平成6年度 運輸白書

第3章 国際社会と共生しつつ豊かな国民生活の実現に向けた運輸のめざしべき方向
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第4節 国際協力の推進 |
1 国際協力における我が国の役割の増大
2 国際協力における運輸分野の重要性
3 国際協力に係るニーズの多様化
4 アジアに重点を置いた国際協力の重視
- 1 国際協力における我が国の役割の増大
- 我が国は、世界全体のGNPの15%を占める世界第2の経済大国として、積極的に世界の平和と安定のための貢献を行う責務があり、このため、経済面での国際協力について一層の量的拡充、質的改善を鋭意図っているところである。平成4年6月には「政府開発援助大綱」を定め、ODA実施の基本原則、姿勢等を明確化するとともに、平成5年5月には、平成5年から9年の5年間のODA実績総額を700〜750億ドルとする第5次ODA中期目標を策定し(第4次は500億ドル)、ODAの充実に努めている。
- 2 国際協力における運輸分野の重要性
- 鉄道、空港、港湾等の運輸基盤施設の整備による効率的な輸送体系の構築や観光の振興は、電力、通信等他の経済インフラの整備と同様に、開発途上国の生活向上、地域振興、経済発展等のために不可欠なものである。
しかし、開発途上国においては、資金や技術の不足等から運輸基盤施設の整備は十分ではなく、このため、豊富な資金力と高度の技術を有する我が国に対しては、多数の協力、援助の要請がなされており、運輸省では、これに対応して運輸分野での国際協力を鋭意推進している。
- 3 国際協力に係るニーズの多様化
- 近年、運輸の分野における国際協力については、協力ニーズの多様化が進んでいる。
運輸基盤施設の整備といったハード面での協力のほか、施設の管理・運営、公的セクターの民営化方策、人材養成といったソフト面での協力が重要となっているほか、環境や輸送安全等の分野における国際協力のニーズも高まっている。環境分野における国際協力については、その重要性が増加しており、地球環境問題に対する意識が高まっていることから、交通公害対策や海洋汚染防止対策等に関する協力を進めている。
また、安全面での協力については、運輸事故を防ぎ、人命を守るとの観点から力を入れているが、これにより、協力対象地域の人々だけではなく、これらの地域に旅行し、あるいは、居住している我が国国民の保護にも寄与することとなる。
- 4 アジアに重点を置いた国際協力の実施
- 我が国の開発途上国に対する援助は、アジアを中心に実施されてきており、NIESやASEANの急速な経済発展にも大きく寄与してきたところである。
我が国とアジアの経済的な結び付きは、同地域の経済発展に伴い、近年、ますます緊密化している一方、急激な人流、物流の増大に運輸基盤施設の整備が追いつかず、これが経済発展のボトルネックとなっている面もあることから、運輸インフラの整備を始めとする経済協力は、今後とも同地域に重点を置いて実施するのが適切である。
また、アジアの経済発展を受けて、アジア・太平洋地域全体の経済活動の活発化、域内の均衡ある発展を図ろうとする気運が高まっており、運輸の分野においても、アジア・太平洋経済協力(APEC)閣僚会議等を通じた地域の輸送体系の構築、観光の振興への協力を行っている。
さらに、平成5年10月に開催された第10回世界観光機関(WTO)総会において、我が国にWTOアジア太平洋事務所(仮称)を設置することが決定したのを受け、現在大阪府に同事務所を開設する方向で準備を進めている。
これに対し、アジア諸国に対する援助の充実は、むしろ我が国の国内産業の空洞化を引き起こし、空港や港湾の国際競争力をさらに低下させるのではないかとの指摘が一部にある。しかし、アジア諸国の経済発展は、国内の安定と地域の平和に不可欠であるばかりでなく、我が国の援助による運輸インフラの整備の進展は、我が国を含めたアジア全体の経済力を高め、ひいては、我が国経済の発展にも資するものと考えられる。
また、アフリカ、中南米、東欧といった地域についても、適宜、国際協力の充実を図っていくことが必要である。さらに、新たにODA供与対象地域となった東欧諸国等に対して、市場経済への移行に当たって必要な物流の近代化・合理化及び外貨獲得に有効な観光分野等に対する協力を推進していくことも重要である。

平成6年度

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