平成6年度 運輸白書

第1章 平成5年度の運輸の概況と最近の動向

第4節 人にやさしい運輸を目指した運輸政策の展開

 社会の急速な高齢化や障害者の社会参加、また、通勤混雑の緩和や製造物責任制度の導入に伴う被害者救済制度等の充実など、利用者に視点をおいた「人にやさしい運輸」の実現が要請されているが、運輸省はこれに対応するため以下の施策をすすめている。

    1 高齢者・障害者等にやさしい運輸サービスの実現
    2 大都市における通勤・通学混雑の緩和
    3 製造物責任制度の導入に伴う被害者救済制度等の充実


1 高齢者・障害者等にやさしい運輸サービスの実現
 社会の急速な高齢化や障害者の自立と社会参加の要請に適切に対応するため、高齢者・障害者等が安全なかつ身体的負担の少ない方法で公共交通機関を利用できるよう、施設整備をはじめとする様々な施策を普遍的に講じていく必要がある。
(1) 各種ガイドライン等に基づく事業者等の指導
 運輸省では、従来から、各種ガイドライン等に基づき、駅のエレベーター・エスカレーターの設置、ホーム上の視覚障害者用誘導・警告ブロックの設置、リフト付バスの導入等の対策を進めるよう、交通事業者等を指導してきたところである(参考資料参照)。
 また、平成5年度においては、昭和58年に策定された「公共交通ターミナルにおける身体障害者用施設整備ガイドライン」を4年度・5年度の2か年をかけて、抜本的に見直し、6年3月に新たに「公共交通ターミナルにおける高齢者・障害者等のための施設整備ガイドライン」を策定した。新ガイドラインは、鉄道駅だけでなく、バス・空港・旅客船ターミナルも対象に加え、また、最新の技術開発の成果を反映したものとしたほか、障害者の方々への対応とともに、高齢化社会への対応も重要なポイントとしている。さらに、高齢者・障害者等が円滑な移動を図るために必要な情報提供装置の導入などについても盛り込んでいる。
 さらに、障害者等の利用に通した構造を有するバスについて、「人にやさしいバス技術調査検討会」を6年2月に設置し、技術調査を実施しているところである。
(2) モデル交通計画策定調査の実施
 高齢者・障害者等の視点に立脚して、これらの方々が出発地から目的地にいたるまでスムーズに移動できるような最適な交通体系を目指して、平成5年度から3か年をかけて、横浜市、金沢市の両モデル地区において具体的かつ総合的な検討を行うことにより、モデル交通計画を策定しているところである。これにより、以後の全国的な高齢者・障害者等のための連続性のある交通体系構築のための具体的なモデルケースにしていくこととしている。
(3) これらの施策を実効あらしめるための支援体制の整備
 (1)及び(2)の施策を実効あらしめるため、次のような支援措置を講じている。
 従来から、日本開発銀行等のJR、民鉄等に対する融資対象工事には、高齢者・障害者等のためのエレベーター、エスカレーター等の施設が含まれているが、特に、鉄道駅及び空港旅客ターミナルにおける高齢者・障害者等のための施設整備については、平成5年度、6年度の2年間日本開発銀行等の低利融資制度を導入している。
 また、平成6年度に設立された財団法人交通アメニティ推進機構は、民間等からの出捐を原資にして、鉄道駅におけるエレベーター・エスカレーターの設置事業及びリフト付バスの導入について事業費の10%、バス・空港・旅客船ターミナル及び旅客船におけるエレベーター・エスカレーターの設置事業について5%の助成を行うほか、一般利用者等への啓発広報、情報提供及び調査研究事業を行う。なお、特に整備が急がれている JR及び民間鉄道事業者等が行う障害者対応型エレベーター・エスカレーター設置事業については、平成6年度予算において、新たに「交通施設利用円滑化対策費補助金」が創設され、財団法人交通アメニティ推進機構を通じて国からも補助を行うこととし、あわせ20%の助成を行うこととしている。
(4) 運賃割引制度
 鉄道、バス、タクシー、国内旅客船、航空において、身体障害者や精神薄弱者のための運賃割引制度を導入している。

2 大都市における通勤・通学混雑の緩和
 大都市においては、いまだに通勤・通学時には、厳しい混雑が生じているうえ、近年における住宅地の一層の遠隔地化により、通勤・通学に要する時間が増加していることが、通勤・通学者の肉体的・精神的負担を増幅し、これが、国民が経済力に見合った豊かさを実感できない大きな要因の一つになっている。
 大都市の鉄道については、事業者によりラッシュ時の輸送力の増強が進められているが、いまだに東京圏においては、主要区間のラッシュ時の混雑率の平均が約200%〔2−1−38図〕
 運輸省としては、労働省と連携し、5年9月に、経済界や労働界の代表者、有識者、交通事業者、関係行政機関等で構成する「快適通勤推進協議会」を設置したほか、主要駅周辺地域でのオフピーク通勤に対するコンセンサスを形成するため、「同協議会丸の内・大手町地域部会」、「同協議会新宿地域部会」を開催し、オフピーク通勤の普及促進に積極的に取り組んでいる。
 オフピーク通勤のキャンペーン活動としては、ポスター等の掲示、 政府広報等を通じた呼び掛けを行ってきたが、平成6年には、これらに加えて、関係者の協力を得て、11月を「快適通勤推進月間」として重点的にキャンペーン等に取り組むこととしている。

3 製造物責任制度の導入に伴う被害者救済制度等の充実
 運輸省では従来から、運輸の分野における消費者被害の防止及び救済に努めてきたところであり、製造物責任法の成立に伴い、事故原因究明体制等の強化を図るとともに、紛争処理の充実にも積極的に取り組んでいくこととしている。



平成6年度

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