平成5年度 運輸白書

第3章 これからの運輸サービス
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第3章 これからの運輸サービス |
1 運輸サービスの基本方針
2 魅力ある公共輸送機関の整備と運輸サービスの向上
3 社会的ニーズに対応した運輸サービスの向上
4 自動車を中心とする環境・安全対策
- 1 運輸サービスの基本方針
- (1) 公共輸送機関と自家用自動車との調和ある利用
- 自動車は、機動性、随時性、個室性等の点で他の輸送機関にはない利点と特性を有しており、利用者の選好を踏まえて、旅客輸送、貨物輸送のどちらにおいても大きな比重を占めるようになっている。特に、自家用乗用車は、国民生活において、極めて大きな役割を果たしている。
他方、自動車交通量の増大に伴い、道路交通混雑、交通事故の増加、環境・エネルギー問題に対する影響が顕在化しているほか、トラック運送事業においては、最近の不況下においても慢性的な労働力不足が続いている。このように空間、環境、エネルギー、労働力といった制約要因を考えると、今後は、旅客輸送においては、公共輸送機関と自家用乗用車との調和ある利用が、また、貨物輸送においては、トラック輸送に対する過度の依存の見直しが大きな課題となる〔1−3−1図〕。
こうした中で、近年、東京のような大都市のほか、仙台、高松のような地方中枢・中核都市においても、鉄道等の利用が高まっている〔1−3−2図〕。
このような動きは、車社会が一段と進んでいる米国においてもみられ、現にロサンゼルスでは各所で10車線以上の道路が整備されているが、朝夕のピーク時の交通混雑の改善が一向に図られないため、鉄道の開設に踏み切っている。また、ヨーロッパにおいても、鉄道等を優先的に活用する施策を強力に進めることにより、車社会との調和ある発展に努めている都市が多くみられる。〔1−3−3図〕〔1−3−4表〕。
通勤や旅行において自動車を利用する人は、一定地点までは自家用乗用車を使用するが、後は鉄道、バス等を利用する、あるいは、逆に目的地までは鉄道、バス等で移動し、目的地での移動にはレンタカー等を活用するといったように自動車の利用上手になることも求められている。神戸市、福岡市、札幌市等では、鉄道駅等の周辺に駐車場を整備し、自家用乗用車とバスや地下鉄を乗継ぐパーク・アンド・ライドシステムを導入している。
- (2) 利用者ニーズへの対応
- どのような交通手段を利用するかは、基本的に利用者の自由な選択に委ねられるべきものであり、その人が住む地域の状況あるいは、職業等によっても、利用交通手段は大いに異なってくる。そもそも輸送需要が極めて希薄な地域においては、鉄道、バス等の公共輸送機関の維持そのものが困難であり、自家用自動車が日常生活を支える足としての役割を果たすことになる。
自家用自動車の利用増大が利用者のニーズに沿ったものである以上、そのニーズに対応することを考えずに、強制的に、その抑制を図ることは適切ではない。したがって、旅客輸送については、利用者のニーズを踏まえ、公共輸送機関の魅力を高めることによって自家用乗用車から公共輸送機関への誘導を図っていくことが必要である。また、貨物輸送についても、利用者ニーズを踏まえることなく、トラックから鉄道や海運への転換を図ることはできないのであり、利用者が鉄道・海運を利用しやすい環境を形成することが重要である。
公共輸送機関を活用してもらうためには、まず一定レベルのサービスが提供されることが前提となり、そのサービスを充実していくことが大きな課題となる。さらに、公共輸送機関の魅力を向上させる施策としては、国民の所得水準の向上、時間価値の上昇、自由時間の増大等がみられることから、利便性、高速性、快適性に対する利用者のニーズに適切に対応していく必要がある。
- (3) 社会的ニ一ズへの対応
