平成6年度 運輸白書

第2章 国際社会の変化が進む中での運輸の分野における諸問題

第2章 国際社会の変化が進む中での運輸の分野における諸問題

 第1章でみてきたとおり、運輸は、これまで我が国の国際交流の活発化に大きく寄与してきたが、本章では、今後も、引き続き円滑な国際交流を確保していくためには、さらにどのような問題を克服していかなければならないかを分析する。

第1節 国際人流に係わる諸問題

    1 国際空港に係る諸問題
    2 我が国航空企業に係る諸問題
    3 観光に係る諸問題


1 国際空港に係る諸問題
 我が国は、アジア大陸の東端に位置する島国であることから、諸外国との人流は専ら航空に依存している。第1章でもみたとおり、我が国をめぐる国際人流は著しく増大してきているが、これについては、航空の発達と切り離して考えることはできない〔1−2−1図〕
 我が国をめぐる国際人流は、国際社会の相互依存関係の深化や国民のレジャー志向の高まり等を反映して、今後、ますます活発化していくことが予想される。こうした中で、航空による国際物流も含め国際航空ネットワークを充実させるとともに、ネットワークの起点となる国際空港の整備を促進し、利用者の利便性の向上を図ることが極めて重要となっている。
 我が国の国際航空ネットワークは、大量の旅客需要の発生が集中する東京・大阪の二大都市圏の国際空港を中心に形成されてきた。こうした中で、旅客需要の増大に伴い、新東京国際(成田)空港では、空港容量の制約が次第に顕在化するようになった。また、大阪国際(伊丹)空港では、環境対策上の配慮から航空機の発着回数が制限され、国際線に係る供給力も大きな制約を受けるようになった。このような状況に対処するため、運輸省では、第6次空港整備五箇年計画(平成3年度〜7年度)において、成田空港の滑走路の整備及び関西国際空港の早期開港を最重要課題としてその実現に取り組んできたところである。さらに、地方における国際航空需要の増加に適切に対応するため、地方拠点空港の整備やその他の地方空港の国際化にも努めてきた〔1−2−2図〕。これらにより、地方拠点空港や地方空港に発着する国際定期路線も大幅に増大するとともに、平成6年9月には、関西国際空港が開港し、関西圏を中心に国際航空ネットワークの充実が図られたところである。しかし、拡大を続ける国際人流を円滑に処理していくためには、依然として、以下のような問題が残されている。
(1) 国際航空需要に適切に対応し得る空港容量の確保
 成田空港は、我が国発着の国際航空旅客の約2/3が集中しており、首都圏のための空港としてだけではなく、我が国全体の表玄関として機能しているが、同空港の航空機発着回数は、すでに年間12万回を越えており、現在の施設規模での処理能力は、ほぼ限界に達する状態が続いている。このため、外国企業の新規参入や増便に対する要望に十分対応することができず、また、今後、さらなる国際航空需要の増大が見込まれる中で、旅行者ニーズを踏まえた国際航空ネットワークの充実を図ることも極めて困難となっており、早急な対応が求められている。
 6年9月の関西国際空港の開港により、関西圏を中心に国際線の空港容量制約が当面緩和されることとなった。しかしながら、アジアでは、高い経済成長を反映して、我が国を含むアジアとその他地域との間、あるいは、アジア域内の国際航空需要が大きな伸びを示しており、今後とも世界の中でも特に高い伸びを示すものと見込まれている〔1−2−3図〕〔1−2−4図〕
 このため、アジア地域の一員である我が国をめぐる国際航空需要も中長期的に引き続き増大することが予想され、このままでは、我が国の空港容量は、全体としてこのような需要に十分に対応し得なくなることも懸念される。
 今後、急速に国際化が進展し、国際的な交流の重要性がますます大きくなっていく中で、我が国をめぐる国際航空需要に適切に対応し、旅客、貨物の円滑な国際輸送を確保することは、我が国の経済発展、国民生活の向上にとって必要不可欠の条件である。こうした中で、我が国の国際空港が必要な空港容量を確保できないといった事態を招くことになれば、我が国の発展にとって重大なボトルネックとなる。したがって、我が国をめぐる中長期的な国際航空需要動向を踏まえつつ、国際空港という基盤施設の整備を着実に進め、今後の需要規模に適切に対応できる空港容量の確保に努める必要がある。
 なお、こうした今後の需要の増大に対応した大規模な国際空港の整備の動きは、近隣のアジア諸国において、自国の経済発展にとっての阻害要因とならないことを目的として、あるいは、自国の経済発展のための起爆剤的効果を期待して、すでに具体化が進んでいる〔1−2−5表〕。我が国としては、アジア諸国におけるこうした国際空港整備の動向を見守りつつ、我が国をめぐる需要の増大に適切に対応した国際空港の整備が求められるところである。
(2) 国際ハブ空港機能の発揮
 空港整備面での課題に加え、既存空港の活用面での問題も指摘されている。それは、近年、日本人旅客が近隣諸国の国際ハブ空港を経由して欧米に旅行する現象が見られることである。この現象は、東京や大阪から出発する日本人旅行客だけでなく、地方空港の国際化が進む中で、地方の日本人旅行客にもみられる現象であり、これによって、地方の活発化に寄与してきた面があることは事実である。しかし、こうした傾向が、今後、さらに拡大していくことになれば、我が国の空港と近隣の国際ハブ空港を結ぶ路線が近隣の国際ハブ空港のスポーク路線となることとなり、我が国の国際ハブ空港周辺への諸機能の集積が低下する等の指摘もなされている。このような現象が見られるようになった主な原因としては各国の航空企業間の運賃格差が挙げられるが、これに加えて国際空港における乗り継ぎの利便性も影響していると考えられる。6年9月に関西国際空港が開港し、国際線の輸送力の拡大、空港の24時間運用化、国際線と国内線の乗継利便性の大幅な向上が図られたことは、上記のような現象から生じる空港機能面からみた問題を大きく改善することとなった〔1−2−6表〕〔1−2−7表〕。これにより、関西国際空港が広く利用されることは、社会資本の有効活用という観点からも望まれるところである。現在のところ同空港の国際航空路線は、開港前の見込みをかなり下回っているが、利用者利便の一層の向上、国際航空ネットワークの充実等を図るため、今後需要に応じた国際路線の拡充が期待される。

