平成5年度 運輸白書

第2章 利用交通手段の変化に伴う諸問題

第2章 利用交通手段の変化に伴う諸問題

 利用交通手段の変化をみると、旅客輸送、貨物輸送ともに自動車の利用が著しく増大している。しかしながら、その一方で、大都市においては、鉄道への依存が高まっており、地域間輸送については、高速性志向の高まりから、中距離帯では、新幹線、長距離帯では航空の利用が増加している。また、高齢化の進展する中で、高齢者等が公共輸送機関を利用する機会が増えている。ここでは、こうした利用交通手段の変化に伴い、具体的にどのような問題が顕在化しているかについて分析する

    1 自動車利用の増大に伴う諸問題
    2 公共輸送機関の利用をめぐる諸問題


1 自動車利用の増大に伴う諸問題
(1) 道路交通混雑の激化
 大都市やその周辺部においては、一般道路のほか、都市高速道路で混雑は激しさを増しつつある〔1−2−1図〕〔1−2−2図〕
 また、地方中枢都市等においても、地方圏における人口・業務機能の集中が進んでおり、大都市ほどではないが、朝夕のピーク時には、都心への流出入部において、かなり激しい道路交通混雑が生じている。さらに、高速自動車国道等においても、通行車両の増大に伴い、東名高速道路、名神高速道路のような幹線を中心に混雑度が高まっている。
(2) 道路交通事故の増加
 道路交通事故は、昭和45年には死亡者数が1万7,000人に迫り、「交通戦争」とまでいわれるに至った。その後減少傾向がみられたが、55年以降再び増加する傾向にある。特に、近年は、63年から5年間連続して、死亡者数が1万人を越えるなど「第2次交通戦争」ともいうべき厳しい状態が続いている〔1−2−3図〕
(3) 地球環境問題
 地球温暖化は、二酸化炭素(CO2)等の温室効果気体の濃度が上昇することによって引き起こされる。我が国は、全世界のCO2の排出量の約5%を排出しているが、平成2(1990)年10月には、西暦2000年以降、概ね1990年レベルで一人当たりCO2 排出量について安定化を図るとともに、総排出量についても安定化に努めること等を目標として、「地球温暖化防止行動計画」を策定し、政府全体としてCO2排出等を抑制するための各種施策を講じている。
 運輸部門は、エネルギーの98%を石油に依存しており、そのCO2排出量は、我が国の排出量全体の2割を占めている。
 特に、自動車は、単位輸送量当たりのCO2排出量が他の交通機関と比較して極めて大きく、交通量の増大と相まって、その排出総量は大きな伸びを示しており、現在では、運輸部門全体の約9割を占めるようになっている。
 窒素酸化物(NOx)は、従来から、大気汚染防止法に基づく規制措置が講じられてきたが、近年では、酸性雨の原因物質としても注目されている。
 自動車は、NOxの大きな排出源の一つとなっていることから個々の自動車からの窒素酸化物の排出量に対する規制も段階的に強化されている。しかしながら、大都市においては、自動車交通量が飛躍的に増大しており、特に、貨物輸送については、NOxの排出量が多いディーゼル車が燃費の点で経済的に優れていること、高い出力が出せること等から増加している。また、道路交通混雑に伴う速度の低下もNOx排出量の増加につながっている。
(4) エネルギー問題
 21世紀に向けて世界的にエネルギー需要が増大する中で、石油等の化石燃料については、需給の逼迫化が懸念されているほか、地球温暖化問題への対応も大きな課題となっている。
 運輸部門は、エネルギーの一大消費部門であるが、特に、自動車はエネルギーの消費効率が悪く、交通量の増加と相まって、そのエネルギー消費量は、高い伸びを示している。このため、大量輸送機関の利用を促進し、省エネルギー型の交通体系を構築するとともに、各交通機関の省エネルギー対策を進めていくことが必要である〔1−2−4図〕〔1−2−5図〕
(5) 労働力不足問題
 トラック事業は、その性格上労働集約的な産業であり、労働時間が長く、不規則であるなど、仕事の内容が厳しいことから、職業選択にあたって忌避される傾向にあり、若年層を中心とする労働力不足が大きな問題となっている〔1−2−6図〕
 また、我が国は高齢化社会を迎えつつあり、生産年齢人口は平成7年をピークに減少すると見込まれており、トラック事業における労働力不足は、今後、構造的問題としてより一層深刻化していくものと予測されている。
(6) 過疎地域をはじめとする地方部の生活の足の確保
 過疎地域をはじめとする地方部においては人口の減少や自家用自動車の普及に伴い、バスや鉄道の輸送人員が減少しており、地域によってはこれらの公共輸送機関の維持が困難になっているところもある。こうした中で、高齢者や年少者等のように公共輸送機関に日常生活における移動を頼らざるを得ない住民の足をどのように確保していくかが、これらの地域での大きな問題となっている。

2 公共輸送機関の利用をめぐる諸問題
(1) 大都市における通勤・通学の混雑
 大都市への人口・業務機能の集中が進む中で、都心部への通勤・通学人口も増加が続いている。このため、大都市においては、周辺部と都心部の間に通勤・通学を目的とした大量の旅客流動が発生しているが、これらの旅客輸送は、主として鉄道によって担われており、その結果、通勤・通学時には、激しい混雑が生じている〔1−2−7図〕。また、近年、住宅地の都心部からの遠隔地化がより一段と進んでおり、通勤・通学に要する時間が増加しているが、激しい混雑と相まって、通勤・通学者の疲労や労働能率の低下等を招いている。
 こうしたことが大都市を中心に国民が経済力に見合った豊かさを実感できない要因の1つになっているものと考えられる。
(2) 大都市圏の幹線交通施設の混雑
 東京圏への一極集中が進む中で、東海道新幹線の輸送需要は、着実に増加を続けており、朝夕のピーク時間帯には慢性的な混雑が生じている〔1−2−8図〕。このため、列車運行本数の増加等により逐次輸送力の増加を図ってきたが、輸送需要がこれを上回って伸びていることから、混雑状況の改善が進まない状況が続いている。
 また、国内の航空ネットワークは、従来から東京圏、大阪圏の2大都市圏を中心に構築されてきた。航空需要についも、その大多数が東京国際空港、大阪国際空港に集中しており、現在では、東京又は大阪の少なくとも一方を利用する旅客は全体のほぼ8割を占めている。
 しかしながら、空港施設の制約から、東京国際空港、大阪国際空港の処理能力は、離着陸回数との関係でほぼ限界に達しており、現状のままでは地方からの増便の要望に十分応じられない状況にある。
(3) 高齢者・障害者等の移動の確保
 我が国は、高齢化社会を迎えつつあり、西暦2020年には、4人に1人が65歳以上の高齢者になると予想されている。また、身体障害者も年々増加している。
 他方、高齢者や身体障害者の余暇活動、社会活動等への参加が増加しており〔1−2−9図〕、これらの人々が安全に、かつ、身体的負担の少ない方法で移動できるようにすることが重要な課題である。このため、公共輸送機関の整備にあたっては、高齢者・障害者等の利用に配慮することが必要である。



平成5年度

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