平成6年度 運輸白書

第1章 変化する国際社会と運輸

第2節 我が国と国際社会の交流の活発化

 我が国の経済規模は、世界全体の約15%を占め、米国に次ぐ世界第2の経済大国として、ゆるぎない地位を築いており、世界貿易、国際金融に極めて大きな影響を及ぼすようになっている。
 国土面積が狭く、資源に乏しい我が国がこのように経済成長を遂げ、国民の生活水準を向上させることができたのは、諸外国との円滑な人、物の交流が確保されたことによるところが大きい。
 我が国と国際社会の交流は、我が国の経済成長と相俟って、ここ30年間で飛躍的な拡大を遂げており 1 我が国をめぐる国際人流の活発化
2 国際人流の活発化に運輸が果たしてきた役割
3 我が国をめぐる国際物流の活発化
4 国際物流の活発化に運輸が果たしてきた役割


1 我が国をめぐる国際人流の活発化
(1) 海外旅行者数の増大
 日本人の海外旅行者数は、海外渡航の自由化直後の昭和40年には、約16万人であったが、平成5年には1,193万人と、ここ30年間でほぼ75倍に達している〔1−1−9図〕
 昭和40年代は、高度経済成長を背景に、海外旅行者数は毎年25%〜45%の高い伸びが続いた。なかでも観光旅客が著しい増加を遂げており、昭和40年代初めには、全体の3割弱であったが、40年代の末には全体の8割を超えるようになった。また、このような動向に呼応して昭和45年には、ジャンボ・ジェット機が就航し、供給力の拡大も図られた。
 昭和50年代は、40年代に比べて、海外旅行者数の伸びが鈍化したものの、旅行者数の増加は着実に続き、こうした中で、53年には成田空港も開港した。
 昭和60年代以降は、プラザ合意後の円高の進行により、海外観光旅行の割安感が高まったことに加え、政府においても、テン・ミリオン計画等によって海外旅行を支援したことから海外旅行者数が再び大きな増加を示し、61年には500万人、4年後の平成2年には1,000万人を突破した。その後、湾岸戦争や国内景気の低迷により、一時、伸び悩みもみられたが、平成5年来の急激な円高の進行により、同年下半期から増勢に転じ、このところ、月別の最高記録を塗り替える高い伸びが続いている。
(2) 海外旅行の構造的変化
 海外旅行が活発化する中で、海外旅行の形態や旅行先等について様々な構造的変化がみられるようになっている。
(ア) 海外旅行の形態の変化
 海外旅行の形態については、家族旅行の増加がみられ、また、リピーターの増加等に伴い、自由行動の多い旅行商品の人気が高まる等多様化が進んでいる。また、旅行費用については、近年、従来よりも低価格の旅行商品が出現するとともに、円高の進行等により、円ベースの旅行費用が減少するなど、低廉化の傾向がみられる〔1−1−10図〕
(イ) 旅行先の多様化
 海外旅行者の旅行先については、一貫して、アジアが最も大きな割合を占めており、北米がこれに次いで多くなっている。また、どちらの地域についても旅行者数は、増加が続いている。
 しかし、旅行先は漸次多様化しており、アジアでは、昭和40年代からシェアの低下が続き、また、北米でも、昭和50年代まではシェアの増加がみられたが、60年以降は、横ばいから漸減傾向に転じている。これに対し、オセアニアについては、シェアの増加がみられ、ヨーロッパのシェアも横ばいから微増となっている〔1−1−11図〕
 ここで、旅行先別に昭和60年以降の海外旅行者数の伸びをみると、旅行者の8割以上を占める観光旅客について、北米、アジアが相対的に低い伸びにとどまっているのに対し、オセアニアはハネムーン人気にも支えられて、極めて大きな伸びを示している。〔1−1−12図〕
 他方、業務旅客については、アジアの伸びが最も高くなっているが、EU統合をにらんで日本企業の進出が活発化したことを反映して、ヨーロッパも、アジアと並んで高い伸びを示している。このほか、オセアニアの伸びも高くなっている。これに対し、他の地域ではこのところ、北米が減少に転じていることが注目される〔1−1−12図〕
(ウ) 地方圏からの海外旅行者が増加
 我が国の海外旅行者は、依然として、大都市圏、特に、東京・大阪の二大都市圏が大きなシェアを占めており、対人口比も高くなっている。
 しかし、近年の状況を見ると、大都市圏の中で、中京圏は高い伸びを示しているのに対し、東京・大阪の二大都市圏では伸びがやや鈍化している。他方、これら大都市圏以外のいわゆる地方圏では、地方圏からの出国ニーズの高まりに呼応した地方空港の国際化等に伴い、海外旅行者数が大都市圏全体を上回る伸びを示しており、海外旅行が全国的に活発化しつつあることがわかる。
 特に、韓国等の近隣諸国への旅行者については、こうした傾向が強くみられる〔1−1−13図〕
(3) 訪日外国人数の伸び悩み
 日本人の海外旅行者数の伸びは、昭和40年から平成5年までの約30年間で、約75倍になっているのに対し、訪日外国人数は、我が国の国際的地位の高まりに対応して漸増してはいるものの、その伸びは、10倍程度にとどまっている〔1−1−14図〕
 この間の推移をみると、昭和40年代から50年代には、大阪万国博覧会の開催に伴う急激な増加の反動や第1次石油危機の影響による減少を除けば、増加傾向が続いた。
 昭和60年以降も、プラザ合意後の円高によって一時減少が記録されたほかは、増加基調が続いた。なかでも、急激な経済成長や海外渡航自由化等を反映して、近隣アジア諸国からの来訪者が大幅に増加し、その結果、訪日外国人数は、平成4年には約358万人に達した。しかし、平成5年には急激な円高の進行等により、341万人と減少に転じている。
(4) 外国人の訪日旅行の構造的変化
 外国人の訪日旅行については、来訪者の州別構成、我が国における訪問先等について様々な構造的変化がみられる。
(ア) 来訪目的の変化
 訪日外国人について来訪目的別にシェアの推移をみると、観光旅客のシェアは、60%程度でほぼ横ばいの状況が続いている。これに対し、業務旅客のシェアは、昭和50年代半ばまで10%程度であったが、その後、次第に拡大し、最近では30%に迫る状況となっている。
(イ) 訪日外国人の州別構成の変化
 訪日外国人は、従来は、欧米諸国、特に、米国からの観光旅客が主体であった。しかし、欧米諸国のシェアは、減少傾向が続いており、これに代わってアジアのシェアが著しく伸長している〔1−1−15図〕。 訪日外国人数の国籍別順位をみても、昭和63年まで、米国が1位の座を占めていたが、その後、韓国、台湾に抜かれ、現在では3位に後退している。これに対し、アジア諸国は、上位10ヶ国の中に5ヶ国が含まれている。
 また、地域別に昭和60年以降の訪日外国人数の伸びをみると、観光旅客、業務旅客ともアジアの伸びが他の地域に比べて大きくなっている〔1−1−16図〕
 他方、訪日外国人数の上位3ヶ国(韓国、台湾、米国)について、海外旅行先における日本の順位をみると、韓国では1位、台湾では2位となっており、日本が旅行先として重要な位置を占めていることがわかる。しかし、米国では、海外旅行先としては、欧州各国が上位を占めており、日本は6位と順位がやや低くなっている〔1−1−17表〕
(ウ) 我が国における訪問地は分散化の傾向
 訪日外国人の訪問地については、東京、大阪のような大都市や京都のような有名観光地が依然として大きな割合を占めているが、このところ、次第にこれ以外の地域にも分散化する傾向がみられるようになっている。

