平成5年度 運輸白書

第5章 国民のニーズに応える鉄道輸送の展開

第5章 国民のニーズに応える鉄道輸送の展開

第1節 鉄道整備の推進

    1 鉄道整備の基本的方向
    2 鉄道整備に対する助成
    3 幹線鉄道の整備−地域間交流の促進をめざして−
    4 都市鉄道の整備−圏域内交流の充実をめざして−
    5 地方鉄道の整備


1 鉄道整備の基本的方向
 21世紀に向けて、国土の均衡ある発展を図り、豊かさを実感できる社会を実現するためには、交通関係社会資本の充実・強化が重要となっている。特に、鉄道は、国民生活の基盤となる社会資本であり、通勤・通学時の混雑緩和や都市間移動のスピードアップ等鉄道サービスの充実について国民の強い要望がある。また、道路の混雑及び交通事故といった問題への対応、環境負荷の小さい交通体系の構築等の観点からも鉄道に対する期待が高まっている。
 これらの社会的要請に応えて、都市鉄道の輸送力増強や幹線鉄道の高速化等を進めてきているが、鉄道整備は、建設費の増大、用地確保の困難性等から、ますます膨大な資金と長期の懐妊期間を要するものとなっており、鉄道事業者にとって投資リスクも大きくなっていることから、中長期的な視点に立って、必要に応じ助成策を講じつつ、着実にその推進を図っていく必要がある。
 鉄道のうち都市間を結ぶ幹線鉄道については、現在その多くが表定速度(*)が時速60kmから90kmの間にあり、新幹線を含む全国主要幹線の全体でも表定速度(*)の平均が時速100km弱である。
 国土の均衡ある発展や地方の活性化のためには、この幹線鉄道ネットワークの高速化が重要な課題であり、全国主要幹線鉄道の表定速度(*)の平均を時速120km台に引き上げるとともに、鉄道特性のある分野において中枢都市から中核都市までの間を3時間台で結ぶことを目標として、基本スキームに沿った整備新幹線の整備のほか、在来幹線の分野においても、新幹線との直通運転化、スピードアップのための線形の改良、新型車両の開発等を推進していく必要がある。
 一方、都市鉄道については、東京圏における主要線区の平均混雑率が200%に上り、混雑率が250%を超える区間も存在するなど、通勤通学時の混雑が深刻な問題となっている。
 このため、大都市圏におけるラッシュ時の混雑率を150%(東京圏については当面180%)にすることを目標として、新線建設、複々線化、列車の長編成化、列車本数の増加等による輸送力増強を進め、混雑の緩和を図る必要がある。また、新しい住宅地の供給、通勤・通学時間の短縮等の観点からも、新線建設及び複々線化が有効な手段であり、この点からも都市鉄道の整備が強く求められている。なお、これらの輸送力増強の方策に加え、ピーク時間帯に集中する輸送需要の平準化のため、時差通勤についても、企業や社会の理解と協力を求めていくこととしている。
 このような幹線鉄道及び都市鉄道の整備を進めていくためには、鉄道事業者の投資を促進していくためのインセンティブとして、財政、政策金融、税制、運賃政策、地域社会の支援等について、あらゆる観点から検討を行い、国、地域社会、利用者等の関係者がそれぞれ必要な負担を行い、鉄道整備の推進のため一層努力していくことが重要となっている。

