平成6年度 運輸白書

第3章 国際社会と共生しつつ豊かな国民生活の実現に向けた運輸の目指すべき方向

第3章 国際社会と共生しつつ豊かな国民生活の実現に向けた運輸の目指すべき方向

第1節 国際人流の円滑化をめざして

    1 我が国をめぐる需要に対応した国際空港の整備等
    2 我が国航空企業における競争力の強化とサービスの充実


1 我が国をめぐる需要に対応した国際空港の整備等
 成田空港は、首都圏を背後に控え、関西国際空港とともに、今後も我が国をめぐる国際航空需要の相当部分を担うものと予想される。また、世界全体で見ても〔1−3−1図〕、世界有数の大規模な国際空港となっている。しかし、現在の成田空港の施設規模は、同空港の占める地位に照らして必ずしも十分なものではなく、滑走路の整備等による施設容量の拡大が是非とも必要な状況となっている〔1−3一2表〕。このため、いわゆる成田空港問題の解決に向けて、平成3年11月以降「成田空港シンポジウム」、「成田空港問題円卓会議」が開催されてきたところであるが、先般、隅谷調査団の所見を構成員の全てが受け入れることにより、これが終結し、対立構造が解消して、成田空港問題は新しい局面を迎えた。今後は、新たな気持ちで、地域と共生するという視点に立って、成田空港の整備に向けて全力を傾けていく。
 さらに、平成6年9月の関西国際空港の開港により、関西圏を中心に国際線の空港容量制約が当面緩和されることとなったが、我が国を含むアジア発着の国際航空需要は今後大幅な増加が見込まれており、成田空港の滑走路が完成しても、空港容量の制約がさらに顕在化するおそれがある。こうした状況に的確に対応するため、第6次空港整備五箇年計画に基づき、関西国際空港の全体構想について、事業の健全な経営と円滑な実施に配慮しつつ、その推進を図るための調査を進めるとともに、中部新国際空港構想についても、将来における航空需要を考慮しつつ、現空港との関係、採算性と費用負担額の諸問題について、関係者が連携して総合的な調査を行っているところである。
 今後、需要の増大に対応した国際空港の整備を行おうとした場合、従来にも増して膨大な事業費が必要となる。したがって、我が国航空企業の競争力の強化や我が国の国際ハブ空港機能の維持の観点から、事業費の圧縮と所要の空港整備財源の確保が重要となっており、これらの点についても検討を進める必要がある。
 また、日本人旅客が近隣諸国の国際ハブ空港を経由して欧米に旅行する現象に関しては、そのような現象が生じる原因が、主に各国航空企業間の運賃格差と乗継利便性にあることから、我が国航空企業の努力により、新国際運賃制度等を活用したその国際競争力の向上と我が国の国際ハブ空港における乗継利便性の一層の向上が図られることが必要である。このような努力により、関西国際空港において国際線・国内線のネットワークが十分に形成されていけば、地方における国際航空需要についても、これを十分に吸収し、これに対応することが可能となると考えられる。したがって、国としても、地方空港への外国航空企業の乗り入れに関しては、このような関西国際空港の活用という視点も十分考慮に入れて対処すべきである。ただし、地方空港の国際化は、地域経済の活発化に好影響等もあり、地元の期待も依然として高いことから、地方空港への外国企業の乗り入れの希望に対して、相手国との間で十分な需要が見込める場合には、今後もこれに適切に応じていくことも必要と考えられる。

2 我が国航空企業における競争力の強化とサービスの充実
 我が国の利用者の利益や国家的な利益を確保する観点からは、今後とも我が国航空企業による輸送サービスの提供が不可欠である。このため、我が国航空企業においては、経営基盤を強化するとともに、利用者に選択されるような航空サービスの提供に努めていくことが必要となっている。また、国においても、各企業でのこうした取り組みが円滑に行われるよう、所要の環境整備を図ることが必要である。
(1) 航空企業における対策
 各企業においては、安全性の確保に十分配慮しつつ、以下のような対策に取り組むことが必要である。
 (低コスト体質への転換)
 費用の中で高い割合を占める人件費等の固定費を中心に、コスト全般の見直しを進める必要がある。また、定例整備の海外委託や外国人乗務員の導入等により、コストの外貨化を進める必要がある。
 このほか、ウェットリース等の低コスト運航形態の一層の活用を図るとともに、我が国航空企業による業務の共同化の範囲についても、一層の拡大を図る必要がある。
 (収益力の強化)
 既存路線において、外国企業に比べて十分な便数を提供していない場合には、増便等の実施による利用者利便性の向上を図るほか、需要が小規模な場合のウェットリース導入、共同運送やコードシェアリングの活用等需要規模に応じた弾力的な方法による路線運営が必要である。また、路線のない区間については、チャーター運航の実施等により、新規需要の開拓に努めることも有効である。
 また、CRS(コンピューター予約システム)やFFP(常顧客優遇制度)等の新しい販売戦略の適切な活用を図ることも必要である。
 (利用者ニーズに適合したサービスの提供)
 航空企業によるサービスについては、利用者ニーズの高度化、多様化等に対応して、より低廉で快適なサービスの提供を図っていくことが大きな課題となっている。
 このため、6年4月に導入された新国際航空運賃制度について、その内容やメリットの利用者への浸透を図るとともに、これを活用した低廉で魅力のある商品を開発することが重要である。
 また、機内サービスについても、路線や利用者の特性に対応して、場合によっては、これまでのサービスを簡素化するなど、その多様化を図っていくことが必要である。
(2) 国における環境整備
 国においては、安全性の確保に十分配慮しつつ、以下のような規制の見直しを行う必要がある。
 (技術関係規制の見直し)
 定例整備の海外委託の促進に資する規制の見直しを行うとともに、運航乗務員の技能証明等の実地試験におけるシミュレーター化を推進する。
 このほか、有償運航に係る操縦士の制限年令の延長、運航乗務員の乗務や航空機装備品の修理・改造に関する規制や基準の見直しについて検討を進める。
 (運航形態に係る規制の見直し)
 ウェットリース、共同運送、コードシェアリングに関し、実施要件の緩和についての検討を進める。また、航空機と旅客船を組み合わせたフライ・アンド・クルーズを容易にすること等を目的とした片道チャーターの解除等チャーター運航の効率的実施に資する規制の緩和についても検討を進める。



平成6年度

目次