- 公共輸送機関の運輸サービスの向上は、自家用自動車との調和ある発展を図る観点から重要であるが、このほかにも公共輸送機関はさまざまな社会的ニーズへの対応が要請されている。具体的な事例をあげると、大都市においては、鉄道の通勤・通学混雑を緩和するための施策の推進が求められており、他方、過疎地域においては、高齢者等の生活の足を確保することが求められている。また、高齢者・障害者等の増加に伴い、これらの人々が利用しやすい交通手段の整備がこれまで以上に強く求められている。さらに、21世紀に向けての国家的課題である多極分散型国土の形成を実現するため、高速の幹線ネットワークを全国的に展開し、地域間交流の促進を図ることも要請されている。これらの施策は、必ずしも旅客輸送需要の増大には直接結び付かないものや、また、需要量に比べて事業者に対する負担が大きいものであることなどから、必要に応じて、国や地域社会において、多様な視点による支援措置等を講じ、その実現を図っていくことが必要である〔1−3−5図〕。特に、地域における公共輸送機関は、都市機能の維持・向上、良好な住環境の形成、地域経済の活性化等に寄与するものである。このため、公共輸送機関等の交通システムの維持・整備に当たっては、適切に地域の意向を反映させるとともに、地域社会においても、創意工夫を行い、地域の実情に応じた対策を適時適切に講じることが必要である。
- 2 魅力ある公共輸送機関の整備と運輸サービスの向上
- 旅客、貨物の輸送量については、経済の拡大に伴い、今後とも増大していくものと思われる。また、旅客輸送については、ゆとりがあり、快適な輸送サービスが、貨物輸送については、時間、品質、温度等の管理が行き届いたきめ細かい輸送サービスが各々求められるようになるものと考えられる。
このため、輸送量の増加を適正に分担することができ、かつ、輸送サービスの質的高度化の要求に適切に対応することができる魅力ある交通手段としての公共輸送機関の整備が課題となっている。
- (1) 地下鉄等の都市鉄道の整備
- (ア) 地下鉄等の整備の進捗
- 人口・業務の集積が大きい大都市中心部においては、交通需要が極めて大きいことから、基幹的な部分については、今後とも地下鉄を中心とする鉄道網によって対応する一方、郊外部の居住地と業務 集積地との間の大量の旅客流動についても鉄道による対応が不可欠である。地下鉄については、現在までに全国9都市(東京都、札幌、仙台、横浜、名古屋、京都、大阪、神戸、福岡の各都市)において、総営業キロ543.1km(5年8月現在)の路線が整備されており、さらに各地でその延伸工事や整備計画が進められている〔1−3−6図〕。
また、需要規模からみて地下鉄等の都市鉄道では過剰な施設となる区間においては、モノレールや新交通システムの整備が進められている。
このほか、地方中核都市等においては、既存の路面電車、JR各社の路線、地方鉄道等を有効に活用することも今後の課題である。
- (イ) 国や地域社会におけるインセンティブの強化
- 大都市における新線建設や輸送力の増強工事については、用地の取得難、土地価格の高騰等から、膨大な資金を要し、その回収にも 長期間を要すること等の問題があり、必要とされる供給量に対して、その整備は大幅に遅れている。したがって、今後とも、鉄道事業者に対し、より質の高いサービスの提供に向けた経営努力を引き続き求めていくことはいうまでもないが、鉄道の利便性を享受している利用者やその他の受益者に対して、一層の協力と負担を求めていくことを検討する必要がある。
また、鉄道事業者の投資意欲を醸成し、鉄道整備を着実に推進していくためには、利用者負担を原則としつつも、鉄道整備基金による地下高速鉄道建設費補助制度、民鉄線建設補助制度、ニュータウン鉄道建設費助成制度等の各種の助成制度、特定都市鉄道整備積立金制度等を活用し、国や地域社会による投資促進のためのインセンティブを強化するなど、その協力と支援の体制の充実を検討していくことが必要となっている。
また、地方中枢都市の地下鉄等の都市鉄道の整備・運営については、建設費が高騰している一方、比較的長期間にわたって十分な需要を確保できないこと等から、累積赤字が増加する傾向もみられる。しかし、これらの地下鉄等は、自動車交通量の増大に伴う諸問題が深刻化することを回避しつつ、住民の円滑なモビリティを確保することによって、地方都市の活性化や地域の振興に資するものであることから、その整備・運営について、国、地域社会がそれぞれどのような協力と支援の仕組を採り得るのか早急に検討する必要がある。
- (2) バス・タクシ一の活性化
- バスは、昭和43年度をピ一クとして輸送人員が減少しているが、平成4年度でも1日当たり約2,300万人を輸送するなど身近な交通機関として重要な役割を果たしており、都市の郊外駅周辺や地方部の輸送においてはバスが公共輸送機関として、大きな役割を担っている。
