平成5年度 運輸白書
第8章 豊かなウォーターフロントの形成
第3節 国民生活の質の向上をめざした港湾・海岸の整備
1 ゆとりのある生活のための基盤整備
2 快適な港湾及び海岸の創造
3 港湾空間の質の向上をめざして
4 暮らしを守る港湾の整備
1 ゆとりのある生活のための基盤整備
(1) 快適な旅客交通を形成する港湾の整備
〔2−8−6図〕
近年の外航クルーズ船利用者数の増加、あるいはレストラン船等の新たな国内クルーズ船の出現や、都市内の交通対策や観光・レクリエーションを目的とする海上バスの就航等の状況を背景として、旅客ターミナルの整備の推進が強く求められており、平成5年度には、公共事業として横浜港、佐世保港等49港で整備を行っている。また、民間活力を利用した、旅客船の乗降客とともに、気軽に立ち寄った人々も楽しめる旅客ターミナルを、洲本港等5港で整備している。
また、都市部と港湾及び港湾内の地区相互間の輸送を円滑に行うことは、利用者にとって極めて重要であることから、5年度には、東京港、大阪港において港湾整備事業の一環として新交通システム等の整備を推進している。
(2) マリーナ等の整備
〔2−8−7図〕
プレジャーボートの保有隻数は増加の一途をたどっているが、これらを収容する施設が絶対的に不足しており、4年2月の実態調査によれば、マリーナ等での保管艇は約4万隻であるのに対し、放置艇は全国で約10万隻に達している。これら放置艇は港湾機能や周辺環境に支障をきたすなどの問題を生じており、放置艇の解消は緊急の課題となっている。運輸省では、昭和63年9月に「全国マリーナ等整備方針」を策定し、放置艇を解消しつつ将来の需要増に的確に対応するため、平成11年までに新たに19万隻分のマリーナ等の整備を図ることとしている。また、マリーナ等は魅力あるウォーターフロント空間の中核施設であり、地域振興にも資することから、積極的にその整備を推進している。
5年度には、港湾整備事業により、公共マリーナの整備を広島港等38港で、またプレジャーボートの簡易な係留場所であるプレジャーポートスポットの整備を塩釜港等22港で実施している。他方、民間及び第三セクターが行う整備に対しても各種の財政的な支援制度を活用し、その整備を支援している。
また、管理・運営の面でも優れた質の高いマリーナの普及を目的とする優良マリーナ認定制度に基づき、認定事業を行う社団法人日本マリーナ・ビーチ協会は、5年6月までに49マリーナを認定している。
2 快適な港湾及び海岸の創造
(1) 美しく快適な港湾空間の形成
豊かさを実感できる国民生活の実現が強く求められる中で、港湾においても人々が憩い集う、美しく快適な空間の形成が重要となってきている。このため運輸省では、港湾におけるレクリエーション活動や憩いの場の創出、交流や賑わいの場の整備や提供等、港湾空間を豊かな生活空間として形成するための施策を推進している。5年度は、親水性豊かなイベント広場の提供、魚釣り施設や親水護岸の整備等を含む緑地等施設の整備を伏木富山港、横浜港等132港で推進している。また、水際線に近づきたい、海にふれたい等近年の親水ニーズの高まりを踏まえ、一般市民が港の水際線へ自由に安全かつ快適に行き来ができ、海と親しめる空間の確保方策等の検討を進めている。
さらに、運河、煉瓦造りの倉庫等の歴史的港湾施設を港湾文化の貴重な財産として保全するとともに、周辺地域を歴史的な情緒の漂う美しいウォーターフロント空間とする歴史的港湾環境創造事業を推進しており、5年度においては北九州港等10港で事業を実施している。一方、海、船等の港湾特有の景観資源を活用した美しい港づくりを進めるため、港湾において人々が集まる地区等についての景観形成のための計画を策定し、それに基づいて良好な景観形成を進める港湾景観形成モデル事業を青森港等で実施している。
(2) ふるさとの海岸づくり
人口・資産が集中している“みなとまち”の海岸の整備では、高潮、津波、海岸侵食等に対する安全性の確保を前提として、人々と海とのふれあいや良好な海岸景観を創出する「ふるさとの海岸づくり」を積極的に推進し、国民生活の質の向上を図っている。
5年度には全国277の港湾海岸で高潮、侵食対策事業を推進しており、特に津田港海岸等24海岸においては、元年度に創設した「ふるさと海岸整備モデル事業」によって、消波機能を持つ海浜等を整備するとともに、地域住民が気軽に海辺とふれあえる質の高い海岸保全施設の整備を重点的に実施している。
また、安全で快適な海辺づくりの要請に対応して、5年度は海岸環境整備事業により、人工ビーチ、緩傾斜護岸等の整備を唐津港海岸等113海岸で実施しているほか、親水性豊かで多目的な利用が可能となる空間を創出する公有地造成護岸等整備事業を境港海岸等9海岸で実施している。特に、リゾート地においては、マリーナ等とあわせた大規模かつ複合的な人工ビーチの整備を促進する「ビーチ利用促進モデル地区制度」を宮崎港海岸等3海岸で実施している。
(3) 快適な海域環境の創造
〔2−8−8図〕
