平成5年度 運輸白書

第10章 地球環境の保全

第10章 地球環境の保全

第1節 地球環境問題への対応

 地球温暖化、オゾン層の破壊、海洋汚染等をはじめとする地球環境問題は、人類にとってその生存の基盤を脅かしかねない重大なものである。こうした認識のもと運輸省では、観測・監視体制の充実強化のほか、運輸部門における二酸化炭素、窒素酸化物等の排出総量の大宗を占める自動車輸送において、排出ガス規制・燃費基準の強化、低公害車の普及等の対策を総合的に進めるとともに、環境負荷が少なくエネルギー効率も高い鉄道や海運へのモーダルシフト等について省全体をあげた取組みを展開している。
 また、海洋汚染問題については、「海洋汚染及び海上災害の防止に関する法律」(以下「海防法」という。)を中心として、我が国周辺海域における汚染防止に取組んでいるほか、国際海事機関(IMO)の場において海洋環境の保全のための国際的取組みに積極的に参加・貢献するとともに、船舶からの油流出事故に対する国際的な油防除体制の整備や、船舶からの油流出防止技術の研究開発を推進している。

    1 地球環境問題をめぐる内外の動き
    2 地球環境問題の解決をめざした運輸の対応


1 地球環境問題をめぐる内外の動き
 (地球サミットを踏まえた取組)
 平成4年6月の地球サミットのフォローアップとして我が国においては、5年5月に気候変動に関する国際連合枠組条約を締結するとともに、地球サミットにおいて採択されたアジェンダ21に係る国別行動計画の作成について5年中の作成、公表をめざして取組みが進められている。
 また、政府は、地球環境時代に対応した環境政策の総合的展開を図るため「環境基本法案」を平成5年3月に国会に提出した。同法案は成立目前で衆議院の解散により廃案となったが、その重要性にかんがみ、同年9月再び国会に提出している。
 「環境基本法案」には、環境の保全についての基本理念として、環境の恵沢の享受と継承等、環境への負荷の少ない持続的発展が可能な社会の構築等及び国際的協調による地球環境保全の積極的推進という三つの基本理念を定めるとともに、国、地方公共団体、事業者及び国民の環境の保全に係る責務を明らかにし、さらに、環境の保全に関する施策に関し、施策の策定及び実施に係る指針を明示し、また、環境基本計画、環境基準、公害防止計画、国等の施策における環境配慮、環境影響評価の推進、環境の保全上の支障を防止するための規制の措置、環境の保全上の支障を防止するための経済的措置、環境の保全に関する施設の整備その他の事業の推進、環境への負荷の低減に資する製品等の利用の促進、環境教育、民間の自発的な活動の促進、科学技術の振興、地球環境保全等に関する国際協力、費用負担及び財政措置など基本的な施策のあり方を規定している。
 (海洋汚染をめぐるIMOの動き)
 IMOでは、船舶に起因する海洋汚染防止に関する条約である「1973年の船舶による汚染の防止のための国際条約に関する1978年の議定書」(MARPOL73/78条約)などを基礎に、常に新たな課題への対応を進めてきているが、4年3月には、@油の排出基準の強化、A油タンカーに対する二重船殻構造の義務付け、等を内容とする条約改正を採択したほか、船舶からの排出ガス抑制対策についても検討を進めている。
 また、大規模な油流出事故が発生した場合の緊急防除に関する国際協力体制の整備を主たる目的とする「1990年の油汚染に対する準備、対応及び協力に関する国際条約(仮称)」(OPRC条約)が2年11月に採択されており、5年7月現在、10ヶ国が批准している(15ヶ国批准後、12ヶ月で発効)。
 さらにIMOでは、油濁損害による損害賠償の充実を図るため、4年11月に船舶所有者の責任限度額の引上げ等を主な内容とする抽濁二条約の改正議定書(92議定書)を採択した。
 (オゾン層保護をめぐる動き)
 地球を有害紫外線から守る働きを持つオゾン層保護のため、4年11月に開催されたモントリオール議定書締約国会議において、船舶や鉄道の消火剤として使用されている特定ハロンについて6年1月1日から生産全廃、カーエアコンや冷蔵倉庫等の冷媒に使用されている特定フロン等については8年1月1日からの生産全廃を決定するとともに、これまで規制対象外であったフロン類の一部等の規制対象への追加などを内容とする議定書の改正が採択された。