都市部では、時間に正確な運行が困難になっていることから、走行環境の改善を図り、バスをより時間に正確で、より魅力ある公共輸送機関としていくことが必要となっている。また、利用者が停留所で苛立たずにバス待ちの時間を過ごせるようにするためのバスロケーションシステムの整備、さらに、バス専用・優先レーンの設置箇所において、このシステムと低床・広ドア車両、シェルター付停留所等を組み合わせた都市新バスシステムの導入が進められている。
このほか、各地方運輸局、都道府県警察、道路管理者、地方公共団体、バス事業者等関係者が一体となって、バス専用・優先レーン、バス優先信号の設置、違法駐車の排除等の走行環境改善施策に取組んでいる。
既にみたとおり、都市交通では、大量公共輸送機関の果たす役割が大きいが、個別輸送機関としては、タクシーは不特定多数の人がいつでも利用できるという意味で公共性があり、空間利用の面での効率性が自家用自動車に比べてはるかに高い。また、交通需要が希薄で、バスや鉄道等の公共輸送機関によるサービスレベルが低い地域における存在意義は極めて大きい。
これまでも利用者ニーズが多様化する中で、9人乗りの都市・深夜型乗合タクシーや郊外の鉄道駅と団地を結ぶ団地型乗合タクシー、大きな荷物があるときに便利なワゴンタクシー等新しいタイプのサービス提供が進められてきた〔1−3−7表〕。また、5年5月の運輸政策審議会の「今後のタクシー事業のあり方について」の答申を受けて、運賃料金の多様化及び需給調整の弾力化を進め、サービスの多様化を図ることとしている。
- (3) 地域間高速交通の整備
- 地域間の高速交通ネットワークの整備は、人々の生活空間の拡大、活動の可能性を拡げるとともに、東京一極集中の是正と、多極分散型国土の形成に貢献してきた。高速道路等の整備で長距離の輸送においても自動車の進出が目覚ましいが、長距離輸送は本来、鉄道、航空等の公共輸送機関が大きな力を発揮できる分野であり、安全、快適でかつより高速性の高いサービスの提供が求められている。
特に、鉄道については、道路交通混雑緩和、環境・エネルギー安全問題等の観点から、世界各国においても見直されるようになっており、都市間鉄道の整備計画が次々と具体化に移されている〔1−3−8表〕。
(ア) 鉄道ネットワ一クの充実
(新幹線の整備)
東海道新幹線の輸送力増強を図るため、変電所の新設等を進めているほか、品川新駅の設置についても現在関係者間で調整が進められている。また、整備新幹線の建設については、着工優先順位、財源問題等の基本的事項について定めた基本スキームに従って、現在3線5区間の工事が進められている。
(新幹線と在来線の直通運転化)
新幹線と在来線の直通運転化は、新幹線の便益を在来線に拡大するとともに、幹線鉄道の高速化を図るものである。4年7月の新型車両「つばさ」による福島〜山形間の直通運転化に引き続き、盛岡〜秋田間でも工事が進められているが、その完成により、東京〜秋田間の所要時間約4時間30分が4時間程度に短縮されることになる。
(在来線の高速化)
在来線については、表定速度でみれば、60〜90km/hの区間が大半となっているため、線路の改良、軌道強化、新型車両の導入等によって、高速化を図っている。
(技術開発)
さらに、新幹線については、300km/h台の営業運転最高速度を目指して、次世代の新型車両の開発が進められており、4年度からは、高速試験車両を用いた走行試験も実施されている。
また、超電導磁気浮上式鉄道については、営業最高速度 500km/hをめざして従来から技術開発が行われており、2年度から山梨県で新実験線の建設が進められている。
(イ) 航空ネットワークの充実
航空は高速性に最も優れており、長距離帯での移動や海越え、山越えを伴う移動で最も重要な役割を果たしており、1,000km以上の距離帯では航空は圧倒的に優位に立っている。また、近年、地方部相互間の交流も活発化しつつあり、新たな地方空港の設置に伴い、航空の占める割合が高くなっている。
(二大都市圏を基点とする航空ネットワークの充実)
