平成6年度 運輸白書

第10章 地球環境の保全

第2節 環境・エネルギー対策の推進

    1 大気保全・騒音対策
    2 海洋汚染対策
    3 港湾等における環境対策
    4 省エネルギー問題への取組み


1 大気保全・騒音対策
(1) 自動車からの排出ガス対策
 自動車排出ガス対策については、元年12月の中央公害対策審議会答申「今後の自動車排出ガス低減対策のあり方について」の短期目標値を踏まえ、窒素酸化物(NOx)及び黒煙の規制強化及び粒子状物質の規制を実施しているところである。
 さらに、同答申の長期目標値のうち、ガソリン中・重量車については、6年、7年に規制強化を実施することとしており、ディーゼル車についても技術開発を進め早期実現を目指すこととしている。
 また、首都圏、阪神圏等の大都市においては、自動車排出ガスに対する規制強化にもかかわらず、窒素酸化物による大気汚染の改善がはかばかしくないまま推移していることから、4年5月に成立した「自動車から排出される窒素酸化物の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法」に基づき、5年2月に策定した「運輸業に係る特定地域における自動車排出窒素酸化物の排出の抑制を図るための指針」を着実に実施するとともに、車検制度を用いた使用車種規制を5年12月から実施している。また、税制上の措置等により規制適合車への代替を進めている。
 さらに、低公害車(メタノール自動車、ハイブリッド自動車、天然ガス自動車、電気自動車)の普及も重要な課題であり、これらについて技術開発の状況等を踏まえ、技術上の基準等の整備を行うとともに、普及のための税制上の優遇措置、日本開発銀行等による低利融資、運輸事業振興助成交付金等による助成措置を講じているほか、5年度においては、大宮市、東大阪市に地下式の大型メタノール燃料スタンドが開設されるなど、普及のための重要な役割を担う燃料供給体制についても整備が進められている。
 このほか、自動車からの排出ガス総量を抑制するため過度に自動車交通に依存しない交通体系の整備を推進している。
(2) 船舶からの排出ガス対策
 船舶からの排出ガス問題については、現在IMOにおいて進められているMARPOL73/78条約の新附属書策定のための審議に引き続き積極的に参加するとともに、排出ガス低減技術の研究開発等を推進している。
 また、この新附属書に基づく国際的規制が実施されるまでの間においても可能な限り排出ガスの抑制に努めるよう、海運業界等に対して指導を行ったところである。
(3) 自動車騒音対策
 自動車騒音対策については、加速走行騒音規制の一層の強化を提言した4年11月の中央公害対策審議会中間答申「今後の自動車騒音低減対策のあり方について」を踏まえ、早期規制強化を目指している。
(4) 鉄道騒音対策
 新幹線の騒音対策については、「新幹線鉄道騒音対策要綱」等に基づき関係旅客鉄道会社に対し防音壁のかさ上げ、パンタカバ−の取付け等の対策の実施等について指導を行っている。
 また、在来線についても、地域の実情に応じ発生源対策を基本として各種対策を適切に実施するよう指導している。
 さらに、行政機関、鉄道事業者及び研究機関が協力して鉄道騒音に関する効果的な対策を推進する上で必要な連絡・調整を行うことを目的として4年3月に設置した「鉄道騒音等対策会議」の場を活用し、騒音対策に関する検討を行っている。
(5) 航空機騒音対策
 航空機騒音対策については、新騒音基準に適合しない航空機の運航を7年4月1日以降段階的に制限する旨の航空法改正をはじめとする発生源対策と、学校・住宅等の防音工事や空気調和機器の更新、移転補償、緩衝緑地帯やエアフロントオアシス(親空港親水公園)の整備等の空港周辺対策を施策の両輪として、種々の対策を講じてきており、今後とも積極的にこれらの施策を推進し、空港と周辺地域との調和ある発展を図ることとしている。
 また、福岡空港騒音訴訟については、6年1月、最高裁判所判決により、夜間飛行差止請求は却下、過去の損害に関する賠償請求は一部認容する旨の判決が確定した。なお、将来の損害に関する賠償請求については、福岡高等裁判所で却下された後、原告が上告しなかったため、高等裁判所判決で確定した。

