平成6年度 運輸白書

第6章 安全で環境と調和のとれた車社会の形成へ向けて

第6章 安全で環境と調和のとれた車社会の形成と自動車輸送サービスの充実

第1節 安全で環境と調和のとれた車社会の形成へ向けて

    1 自動車交通を取り巻く環境
    2 安全で環境と調和のとれた車社会の形成を目指して


1 自動車交通を取り巻く環境
 自動車は、国民の足として、また、物流の動脈として、現代社会に不可欠のものであり、自動車保有台数は今や約6,450万台を超えている(平成4年度末現在)〔2−6−1図〕
 他方、道路交通混雑はますます激しいものとなり、また、我が国の交通事故による死者数は、昭和63年以来、5年連続して1万人を超え、自動車公害についても、窒素酸化物等による大気汚染、自動車騒音による生活環境への影響等が社会問題化し、さらに、二酸化炭素の排出抑制も課題となっている。加えて、近年における厳しい経済情勢のもと、自動車関係業界を取り巻く状況も極めて厳しいものとなっており、今後、「人」が「車」とうまくつきあっていける「安全で環境と調和のとれた車社会」を実現するために、より一層の努力が求められている。

2 安全で環境と調和のとれた車社会の形成を目指して
(1) より安全な自動車を目指して
(ア) 自動車の安全に関する技術基準の見直し等
 自動車の保安基準については、国際的調和にも留意しつつ、交通環境の変化に対応した見直しを適宜行っている。特に、近年、交通事故死者数が増加傾向にあるという厳しい事態に対処するため、平成4年3月に運輸技術審議会から出された答申を逐次計画的に実施することとしている。このため、5年4月には、乗用車の前面衝突時の車両本体による衝撃吸収性能の強化、高速走行時のブレーキ性能の強化等、自動車の安全性に係る規制の拡充強化を実施したところである。また、(財)交通事故総合分析センターにおいては、今年度から、効果的な安全基準の策定等を図るために交通事故の詳細な事例調査を開始したところである。
(イ) 高知能化した先進安全自動車の開発
 エレクトロニクスを応用することにより、自動車をより高知能化した先進安全自動車(ASV:Advanced Safety Vehicle)を21世紀初頭に実用化するための調査、研究を3年度から開始した。
 本調査研究では、運転者の負担の軽減、事故の未然の回避、乗員等の被害の軽減等を図るため、車両の周囲の交通環境を検知するセンサ、自動制動等の技術についての調査、研究を行い、将来の理想的な安全自動車の指針を示すこととしている〔2−6−2図〕
(ウ) 今後の自動車の検査及び点検整備
(a) 運輸技術審議会答申「今後の自動車の検査及び点検整備のあり方について」
 最近の技術の進歩に伴う自動車の性能の向上、構造・装置の高度化等により、自動車の耐久性、信頼性は著しく変化しており、また、ユーザーニーズの多様化に伴う走行距離の変化、高速走行の機会の増加等自動車の使用形態も変化している。このような状況を踏まえ、今後の自動車の検査及び点検整備のあり方について、平成4年7月から運輸技術審議会において安全確保、公害防止を前提として、技術的、専門的に審議が行われ、平成5年6月に答申が出された。
 具体的にはモ一タリゼーションの成熟化に伴い、@自家用乗用車の6か月点検の義務付けの廃止、定期点検項目の簡素化、及び走行距離の少ない自家用乗用車については走行距離により劣化する度合いが高い項目の点検を次の点検時期まで延期すること。A車齢が11年を超える自家用乗用車等の自動車検査証の有効期間を現行の1年を2年に延長すること。B定期点検整備の実施時期は検査の前後を問わないこととすること。Cユーザーに分かりやすい点検整備記録簿の工夫等、自動車の整備料金等の適正化について、国と整備事業者は所要の措置を講じること等が指摘されている。
 今後は、この答申に沿い、健全な車社会の一層の発展のため所要の対策を速やかに実施していくこととしている。
(b) 自動車の整備の充実
 自動車の整備は自動車の安全を確保し、公害を防止する上で重要なものであるため、「定期点検整備促進運動」等を充実した。また、整備事業者は、自動車ユーザーの依頼に応じ、適切な整備を実施するという社会的に重要な役割を担っていることから、整備事業者向けの技術相談窓口活用、検査主任者への技術研修の実施等の措置を講ずるとともに、構造改善計画の推進や自動車整備近代化資金の活用による整備事業の近代化を通じ整備技術の向上を図り、適切な整備を確保し、ユーザーの理解と信頼が得られるよう整備事業を指導しているところである。
(エ) 自動車ユーザーへの安全情報の提供等
 欠陥車に関する情報データベースを活用しユーザーからの問い合わせ等への迅速な処理を行うなどユーザーの保護に努めている。
(オ) 事業用自動車の安全な運行の確保
 自動車運送事業の安全な運行の確保については、運行管理者の選任、運転者の過労防止、乗務員の指導・監督等が義務付けられているところであるが、近年、道路交通事故の死者数が増加傾向にあることから、自動車運送事業者等に対し、あらゆる機会を通じ、より一層の交通事故防止対策に取り組むよう指導しているところである。
(カ) 自動車事故被害者に対する救済対策
 被害者の救済を図るため、自動車損害賠償責任保険(共済)と、政府の保障事業を中心とする自動車損害賠償保障制度の適切な運用を行っている。自賠責保険(共済)については4年12月の自動車損害賠償責任保険審議会の答申を受けて、5年4月から自賠責保険料(共済掛金)の平均13%の引下げが実施されている。