国内航空ネットワークは、東京国際空港、大阪国際空港を中心に形成されているが、その処理能力は、いずれも限界に達している〔1−3−9図〕。このため、東京国際空港の沖合展開、関西国際空港の6年9月の開港に向けた整備を進めている。また、新東京国際空港については、地元の理解を得て、残された2本の滑走路の整備に努めることとしているが、これにより、国際線のほか、乗継便等の国内線についても充実が図られる。このほか、首都圏における新空港構想の調査等を鋭意進めている。
(地方拠点空港を基点とする航空ネットワークの充実)
近年、地方相互間の交流が活発化しつつあり、これに伴い、地方中枢都市の役割が高まっている。このため、地方中枢都市に位置する地方拠点空港相互間あるいは地方拠点空港とその他の地方空港を直行便で結ぶ航空ネットワークの充実を図っており、これに対応して、地方拠点空港については、空港ターミナル地域の整備、拡充等を、その他の地方空港については、ジェット化、大型化等の所要の整備を進めている。
(ウ) 海上高速交通、高速バスネットワーク等の充実
海上交通の分野でも、高速化が進んでいる。超高速船としては、ジェットフォイルが、その代表的なものであり、現在では、8航路に12隻が就航しているが、これらの海上高速交通に対応して、所要の港湾施設の整備を行うことも必要となっている。
また、近年、高速バスの人気が高まっている。高速バスは、新幹線や航空と比較して、所要時間が長く、輸送量も小さいが、運賃の低廉性、移動時の快適性、夜行便の設定等により、利用が増加している。
- (4) 利便性、快適性の向上
- (ア) アクセスの充実
- ドア・ツー・ドアでの移動時間の短縮を図るためには、基幹となる交通機関の高速化を図るだけでなく、空港、新幹線駅等の高速交通機関へのアクセスの充実を図ることが必要である。
このため、アクセス手段の整備、空港や高速鉄道のターミナルにおける移動の短縮化・容易化、効率的なダイヤの設定、情報提供施設の充実等のハード・ソフト両面にわたる対策が求められている。
特に、空港については、都市部から離れた場所に設置されることが多く、航空の持つ優れた高速性を十二分に活かすには、高速で定時性の高い軌道系アクセス手段の整備が大きな課題である。
- (イ) 乗継ぎ利便の向上
- 地域内交通では、大都市を中心に、エスカレーターの設置等によるターミナル内の移動の容易化・短縮化、交通機関相互のダイヤ調整、鉄道の相互直通運転、共通乗車券の導入、乗継ぎ等に関する情報提供システムの整備等が進められている。
- (ウ) カードシステムの導入
- ストアードフェアカード(改札時運賃自動引落しカードシステム)等のカードシステムは、鉄道やバスの円滑な利用を可能とするものであり、運輸省としても、事業者がその導入を行うに当たり、積極的な支援を行っている。現在、カードシステムは、大都市を中心にかなり普及しており、4年6月には、横浜市の地下鉄とバス、川崎市、神奈川中央交通(株)のバスの3社間で共通のストアードフェアカードが導入された〔1−3−10表〕。今後、利用者利便のより一層の向上のために、異種・複数事業者間で、システムの共通化を行い、複数交通機関の乗継ぎ、乗換えをスムーズにすることが大きな課題である。カードシステムの共通化を進めるについては、システム機器の標準化、セキュリティの確保、トラブル発生時の速やかな対応等の問題があるが、利用者利便のより一層の向上のためには、これらの諸問題を克服し、共通化の拡大を図っていくことが必要である。
- (エ) 車両の快適性の向上
- 大都市の鉄道の冷房化は、着実に進んでおり、利用者から高い評価を受けている〔1−3−11図〕。
特に、近年では、弱冷房車の導入等きめの細かいサービスの提供や地下鉄の冷房化が積極的に進められている。また、負担が増してもより質の高いサービスを求める利用者が多くなっている中で、JRや私鉄各社は、遠距離通勤対策として、一般車両の混雑状況にも配慮しつつ、追加料金の支払によって全員が着席できる通勤快速電車、通勤定期券でも利用可能な特急・急行列車を連行している〔1−3−12図〕。
なお、自家用乗用車と比べて鉄道等の公共輸送機関による移動においては、自らが運転する必要がない分その時間を有効に使えることが一つの利点といえる〔1−3−13図〕。
