平成6年度 運輸白書

第11章 運輸における安全対策・技術開発の推進
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第11章 運輸における安全対策・技術開発の推進
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第1節 交通安全対策の推進 |
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交通安全の確保は運輸行政の基本であり、このための施策の推進は最も重要な課題の一つである。運輸省としては、人命尊重が何ものにも優先するとの見地に立ち、従来から、交通安全対策全般にわたる総合的かつ長期的な施策の大綱を定めた交通安全基本計画に基づき、毎年度、具体的な交通安全業務計画を定め、各輸送機関の安全の確保に努めてきている。
平成6年度は、第5次交通安全基本計画(3〜7年度)に基づき、交通安全施設等の整備、車両・船舶・航空機等輸送機器の安全性の確保、交通従事者の資質の向上及び適切な運行(航)管理の確保等の施策を更に推進するとともに、気象資料等の収集の強化並びに適時に的確な予報・警報等の提供、救難体制の整備や被害者の救済対策にも積極的に取り組むことにより、陸・海・空すべての分野における交通安全対策の一層の充実を図っている。
1 交通事故の概況
2 交通安全の確保
- 1 交通事故の概況〔2−11−1図@,A〕〔同図B,C〕
- 道路交通事故による年間の死者数が6年連続で1万人を記録し、依然としてきわめて厳しい状況にある(5年の交通事故死者数10,942人)。
鉄軌道交通の事故は長期的には減少傾向が続いているが、大阪市交通局南港ポートタウン線において重大事故が発生した(5年10月、負傷者数217人)。
海上交通においてはプレジャーボート等の海難の割合が高くなっている(5年全要救助船舶隻数のうち33%)。
航空交通においては6年4月名古屋空港において中華航空機の墜落事故が発生(死者264人、負傷者7人)した。
- 2 交通安全の確保
- (1) 道路交通の安全対策
- 自動車の安全性の向上に関しては、4年3月の運輸技術審議会答申を踏まえて、5年4月及び6年3月に安全基準の拡充強化を行ったところである。
今後も、本答申を踏まえ、(財)交通事故総合分析センターの実施する交通事故の調査分析の活用を図りつつ、事故回避、被害軽減等のための自動車の安全基準のより一層の拡充強化、研究開発の推進等を行い、自動車の安全性の一層の向上を図ることとしている。
自動車の検査及び点検整備については、自動車の安全確保及び公害防止の一層の充実を図るため、5年6月の運輸技術審議会答申に基づき道路運送車両法を改正した。現在、その円滑な施行に向けて、自動車ユーザーの保守管理意識の高揚対策等所要の措置を講じているところである。
さらに、引き続き、運行管理者に対する指導等により、事業用自動車の安全運行の確保に努める。
このほか、自動車事故被害者に対する救済対策として、自動車損害賠償保障制度の適切な運用等を行っていく。
- (2) 鉄軌道交通の安全対策
- (ア) 鉄軌道の安全性の確保
- 鉄軌道における事故は長期的には減少傾向にあるが、ひとたび大事故が起きればその被害は甚大なものとなるため、より一層の安全性を確保するため常に十分な安全対策を講じて行く必要がある。
具体的には、自動列車停止装置(ATS)等の運転保安設備の整備、新しい技術を取り入れた検査機器の導入による車両の安全性の確保、乗務員等に対する教育訓練の充実、厳正な服務と適性な運航管理の徹底等による安全運航対策を実施している。
また、運輸省とJR各社の安全担当責任者で構成する鉄道保安連絡会議を定期的に開催し、安全対策に関する指導・情報交換を行い、安全対策の推進に努めている。
- (イ) 踏切事故の防止対策
- 踏切事故の防止のため、踏切道改良促進法及び第5次踏切事故防止総合対策(3〜7年度)に基づき、踏切道の改良を計画的に推進しており、5年度においては、立体交差化83箇所、構造改良349箇所、保安設備の整備219箇所の改良が行われた。
運輸省は、これら踏切整備のために、必要な資金を財政投融資により確保するとともに、地方公共団体と協力して、一定の要件を満たす鉄道事業者に対し、踏切保安設備の整備費の一部を補助している。
- (3) 海上交通の安全対策
- (ア) 海上交通環境の整備
- (a) 港湾等の整備
