平成5年度 運輸白書

第3章 阪神・淡路大震災と運輸

第2節 モーダルシフトの推進

    1 モーダルシフト推進の必要性
    2 モーダルシフト円滑化策
    3 モーダルシフト推進のための受け皿の整備


1 モーダルシフト推進の必要性
 トラック輸送は、わが国の貨物輸送の中で、高速道路網を中心とした道路整備の進展を背景とし、ドア・ツー・ドア輸送が可能であることなどの機動性や利便性により著しい伸びを示してきた。そして今や国内貨物輸送量のトンキロベースでのシェアの半分以上を占めるに至っている。
 しかし、近年、トラック輸送において、幹線道路における道路交通混雑により以前に比べて定時性の確保が難しくなってきており、輸送時間の伸長等の問題も顕在化している。また、大量の貨物を輸送する際の労働者一人あたりの貨物輸送量、一定の貨物輸送量に対する二酸化炭素の排出量を考えれば、トラック輸送は、鉄道・海運に比べて効率的な輸送機関とは言い難く、大気汚染への影響も大きい。
 このため、端末輸送の分野におけるトラック輸送との連携を図りつつ、特に幹線貨物輸送の分野において、トラックから省力型、低公害型の大量輸送機関である鉄道・海運へ輸送機関を転換するモーダルシフトを推進し、諸制約要因の緩和を図っていくことが重要な課題となっている。

2 モーダルシフト円滑化策
 モーダルシフトを円滑かつ効果的に推進していくためには、大量輸送機関である鉄道・海運の長所を生かしつつ、荷主ニーズであるドア・ツー・ドアの機動性を満たすに足る複合一貫輸送体系を構築することが必要である。
 このためには、物流事業者や荷主企業等の関係事業者が鉄道や海運を利用しやすいような環境を整備することが必要である。
 このような状況を踏まえ、運輸省は、平成2年12月に施行された貨物運送取扱事業法により、従来の通運事業等について事業規制の緩和を行い、これらの事業が複合一貫輸送のコーディネーターとして、より一層積極的な役割を果たしていくことのできる環境の整備を図っている。
 また、財政投融資制度や、税制措置を通じて、鉄道輸送や海運の利用促進に資する設備、機器の整備を図るための支援措置の拡充を図っており、5年度においては、複合一貫輸送用機器及び情報システムの整備に対する開銀融資制度等を創設した。
 更に、5年5月より学識経験者、関係業界等からなる「モーダルシフトを推進するための鉄道・海運の活用方策に関する懇談会」を開催し、輸送の方法、ダイヤ設定等を中心とした改善方策の検討を行っている。

3 モーダルシフト推進のための受け皿の整備
 モーダルシフトを推進していくためには、関係事業者が鉄道や海運を利用しやすいような環境を形成する一方で、輸送需要転換の受け皿となる鉄道・海運の輸送力増強を図らなければならない。
 しかしそのために必要なインフラ等の整備に当たっては膨大な費用を要することから、このような輸送力増強のためのインフラ整備等に対しても行政上の支援措置を講ずる必要がある。
(1) 鉄道の貨物輸送力増強
 現在の鉄道貨物輸送力を増大させるためには、より一層のダイヤの増強が必要であるが、既にダイヤが過密状態となっている主要幹線においては、今後大幅なダイヤ増強は困難であると考えられる。
 従って、主要幹線における貨物輸送力を増大させていくためには、可能な範囲でダイヤ増強を行う一方で、コンテナ列車の長大編成化を図ることが必要である。
 5年6月には、東海道線におけるコンテナ列車について、現在の20両主体の編成を当面26両主体とするための貨物ターミナル駅の着発線、荷役線及び留置線や中間駅における待避線の延伸、変電所の新設等の整備工事が着工された。
 運輸省としては、引き続き、これらの施設整備に対する鉄道整備基金からの無利子貸付等や、コンテナ列車の長大編成化にあたって必要な大出力大型電気機関車の税制上の特例措置等を活用することにより、鉄道の貨物輸送力増強を図っていくこととしている。
(2) 内航海運の輸送力増強
 モーダルシフトのもう一方の受け皿となる内航海運については、コンテナ貨物や雑貨といった小口貨物の輸送に適したコンテナ船、ロールオン・ロールオフ船(注1)等の整備が必要である。
 このため、コンテナ船、ロールオン・ロールオフ船等の整備に関しては、船腹調整制度(注2)の運用を4年度以降弾力化している。また、船舶整備公団との共有建造方式においても、4年度に長距離フェリー、5年度に自動車専用船、中距離フェリーについて公団共有比率の引上げを実施したほか、船舶整備公団の事業費枠の拡大を図りこれからの建造を積極的に進めている。
 また、モーダルシフトの新たな受け皿として期待されるテクノスーパーライナー(注3)の技術開発を進めるとともに、テクノスーパーライナーを活用した輸送システム、港湾システム、事業運営システム等の検討を行っている。
 更に、第8次港湾整備五箇年計画に基づき、コンテナ船等に対応する内貿ユニットロードターミナル(注4)の整備を積極的に推進している。

(注1) トラックやトレーラー、フォークリフト等の車両が貨物を積載したまま自走して乗船する貨物船。荷役作業が大幅に省力化できる。
(注2) 内航船の船腹量の適正化を図るため、日本内航海運組合総連合会が行っているスクラップ・アンド・ビルド方式で内航船の船腹量を調整する制度。
(注3) 速力50ノット、貨物積載量1,000トン、航続距離500海里以上の新形式超高速船
(注4) 国内における船舶による物品の海上輸送において、コンテナ単位、貨物自動車単位等でまとめられた貨物(ユニットロード貨物)の輸送に対応したコンテナ埠頭、フェリー埠頭、駐車場等の港湾施設。



平成5年度

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