快適なウォーターフロント空間の形成には良好な海域環境の保持が重要であり、また、近年の国民の親水志向の高まりにより、海や浜辺についての良好な環境を求める要請が高まっている。このため運輸省では、従来から実施している公害防止のための施策に加え、より快適な海域環境の創造を総合的に実施する「シーブループロジェクト」を推進している。この一環として、5年度は、ヘドロの堆積した海域において覆砂や海浜整備等を行うことにより水質・底質等を改善する海域環境創造事業を瀬戸内海、宮津港等2海域7港で実施している。また、湾奥部や運河部等の水質・底質の悪化した水域では、水域の環境改善を図ることと併せ緑地整備等の陸域の環境を整備する事業を複合的に実施してアメニティ豊かなウォーターフロントを創出する水域利用活性化事業(リフレッシュ・シーサイド事業)を衣浦港等3港で実施している。
3 港湾空間の質の向上をめざして
(1) 新しい港湾空間づくり
〔2−8−9図〕
近年の豊かで潤いのあるウォーターフロントに対する国民の関心の高まりに応えるため、昭和61年度より、具体的な開発拠点において、港湾の再開発等総合的な港湾空間の形成を図っていくためのマスタープランをつくるポートルネッサンス21調査、臨海部活性化調査、マリンタウンプロジェクト調査、コースタルリゾート調査を実施しており(平成4年度までに178プロジェクト)、これらの調査の結果に基づいて、すでに123プロジェクトが具体化している。
また、陸域・海域の総合的な利用をめざした沖合人工島の整備を進めており、このうち、「世界リゾート博」の主会場となる予定の「和歌山マリーナシティ」については5年度に基盤整備が概成する見込みである。下関港、博多港等における沖合人工島計画についてもその事業の推進を図ることとしている。
(2) 民活事業制度の充実
豊かで潤いのあるウォーターフロントを実現するためには、従来からの公共事業に加え、民間の資金力、技術力等の導入が不可欠である。このため、昭和61年以来、開発整備の拠点となる民間の施設の整備に対して、税制面、資金調達面の支援、規制緩和等の措置を講じている。
民活制度については、年々支援措置の拡充を図ってきており、港湾関係の民活事業としては、@民活法特定施設整備事業、A特定民間都市開発事業、B沖合人工島の整備、C小型船拠点総合整備事業、D多極分散型国土形成促進法関連事業、E総合保養地域整備法特定民間施設整備事業の6つの事業制度に加え、平成5年度には新たに、港湾における再開発を推進するため、民間事業者が行う臨海部における基盤施設の整備に対して日本開発銀行等からの融資を行う臨海部再開発促進事業(HARCA21)を創設した。
(3) 民活事業の推進
全国各地で民活プロジェクトが推進されており、4年度までに、民活法の特定施設として36プロジェクト53施設を認定するとともに、特定民間都市開発事業として42プロジェクトを支援してきている。5年度には、大阪港、神戸港において輸入促進地域の整備を推進するための物流高度化基盤施設等の整備を支援するほか、伊良湖港の旅客ターミナル施設や那覇港の港湾業務用施設等の地方圏における民活プロジェクトの展開についても積極的に支援することとしている。
また、5年4月には「西福岡マリーナ」、5年8月には「鳥羽フェリーターミナル」が開業し、国民生活に密着した、市民が海に親しむ拠点施設として、地域の活性化に大きく貢献している。
4 暮らしを守る港湾の整備
(1) 廃棄物等の対策の推進
廃棄物、建設発生土、浚渫土砂等の処分については、中間処理による減量化や再資源化が積極的に行われているが、大都市圏をはじめ内陸部での最終処分場の確保が困難になってきており、最終処分場を海面に求める要請が非常に強い。このため港湾では、従来から廃棄物埋立護岸の整備や、広域臨海環境整備センター法に基づく複数の都府県において生じた廃棄物の最終処分場を整備する事業(フェニックス事業)を行っており、5年度は広島港等32港において廃棄物理立護岸の整備を、また大阪湾においてフェニックス事業を実施している。また、これに加え、資源のリサイクルを促進するため、広域資源活用護岸制度を5年度に創設し、首都圏等の建設発生土を全国の港湾で建設資源として有効利用することとした。
(2) 防災対策の推進
釧路沖地震の被災経験も踏まえて、地震時における地盤の液状化による港湾施設、海岸保全施設の被災を防止するため、従来にも増して液状化防止対策に取り組むとともに、大規模な地震が発生した直後における避難者及び緊急物資の海上輸送を確保するために、耐震強化岸壁の整備を推進している。
また、北海道南西沖地震の津波被害等も踏まえて、津波、高潮、海岸侵食等の自然災害から“みなとまち”を守るため、津波防波堤、離岸堤、人工海浜、緩傾斜護岸等を組み合わせて、波の力を沖合いから効果的に徐々に弱める面的防護方式等により、港湾及び海岸の安全対策を積極的に進めている。
平成5年度
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