い水準にある〔1−1−17図〕。
なお、軽四輪自動車も着実に増加しており、4年度末には、自動車4台に1台が軽四輪自動車となっている。
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(イ) 地方部における著しい自家用乗用車普及率の増加
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地域別にみると、自家用乗用車は、都市部よりも地方部において普及が進んでいる。4年度における1世帯当たりの乗用車保有台数については、三大都市圏以外の地域は三大都市圏の約1.2倍となっている〔1−1−18図〕。
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(3) 自動車保有台数増加の背景
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このように自動車、特に自家用乗用車の保有台数が増加した背景としては以下のようなことが考えられる。
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(ア) 運転免許保有者数の増加
- 運転免許保有者数は、昭和45年末には約2,645万人で、平成4年末では約6,417万人と約2.4倍になり、この結果、15歳から64歳までの生産年齢人口をみると、約7割の人が免許を保有するようになっている〔1−1−19図〕。
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(イ) 自動車の相対価格の低下
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国民の所得水準の上昇に伴い、自動車価格が相対的に低下している。自動車の価格収入比を20年前と比較すると、ほぼ半分にまで低下しており、一般国民にとって自動車を購入することが容易になっている。また、住宅の取得が困難な東京圏のような大都市圏では、容易に個人の空間を持てることが自家用乗用車の保有を助長している一つの要因と考えられる〔1−1−20図〕。
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(ウ) 自動車本体の性能、快適性等の向上
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自動車については、燃費の改善、パワーアップ等により、性能が著しく向上しており、運転が容易になっている。また、諸機能の整備により快適性も高まっており、こうしたことが利用者の購入意欲を高めている。このような高性能の自動車の生産は、世界で最高水準にまで発達した我が国の自動車産業が支えていることはいうまでもない。
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(エ) 道路整備等の進捗
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道路整備の進捗により、自動車の利用環境が整備されたことも、自動車保有台数の増加の要因と考えられる。
道路の整備状況をみると、高速自動車国道は、昭和40年代以降、全国的にその整備が進められ、平成4年度末には5,404kmが供用されている。こうした道路の整備、特に、高速自動車国道等の整備により、自動車による移動時間が大幅に短縮されたことが、中・長距離帯の移動に自動車が進出するようになった大きな要因であると考えられる。さらに、長距離フェリーが、昭和40年代以降、急速に発達したことも中・長距離帯の移動に自動車が進出するようになったことに寄与していると考えられる。
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(オ) 物流ニーズの変化
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産業構造の変化、利用者ニーズの高度化・多様化が進む中で、物流ニーズにも変化が生じているが、これに伴い、トラックの利用が一層高まっている。
我が国の産業は、近年、第3次産業の比重が高まっており、経済のサービス化・ソフト化が進んでいる。製造業の分野でも、軽薄短小型の加工組立型産業の伸長等に伴い、輸送が小口化、多頻度化する傾向が見られるようになっている〔1−1−21図〕。
また、利用者ニーズの高度化、多様化を反映して、宅配便、ジャスト・イン・タイムサービス、多頻度少量輸送等の物流サービスが発展してきている。
特に宅配便は、昭和58年度以降急速に成長しており、取扱個数が著しく増加しているほか、近年では、保冷便、産地直送便、書籍便、ゴルフ便、スキー便や配送時間指定宅配便といった様々な宅配サービスが展開されている。
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(4) 成熟化がみられる車社会と国民意識の変化
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自動車の保有台数は、40年度には、国民12人に1人が1台を保有する状況であったが、平成4年度には国民2人に1人が1台を保有する計算になる。また、世帯数でみると、昭和40年度の3世帯に1台の割合が平成3年度には1世帯に1.5台になっている。また、現在では、免許保有者1人が概ね1台の自動車を保有する計算になる。このため、車の保有台数や免許保有者数には伸び率の鈍化傾向がみられる。
このような自動車の保有状況は、我が国においても車社会がかなり成熟化してきていることを示しているものと考えられる。そして、車の保有が生活の大きな目標であった時代は過去のものとなり、ほとんどの国民が車社会のもたらす利便性と弊害について経験し、その経験を踏まえて、自動車を使用する国民の意識にも変化がみられる〔1−1−22図〕。

平成5年度

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