移動する際の快適性をより一層高めるため、鉄道の車両については、液晶テレビ、オーディオ等の装備、二階建車両や個室、展望室等を設置した新型車両、さらには、北斗星やトワイライトエクスプレスのような豪華寝台列車の導入等いろいろな創意工夫が試みられている。
また、乗合バスの車両については、冷房化、低床・広ドア、大型窓を備えた車両の導入、シート・ピッチの拡幅等が進められている。
このほか、ターミナルについては、従来から、エスカレーターの設置、冷房化の推進、情報案内施設の充実等が進められてきたが、近年では、さらに、ギャラリー、集会所、コンビニエンスストア、地方公共団体の出張所等の設置、各種の予約・取り次ぎサービスの提供等も行われるようになっている。今後は、生活の拠点、情報の拠点として、一層その高度利用を図っていくことが期待されている〔1−3−14図〕。
- (5) 貨物輸送の効率化
- (ア) モーダルシフトの推進
- 地域間の貨物輸送を効率化するため、トラックから鉄道、海運に 輸送機関を転換するモーダルシフトの推進が大きな課題となっている。
このため、鉄道については、鉄道整備基金の助成制度を活用したコンテナ列車の長大編成化のために必要な鉄道施設の整備、海運については、船舶整備公団の共有建造方式を活用したフェリー、RORO船、コンテナ船の整備等により輸送力の増強を進めている〔1−3−15図〕。今後は、さらに、所要時間、荷役方式、時間帯等についてサービスの向上を図ることが必要である。また、鉄道、海運と末端のトラック輸送を機能的に組み合わせるための結節点である港湾、鉄道ターミナル、コンテナデポ等の複合一貫輸送施設、これらの施設へのアクセス道路等の整備を図ることも必要である。
このほか、新形式超高速船(テクノスーパーライナー)の研究・開発やこれに対応した輸送システム、港湾整備等に関する検討を引き続き進めていくことも必要である。
また、鉄道や海運に転換できない幹線のトラック輸送については、車両や貨物に関する情報ネットワークを通じた効率的な輸送を提供する必要がある。
- (イ) 積合せ輸送の推進
- 地域内輸送においては、トラック輸送に頼ることとなるが、営業用トラックは複数荷主の貨物の積合せが可能であり、自家用トラックに比べ、輸送効率が格段に良いことから、営業用トラックへの利用の転換が重要である。
また、都市の問屋街、商店街のように集配貨物が大量に発生する商業・業務集積地に関しては、集荷、配送を共同化する共同集配システムを構築することが極めて有効である。福岡市の天神地区等では、既にこのような試みがなされている。
なお、トラックの道路通行積載容量の緩和も輸送効率を高める上で重要な課題となっている。
さらに、都市内のトラック輸送についても、車両や貨物に関する情報システムを確立し、積合せ輸送の促進を図ることが必要である。
ジャスト・イン・タイムサービスについても、非効率な面を含むような過度なサービスはその見直しが求められている。また、労働集約的なサービスには相対的に高い運賃・料金を設定するなど、コストを反映した適正な価格体系の形成を図ることも必要である。
- 3 社会的ニーズに対応した運輸サービスの向上
- 大都市の通勤・通学混雑、高齢者・障害者等の安全かつ円滑な移動の確保等の問題については、私的輸送機関による対応には限界があり、国や地域社会において支援措置を講じるとともに、社会全体の理解と協力を得つつ、公共輸送機関による対応を図ることが必要となる。
(1) 大都市における通勤・通学混雑の緩和
大都市の鉄道については、事業者によりラッシュ時の輸送力の増強が徐々に進められつつあるものの、通勤・通学混雑の状況は依然として厳しい状況にある。特に、東京圏においては、ラッシュ時の混雑率が200%(体が触れ合い相当圧迫感がある状態)を超える区間も少なくないほか、250%(電車が揺れるたびに体が斜めになって身動きができず、手も動かせない状態)を超える区間も存在している。こうした状況を踏まえ、長期的にはラッシュ時の主要区間の平均混雑率を全体として150%(肩がふれあう程度で新聞は楽に読める状態)程度まで緩和し、特に、混雑率の高い東京圏ではおおむね10年程度で180%(体がふれあうが、新聞は読める状態)程度にまで緩和することを考えている。このため、輸送力の増強と時差通勤の促進の二つを大きな柱として、通勤・通学混雑の緩和を図っていくこととしている。
- (ア) 輸送力の増強