2 我が国航空企業に係る諸問題
(1) 厳しさを増す経営状況
 我が国の国際航空市場をめぐる内外の航空企業の競争が激化する中で、我が国航空企業の経営は、大変厳しい状況に置かれている。
 機材の大型化等を通じた生産性の向上はほとんど限界に達しており、昨年来の急激な円高の中で、外国企業とのコスト競争力の格差は一段と拡大している〔1−2−8図〕。また、合理化が必ずしも十分に行われてこなかったことから、費用構成上人件費等固定費の占める割合が高くなっており、需要の変動次第で赤字に転じやすい不安定な経営体質となっている。
 このほか、3大空港プロジェクト関連の設備投資や貸借料負担が経営にとって負担となっているほか、関西国際空港の開港による空港容量の制約緩和により、内外航空企業間の競争が一段と激しくなることが見込まれる。
 しかし、国民に対する安定的な航空サービスの提供、緊急時の輸送手段の確保、航空輸送技術の保持、あるいは日本人乗務員の職域の確保といった観点からは、今後とも我が国航空企業によるサービスを確保していくことが必要である。
(2) 利用者の低価格志向等への対応
 近年、利用者の価格意識は、急速に高まってきており、より安価で質の良いサービスが求められるようになっている。バブル崩壊後景気の後退が続く中で、こうした低価格志向はより一層鮮明になっている〔1−2−9図〕
 国際航空運賃については、利用者の価格意識の高まりや個人旅行需要の増加を反映して、団体包括運賃のばら売り等による「格安航空券」の流通等認可運賃と実勢価格の間には大幅な乖離が発生し、こうした運賃の実態に対しては、利用者が強い不明瞭感や不信感を抱くようになった。また、「格安航空券」の利用をめぐり、変更料、取消手数料が不明朗である、発着が深夜や早朝であるため利用しにくいといった様々なトラブルもみられるようになった。
 このため、旅行者の低価格志向に対応するとともに、運賃制度の透明性を高めるため、旅行者が安心して使用できるような低価格運賃制度(新国際航空運賃制度)が6年4月に導入されたが、今後は、その浸透を図ることが大きな課題となっている。

