平成6年度 運輸白書

第10章 地球環境の保全

第10章 地球環境の保全

 地球温暖化、オゾン層の破壊、海洋汚染等の地球環境問題や、大都市地域における自動車排出ガス等による大気汚染、閉鎖水域における生活排水等による水質汚濁などの都市生活型公害、環境の良好な創造などへの対応は運輸行政における極めて重要な課題である。このため、これまで運輸省は、地球環境の状況に関する観測・監視体制の充実強化、自動車に対する排出ガス規制・燃費改善、船舶に対する油等の排出規制などの個別の交通機関ごとの対策、沿岸域における良好な環境の創造、鉄道や海運へのモーダルシフト、公共交通機関の整備、低公害車の普及等の対策を総合的に展開してきたところである。
 運輸省は環境基本法の制定等を踏まえ、理念、指針、具体的施策、運営体制を定めた「環境の保全に関する運輸行政指針」を平成6年6月に策定し、これらの環境保全に関する行政の一層の充実を図ることとしている。

第1節 地球環境問題等への対応

    1 地球環境問題等をめぐる内外の動き
    2 地球環境問題の解決を目指した運輸の対応


1 地球環境問題等をめぐる内外の動き
 (気候変動枠組条約の発効)
 4年6月の地球サミットにおいて我が国を含む155か国が署名した「気候変動に関する国際連合枠組条約」は、6年3月に発効した。本条約は、究極的な目的を気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼすこととならない水準において、大気中の温室効果ガス濃度を安定することとし、各国共通の責務や資金メカニズム等を定めている。このほか、先進国に対しては発効後6か月以内に温室効果ガスの排出抑制のための政策・措置とその効果の予測等の報告を求めており、我が国は6年9月条約暫定事務局に対してこの報告を行ったところである。
 (環境基本法の成立)
 今日の環境政策の対象領域の広がりに対し、特に、地球環境問題、都市生活型公害問題等に適切な対応を講じて行くため、環境の保全の基本理念と、これに基づく基本的施策の総合的な枠組みを示す環境基本法が5年11月に成立した。6年においては、同法に基づき、中央環境審議会において環境基本計画の審議が開始された。
 (オゾン層保護をめぐる動き)
 4年のモントリオール議定書の締結国会合の決定により、船舶や鉄道の消火剤に使用されている特定ハロンは6年1月より、またカーエアコンや冷蔵倉庫等の冷媒に使用されている特定フロン等は8年1月より生産等が全廃されることとなった。また、同決定と同時に採択された代替フロン等の新たな規制の追加を内容とする議定書の改正を受け、「特定物質の規制等によるオゾン層の保護に関する法律」の一部改正法案が6年6月成立した。
 (海洋汚染をめぐるIMOの動き)
 国際海事機関(IMO)では、船舶に起因する海洋汚染防止に関する条約である「1973年の船舶による汚染の防止のための国際条約に関する1978年の議定書」(MARPOL73/78条約)等を基礎に、常に新たな課題への対応を進めてきているが、平成4年3月には、油の排出基準の強化、油タンカーに対する二重船殻構造の義務付け等を内容とするMARPOL73/78条約附属書Tの改正を採択し、取り組みを継続している。
 また、大規模な油流出事故が発生した場合の緊急防除に関する国際協力体制の整備を主たる目的とする「1990年の油汚染に対する準備、対応及び協力に関する国際条約(仮称)」(OPRC条約)は2年11月に採択されており、本条約は、6年5月に締結国数が発効要件の15ヶ国に達したことから、12ヶ月後の7年5月に発効することとなった。
 船舶からの排出ガス抑制対策についても検討を進めている。
 さらに「廃棄物その他の物の投棄による海洋汚染の防止に関する条約」(ロンドン条約)の附属書について、産業廃棄物の海洋投棄禁止、洋上焼却禁止等を内容とする改正が、5年11月に採択された。
 このほか、輸送中の有害危険物質により生じた海洋汚染損害等について補償の確保等を図るための「危険物質及び有害物質の海上輸送に伴う損害についての責任並びに賠償及び補償に関する国際条約(仮称)」(HNS条約)案の検討を進めている。

