平成6年度 運輸白書

はじめに


 21世紀を迎えようとする中で、我が国は、国民生活、産業の両面において、国際社会との交流がますます緊密化しつつある。
 国民生活の面では、海外旅行者数が急激に増加しているほか、外国の製品、習慣が日常生活の中に浸透するようになっている。
 これに対し、産業の面では、貿易量が拡大する一方、円高等に伴う輸出品の高付加価値化や製品輸入の増加など貿易構造に変化がみられる。
 我が国運輸は、こうした国際人流や物流の活発化に大きく貢献してきたところであるが、今後も増加が見込まれる国際交流の円滑化を図っていく上で取り組むべき様々な問題が依然として残されている。
 国際交流基盤についてみると、我が国の空港については、現在及び将来の国際航空需要に十分対応し得るものとなっておらず、また、そのハブ空港機能の充実が課題となっている。また、港湾については、近隣諸国で大規模な港湾の整備が進む中で、相対的なサービス水準の低下が問題となっている。
 他方、円高の進行する中で、我が国航空企業や外航海運企業は、競争力が低下しており、我が国発着の旅客、貨物の積取比率も長期的な減少が続くなど、その経営をめぐる環境は、大変厳しい状況にある。
 このほか、観光については、海外観光旅行が活発化する一方、訪日外国人数は、円高の進行に伴う旅行費用の高騰等によりこのところ減少に転じている。また、日本人の国内観光旅行もやや伸び悩みの傾向にあり、国内観光は全般的に厳しい状況に直面している。
 国際社会との共生を図りつつ、こうした問題を抜本的に解決していくためには、空港、港湾におけるハード・ソフト面でのサービス水準や我が国企業の提供する輸送サービス水準を国際的にも十分通用するようなものに改善していく必要がある。また、海外旅行者数と訪日外国人数のアンバランスが拡大していく中で、双方向の観光交流を拡大していくとともに、アジア全体の経済力を高める観点から、運輸分野での国際協力をより一層充実させていくことも重要である。
 本白書は、このような問題意識を踏まえ、第1部のテーマとして「国際社会の中で生きる日本−運輸の果たす役割−」を取り上げたものである。