むすび |
こうした自動車交通量の増加は、世界各国の共通の問題ともいえる。一部の国では、自動車交通以外に交通需要を分担させる手段がないため、慢性的な道路交通渋滞が発生し、健全な都市活動の維持が極めて困難な状態に陥っている。また、一定区域への乗入れ制限、乗入れ料金の徴収等の車に対する直接的な規制手段を講じているところもある。
幸いにして、我が国は、鉄道をはじめとする公共交通機関が相当発達している状況でモータリゼーションが進展したため、これらの公共輸送機関の活用が可能であった。本論では、我が国においては、アンケート調査結果にもみられるように、魅力ある公共輸送機関の整備を図ることにより、公共輸送機関と自家用自動車の調和ある発展を図ることが望ましい方向と位置づけた。そして、公共輸送機関においては、今後より一層の高度化・多様化が予想される利用者ニーズを的確に把握し、その魅力の向上に努めていくことが必要と考えた。しかし、魅力ある公共輸送機関の整備や運輸サービスの向上を進めていくには、当然それに見合うコストがかかるのであり、利用者であり、かつ納税者である国民、国、地域社会がコンセンサスを図りつつ、適切な負担と協力を行うことが不可欠となる。また、運輸事業者が利用者ニーズに迅速かつ的確に対応し、利用者がより良質の運輸サービスを享受することができるようにするためには、事業規制その他の規制について適時適切に見直していくことが必要である。運輸省においては、この観点から今後3年間で許認可事項を2割削減することとし、その作業を鋭意進めている。
また、21世紀に向けて、公共輸送機関に課せられたもう一つの大きな課題である大都市の通勤・通学混雑の解消、多極分散型国土の形成、高齢化社会への対応といった様々な社会的ニーズへの対応についても、公共輸送機関は、その社会的使命を自覚し、これらのニーズに的確に対応していくことが必要であるが、このことについても、国民的コンセンサスのもとで国民の相応の負担や経済界、労働界の協力、さらに、国、地域社会による支援体制の確立がぜひとも必要となっている。
今日、豊かでゆとりある生活の実現が強く求められており、その実現のためには、これまでみてきたような生活関連の運輸関係社会資本の充実が大きな課題となっている。さらに、その「豊かさ」や「ゆとり」の実感や「道路交通渋滞」、「通勤・通学混雑」、「環境・エネルギー問題」等への国民の意識も時代とともによりよいものを求めて変化するものであり、世代を超えて豊かな生活を築いていけるよう、運輸サービスは、国民の理解と協力の下で向上に向けた不断の努力を求められているものと考える。