2 地球環境問題の解決をめざした運輸の対応
(1) 観測・監視体制の充実〔2−10−1図〕
 (地球温暖化問題)
 気象、水象、地象等の総合的観測、予測等を通じて災害の予防、交通の安全の確保等に寄与する業務を行っている気象庁では、地球温暖化現象の実態解明を進めるため、世界気象機関(WMO)が推進している世界気象監視(WWW)計画や全球大気監視(GAW)計画等に基づく全球的な観測網の一翼として観測・監視体制の強化を図っている。5年3月からは、南鳥島気象観測所の設備や機能を充実し、WMOの大気バックグランド汚染観測網の基準観測所として大気中の二酸化炭素濃度の観測を開始し、6年1月からは、オゾン、メタン、一酸化炭素の濃度観測を開始することとしている。また、5年4月からは日本−オーストラリア間の上層大気中の温室効果気体の定常観測を(財)日航財団の協力により開始した。5年度には、海洋気象観測船「凌風丸」により、これまでの北西太平洋域の温室効果気体の観測に加え、海水中の有機炭素、有機窒素の観測を開始することとしている。地球温暖化に関する世界各国の観測・監視データについては、気象庁に設置された「WMO温室効果気体世界資料センター」の役割を兼ねる「温暖化情報センター」において収集・管理・提供を行っており、5年3月には、温室効果気体と気候変動の動向及びオゾン層の状況についての総合的評価を「地球温暖化監視レポート1992」として取りまとめ、公表している。
 このほか、気象庁では、WMOの推進している世界気候研究計画(WCRP)に沿って、気候変動の予測精度の向上を目指した気候モデルの高度化のための研究及び世界的に解明が急がれている雲の地球温暖化への影響、二酸化炭素等の大気−海洋間の循環等に関する研究を進めている。
 海上における船舶交通の安全確保等のほか水路の測量、海象の観測を行っている海上保安庁では、地球温暖化への海洋の果たす役割等に関し、定常的な海洋観測や、国連教育科学文化機関・政府間海洋学委員会(UNESCO/IOC)の西太平洋海域共同調査(WESTPAC)の一環としての大型測量船「拓洋」による海洋精密観測や漂流ブイの追跡観測等による海況変動の監視を行うとともに、地球温暖化に伴う海面水位変動の監視を実施している。
 また、海上保安庁の「日本海洋データセンター」では、こうした各種の観測から得られた海洋データの一元的な収集・管理・提供を行っている。
 さらに、地球規模の気候変動における海洋の役割等を把握するため、地球温暖化に係る国際的なプロジェクトである世界海洋循環実験(WOCE)に、気象庁と海上保安庁が参画している。
 (オゾン層の破壊)〔2−10−2表〕
 気象庁の観測結果によれば、極域を除く全球平均オゾン全量は10年に約3%の割合で減少しており、4年には南極で過去最大のオゾンホールが観測された。国内においても札幌で4年11月以降12月を除き5年6月まで、その月における過去最低のオゾン全量を記録し続けた。このようにオゾン層の破壊が引き続き進行していることから、さらに観測体制を強化するため、5年度に南鳥島においてオゾン層の観測を開始するほか、オゾン層及びオゾン層破壊物質の観測・解析及び関連の研究を推進している。
 (海洋汚染及び海洋変動)
 海上保安庁及び気象庁は、我が国周辺海域、主要湾等において、海水及び海底堆積物中の油分、PCB、重金属等の汚染調査、海洋における海上漂流物の定期的な実態調査を行っているほか、IOCの海洋汚染モニタリング計画に参画し、廃油ボールの漂流・漂着状況の調査を行っている。また、5年4月に明らかとなった旧ソ連・ロシアの放射性廃棄物の日本海への投棄に関連し、急きょ、日本海において放射能調査を行った。