- 輸送力の増強のための対策としては、従来から進めてきた列車の長大編成化、運行本数の増加等の施策を推進するほか、より抜本的な対策として、引き続き、複々線化、新線建設等を進める必要がある。また、列車速度の向上による到達時間の短縮による快適な通勤・通学の実現も重要な課題となっている。
なお、複々線化工事等の実施にあたっては、用地取得問題等の諸問題を克服しつつ、鋭意進めることが喫緊の急務となっていることは既に述べた通りである。
- (イ) 時差通勤の促進
- 通勤者の出社時刻が短い時間帯に集中していることから、朝のピーク時間帯に突出して混雑がみられる。したがって、輸送需要をその前後に分散させれば、長期間にわたり膨大な資金を投入して工事を行うよりも短期間かつ安いコストで現在の通勤・通学混雑を一定程度緩和することが可能となる。すなわち、時差通勤による需要の平準化は大都市における公共輸送機関の上手な利用方法といえる。
最近ではフレックスタイム制の導入等企業の側における出勤時刻を弾力化する動きがみられる〔1−3−16図〕。
運輸省としては、4年4月から時差通勤問題懇談会を設け、時差通勤拡大に向けた方策について検討するとともに、企業側の動きも踏まえつつ、行政、鉄道事業者等が一体となってキャンペーンを進めてきた。さらに、時差通勤、フレックスタイム制の導入を一層強力に促進するため、5年9月には、労使代表、関係行政機関等で構成する快適通勤推進協議会(第1回)を開催するなど、時差通勤等の具体的実施に向けた活動を行っている。また、時差通勤等の促進に資する新たな運賃制度の導入について検討を進めている。
(2) 高齢者・障害者等にやさしい運輸サービス
高齢者・障害者等の就労意欲や余暇、社会活動への参加意欲は強い。こうした高齢者・障害者等が家から目的地まで安全に、かつ、身体的負担の少ない方法で移動するには、公共交通ターミナルや車両の整備・改良が不可欠である。
このため、従来から、各種のガイドライン等に基づき、駅のエスカレーター、エレベーターの設置・改良、ホーム上の視覚障害者用誘導・警告ブロックの設置、リフト付きバスの導入等の対策を進めるよう、各交通事業者を指導してきた〔1−3−17表(a)〕〔同表(b)〕ところであり、また、最近の新しい運輸関係施設の整備ニーズやさまざまな技術開発等を反映した新たな施設整備ガイドラインを5年度内に策定することとしている。さらに、今後における高齢者・障害者等のための施設整備の具体的なモデルケースとするため、5年度から3年間をかけて、横浜市と金沢市において、「高齢者・障害者等のためのモデル交通計画」を策定することとしている。
このような高齢者・障害者等のための施設等整備は、利用者の利便の増進にもつながることから、従来より基本的には利用者全体の負担によって整備している。しかしながら、利用者全体に過重な負担をかけずに施設等の整備を促進するため、日本開発銀行等のJR、民鉄等に対する低利融資の対象工事に、エレベーター、エスカレーター等の高齢者・障害者等のための施設を含めている。また、5年度には、駅及び空港旅客ターミナルにおける高齢者・障害者等のための施設整備を特に対象として日本開発銀行等の低利融資制度を創設したところである。
また、地方公共団体において福祉政策の観点から、鉄道駅におけるエレベーターやエスカレーターの設置に対する措置を講じる例もみられるようになってきている。
運輸省としては、今後とも、交通事業者に対する指導を適切に行うとともに、 各種助成制度を活用することにより、高齢者、障害者等のための施設等の整備を推進していくこととしている。
以上のような施設等整備のほか、鉄道、バス、タクシー、航空等において、身体障害者や精神薄弱者のための運賃割引制度も導入している。
なお、高齢者・障害者等が安全かつ円滑に移動できるようにするためには、以上のような施策のほか、高齢者・障害者等に対して、周囲の利用者が進んで手助けをするような社会環境づくりも重要である。
(3) 過疎地域をはじめとする地方部の生活の足の確保
地方バス、鉄道は、地域住民の生活の足として、重要な役割を果たしているが、輸送需要の減少等により、その経営は、大変厳しい状況にある。