*表定速度:列車の運転区間の距離を、運転時間(駅間の走行時間に途中駅の停車時間を加えた時間)で除したもの。

2 鉄道整備に対する助成
(1) 鉄道整備に対する助成の必要性
 鉄道の整備には膨大な資金が必要となること、その回収には長期間を要すること等から、鉄道整備を着実に推進していくためには、資本費の負担の軽減を図るなど鉄道事業者の投資意欲を醸成するための投資インセンティブの強化が必要である。
 特に大都市圏における新線建設については、土地の価格の高騰等によってその整備に要する費用が上昇し、より規模の大きな投資が必要となっているほか、用地取得の遅延等により投資の懐妊期間も長くなってきている。さらに、近年においては、需要開発型の路線が増加しているが、輸送需要が不確実であること等から、投資リスクが大きなものとなっている。
(2) 鉄道整備に対する支援措置〔2−5−1図〕
 幹線鉄道の整備に対する支援措置として、全国新幹線鉄道整備法に基づく整備新幹線の整備に対する助成のほか、在来線の高速化、高規格化等に関して、幹線鉄道活性化補助制度等が導入されている。
 一方、都市鉄道の整備に対する支援措置としては、通勤・通学混雑の緩和等に資する新線建設や複々線化等を進めるため、従来から地下高速鉄道建設費補助制度(昭和37年度開始)や特殊法人日本鉄道建設・公団による民鉄線建設(P線補給金)制度(47年度開始)などの支援措置が導入されてきた。しかし、近年、大都市圏を中心とする都市鉄道の整備が既存の支援措置だけでは困難な状況にあること等から、支援措置の多様化が進んでいる。例えば、宅地開発と鉄道整備を複合的に行うものを対象に開発者負担や地域社会の支援措置を制度化したものとして、ニュータウン鉄道建設費補助制度(48年度開始)や大都市地域における宅地開発及び鉄道整備の一体的推進に関する特別措置法に基づく制度(62年度開始)があるほか、鉄道事業者が運賃収入の一部を非課税で積立て、これを将来にわたる輸送力増強工事のための資金に充てることのできる特定都市鉄道整備積立金制度(61年度開始)が導入されている。
 さらに平成3年に特殊法人鉄道整備基金が設立され、既存の鉄道整備に関する国の一般会計等財源による助成のほか、新たに既設新幹線の譲渡代金の一部(特定財源)を活用した整備新幹線の建設に対する交付金の交付や主要幹線鉄道又は都市鉄道の整備事業に対する無利子の資金の貸付け等の助成が総合的かつ効率的に行われている。
 このような鉄道の整備自体に着目した支援措置のほか、地域の活性化及び振興に大きな役割を果たす複合的な機能をもった旅客ターミナル施設の整備に対しても、日本開発銀行による無利子貸付制度(NTT−C)などの支援措置等が講じられている。
 今後とも、これらの制度を有効に活用し、鉄道整備を積極的に進めていく必要がある。

3 幹線鉄道の整備−地域間交流の促進をめざして−
(1) 整備新幹線の整備〔2−5−2図〕〔2−5−4図〕〔2−5−5表〕
 鉄道整備基金による無利子貸付制度等を活用し、田沢湖線・奥羽線盛岡〜秋田間の新幹線直通運転化等の工事を進めているところであるが、5年度においては、新たに、山陰線・宮福線等の園部〜天橋立間及び日豊線小倉〜大分間の高速化工事並びに東海道線貨物輸送力増強工事に着手した。

4 鉄道の整備−圏域内交流の充実をめざして−
(1) 都市鉄道の整備の計画
 運輸省は、都市鉄道の計画的かつ着実な整備のため、運輸政策審議会及び地方交通審議会の答申に基づき、また、各種の助成制度を活用すること等により、都市鉄道の整備に努めている。
 東京圏については、昭和60年7月に平成12年を目標年次とした鉄道網整備計画が答申され、大阪圏については、元年5月に17年を目標年次とした鉄道網整備計画が答申され、また、名古屋圏についても、4年1月に20年を目標年次とした鉄道網整備計画が答申された。
 都市鉄道の整備については、4年6月の経済審議会の「生活大国5ヵ年計画」において、特色ある質の高い生活空間の実現に資する社会資本整備として位置づけられており、5年4月の政府の「総合的な経済対策の推進について」(以下「新総合経済対策」という。)においても、社会資本整備の新たな展開として、通勤・通学の混雑緩和を目指した都市鉄道の整備が掲げられている。この新総合経済対策の一環として、埼玉高速鉄道埼玉高速鉄道線(赤羽岩淵〜浦和大門間14.5km)・帝都高速度交通営団11号線(水天宮前〜押上間5.9km)が今年度中に着工されることとなっている。
 運輸省としても、これらの考え方に従って、上記計画の一層の円滑な進捗に努めている。
(2) 旅客会社(JR)の鉄道の整備
 新線建設については、5年3月にJR東海城北線(枇杷島〜尾張星の宮間)が開業した。これにより城北線は3年度開業区間(尾張星の宮〜勝川間)とあわせ、全線11.2kmが開通した。また、線路増設工事については、JR北海道函館本線(札幌〜桑園間)で3線化工事が、JR北海道札沼線(八軒〜あいの里教育大間)及びJR西日本福知山線(新三田〜篠山口間)で複線化工事が進められている。
(3) 大手民鉄の整備
 首都圏の大手民鉄5社は、混雑緩和に資する複々線化等の抜本的な輸送力増強を図るため、特定都市鉄道整備積立金制度の活用による大規模工事を進めている。また、大手民鉄15社は、新線建設を始めとする輸送力増強工事、安全対策工事及びサービス改善工事を内容とする輸送力増強等投資計画を昭和36年度以降7次にわたり推進してきたが、現在は、平成4年度に策定された第8次輸送力増強等投資計画に基づいて、引き続き輸送サービスの向上等に努めている。
(4) 地下鉄の整備〔2−5−6図〕
 地下鉄は、5年8月現在、帝都高速度交通営団及び9都市(札幌市、仙台市、東京都、横浜市、名古屋市、京都市、大阪市、神戸市及び福岡市)の公営事業者によって総営業キロ543.1kmの運営が行われており、4年度の輸送人員は4,738百万人、輸送人キロは31,640百万人キロとなっている。このうち最近では、大阪市6号線(動物園前〜天下茶屋間1.7km)、横浜市3号線(新横浜〜あざみ野10.7km)、福岡市1号線(博多〜福岡空港間3.1km)が5年3月に、名古屋市3号線(上小田井〜庄内緑地公園間1.4km)が5年8月に開業したほか、名古屋市6号線(今池〜野並間8.6km)の開業が6年3月に予定されている。なお、地下鉄全体で98.4kmにのぼる新線建設が進められている。
(5) モノレール及び新交通システムの整備
 モノレールは、現在、東京モノレールの羽田線等8路線あるが、現在東京、千葉及び大阪において6路線の延伸工事が行われている。新交通システムは、神戸新交通のポートアイランド線等6路線が営業中であるが、東京、大阪及び広島において3路線が工事中である。
(6) 宅地開発と一体となった鉄道の整備
 大都市地域における宅地供給は重要な課題となっており、宅地開発と一体となった鉄道の整備が進められている。秋葉原とつくばを結ぶ常磐新線の整備については、3年3月、整備主体として第3セクター「首都圏新都市鉄道株式会社」が設立され、同年10月には、「大都市地域における宅地開発及び鉄道整備の一体的推進に関する特別措置法」に基づき、東京都、埼玉県、千葉県及び茨城県が運輸大臣、建設大臣及び自治大臣から基本計画の承認を受けた。同会社は、4年1月にこの承認基本計画の内容に従った鉄道事業法上の免許を受け、5年1月には東京都内の秋葉原〜新浅草間について工事施行認可を受けて、事業に着手した。
(7) 空港へのアクセス鉄道の整備
 空港へのアクセスについては、近年、空港利用者が増加していることから、その改善が求められており、輸送力及び定時性に優れたアクセス鉄道の整備が求められている。新千歳空港には、JR北海道が4年7月から乗り入れを開始しており、東京国際空港についても京浜急行電鉄が5年4月に空港口まで、東京モノレールが9月に西側ターミナルまで乗り入れを開始した。
 さらに、福岡市では、3月に、地下鉄としては全国で初めて空港に乗り入れを開始し、これにより、都心部から福岡空港へのアクセスが飛躍的に向上した。また、今後関西国際空港、大阪国際空港及び宮崎空港にも、鉄軌道の乗り入れが予定されている。