2 国際人流の活発化に運輸が果たしてきた役割
 我が国をめぐる国際人流は、海外旅行者、訪日外国人数とも、様々な紆余曲折はあったものの、基調としては拡大を続けている。こうした状況の中で、我が国運輸は、低廉、迅速、確実で頻度の高い大量輸送サービスを提供することにより、国際人流の活発化に大きく寄与してきたところである。
(1) 旅行費用の相対的な低廉化
 国民の所得水準との比較で、旅行費用が相対的に低廉化したことは我が国国民が、海外旅行に出かけることを容易にし、国際人流の活発化に極めて大きな役割を果たしている。
 航空運賃をみると、所得水準が大幅に上昇する中で、その伸びはかなり低くなっており、低廉化が著しく進んでいる。
 東京・ホノルル間を例にあげれば、昭和40年に、往復普通運賃(エコノミー)は約22万円と、当時のサラリーマンの初任給(約2万3千円)のほぼ10倍であった、その後、平成5年には、約24万円と初任給(約19万円)の1.3倍程度まで下がっている〔1−1−18図〕
 また、旅行業者が提供するパッケージ・ツアーの価格についても、昭和40年の導入当初は極めて高価なものであり、まさに高嶺の花であった。しかし、経済成長に伴い、家計収入が大きく伸びる一方、パッケージ・ツアー価格の伸びは相対的に低くなっており、さらに近年では、円高の進行等に伴い、従来よりも低価格のパッケ一ジが出現するなど著しく低廉化が進んでいる〔1−1−19図〕
(2) 国際航空ネットワークの充実
 我が国と世界各地との間でフリクエンシーの高い国際航空ネットワークの充実が進んだことも、国際人流の活発化に大きな役割を果たしている。
 国際航空ネットワークについては、二国間の航空交渉を通じて、国際航空需要に対応した新規航路の開設や増便が逐次行われている〔1−1−20図〕。また、ジャンボ・ジェット機のような大型機材の導入による供給力の拡大も進められている。
 さらに、国際線における我が国航空企業の複数社化の推進や共同運航、コードシェアリング等外国企業との提携強化によるネットワークの充実も図られている。
(3) 所要時間の短縮
 航空関連技術が発達し、巡航速度、航続距離等、航空機の性能が向上したことにより、このところ、所要時間の短縮が進み、利用者の利便性が向上している。
 特に、ヨーロッパ路線については、航空関連技術の発達に加え、日ソ間の合意により、昭和61年からシベリア上空経由の東京・ヨーロッパ直行便の開設が認められるようになったこともあり、所要時間が、かなり大幅に短縮されている〔1−1−21図〕
(4) 旅行ニーズの多様化への対応
 海外観光旅行の活発化に伴い、子供連れの夫婦、高齢者等海外旅行の参加者が国民の各階層に広く及ぶようになっており、また、社員旅行、研修旅行、修学旅行を海外で行うケースも増加している〔1−1−22図〕
 旅行業者においては、こうした旅行ニーズの多様化を踏まえ、様々な旅行商品の企画、開発に努めており、その結果、同一の地域を対象とした旅行商品についても、多数のコースが設定されるようになっている〔1−1−23図〕。さらに、国民の豊かでゆとりある生活に対する志向が高まる中で、外航客船を利用したクルーズ旅行の人気も高まりつつある。

