平成6年度 運輸白書

第3章 国際社会と共生しつつ豊かな国民生活の実現に向けた運輸の目指すべき方向

第3節 国際物流の円滑化をめざして

    1 利用者の利便性に配慮した国際港湾の整備
    2 国際物流拠点としての国際空港の整備
    3 我が国外航海運企業における競争力の強化とサービスの充実


1 利用者の利便性に配慮した国際港湾の整備
(1) 我が国主要港湾の基本的方向
 我が国の港湾のサービス水準は、コンテナターミナルの水深、輸入対応のヤード、荷役体制、港湾料金等ハード・ソフト両面にわたり、諸外国の主要港湾と比較して必ずしも十分ではない。このため、東アジアにおける我が国の比重が相対的に低下する中で、基幹航路に就航する本船の我が国港湾への寄港が減少することも懸念されるようになっている。
 仮に、本船の寄港が減少するような事態が生じれば、外国の港湾での積替に伴う輸送コストの増大、輸送時間の長大化、品質の劣化等により、我が国産業の国際競争力に大きな影響を与えるおそれがある。また、今後も増加が見込まれる食料品や製品類等の輸入貨物の円滑な確保にも支障が生じるおそれがある。
 このため、我が国発着の貨物については、我が国の港湾から直接諸外国に輸出でき、また、諸外国から輸入できるよう、ハード・ソフト両面でのサービス水準の向上を図り、本船の寄港を維持していくことが必要である。  さらに、国際物流ネットワークにおいて、我が国の港湾が適切な機能分担を図り、国際貢献を果たしていくため、近隣諸国のトランシップ貨物の動向にも適切に対応していく必要がある。
(2) 物流構造の変化等に対応した施設整備
 我が国の港湾については、本船の寄港を維持し、もって、国民生活の質的向上、我が国企業の国際競争力の確保を図る観点から、物流構造の変化等を踏まえつつ、以下のような施設整備を行っていくことが必要である。
(ア) 輸入対応型の施設の整備
 輸入コンテナ貨物の増加に対応して、従来のターミナルに比べ2〜4倍の幅広いヤード面積を有する輸入対応型のターミナルの整備が必要となっている。また、輸入貨物を円滑に処理するため、保管、荷捌き、流通加工機能に加えて、展示、情報提供機能を備えた総合輸入ターミナルを外貿コンテナターミナルに隣接して整備することも重要である。こうした状況を踏まえ、平成4年3月可決・成立した、「輸入の促進及び対内投資事業の円滑化に関する臨時措置法」に基づき、神戸港等において輸入対応型港湾の整備と一体的に輸入促進地域(FAZ)の整備を進めているところであり、今後も、これを鋭意推進していく必要がある。
(イ) コンテナ船の大型化に対応した施設の整備
 基幹航路におけるコンテナ船の大型化に対応して、近隣アジア諸国の港湾に比べても相対的に遅れているコンテナターミナルの高規格化を進めることが必要となっている。このため、神戸港、横浜港、東京港等の本船が寄港する主要港湾において、水深−14m以上、岸壁延長300〜350mで広いヤードを有する高規格の施設整備を進めているところであり、今後も、これを鋭意推進していく必要がある。
 また、生産地や消費地の分散化が進む中で、地方圏の港湾で取り扱われるコンテナ貨物量が着実に増加している。しかし、地方圏の港湾では、本格的なコンテナターミナルの整備は十分でないことから、これに対応した施設整備を進めていくことが必要である。
(ウ) 積替の効率化に資する施設の整備
 我が国港湾では、コンテナ積み替えの際に、横持ちによる臨港道路の混雑や荷役効率の低下等の問題が生じている。このため、臨港道路の整備を進めるほか、シンガポール港等の諸外国の事例を踏まえ、基幹航路の本船の利用するターミナルと地域航路の船舶の利用するターミナルの一体的な整備を行うことにより、積み替えの効率化を図ることが必要である〔1−3−6図〕
(3) ソフト面でのサービス水準の向上
(ア) 荷役体制の改善
 我が国の主要港湾は、現在、日曜日の不荷役が一般的となっているが、荷主や内外の船社等の不満を解消し、本船の寄港を維持していく観点から、諸外国の主要港湾の動向を踏まえつつ、日曜荷役についての検討を進めていくことが必要である。このため、日本港運協会、港湾労組を始めとする港湾関係者の間で日曜荷役についての話し合いが鋭意進められている。また、新型荷役機械の導入等により、荷役のより一層の効率化、省力化を図っていくことも重要である。
(イ) 港湾料金の適正化
 我が国の港湾料金は、諸外国と比較して極めて高い水準にあるので、その適正化に取り組むことが必要である。現在、港湾料金の中では荷役料金、岸壁使用料金、水先料金等が大きな割合を占めていることから〔1−3−7図〕、今後は、荷役の効率化、省力化、さらには、港湾業務全般の情報化を進めるとともに、専用岸壁の整備財源の見直し等を図ることが必要である。また、水先制度については、料金体系の見直しや水先業務の効率化等に積極的に対応していくことが必要である。