5 地方鉄道の整備
(1) 地方鉄道の現状
(ア) 中小民鉄の維持
 中小民鉄は、地域における重要な生活基盤の一つとなっているが、過疎化による運賃収入の伸び悩みや人件費等の諸経費の増加等の理由から大部分の事業者が赤字経営となっている。これらのうち、他の交通機関への代替が困難であるものについては、当該鉄道の欠損額の一部を補助(欠損補助)し、また、設備の近代化等を推進することにより自立的な経営が可能なものについては、設備整備費の一部を補助(近代化補助)するなど従来から各種の助成措置を講じている。
 3年5月の信楽高原鐵道の事故等にかんがみ、4年度から、転換鉄道を含む中小民鉄に対し、安全投資について近代化補助の制度を一層充実し、鉄道係員に対して鉄道の専門家が教育・指導する教育補助の制度を新設した。なお、近年は、欠損補助を受けている事業者の中にも、経営が好転し黒字となるもの、又は利用者の減少や道路整備の進展に伴いバス輸送の可能性がでてきているものがあり、今後は、基本的には各事業者は欠損補助からの脱却を目指し、国及び地方公共団体は事業者の自立の努力を近代化補助等により支援していくことが必要である。
(イ) 転換鉄道の現状
 地方交通線対策の一環として旧国鉄の経営から切り離された転換鉄道は、現在、地元自治体が中心となって設立した第3セクター等により運営されている。転換後、列車の運行回数が増加するなど利便性が高まっているが、収支状況については、経常損失を出している事業者も多く、地方公共団体が中心となって積み立てた基金の運用益等により路線の維持を図っていく必要がある。また今後とも、経費の削減等事業者における一層の経営努力や旅客誘致に対する地元関係者の積極的な協力が不可欠となっている。
(2) 地方鉄道新線建設の整備
 地方鉄道新線(旧国鉄の地方交通線対策の一環として国鉄新線としての工事が凍結されていた路線のうち、地元自治体による第3セクターが経営することとなり日本鉄道建設公団による工事を再開したもの)は、現在までに、秋田内陸縦貫鉄道(比立内〜松葉間)等9社が営業中であるが、さらに、北越北線(六日町〜犀潟間)等残る5路線の建設が進められている。



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