(注) コードシェアリング A社の便に接続して運航されるB社の便に、B社の便名のほかA社の便名を付して座席予約や航空券販売を行う方式。

3 我が国をめぐる国際物流の活発化
(1) 輸出入量の増大
(ア) 輸出の拡大
 我が国の輸出は、昭和40年から平成5年までの約30年間に、貨物量(メトリック・トンベース)では約4.7倍、金額(ドルベース)では約43倍の伸びを示している〔1−1−24図〕
 この間の推移をみると、輸出貨物量は、昭和40年代には、鉄鋼等の重工業製品を中心に約3倍に拡大した。
 昭和50年代には、輸出品の中心が重工業製品から加工・組立型製品にシフトしたため、その伸びは約1.3倍と鈍化した。
 昭和60年代に入ってからは、貿易摩擦やプラザ合意後の円高による輸出環境の悪化によって4年連続での減少がみられた。しかし、平成元年以降は次第に回復基調に転じ、特にバブル崩壊後は、国内景気の低迷等により、鉄鋼等が輸出にシフトしたことから、かなり大幅な増加が続き、5年には過去最高の約108百万トンを記録した。
 輸出額は、輸出品の高付加価値化が進んだことにより、昭和40年代は約6.6倍、50年代は約3.1倍と輸出貨物量を上回る増加を示した。特に、昭和60年以降は、円高が進行する中で、輸出品の高付加価値化が一段と進んだこともあり、輸出貨物量の伸び悩みの中でも顕著な増加が続き、平成5年までに約2.1倍の増加を示している。
(イ) 輸入の拡大
 我が国の輸入は、昭和40年から平成5年までの約30年間に、貨物量(メトリック・トンベース)では約3.6倍、金額(ドルベース)では、約29倍の伸びを示している〔1−1−26図〕
 我が国の輸入先については、昭和60年代以降、輸入に占める石油の比重の低下に伴い、中近東のシェアが減少しているのに対し、製品類の伸びに支えられて、米国、EU、東アジアのシェアが拡大している。特に、東アジアは、NIESのほかASEAN、中国からの製品輸入も増加傾向にあり、現在では、我が国の最大の輸入先となっている〔1−1−27図〕
(b) 我が国をめぐる国際的な貨物流動においても東アジアのウェイトが増大
 我が国の貿易が、東アジア中心の構造に転換しつつある中で、我が国をめぐる国際的な貨物流動についても、アジアの占めるウェイトが高まっている。
 我が国発着の海上貨物量をみると、仕向地については、アジアの伸びが北米、欧州といった他の地域の伸びを上回っている〔1−1−28図〕。他方、仕出地については、エネルギー輸入量の増大により、中東の伸びが最も大きくなっているが、アジア・太平洋地域もこれに次ぐ高い伸びを示している。さらに、海上コンテナ貨物の荷動き量を航路別にみると、アジア域内航路は、欧州航路を大きく上回り、北米航路に迫る勢いを示している。他方、航空貨物の輸出入量については、絶対量、伸び率ともに、アジア線が太平洋線、欧州線の伸びを上回っている。
(イ) 品目別にみた我が国の貿易構造の転換とこれに伴う物流構造の変化
(a) 円高の進行等に伴い、輸出品については高付加価値化が進展。他方、輸入品については製品、食料品の輸入が増大。
 我が国の輸出品については、その主体となる品目が、昭和40年代には繊維製品から鉄鋼等の重化学工業製品に、昭和50年代には重化学工業製品から自動車、電気機械等の加工・組立型製品にシフトし、一貫して高付加価値化が進んできた〔1−1−29図〕
 さらに、昭和60年以降は、貿易摩擦や円高によるコスト競争力の低下に伴い、付加価値の低い標準化された製品や普及品が、欧米や東アジアでの現地生産に切り換えられる一方、輸出品については、一段と高付加価値化が進展した。
 このため、輸出品に占める加工・組立型製品のウェイトがさらに高まるとともに、その中でも、半導体、コンピュータ、テレビカメラ等のいわゆるハイテク製品の比重が増大した〔1−1−29図〕〔1−1−30図〕。また、同一の製品の中でも高価格帯に属するものが低価格帯に属するものの伸びを上回るようになった。
 我が国の輸入品については、昭和50年代までは、原油、鉄鉱石等の原燃料が主体であったが、60年代以降は、円高の進行等に伴い、製品類や食料品のウェイトが増大している〔1−1−31図〕