 さらに、気象庁では日本周辺及び西太平洋海域の海洋変動の監視及びエルニーニョ現象等の予測モデルの開発を行っており、エルニーニョ監視センターではエルニーニョ現象等の大規模海洋変動等の監視・予測を行い、その成果をエルニーニョ監視速報等により発表している。
(2) 環境と調和した運輸の構築
 地球温暖化問題については、2年10月に「地球温暖化防止行動計画」が定められ、我が国全体として二酸化炭素(CO2)の排出を抑制するための各種対策が講じられており、国内におけるCO2排出量の約2割を占める運輸部門についても、CO2の排出を抑制するために自動車燃費の改善や天然ガス自動車等の普及促進等の省エネルギー・CO2排出抑制対策を交通機関ごとに進めるとともに、物流における内航海運、鉄道の利用促進、共同輸配送等の促進、旅客輸送における公共交通機関の利用促進等により、全体としてエネルギー効率が良くCO2排出量の少ない交通体系の形成を進めている。
 また、地球温暖化により海面が上昇した場合、人口、資産が集中する臨海部の諸機能に重大な影響を及ぼすことが予想されるため、臨海部への影響の予測と被害を未然に防止するための具体的な対策について国内的な検討を進めているが、5年8月には国際的に気候変動に関する知見を集積、評価する「気候変動に関する政府間パネル」(IPCC)の協力下で「海面上昇問題に関する東半球国際会議」をつくば市において主催し、アジア・太平洋諸国等との知見の交換など積極的な国際貢献も行っている。
 オゾン層保護に関しては、特定フロン及び特定ハロンについて、自動車のカーエアコンの整備時における特定フロンの大気中への放出の抑制指導、回収再利用の検討、船舶における特定ハロンの使用抑制の指導を行うとともに、各種運輸関連施設、設備についても、これらを使用しないものへの転換を促進するための税制上の優遇措置等を講じている。
 海洋汚染に関しては、4年3月に採択されたMARPOL73/78条約の改正を受けて、船舶からの油の排出基準の強化や油タンカーに対する二重船殻構造の義務付けなどの海防法等関係法令の整備を行った。
 また、2年11年に採択されたOPRC条約の早期批准に向けた国内体制の整備を進めている。
 このほか、我が国への主要なタンカールートであるアセアン諸国周辺海域における大規模油流出事故時の油防除に関する地域協力体制の整備を図ることを目的として2年度より推進してきた「OSPAR計画」については、5年5月に東京でアセアン諸国の政府代表者との協力会議を開催し、5年度中に(財)日本船舶振興会及び我が国の海運業界の資金協力のもとアセアン諸国に対してオイルフェンス等の油防除資機材や油防除に関する情報ネットワークシステムの供与を行うこととなった。
(3)国際的な協力
 運輸分野における環境関係の開発途上国に対する国際協力については、我が国における技術、経験の蓄積を生かし、@鉄道等公共交通機関の整備によるエネルギー効率が良く環境負荷の少ない交通体系の形成、A自動車の修理・検査体制の整備等による交通機関からの環境負荷の低減・抑制、B気候変動に関する観測・監視体制の整備、C海洋汚染防止能力の向上等の分野において積極的な協力を実施している。
 また、運輸基盤施設の整備等の国際協力に関し開発途上国の環境保全に十分配慮するための指針作りを進めており、3年度の港湾分野、4年度の鉄道分野についで5年度は航空分野について指針作りを行うこととしている。



平成5年度

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