 また、自動車事故対策センターにおいては、交通遺児等に対する育成資金の貸付け、重度後遺障害者に対する介護料支給、重度意識障害者に対する治療・養護を行う療護センター(千葉療護センター及び東北療護センター)の運営等の業務を実施しており、5年度においては、育成資金の貸付額の引上げを行ったほか、同年度中の開業を目指して岡山療護センターの施設整備を進めている。
 このほか、自動車損害賠償責任再保険特別会計から、救急医療設備の整備等の自動車事故対策事業に対して助成を行っている。
(2) 環境と調和のとれた車社会の形成
(ア) 環境と調和のとれた交通体系
 環境と調和のとれた交通体系を構築するためには、自動車排出ガス規制等の強化及び効率的な物流、人流を確保することが重要であり、鉄道、海運へのモーダルシフトの推進、営業用トラックの積合せ輸送の推進等物流の効率化を図るとともに、バスへの需要の誘導を目指し、バス活性化システム整備費等補助金の活用、都道府県ごとの「バス活性化委員会」の設置等により、都市新バスシステムの導入等バスの走行環境改善のための施策を推進している。
(イ) NOx法への対応
 大都市地域を中心とした窒素酸化物による大気汚染については、「自動車から排出される窒素酸化物の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法」(いわゆるN0x法)が4年5月に成立した。同法は、@国によるNOx総量削減のための基本方針の策定及びこれに基づく都道府県知事による総量削減計画の策定、A東京、大阪等の大都市地域のトラック・バス等についてNOx排出量のより少ない車種へ代替えすることの義務付け(使用車種規制)、B事業所管大臣による運送事業者等に対する自動車使用の合理化に関する指針の策定及びこれに基づく指導・助言を三本柱に、二酸化窒素に係る大気環境基準の確保を図ることを目的としている〔2−6−3図〕
 運輸省としては、本法に基づき、使用車種規制を平成5年12月から実施するとともに、積合せ輸送の推進、低公害車の導入等総合的な施策を推進することとしている。
(ウ) 低公害車の開発・普及
 環境負荷の低減のためには低公害車の開発・普及が大変有効である。現在実用段階にある低公害車の種類としては、メタノール自動車他3種類があげられる〔2−6−4表〕
 これら低公害車の開発・普及を促進するためには技術基准の整備、取得に対する支援措置等が必要である。運輸省としては、メタノール自動車について4年12月から一般車両と同様に道路運送車両の保安基準を適用し、一般ユーザーの取得を容易とした。また、低公害車の取得・保有に対する税制上の優遇措置、運輸事業振興助成交付金を活用した助成措置の拡充など所要の施策を推進している。さらに、3年度及び5年度にバス活性化システム整備費等補助金を活用しハイブリッド自動車の路線バスとしての試験運行を支援している。加えて、5年度よりNOx法の特定地域内の民営バス事業者が低公害バスを導入する際の補助制度を開始した。
(エ) 排出ガス対策への取組み
 自動車排出ガス規制については、逐次規制強化を行っており、元年12月の中央公害対策審議会の最終答申の短期目標値を踏まえて、@窒素酸化物の一層の低減、A粒子状物質に対する新たな規制の導入、B黒煙の低減、C走行実態に合わせた排出ガス測定モードへの変更等を内容とする保安基準等の改正を行い、平成3年〜6年規制として、3年11月以降逐次施行されている。
 また、長期目標のうち、ガソリン中量車(車両総重量1.7トン超2.5トン以下)及びガソリン重量車(車両総重量2.5トン超)について規制強化の改正作業を行い、平成6、7年からそれぞれ規制実施を行うこととしており、ディーゼル車についても早期に長期目標値を踏まえた規制強化を検討することとしている。
(オ) 騒音対策への取組み
 騒音規制については、加速走行騒音規制(能力一杯に加速したときの騒音の測定値による規制)の強化、近接排気騒音規制(停車した状態でエンジンを高回転に上げるなどした場合の測定値による規制であり、暴走族の取締り等にも有効)の導入、消音器装着の義務付け等について実施してきたところである。さらに、4年11月の中央公害対策審議会の中間答申を踏まえた規制強化を検討することとしている。
(カ) 地球環境にやさしい車を目指して
 地球温暖化を防止するため、二酸化炭素の排出を低減・抑制する必要があり、二酸化炭素の排出の少ない低公害車の開発・普及と併せて、省エネルギーの二酸化炭素低減効果に着目して自動車の燃費改善に努めることが重要である。運輸省においては、「エネルギーの使用の合理化に関する法律」に基づき、ガソリン乗用車の燃費について一層の改善を図るため、自動車メーカーが遵守すべき新たな目標値等を平成5年1月に告示した。また、ガソリントラックについても、燃費目標値の設定を検討することとしている。
 このほか、自動車及び交換部品等に係るリサイクルの促進を図るため、「再生資源の利用の促進に関する法律」に基づき自動車整備事業者等に対して、具体的な指導方針を設定することとしている。



平成5年度

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