このため、地方バス事業者の集約化、競合路線の整理等による経営の合理化の推進を図る一方、地域住民の生活上不可欠なバス路線について欠損補助を行い路線の維持を図るとともに、バス事業者が廃止した路線において、市町村等が代替バスを運行する場合には地方公共団体と協力して所要の助成措置を行うことにより、地域住民の足を確保している。
また、10人乗りの大型車両等を利用して、定時・定路線運行を行う乗合タクシーや路線バスが乗客とともに宅配貨物を運ぶ宅配バスの運行が、地域の実情に応じ試みられはじめている。
また、鉄道事業者に対しても、設備の近代化を推進することにより、経営改善、サービス改善等の効果が著しいと認められるものに対して、整備費の一部を補助(近代化補助)するなど各種の助成措置を講じている。
離島航路、離島航空路は、離島住民の生活の足として、重要な役割を果たしているが、その経営は、大変厳しい状況にある。このため、離島航路については、一定の要件を備えた航路に対して、その経営により生じた欠損に対して補助金を交付し、維持・整備を図っているところである。また、船舶整備公団の活用等により、船舶の大型化・高速化を進めているところである。さらに、離島港湾等の施設についても重点的に整備を行っている。また、離島航空路については、空港使用量の軽減、小型航空機の購入費補助等の助成措置を講じ、その維持・整備を図っている。
4 自動車を中心とする環境・安全対策
- (1) 運輸活動による環境負荷の軽減
- 交通機関のCO2、NOx等の排出量を抑制する観点からは、旅客輸送については、自家用車から公共輸送機関への旅客の誘導が望ましく、また、貨物輸送については、貨物輸送体系の効率化が必要となる。さらに、自動車は、旅客、貨物とも輸送シェアの半分以上を占め、環境に対する影響も非常に大きいことから、次のようなCO2、NOxの排出抑制対策を進めている。
(ア) 排出ガス対策
昭和41年以降、20数回の規制強化を実施するなど世界でも最も厳しい排出ガス対策を実施してきている。
最近では、窒素酸化物及び黒煙の規制強化、粒子状物質の規制導入等を内容とする平成3年〜6年規制を推進している〔1−3−18図〕。
(イ) NOx法による総合対策
4年6月に「自動車から排出される窒素酸化物の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法(NOx法)」が公布され、大都市地域におけるディーゼルトラック、バス等の車検制度を使っての使用車種規制をはじめとするNOx 削減のための総合施策を講じている。
(ウ) 低公害車の導入
環境への負荷を軽減するには、低公害車の開発や普及が有効であり、メタノール自動車、電気自動車、ハイブリッド自動車、CNG(圧縮天然ガス)自動車の開発・導入が進められている〔1−3−19図〕。
低公害車の導入を促進するため、国や地方公共団体による低利融資制度、税制上の優遇措置及び運輸事業振興助成交付金を活用した助成措置が実施されているが、さらに、栃木県の奥日光地区のように、自然環境の保全を図る観点から、県公安委員会が観光目的の自家用自動車等の乗入れを規制し、その代わりに地方公共団体が低公害バスの運行を行っている。
(2) 安全対策
自動車輸送の活発化により、道路交通事故及び事故による死傷者数は年々増加してきた。人命尊重はなにものにも優先するものであり、交通事故を防止するための自動車安全対策を強力に推進していく必要がある。
4年3月、運輸技術審議会は、「自動車安全基準の拡充強化目標」について答申した。これは、衝突時の自動車の衝撃吸収能力の向上、シートベルト非着用時の警報装置の導入等を内容とするもので、今後はこの答申に沿った安全基準の強化対策を計画的に推進していく必要がある。
また、先端技術を駆使した先進安全白動車(ASV)の開発をはじめとする技術開発、(財)交通事故総合分析センターを活用した総合的な事故分析等安全対策を効果的に進める施策も行われている。
さらに、5年6月、運輸技術審議会は、「今後の自動車の検査及び点検整備のあり方について」について答申した。これは、定期点検整備の簡素化を図るなど、モータリゼーションの成熟を踏まえて自動車ユーザーによる自主的な保守管理の方向を示したものであり、今後関係者の密接な協力により速やかにその実施を図っていくことが必要である。

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