3 観光に係る諸問題
(1) 訪日外国人の伸び悩み
 外国人の訪日旅行の促進は、諸外国の我が国の経済社会に対する国際的な理解の増進や諸外国との友情を確立する上での重要な課題である。
 しかし、平成5年に我が国を訪れた外国人数は、341万人と日本人海外旅行者数1,193万人の約29%にとどまっており、受入外客数そのものを諸外国と比較した場合、欧米先進諸国はもとより観光開発が進む近隣アジア諸国と比べても低い水準にとどまっている〔1−2−10図〕。特に、米国からの来訪者の最近10年間の伸びをみると、昭和59年には51万人、平成5年には53万人とほとんど増加していない状況であり、貿易摩擦が激化する中、日米相互の理解促進を図る観点から、大きな問題となっている。
 訪日外国人の減少要因として、我が国が、従来から物価水準が高い上に、近年の円高の影響により、宿泊費、交通費、飲食費等を合わせた滞在費は国際的にも高い水準にあること〔1−2−11図〕、また、日本の観光イメージの不足、言葉の制約による外国人が一人歩きのできにくい環境等が考えられる。
 しかしながら、近年のアジア発旅行者の急増、国際コンベンション市場の拡大、日本語学習熱の世界的拡大等のプラス要因も考えられるので、今後は、これらを活用し、効果的な外国人の訪日促進を図っていくことが必要である。
(2) 安心で快適な海外旅行の実現
 海外観光旅行は、国際相互理解の増進、国民の国際感覚の涵養、国際収支の不均衡改善等に大きく寄与するほか、豊かな国民生活の実現にも資するものである。
 円高の進行等に伴い、観光を中心に我が国の海外旅行者数は著しく増加しているが、引き続き、海外旅行の活発化が期待されるところである。
 (財)運輸経済研究センターのアンケート調査では、海外観光旅行を快適かつ気軽に楽しむための要件として、「旅行費用の低廉化」、「長期休暇の取得」、「安全対策の充実」を挙げる人が多くなっており、今後は、これらに対応した施策を講じていくことが必要である〔1−2−12図〕
 このため、安価でかつ旅行者が十分に楽しむことができるような旅行商品の企画、開発を進めるとともに、企業や学校等における休暇制度の改善について検討していく必要がある。
 また、旅行者の安全確保についても、近年では現地情勢に係る情報不足や言葉の上での障害等から、思いがけないトラブルに巻き込まれる事例もみられる。このため、情報提供体制を始めとする各種の支援体制を整備し、旅行者が安心して快適に旅行できるように努めることが必要である。
(3) 国内観光客の伸び悩み
 円高の進行に伴い、日本人の海外観光旅行が活発化する一方、国内観光旅行は、このところ、やや伸び悩みがみられる。特に、比較的長期間の休暇を取得した場合の休暇旅行の目的地については、国内ではなく海外を選択する人が、次第に増加しており、国内観光の空洞化のおそれも懸念されるようになっている。
 (財)運輸経済研究センターでは、国内旅行から海外旅行へのシフトがみられるようになる中で、その要因を分析するために、6年7月に成田空港で海外旅行者を対象にアンケート調査を実施した。その結果をみると、国内旅行ではなく、海外旅行を選択した理由としては、「海外旅行は国内旅行に比べて割安」、「海外の方が観光資源が魅力的」、「国内旅行は、行こうと思えばいつでも行ける」といった回答が多くなっている〔1−2−13図(a)〕。また、国内旅行に行く場合に不満を感じる事項としては、「道路が渋滞する」、「人出が多く混雑している」、「宿泊費や交通費が高い」といった回答が多くなっている〔1−2−13図(b)〕
 これらを勘案すると、「旅行費用の高さ」、「観光資源の魅力の低下」、「需要の集中に伴う観光地等の混雑」が、国内観光旅行の主たる制約要因になっているものと考えられる。



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