平成6年度 運輸白書

第1章 平成5年度の運輸の概況と最近の動向

第3節 規制緩和への取組み

    1 運輸省の許認可事務改革
    2 国民生活に密着した規制緩和等措置を決定
    3 より良き運輸サービスのために規制緩和を今後とも推進


1 運輸省の許認可事務改革
(1) 許認可等件数を2割削減との基本方針〔2−1−36図〕
 運輸省では、平成5年4月28日、運輸省の許認可等件数を3年以内を目途に2割削減するなどの基本方針を決めた。
 当時、総務庁が取りまとめて発表していた許認可等件数(4年3月31日現在)は、政府全体で、10,942件であり、このうち運輸省が最も多く1,966件であった。運輸行政に対しては、許認可等の件数がこのように第1位であるということ自体を理由として批判がなされたことも多かった。このような中で、5年4月13日に経済対策閣僚会議が決定した「総合的な経済対策の推進について」において、公的規制を緊急に見直し、許認可等の大幅な整理を図ることとされたのである。
 2割削減などの基本方針の決定は、こうした状況を受けたものであり、いち早く許認可等の大幅削減を打出し、規制緩和に対する運輸省の自主的かつ積極的な取り組み姿勢を明らかにしたものである。
(2) 548件の許認可等の整理・合理化を決定
 運輸省では規制緩和を強力に推進するため、本省においては事務次官を、また、地方運輸局においては地方運輸局長をそれぞれ本部長とする許認可事務改革推進本部を設け、本省に止まらず、許認可事務に第一線で従事している地方運輸局等をも含めて、全省を挙げて規制緩和に取り組んできた。
 その間、1,966件のすべての許認可等について検討を行い、6年2月15日に閣議決定された「今後における行政改革の推進方策について」(行革大綱)までに規制緩和等措置として、許認可等の削減346件、その他の規制緩和(件数の削減とはならないが、実質的に国民負担の軽減等となるもの)202件、合計548件の許認可等の整理・合理化を取りまとめることができた。
 また、これらの規制緩和等措置のうち法律改正を要する事項については、第129回国会において成立した道路運送車両法の一部改正法及び航空法の一部改正法並びに第131回国会において成立した規制緩和一括法(許可、認可等の整理及び合理化に関する法律案)により措置を図った。なお、この規制緩和一括法案には政府全体で40法律177事項が盛り込まれているが、運輸省関係は専管・主管のものに限っても13法律95事項を占めている。
 さらに、その後の検討を受け7月5日に閣議決定された「今後における規制緩和の推進等について」においても、運輸省関係では更に37項目の規制緩和措置が盛り込まれたところである。
(3) 運輸省の許認可等の件数は着実に減少
 なお、5年3月31日現在の運輸省の許認可等件数は1,893件(前年度比73件減)であり、全省庁中第2位となった。
 総務庁が各省庁の許認可等件数を統一的な基準でカウントを始めた昭和60年末と平成4年度末とを比べると、政府全体で10,054件から11,402件と1,348件増加している中で、運輸省だけが2,017件から1,893件へと124件減少している。

2 国民生活に密着した規制緩和等措置を決定
(1) 「安全で、より安く、より快適に」を目指す規制緩和
 運輸事業に係る公的規制については、安全性を確保し、より上質な運輸サービスを安定的に提供するという視点から行われているものである。しかしながら、一方、最近では運輸サービスに対する利用者のニーズは複雑多様化してきており、このようなニーズに応えて事業者が自らの判断により良質な運輸サービスを提供することが求められているとして、公的規制についてはできる限り緩和する必要があるという考え方が広く主張されている。
 運輸省の公的規制についても、複雑多様化する利用者ニーズに的確に対応して見直しを進めていく必要があり、特に「安全で、より安く、より快適に」という利用者の声を十分に反映できるように、着実に規制緩和を進めていかなければならない。
(2) 利用者のニーズに応じた多様な運賃・料金
 このような観点からの規制緩和の事例として、運賃・料金に係る規制緩和を紹介する。
 利用者の特に関心の高い旅客輸送サービスについては、良質かつ安定的なサービス提供等のため、いわゆる参入規制が行われていること、市場において事実上優位な立場にある企業があること等から、これを利用して運賃・料金の不当な引き上げ、差別的な設定が行われ、結果的に消費者の利益や公平性の確保が損なわれることがないよう、これまで原則として運賃・料金の認可制が採用されてきた。
 しかし、まず鉄道事業の分野では、昭和62年の国鉄の分割民営化に伴う制度の見直しにより、営業政策的な運賃・料金割引や入場料金等運輸に附帯する役務の料金については従来の認可制を改め、届出制としたところである。
 需要喚起を目的としたオフシーズンやイベント時等の営業政策的な運賃・料金割引については、事業者が経営的な判断により機動的に設定しうることとすれば、利用者の高度化・多様化したニーズに適切に応じた多様な運賃・料金を設定することができ、また、利用者も多様な運輸サービスの中から自己のニーズに応じたものを選択することができるものと期待される。
 このような考え方から、平成6年2月の行革大綱で決定された規制緩和等措置においては、営業政策的な割引運賃・料金について、従来からの鉄道に加え、路線バス、国内旅客船、国内航空においても認可制を緩和し、事前届出制を導入することとした。さらに、鉄道事業については、従来の措置に加えて更にグリーン料金や寝台料金も届出制に改めることとしたほか、タクシー事業については、平成5年5月の運輸政策審議会の答申を踏まえて、運賃・料金の多様化を段階的に進めることとし、その具体的実施方法を定めた通達を発出した。また、国際航空旅客運賃については、特別回遊運賃(新PEX運賃)についてゾーン運賃制度を、旅行商品造成用運賃(IIT運賃)について幅運賃制を導入し、従来以上に機動的な運賃設定を可能とした。以上のように事業者の自主的な経営判断により多様な運賃・料金が設定できるような規制緩和等措置の導入について積極的な取り組みを行ったところである。

3 より良き運輸サービスのために規制緩和を今後とも推進
 最近、公的規制を経済的規制と社会的規制に二分し、経済的規制については「原則自由・例外規制」とし、市場原理に委ねるべきであるということが指摘されている。
 経済的規制としての参入規制や価格規制が実施されている運輸サービスの分野について、これらの規制を撤廃し、直ちに市場原理を適用する場合には、例えば、鉄道事業等については自然独占性が強いことから利用者の利便の確保を図ることが困難となること、タクシー事業等については労働集約的な性格から、競争が激化すると労働条件の引き下げや安全性の低下のおそれが生ずること、過疎バスや離島航路など採算の悪い事業については住民の利便の確保がさらに難しくなるおそれがあること等の問題点があり、これらの様々な問題点については十分に配慮しながら、個々の規制の内容に応じてそれぞれの規制緩和に取り組んでいく必要があるものと考えている。
 運輸省としては、利用者がいつでもそのニーズに応じて良質の運輸サービスを享受できるように運輸事業の活性化を図る観点から、規制緩和については今後も積極的に推進する必要があるものと考えており、以上のような問題点にも配慮しながら、6年度内に予定されている規制緩和推進計画の策定等に積極的に取り組んでいくことにしている。



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