- 5年度には、港内の船舶の安全性を確保するため、酒田港等70港で防波堤、航路、泊地等の整備を行った。また、沿岸海域を航行する船舶の安全性を確保するために、室津港等12港の避難港を整備するとともに、関門航路等16航路の拡幅、増深を行った。
- (b) 航路標識の整備
- 海上保安庁は、船舶の安全かつ能率的な運航を確保するため、灯台、灯標等の航路標識の整備を推進しており、6年10月から広域電波航法システム(ロランC)を新島局を主局とする新しいチェーン構成で運用するとともに、隣接国のロランCとリンクした国際協力チェーンの試験的な運用(試験電波の発射)を7年1月から開始すべく検討を進めている。また、船舶交通のふくそうする東京湾、瀬戸内海において海上交通情報機構の整備・運用を行っており、6年度から、9年度の運用開始を目途に瀬戸内海の来島海域において整備をおこなっているほか、6年7月から海上交通に関する情報提供と港則法に基づく港内航行管制を一元的に行う名古屋港海上交通センターの運用を開始した。さらに、米国が運用している人工衛星を用いた電波航法システムであるGPSで得られた位置の精度を一層向上させる海上用ディファレンシャルGPSの整備に向け検討を進めている。
- (c) 海図等の整備
- 海上保安庁は、紙海図等の水路図誌を整備するとともに、4年度から紙海図以上の利便性を有する電子海図表示システムに必要な航海用電子海図の開発に着手し、6年度に最初の航海用電子海図を刊行する。
- (イ) 航行安全対策
- 海上保安庁は、海上交通安全法等の海上交通関係法令に基づく規制に加えて、船舶の種類に応じた所要の安全指導を行っている。また、東京湾横断道路等船舶交通に大きな影響を与えるおそれのある大規模プロジェクトについて、事業主体等の関係者に対し、警戒船の配備等海上交通の安全の確保のための措置を講ずるよう指導しているほか、船舶の航行を制限する海域の設定等必要な措置を講じている。さらに、船舶交通の安全に係る情報のうち緊急を要するものを航行警報等により提供している。
- (ウ) 旅客船の安全対策
- 旅客船に対して、運航管理者の選任、運航管理規程の作成を柱とした安全運航管理体制の整備・充実を図っている。さらに、国内旅客船については、運航管理者研修、業務監査等を通じて安全運航に万全を期すよう指導監督している。また、6年5月に「1974年の海上における人命の安全のための国際条約」(SOLAS条約)が改正され、強制化されることとなった国際安全管理コード(ISMコード)の実施に向けて準備を進めている。
- (エ) プレジャーボート等海洋レジャーに係る安全対策の推進
- 海上保安庁は、海難防止強調運動を展開するほか、海難防止講習会、海上安全教室等を実施し、海難防止思想の普及及び高揚等を図るとともに、種々の安全指導を行っている。また、海洋レジャー愛好者自らの責任の下に安全を確保することが肝要であるとの考え方から、(財)日本海洋レジャー安全振興協会、小型船安全協会等民間団体が行う安全活動を積極的に支援している。
海上技術安全局は、プレジャーボート等の船型及び操縦方法の多様化、海難の増加傾向等に伴い、小型船舶操縦士指定養成施設等関係機関に対して、プレジャーボート等の安全な航行に関する啓蒙及び指導の徹底を図るよう引き続き指導している。
なお、小型船舶操縦士の免状は、5年11月からA4サイズを定期券程度のサイズに小型化され、携行の便宜が図られている。
- (オ) 船舶の安全性の確保
- 船舶の安全性を国際的な統一基準により確保するため、我が国は、国際海事機関におけるSOLAS条約の改正の審議に積極的に参加するとともに、「1977年の漁船の安全のためのトレモリノス国際条約に関する1993年のトレモリノス議定書(仮称)」に基づくアジア地域ガイドラインの策定準備を我が国が中心となって進めている。また、6年5月の第2回SOLAS条約締約政府会議で行われた同条約の改正(船舶の安全運航管理体制の充実・強化を目的としたISMコード、水中翼船等の基準を定める高速船コード、タンカー及びばら積み運搬船の検査強化ガイドライン並びに船舶の操作要件に係る外国船舶の監督等)の発効にあわせ、今後、国内法制化及び実施体制の整備に順次着手することとしている。
さらに、一般危険物については、同条約の改正に伴い関係省令の改正(5年12月)を行い危険物輸送の安全を強化した。また、今後、高レベル放射性廃棄物の返還輸送が予定されており、国内輸送も含め放射性物質輸送の安全確保に万全を期すため、安全審査体制の充実を図っている。