2 地球環境問題の解決を目指した運輸の対応
(1) 観測・監視体制の充実
 (地球温暖化問題)〔2−10−1図〕
 気象、水象、地象等の総合的な観測・監視・予測等を行っている気象庁では、地球温暖化の実態解明を進めるため、世界気象機関(WMO)が推進している世界気象監視(WWW)計画や全球大気監視(GAW)計画等に基づく全球的な監視網の一翼として観測・監視体制の強化を図っている。
 WMOの大気バックグランド汚染観測網(BAPMON)の南鳥島基準観測所では、二酸化炭素に加え、6年1月からは地上オゾン、メタン、一酸化炭素の濃度観測を開始し、7年1月からは大気混濁度の観測を開始する予定である。また、5年4月から(財)日航財団との協力により実施している日本−オーストラリア・ケアンズ間の上層大気中の温室効果気体の定常観測は、6年7月から観測航路をシドニーまで延長して行われている。海洋気象観測船「凌風丸」は、北西太平洋域の洋上及び海水中の温室効果気体、海水中の有機炭素、有機窒素の観測を行っている。なお、「凌風丸」の新船建造が5年度から3か年計画で進められている。地球温暖化に関する世界各国の観測・監視データについては、「WMO温室効果気体世界資料センター」の役割を兼ねる気象庁の「温暖化情報センター」において収集・管理・提供を行っており、温室効果気体と気候変動の動向についての評価を行い、毎年「地球温暖化監視レポート」として公表しているが、5年度は温室効果気体と気候変動の動向、異常気象及びオゾン層の状況等についての総合的評価を取りまとめた「近年における世界の異常気象と気候変動〜その実態と見通し〜(V)」(通称:異常気象レポート'94)に含めて公表した。
 海上保安庁では、地球温暖化への海洋の果たす役割等に関し、定常的な海洋観測や、国連教育科学文化機関・政府間海洋学委員会(UNESCO/IOC)の西太平洋海域共同調査(WESTPAC)の一環としての大型測量船「拓洋」による海洋精密観測や漂流ブイの追跡観測等による海況変動の監視を行うとともに、地球温暖化に伴う海面水位変動の監視を行っている。
 また、海上保安庁の「日本海洋データセンター」では、各種共同調査に参画し、これらにより得られた水温、海流、海水中の二酸化炭素含有量等海洋データを一元的に収集・管理・提供を行っている。
 このほか、気象庁では、WMOが推進している世界気候研究計画(WCRP)に沿って、大気中の二酸化炭素増加に伴う気候変動予測を気候モデルにより行っており、その成果は7年秋に公表予定の「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」第二次報告書にも反映されることとなっている。また、雲の地球温暖化への影響、二酸化炭素等の大気−海洋間の循環等の研究も進めている。
 さらに、地球規模の気候変動における海洋の役割等を把握するため、地球温暖化に関する国際プロジェクトである世界海洋循環実験(WOCE)に参画しており、5年度には海上保安庁が「昭洋」により北緯30度線上で、6年度には気象庁が「凌風丸」により東経137度線上で、WOCE海洋各層観測基準に基づく詳細な観測を実施した。
 (オゾン層の破壊)〔2−10−2図〕
 気象庁の観測・解析結果によれば、極域を除く全球平均オゾン全量は10年間に約3%の割合で減少しており、5年には南極で過去最大規模のオゾンホールが観測された。国内においても札幌で4年11月以降12月を除き5年6月まで、その月における過去最低のオゾン全量を記録し続けるなど、オゾン層の破壊が進行していることから、さらに観測体制を強化するため、6年1月から南鳥島においてオゾン層の観測を開始したほか、オゾン層及びオゾン層破壊物質の観測・解析及び関連の研究を推進している。
 (海洋汚染及び海洋変動)
 海上保安庁及び気象庁は、我が国周辺海域、主要湾等において、海水及び海底堆積物中の油分、PCB、重金属等の汚染調査、海洋における海上漂流物の定期的な実態調査を行っているほか、IOCの海洋汚染モニタリング計画に参画し、廃油ボールの漂流・漂着状況の調査を行っている。さらに、旧ソ連・ロシアによる放射性廃棄物投棄海域における影響を把握するため、6年3月から4月にかけて、日本海の投棄海域において職員を派遣して日韓露の共同放射能調査を実施し現在分析中であるが、簡易測定の結果では異常は見られなかった。
 また、気象庁は日本周辺及び西太平洋海域の海洋変動の監視及びエルニーニョ現象の予測モデルの開発を行っており、エルニーニョ監視センターではエルニーニョ現象等の大規模海洋変動等の監視・予測を行い、その成果をエルニーニョ監視速報等により公表している。
(2) 環境と調和した運輸の構築
 地球温暖化問題については、2年10月に「地球温暖化防止行動計画」が定められ、我が国として二酸化炭素(CO2)等の温室効果ガスの排出を抑制するための各種対策が講じられている。国内のCO2排出量の約2割をしめる運輸部門についても、自動車燃費の改善や天然ガス自動車等の普及促進等の省エネルギー・CO2排出抑制対策を交通機関ごとに進めるとともに、貨物輸送における内航海運、鉄道の利用促進、共同輸配送等の促進、旅客輸送における公共交通機関の利用促進等により、全体としてエネルギー効率が良くC02排出量の少ない交通体系の形成を進めている。
 また、地球温暖化により海面が上昇した場合、人口、資産が集中する臨海部の諸機能に重大な影響を及ぼすことが予想されるため、臨海部への影響の予測と被害を防止するための具体的な対策について国内的な検討を進めている。
 オゾン層保護に関しては、自動車整備等におけるカーエアコンからの特定フロンの大気中への放出の抑制指導、回収再利用の検討、船舶における特定ハロンの使用抑制の指導等を行うとともに、各種運輸関連施設、設備についても、これらを使用しないものへの転換を促進するための税制上の優遇措置等を講じている。
 海洋汚染に関しては、2年11月に採択されたOPRC条約の早期締結に向けた検討を進めている。
(3) 国際的な協力
 運輸分野における環境関係の発展途上国に対する国際協力については、わが国における技術、経験の蓄積を生かし、@鉄道等公共交通機関の整備によるエネルギー効率が良く環境負荷の少ない交通体系の形成、A自動車の修理・検査体制の整備等による交通機関からの環境負荷の低減・抑制、B気候変動に関する観測・監視体制の整備、C海洋汚染防止能力の向上等の分野において積極的な協力を実施している。
 また、運輸基盤施設の整備等の国際協力に関し、開発途上国の環境保全に十分配慮するための指針の作成を3年度から順次進めてきており、すでに、港湾、鉄道、航空の3分野について実施し、引き続き6年度には都市交通について作成することとしている。
 このほか、アセアン諸国における地域油防除体制整備を支援するため、我が国が油防除資機材や情報システムの供与を行う「OSPAR計画」については、当初5年度からの3年計画で実施を予定していたが、前倒しして5年度中に概ね完了した。



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