2 国際物流拠点としての国際空港の整備
 国際航空貨物の取扱量が著しく増加する中で、荷主や物流事業者の間では、その円滑な処理を図るため、通関・検疫の迅速化、成田空港関連の施設整備、同空港への一極集中状態を改善するための関西国際空港の活用等の施策に対する要望が高まっている〔1−3−8図〕
 成田空港は、背後に首都圏を控えていること等から、現在でも国際航空貨物の大部分が集中しているものと考えられる。このため、国際貨物便の拡大にも資するよう、滑走路の整備に鋭意努めるとともに、貨物取扱施設の整備拡充を進めることが必要である。
 他方、6年9月に開港した関西国際空港については、空港や通関・検疫の24時間運用体制に利用者が高い評価を示しており〔1−3−9図〕、近畿圏や西日本を中心に国際航空貨物がシフトしているものと見込まれる。同空港については、大規模な貨物取扱施設も整備されており、国際線と国内線が接続していることから、今後は、東北、北海道等の東日本を含めた我が国における国際物流拠点として機能していくことが期待される。
 このほか、地方空港についても、チャーター便の運航による貨物需要の開拓や国内転送の改善等の措置を講じることにより、その積極的な活用を図っていくことが必要である。
 また、輸入航空貨物の円滑な流通の確保等の観点から、「輸入の促進及び対内投資事業の円滑化に関する臨時措置法」に基づき、りんくうタウン(関西国際空港対岸部)等において、国際空港と一体となった輸入促進地域(FAZ)の整備を図っていくことも必要である。

3 我が国外航海運企業における競争力の強化とサービスの充実
 日本商船隊の担い手である我が国外航海運企業は、昨年来の急速な円高の進行やアジア船社との激しい競争により、大変厳しい状況にある。
 しかし、我が国の経済発展及び国民生活の安定・向上を図っていくためには、安定的で低廉な物資の輸送を確保することが不可欠であり、このためには、以下のような方策を講じることにより、日本籍船をはじめとする日本商船隊の国際競争力を向上させ、良質で安定した輸送サービスの提供できる体制を維持・整備していくことが必要である。
(1) 国際競争力の強化に向けた対応
 我が国の外航海運企業は、円高の進行により大幅な減益を余儀なくされているが、この問題に対応するため、一般管理費や運航経費等の諸経費の削減に加え、管理部門の海外移転、日本籍船への混乗化、海外造船所の活用等によるコストのドル建て化や運賃円建て化への努力等の施策を講じている。また、円高により、フラッギング・アウトの加速が懸念される中で、混乗近代化船の更なる配乗構成の見直しについて、関係者間で協議を進めるとともに、日本籍船の建造に対する財政・金融上の支援措置等を講じることによって我が国商船隊の中核をなす日本船籍の維持・整備を図っていくことも重要である。
(2) 需要構造の変化や利用者ニーズに対応した輸送サービスの提供
 我が国の外航海運企業は、荷主のニーズの高度化に対応するため、海外における鉄道、トラック事業への進出、コンテナターミナルの整備等により複合一貫輸送サービスの充実を図ってきたことろであるが、これらに伴う投資が経営に負担を与えている面もあることから、今後は業務のより一層の効率化、合理化を進めていくことが必要である。
 また、運輸省においても、我が国の外航海運企業や貨物運送取扱事業者(フレイト・フォワーダー)に対して規制的な措置をとっている国との交渉を行うことにより、これらの企業の海外における事業展開に支障が生じないよう努めることが必要である。
 さらに、我が国からNIESを始めとするアジア諸国への貨物需要のシフト等の需要構造のシフト等に対応して、定期船事業におけるアジア発着貨物に対応した運航体制の整備、不採算航路の見直し、外国船社との提携によるグローバルなネットワークの構築、不定期船事業における輸送体制の見直し等を進めていくことが必要である。
 また、アジア諸国の物流が一層活発化するなかで、高速輸送ニーズが従来にも増して高まることも予想される。こうした中で、新形式の超高速船として研究開発が進められているテクノスーパーライナーについては、経済性や関連施設の整備等多くの課題が残されているが、これらを克服し実用化された場合には、新しい高速輸送サービスとしての活用が期待される。



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