小型船舶については、造船技術の進歩等により必要性の薄れてきた基準を緩和するとともに、救命設備等人命の安全に直結する基準について合理化する等、小型船舶に係る検査体制及び安全基準について関係省令を全面的に改正(6年5月施行)したところである。
なお、船舶の関係法令等の適用の基準として用いられている総トン数、国際総トン数等の測度について適正な実施に努めている。
一方、近年、世界的にタンカー等の海難事故が頻発している中で、事故防止における人的要因の重要性が認識され、国際海事機関(IMO)において、「1978年の船員の訓練及び資格証明並びに当直基準に関する国際条約(STCW条約)」の包括的見直し及び新たに漁船のSTCW条約の草案の策定作業が行われており、我が国もこの動向に適時適切に対応することとしている。
- (カ) 外国船舶の監督(ポートステートコントロール)体制の強化
- SOLAS条約、STCW条約等の国際基準に適合していない船舶(サブスタンダード船)の排除が国際的に問題となっており、我が国においても、ポートステートコントロール(PSC)の充実強化に努めてきている。
特に、PSCは、国際的な協力体制の下での実施がより効果的であることから、欧州地域における協力体制(パリMOU)を参考に、5年12月、アジア太平洋地域においても、6年4月から海事当局によってPSCが協力して実施されている。このため、今後もPSCの一層の強化を図るとともに、海運・造船先進国の国際的な責務として、地域内各国への積極的な協力等を推進する。
- (キ) 海上捜索救助体制等の整備
- 海上保安庁は、SAR条約等に基づく我が国の広大な捜索救助区域において発生する海難に迅速かつ的確に対応するため、航空機との連携機能の強化を図った巡視船、捜索救助能力に優れた航空機等を整備するとともに、転覆船内からの遭難者の救出等を行う特殊救難体制、医師による洋上往診を行う洋上救急体制、「救急救命士」の国家資格を有する職員による高度な応急処置を行う救急救命体制等を整備するほか、より効果的な捜索救助活動を可能とする船位通報制度(JASREP)を運用している。また、沿岸で多発する海難に対応するため、民間海難救助組織の育成強化に努めている。このほか迅速・的確な捜索救助等を目的とし、衛星通信技術等を利用した新しい遭難・安全通信システムである「海上における遭難及び安全に関する世界的な制度」(GMDSS)に対応するため、関連主要施設の整備を行い、捜索救助のための通信系であるCOSPAS/SARSATシステム等及び海上安全情報の通信系であるNAVTEXシステム等を運用している。なお、平成7年2月には、日本船舶の利便に資するため、日本語によるNAVTEX航行警報の提供を開始することとしている。
- (ク) 海難審判による原因の究明
- 海難審判庁は、海難の発生防止に寄与するため、迅速かつ的確な海難原因の究明に努めており、5年には、837件の裁決の言渡をしている。また、特に社会的影響が大きい海難については、重大海難事件として指定し、集中的な調査・審判により、早期の原因究明を図っている。5年に指定した重大海難事件は5件であり、そのうち、2月21日に長崎県五島沖で漁船第七蛭子丸が転覆沈没し、乗組員19名が行方不明となった事件、2月23日に神戸港沖で貨物船菱南丸と中国籍貨物船が衝突し、菱南丸が沈没し、同船乗組員5名が死亡した事件の2件については、いずれも6年3月にその裁決の言渡をしており、他の3件は第一審に係属中である。
- (4) 航空交通の安全対策
- (ア) 航空保安システムの整備
- 航空交通の安全性の向上と空域の有効利用による航空交通容量の拡大を図るため、方位・距離情報提供施設(VOR/DME等)、航空路監視レーダー(ARSR、ORSR)、空港監視レーダー(ASR)及び管制情報処理システム(RDP、FDP、ARTS)等の航空保安システムの整備を行っている。
また、定期便の定時性の確保と就航率の向上を図るため、計器着陸装置(ILS)と航空灯火等の整備を進めている。
5年度においては、本郷、紋別及び石見のVOR/DME等及び広島ILSの整備を完了し、運用を開始した。
一方、今後予想される航空交通の増大等のニーズに適切に対応するためには、現行の地上支援型航空保安システムでは、電波覆域等による限界があることから、新たな航空保安システムを構築することが緊急の課題となってきている。このため、5年9月に「次世代の航空保安システムのあり方について」航空審議会に諮問し、6年6月に答申を得た。
