平成5年度 運輸白書

第7章 海運、造船の新たな展開と船員対策の推進
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第2節 高度化をめざす造船業 |
1 我が国造船業の現状
2 造船業の課題と対策
3 中小造船対策の推進
4 船用工業対策の推進
- 1 我が国造船業の現状
- 平成元年以降、比較的好調な受注活動を続けてきたが、世界景気の低迷の長期化等を背景に市況が低迷し、4年度の受注量は518万総トン、対前年度比36%の減少となっている。船種別には、タンカー市況の低迷を反映しタンカーの落ち込みが極めて大きく、197万総トン、対前年度比64%減となった。特にVLCCの受注は2年度28隻、424万総トン、3年度20隻、301万総トンと好調であったが、4年度は7隻、103万総トンへと大幅に減少しており、受注量全体の落ち込みの主因となっている。
また、4年度中の竣工量は、対前年度比8%増となっており、受注が減少する一方竣工量が伸びたことから、手持工事量は4年度末217隻、1,059万総トンで3年度末の279隻、1,325万総トンから大幅に減少している。
さらに、ロイド統計によれば、本年上半期の新造船受注量は239万総トンであり、我が国のシェアは円の独歩高の影響等により26%へと大幅に低下している
〔2−7−3図〕。
- 2 造船業の課題と対策
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3年12月の海運造船合理化審議会答申「21世紀を展望したこれからの造船対策のあり方について」を踏まえ、運輸省では以下のような取組みを行っている。
(1) 長期的な需給の安定化
我が国造船業の建造需要は、大型タンカ一を中心とした代替建造等により支えられ、90年代には順調に推移すると予想される。しかしながら、一時的な需要増を対象とした造船能力の拡大は2000年以降に予想される代替需要一巡後の需要下降期における構造的需給不均衡を招来するおそれがある。したがって、現在の設備能力を堅持しつつ今後の需要増に対しては生産性の向上等により対応することとする。また、2000年以降の需要減に備え新たな船舶の開発を推進する等需要の安定化対策に努めている
〔2−7−4図〕。
(2) 産業基盤の整備
我が国の造船業は、国内的には他産業に劣後化しないよう産業の魅力化を図っていくことが課題となっている。また、長期不況からの回復に伴い、省力化・合理化のための設備投資の拡大、若年労働力の雇用の推進等主に生産に直結した対策は進められているものの、創造的な技術ポテンシャル保持のための研究開発体制の整備、熟練労働者の高齢化への対応等の課題を依然として抱えている。このため、元年度から造船業基盤整備事業協会を通じて新形式超高速船(テクノスーパーライナー)等の創造的で国民経済の向上にも資する船舶の研究開発を推進するとともに、CIM(コンピュータ統合生産システム)化等生産システムの自動化・効率化を推進している。
一方、対外的には、最近の円高の急進により我が国造船業の競争力が著しく低下していることから、産業存立のための競争力の回復が課題となっている。今回の円高は、単に、資機材費及び人件費の相対的上昇による競争力の低下という以上に、過去の長期不況期の大幅な過剰設備処理の過程で個々の事業者の経営資源が縮小、偏在化した状況となっていることが一層の経営の効率化の阻害要因になっていること等の構造的な問題をクローズアップする契機となっている。このような状況から、事業者の主体的な取組みをベースに造船業の構造調整方策について検討を行っている。
(3) 国際協調の推進
国際的な単一市場を分けあう世界の造船業にとって、調和ある発展を図る上で国際的な協調を推進することは不可欠な要件である。我が国はリーディングカントリーとして国際協調のための各般の取組みに積極的に参画している。
(ア) 先進造船国との政策協調
OECD造船部会において、政府助成を削減し公正な競争条件を確保するための新たな条約の策定に関する協議が行われている。また、同部会の需給サブグループにおいて、需給動向についての情報交換等を通じ、国際的に共通な市場動向認識の醸成とそれに対応した設備政策の展開を図るなど所要の政策協調を図っている。
また、韓国との協調を図ることは、我が国と合わせた新造船シェアが国際市場の約3分の2を占めることから、世界の造船業の安定的な発展を図る上で重要な問題である。このため、昭和59年以降政府レベルの定期協議を開催し、政策協調を図っている。
(イ) 地球環境問題等への対応
地球環境保全に対する国際的要請は本年1月のタンカー事故の頻発によりさらに高まっており、船舶に関する環境保全技術の開発を促進するとともにその成果の普及に努める必要がある。運輸省では、3年度から造船業基盤整備事業協会が実施しているタンカーからの油流出防止技術及び船舶用機関の排気ガス浄化技術の研究開発に対し助成措置を講じている。
また、環境、安全、海運市況の安定化等の観点から船舶解撤の促進が重要な課題となっており、船舶解撤の促進について、本年6月、OECD造船部会において意見交換が開始された。
- 3 中小造船対策の推進
- 我が国の中小造船業は、内・外航船、漁船等の製造・修繕を通じて、効率的、安定的な海上輸送を確保し、水産資源の採取を支えるとともに、地場産業として地域経済の振興及び雇用機会の創出に寄与してきている。
全般的には、近年の内需拡大に伴う内航船貨物輸送量の伸び等により、昭和63年度以降、業況は徐々に回復してきているが、脆弱な経営基盤、過当競争体質等の問題に加え、労働力の高齢化が深刻な問題となっている。また、国際的な漁業規制の強化により、漁船を主な事業対象とする中小造船業においては経営環境は一層深刻なものとなってきている。
このため、5年度より中小企業近代化促進法に基づき新商品・新技術の開発、就労環境の改善等をめざした第4次構造改善事業を開始した。
- 4 船用工業対策の推進
- 我が国舶用工業は、長期不況から脱却し、中長期的に安定的な需要が期待される状況にあるが、依然、若年技術者の不足、技術ポテンシャルの低下、生産設備の近代化の遅れ等の多くの課題を抱えている。
さらに、昨今の急激な円高の影響により、国際競争力が問われる事態も生じてきている。
こうした中で、舶用工業の基盤整備の必要性が一層増してきており、技術開発体制の整備、舶用機器の標準化の推進、省人・省力化投資、環境改善投資の促進、国際協調の推進等、我が国舶用工業が21世紀に向けて魅力ある産業に脱皮するための施策を推進しているところである
〔2−7−5図〕。

平成5年度

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