 製品類では、繊維製品や化学製品のほか、機械機器のシェア拡大が著しい。特に、家電機器や音響・映像機器については、輸入台数が輸出台数を上回る製品もみられるようになっている。
 他方、食料品では、魚介類、肉類、野菜、果実等が大きな伸びを示しており、このうち魚介類と肉類だけで、食料品全体の輸入額のほぼ半分を占めるようになっている。
(b) 海上貨物輸送については、コンテナ貨物の取扱量が増大。航空貨物輸送も著しく発達。
 我が国の輸出品については、加工・組立型製品のシェアが拡大を続ける一方、輸入品については、プラザ合意後の円高を契機に、機械機器を始めとする製品類、食料品の比重が高まっている。これらの輸出入品は、ばら積みよりはコンテナ輸送に適したものが多く、このため海上貨物輸送については、コンテナ貨物の取扱量が増加している。特に、近年では、輸入コンテナ貨物の取扱量が大きな増加を示している〔1−1−32図〕
 また、輸出入全体に占める半導体等電子部品、医薬品、事務用機器等軽量・高付加価値製品の比重の拡大、さらには、生鮮食料品の輸入の増加等を反映して航空貨物輸送が著しく発達している。昭和60年度から平成5年度までの間に、重量ベースで輸出は約1.5倍、輸入は約2.5倍の伸びを示している。また、航空貨物の輸出入額が全体の輸出入額に占める割合は、平成5年度には、それぞれ約19%、約23%に達している。なお、輸出と輸入(重量べ一ス)を比較すると、昭和61年度以降は、輸入量が輸出量を上回る状態が続いている〔1−1−33図〕
(ウ) 東アジアにおける我が国の地位の相対的な低下〜東アジアをめぐる物流構造の変化
 我が国は、極東における唯一の経済大国として、長い間、東アジアの生産・物流拠点としての地位を占めてきた。しかしながら、円高進行や貿易摩擦への対応から、低付加価値品や普及品の生産拠点の海外移転が進んでおり、欧米諸国や他の東アジア諸国との間では、国際的な水平分業体制が定着しつつある。さらに、このところの急激な円高により、国内産業の空洞化も懸念されるようになっている〔1−1−34図〕
 これに対し、他の東アジア諸国は、我が国を始めとする先進国からの直接投資の受入、技術移転等によって急速な工業化が進んでおり、今後しばらくは、欧米等の先進国を上回る経済成長が続き、世界経済に占めるウェイトを増大させていくものと考えられる〔1−1−35図〕
 こうした状況の変化に伴い、東アジアにおける我が国の地位が相対的に低下し、これに代わってNIES、さらに近年では、ASEANや中国が次第に台頭してくるなど東アジアをめぐる物流には、構造的な変化がみられるようになっている。
 まず、コンテナ貨物の取扱量をみると、平成4年の実績では、上位5港中4港がNIESの港湾であり、特に、1位のホンコン港や2位のシンガポール港の取扱量は、それぞれ約800万TEU、約760万TEUと我が国全体の取扱量(約830万TEU)に匹敵する港勢を示している。伸び率についても、我が国の主要港湾を上回る20%以上の極めて大きな伸びを示している〔1−1−36図〕
 また、トランシッブ貨物(国際航路相互間の積替貨物)の比率をみても、シンガポール港等では我が国の主要港湾よりも高くなっている。
 次に、北米航路の荷動きをみると、往航では、日本発貨物は横ばい傾向にあるのに対し、ASEAN、中国、また、中国の玄関口である香港発の貨物は大きな伸びを示している。復航でも、日本着貨物の伸びは低くなっており、他のアジア諸国、特に、ASEAN、中国着の貨物が大きな伸びを示している〔1−1−37図〕
 こうした動きの中で、東アジア/米本土のサービスが日本に寄港しない直行サービスを含めて増加する一方、日本/米本土の直行サービスが減少するなど東アジアと米国を結ぶコンテナ航路の再編成が進んでいる〔1−1−38図〕。他方、我が国船社では国際物流の変化に対応するため、東アジア諸国を中心に三国間輸送サービスを拡充している。その結果、三国間輸送貨物量は10年前と比べて約4.6倍となっており、定期船による輸送量全体の約4割を占めるようになっている。