2 海洋汚染対策
(1) 海洋汚染の状況、取締り、防除対策
 (海洋汚染の状況)〔2−10−3図〕
 5年に我が国周辺海域において海上保安庁が確認した海洋汚染の発生件数は、762件であり、4年より84件(約10%)減少した。
 一方、我が国周辺海域等における海水及び海底堆積物中の油分、PCB、重金属等による汚染状況は全体的に低いレベルである。旧ソ連・ロシアによる放射性廃棄物投棄に関する日本海の放射能調査では、5年度は異常値は認められていないが、今後も放射能調査を継続する。
 (監視取締り)
 海上保安庁は、海洋汚染が発生する可能性の高い海域に巡視船艇・航空機を重点的に配備するとともに、監視取締用資器材を活用するなどして海洋環境保全のために監視取締りを実施しており、5年には、海上公害関係法令違反を1,351件送致したほか、国際条約(MARPOL73/78条約)に基づき公海上での外国船舶による油の不法排出に対し、14件の旗国通報を行った。今後も海洋環境保全のために厳重な監視取締りを行うこととしている。
 (排出油の防除対策)
 海上保安庁は、油排出事故が発生した場合、巡視船艇・航空機等を出動させ、排出状況の把握及び原因者等防除措置実施者への指導・助言を行うとともに、原因者側の対応が不十分なときは、全国主要部署に配置している排出油防除資機材を使用して排出等の防除を行うなど被害を最小限にくい止めるための措置を講じている。
(2) タンカー等に対する対策
 5年7月より、船舶からの油の排出基準の強化やタンカーに対する二重構造の義務付けを行ったほか、二重構造タンカーの導入を促進するために特別償却等の税制上の優遇措置や開銀融資比率の引き上げ措置を講じている。
 一方、5年1月に発生したシェットラシド諸島沖の大規模な油流出事故、スマトラ北方沖合タンカー衝突事故等を始め、大型タンカーによる事故が相次いだことから、国際的な取組みを進めるべき事項についてはIMOにその検討を積極的に進めるよう働きかけ、5年11月の総会決議等に反映させるとともに、アセアン海域における地域油防除体制整備を支援するOSPAR計画を前倒しして実施し、5年度中に概ね完了した。また、「タンカー輸送の安全対策に関する懇談会」を開催し、運航管理体制の充実・強化、船員の教育訓練及び資質の向上、タンカーの二重構造化の推進、事故発生時の緊急対応体制の整備等について対策を取りまとめたほか、通商産業省とともに「タンカーによる輸送問題に関する合同懇談会」を開催してアセアン海域における石油の安定輸送確保のための体制整備等について提言をとりまとめ、これを受けて5年12月、船主団体、荷主団体等を会員とする「アセアン海域石油安定輸送協議会」が設立された。
 また、タンカー事故の油濁損害賠償保障制度の充実を図るため、6年6月に船舶所有者の責任限度額の引上げや国際基金からの補償限度額の引上げ等を主な内容とする油濁損害賠償保障法の改正を行い、4年11月に採択された油濁2条約の改正議定書(92議定書)を6年8月に締結した。

3 港湾等における環境対策
(1) 海域環境の改善
 港湾における浮遊ゴミの回収のための清掃船の整備を行うとともに、東京湾等3海域で浮遊ゴミ・油の回収事業を実施している。また、公害防止のための汚泥浚渫等の事業を6年度は福山港等13港で実施するとともに、より快適な海域環境の創造を総合的に実施する「シーブループロジェクト」の一環として、水質・底質の浄化や生物相の回復を図る覆砂海浜整備等を6年度は瀬戸内海、松島港等2海域8港で実施している。
(2) 廃棄物の適正な処理
 廃棄物を適正かつ安全に処分するための廃棄物埋立護岸の整備を6年度は北九州港等36港及び大阪湾で実施している。特に大阪湾圏域では、2府4県内において生じた廃棄物を広域的に処理するための最終処分場を整備するフェニックス事業を行っており、2年1月から廃棄物を受け入れている。

4 省エネルギー問題への取組み
 21世紀に向けて世界的にエネルギー需要が増大する中で、地球温暖化問題、将来の石油等化石燃料の需給の逼迫化問題等に対応するため、省エネルギーの推進が大きな課題となっている。
 運輸部門は、我が国のエネルギー消費の24%を占めているが、このうち自動車のエネルギー消費量の占める割合は87%に達しており、そのほとんどは乗用車及びトラックが占めている。このため、運輸部門、特に自動車の省エネルギーを推進することが不可欠である。
 運輸省としても、大量輸送機関の利用の促進により省エネルギー型の交通体系を構築するとともに、各交通機関の省エネルギー対策を推進しているところである。



平成6年度

目次