平成5年度 運輸白書

第5章 国民のニーズに応える鉄道輸送の展開

第3節 国鉄改革の総仕上げに向けて

    1 JR東日本株式の売却・上場
    2 残された課題への取組み


1 JR東日本株式の売却・上場
 JR株式の処分は、JR各社の完全民営化という国鉄改革の趣旨を達成するため、また、日本国有鉄道清算事業団の巨額の長期債務の早期償還を図るために必要であり、所要の準備を進めて平成3年度から上場する方針であったが、証券市場の状況やその活性化対策の観点から2年間その実施が見送られていた。5年度には、JR東日本株式の売却・上場がJR株式の中で初めて〔2−5−9表〕の日程で実施された(売却株式数は上場日に値付株として売却された株式を含めて250万株であった。)。これにより国鉄改革の総仕上げに向け、新たな一歩が踏み出された。

2 残された課題への取組み
(1) 国鉄長期債務等の処理
(ア) 概要
 昭和62年4月1日、国鉄改革により、国鉄長期債務等の償還のために国鉄の土地その他の資産の処分を行うこと等を業務とする日本国有鉄道清算事業団(以下「事業団」という。)が発足した。
 事業団に帰属した国鉄長期債務等の処理については、「日本国有鉄道清算事業団の債務の償還等に関する基本方針について」(63年1月閣議決定)及び「日本国有鉄道清算事業団の債務の償還等に関する具体的処理方針について」(平成元年12月閣議決定)に従って進められており、5年度首までの債務等の額の推移は〔2−5−10表〕のとおりである。
 5年度首の長期債務等の額は、4年度の土地処分実績が、過去最高の9,017億円であったものの当初の売却予定額を下回ったことや、JR東日本株式の売却を見送らざるを得なかったことから、前年度首より0.2兆円増加している。
 土地売却収入、JR株式売却収入等の自主財源を充ててもなお残る債務等については、最終的には国において処理することとしているが、運輸省及び事業団は、土地及びJR株式の効果的な処分の推進による債務等の処理の早期実現を目指し、最終的な国民負担を極力軽減するべく全力を挙げて取り組んでいる。
(イ) 土地の処分について
 事業団の土地の処分については、昨今の経済情勢及び不動産を取り巻く環境の激変により極めて厳しい状況にあり、従前の土地処分方法だけでは、事業団の使命である早期かつ円滑な債務等の処理に支障をきたし、ひいては債務等の累増にもつながりかねないとの認識から、3年9月に土地処分方法の見直しについて、事業団に設置された資産処分審議会から「日本国有鉄道清算事業団の土地処分に関する緊急提言」が出された。これを踏まえ、運輸省及び事業団は関係行政機関及び地方公共団体の協力も得つつ、事業団用地処分の推進のためにあらゆる方面で最大限の努力を傾注してきている。
(a) 一般競争入札の拡大
 事業団の土地の処分に当たっては、公正さの確保及び国民負担軽減の観点から、一般競争入札によることが原則とされているが、昭和62年頃から平成3年頃までの地価の異常な高騰を受けて、地価対策への配慮から、「緊急土地対策要綱」(昭和62年10月閣議決定)等により、市街地等において一般競争入札を見合わせざるを得ない状況となった。その後の地価の沈静化の中で債務の早期かつ適切な償還を図るため、平成3年11月に地価に悪影響を与えない手法として、上限価格付競争入札を導入するとともに、4年11月には大規模用地にも上限価格付競争入札を拡大した。
 今後とも、地価対策に配慮しつつ関係行政機関とも協議を進め、事業団の用地処分を推進するためさらに入札の拡大を図っていくこととしている。
(b) 随意契約による処分の推進
 一般競争入札以外の方法として、地方公共団体等が公的用途に供する場合は随意契約によることができるとされていたが、3年10月に随意契約対象者に民間の公益事業者を加えるなど随意契約の要件緩和を行った。また、4年8月の「総合経済対策」において、地方公共団体による公共用地の先行取得の促進を図るため、事業団用地等の先行取得に対する利子負担軽減措置が講じられ、これを受けて4年9月に事業団では将来公共用途に利用することが確実であれば、当面、具体的利用計画を問わない等地方公共団体等に対する随意契約要件の緩和を再度行った。さらに、5年4月公有地の拡大の推進に関する法律施行令の改正により、地方公共団体による用地先行取得の中核機関である土地開発公社が行い得る土地の造成事業として、新たに「事業所、店舗等の用に供する土地の造成事業」が追加されたことから、いわゆる商業・業務用地として事業団用地を売却することが可能となった。
(c) 地価不顕在化手法の活用
 地価高騰問題が緊急課題となったことから、事業団は昭和62年9月に「地価を顕在化させない処分方法」について、事業団の資産処分審議会に諮問を行い、63年5月にその基本的な考え方について答申がなされた。
 このうち、土地信託方式については、平成3年度から渋谷等3箇所で信託受益権の販売を実施した。また、建物付土地売却方式については、3年度から津田沼電車区等6箇所で実施した。
 次に、出資会社活用方式については、不動産の共有持分権に変換することについての予約権が付いたローン契約により債務の早期償還を行う方式(不動産変換ローン方式)を2年度から新宿南等4箇所で実施した。この方式については、投資家のニーズに的確に対応するためその運用の弾力化を図るとともに、5年1月から日本開発銀行による不動産変換ローン投資家に対する低利融資制度が創設された。
 また、汐留等の大規模用地において、不動産の金融資産化を行い、これにより土地の売却処分と同様の効果がある資金調達を早期に行う方式(株式変換予約権付事業団債方式)については、汐留地区の不動産開発事業の主体となる事業団の100%出資会社を4年10月に設立したところであるが、今後、その早期実施に向け、関係機関との調整等所要の措置を引き続き講じることとしている。
 運輸省では、このほか、省全体による支援体制を確立するとともに、各地方ブロックにおける関係自治体、地方運輸局及び事業団から構成される連絡会議等の場を活用しつつ、今後ともあらゆる手段を講じて土地処分を推進し、9年度までに事業団用地の実質的な処分を終了することとしている。
(ウ) JR株式の処分について
 JR株式については、前述のとおり、5年度には、JR東日本株式の売却・上場を行ったが、同株式の残り及び上場基準に達しているJR東海及びJR西日本の株式についても、JR各社の完全民営化及び清算事業団の長期債務の償還の観点から、6年度以降も引き続き処分を進めていくこととしている。
(2) 国鉄改革の一層の推進・定着化に向けて
(ア) 長期債務の変動からみる国鉄改革の推進状況
 国鉄長期債務等の推移は〔2−5−11表〕のとおりであり、厳しい状況が続いている。
(イ) 国鉄改革の総仕上げに向けて
 国鉄改革の総仕上げのためには、国鉄長期債務等の処理をはじめ、JRの完全民営化の実現、さらには将来にわたって鉄道事業が健全経営を行っていくための鉄道の近代化・高速化等の課題に今後とも引き続き取り組んでいく必要がある。



平成5年度

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