4 国際物流の活発化に運輸が果たしてきた役割
 四面を海で囲まれた我が国は固有の資源に乏しく、原材料、エネルギー資源等のほとんどを海外からの輸入に依存しており、かつ、その大半は外航船舶によって輸送されている。また、我が国において生産される鉄鋼、自動車、電気機械等の製品類の輸出についても、コンテナ船や自動車専用船等による海上輸送が極めて大きな役割を果たしている。さらに、近年では、輸出入品の軽量、高付加価値化の進展に伴い、航空による貨物輸送も著しく伸張している。
 これら外航海運や国際航空は、高度化する荷主のニーズに対応しつつ、低廉、迅速、確実な輸送サービスを提供することにより、国際物流の活発化に大きく寄与してきたところである。
(1) 運賃の低減
 外航海運の運賃は、基本的に市場原理に従って決定されることから、内外の企業間では激しい競争が行われている。このため、外航海運企業では、船型の大型化、専用船化による輸送コストの低減化やターミナルの共同使用、共同配船による業務の合理化を進めてきたところである。その結果、北米航路におけるコンテナ運賃の推移を例にあげてみると、円高の影響もあり、輸出入ともに低廉化が進んでいる〔1−1−39図〕
 また、国際航空運賃については、事業者の企業努力等によってその伸びは相対的に低く抑えられてきており、特に、ここ10年間では運賃は値下がりしている。
 こうした運賃の低減は、製品のコスト競争力を強化し、我が国経済の発展に大きく貢献するとともに、輸入品を安価に入手することを可能とすることで、国民生活をより豊かなものにしている。
(2) ネットワークの充実
 外航海運では、内外船社により我が国をめぐるコンテナ定期航路の充実等が進められてきている。我が国船社の就航する航路をみると、航路数には、このところ、大きな変化はないが、主要航路における航海数、就航船腹量は増加基調にある。また、海外現地生産の進展に伴い企業活動のグローバル化が進展する中で、外国船社との連携によるコンテナ航路のグローバル化も図られている。
 また、国際航空では、貨物専用便のネットワークの充実が進められている。特に、輸出入先の東アジアへのシフトを反映して、アジア線が便数及びその伸び率とも他の路線に比べて大きくなっている。
(3) 生鮮食料品の輸送方法等の発達、改善
 近年、我が国においては、生鮮食料品の輸入が大きく増加しているが、これには、国際航空貨物輸送の発達が大きく寄与している。特に、米国チェリー等の高級果実、えび、うに、貝類等の生鮮魚介類、マツタケ、切花・球根等の輸入は専ら航空輸送に依存しているほか、冷凍運搬船による輸送が主体であったまぐろや肉類も、鮮度をより一層保持する観点から航空による輸送が増加している。
 他方、外航海運では、冷凍運搬船や冷凍コンテナ船により冷凍あるいは冷蔵状態にした肉類、果実、野菜類の輸送が行われている。特に、冷凍コンテナでは、品質低下を防止するための技術開発が進められた結果、近年では高精度の温度管理や湿度調整も可能となっており、食料品のほか写真フィルム、医薬品、精密機械等の輸送にも大いに活用されている。
 さらに、氷温コンテナ、深冷コンテナ、CAシステム等の食料品の鮮度を長時間にわたって保持することができる輸送方法の開発が進められており、船舶による安価で大量の高級生鮮食料品の輸送に道を開くものとして、その実用化が大いに期待されている。