答申においては、次世代の航空保安システムの中核をなすものは、衛星航法、航空衛星通信、自動従属監視からなる航空衛星システムであると位置付けており、特に、北太平洋上における航空交通の増大等に的確に対応するためには、航空衛星システムが必要不可欠で、21世紀早々には実運用が可能となるように航空衛星システムの整備を図る必要があると指摘されている。
運輸省においては、この答申を踏まえ、運輸多目的衛星を用いて、より安全で効率的な航空交通の確保を行うことができる次世代の航空保安システムを6年度から段階的に整備を進めているところである。
- (イ) 航空気象施設の整備
- 気象庁は、航空機の運航の安全性、定時性、経済性を確保するため、風・滑走路視距離・気圧等の観測装置、予報・通報のための情報処理・通信機器等を整備し空港における気象観測や航空機のための予報等を行っている。また、関西国際空港及び新東京国際空港に、低層の風の急激な変化(ウインドシヤー)を探知することができる空港気象ドップラーレーダーの整備を進めている。
- (ウ) 航空機の安全運航の確保
- (a) 運航管理の改善
- 航空運送事業者は航空機の運航基準、運航管理の実施方法等を
運航規程に定めるよう義務づけられており、運輸省ではこれらの規程の認可、安全性確認検査等による運航管理体制の確認等を行い、必要に応じ改善を求めるなど所要の指導、監督を行っている。
- (b) 乗員の養成
- 航空会社では業績低迷により操縦士の稼働には余裕があるものの、今後の定年退職者数の増加等もあり、操縦要員の採用は規模を縮小しつつ継続している。その供給源は航空大学校、自社養成、防衛庁からの割愛及び外国人等多様化してきているが、運輸省ではその技能の水準の維持について各社への指導を行っている。
- (c) 航空保安大学校の充実
- 航空保安大学校においては、関西国際空港の開港等に備えて新規職員の養成体制の充実を図るため、6年度には、レーダー管制実習装置、気象情報表示装置及び進入管制実習装置等の更新整備を、また、同岩沼分校においては、高度な専門技術習得のため教育用RDPシミュレーター及びRDPシステムの更新整備を進めることとしている。
- (d) 航空保安対策
- 我が国では、「よど号」事件を契機として、各空港においてX線検査や金属探知機による検査の実施等のハイジャック防止対策を講じており、その結果、昭和55年以降ハイジャック事件は発生していない。しかしながら、国際的には航空機の爆破事件が懸念されており、我が国としても、国際線においてすべての受託手荷物のX線検査等を実施するなど爆破防止対策の強化に努めている。
- (エ) 航空機の安全性の確保
- 我が国の航空機はその運航形態から疲労、腐食等による機体の経年化に伴う事故の防止及び安全性の確保が強く求められている。このため各航空会社に対し航空機の点検、整備の強化及び改修の促進を指示してきたが、今後も更に対策の強化を進めていく。
- (オ) 事故防止等指導強化
- 航空運送事業者については、運航規程・整備規程の認可、安全性確認検査等を通じ、運航及び整備体制等の充実を図るよう指導している。
特に、6年4月26日に名古屋空港において発生した中華航空機の事故については、航空事故調査委員会による経過報告等を踏まえ、事故機と同型機等を使用する我が国航空運送事業者に対する自動操縦装置の使用に係る規程の徹底等所用の安全対策を指導し、事故防止に万全を期することとしたところである。
小型航空機については、法令及び安全関係諸規定の遵守、無理のない飛行計画による運航の実施、的確な気象状況の把握、操縦士の社内教育訓練の充実等について指導を行っている。
また、スカイレジャーについては、関係団体等を通じて事故防止の指導を行っている。
- (カ) 危険物輸送の安全基準の整備
- 危険物の輸送量の増加及び輸送物資の多様化に対応すべく、国際民間航空機関(ICAO)及び国際原子力機関(IAEA)において危険物輸送に関する安全基準の整備強化が進められており、これらの動向をふまえ所要の基準の整備を図っている。また、航空運送事業者については、危険物輸送に関する安全基準の遵守及び危険物輸送従業者に対する社内教育訓練の充実等を行うよう指導している。
- (キ) 緊急時における捜索救難体制の整備
- 民間航空機の捜索救難については、警察庁、防衛庁、運輸省、海上保安庁及び消防庁の間で取り決めを行い、救難調整本部(RCC)を東京空港事務所に設置して実施にあたっている。RCCにおいては、関係機関との合同訓練を定期的に行い、捜索救助体制の一層の充実強化を図っている。

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