(注1) 氷温コンテナ:温度を氷温域(0度から生鮮食料品が冷凍するまでの温度帯)温度を最適状態に保つことにより、生鮮食品等を冬眠状態におき、長期間にわたり鮮度を保持できるようにしたコンテナ。
(注2) 深冷コンテナ:従来の冷凍コンテナよりも、さらに低温での温度管理を可能にしたコンテナ。(従来型:−18度→深冷型:−30度)
(注3) CAシステム:コンテナ内の温度、湿度、空気成分を一定にコントロールすることにより青果物の鮮度の低下を阻止又は遅らせるシステム。

(4) 高度化、多様化する荷主のニーズに対応した輸送サービスの提供
(ア) 国際的なジャスト・イン・タイムサービスへの対応
 海外現地生産の進展に伴い、海外生産拠点の生産工程に合わせて必要な部品、資材等を必要なだけ輸送するといったいわゆる国際的なジャスト・イン・タイム輸送の要請が高まっている。このため、我が国船社では、主要航路における定時サービス、定曜日サービスの導入、内陸輸送網の整備、さらには、貨物の所在位置や通関、運賃支払状況等を把握できる貨物追跡情報システム等の構築を進めている。
 このほか、我が国の主要港湾では、貨物の品名、重量、積地及び揚地等船積に関する各種情報を荷主、船社、港湾運送事業者等の間で交換するオンライン型の共同利用システムとして、シップネッツやS.C.ネットの整備が進められており、また、既にオンライン化されているその他の貨物関連業務用システムとの連携を目指した検討も行われている。
(イ) 国際航空宅配サービスの発達
 企業活動のグローバル化に伴い、企業の書類や商品サンプル、部品等に係る国際輸送需要が増加してきている。こうした中で、航空機を利用して書類や小口貨物をドア・ツー・ドアで輸送する国際航空宅配サービスが著しく発達しており、事業者数が増加するとともに取扱件数や重量が大きな伸びを示している〔1−1−40図〕
(ウ) 国際複合一貫輸送の発達
 国際物流の分野では、船舶、航空機、トラック等の複数の輸送機関にまたがるサービスを一人の運送人が提供する国際複合一貫輸送が発達しているが、その担い手としては船社のほか、貨物運送取扱事業者(フレイト・フォワーダー)の活躍が目立つようになっている。特に、これら貨物運送取扱事業者は、海外に現地法人を設立するなどネットワークの整備を進めてきており、利用者ニーズに対応したきめ細かいサービス提供の実現に寄与しているところである。



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