平成6年度 運輸白書

第2章 運輸における安全対策・技術開発の推進

第2節 災害対策の推進

 運輸省、海上保安庁及び気象庁は、災害対策基本法に定める指定行政機関として、防災業務計画を策定し、災害防止のための予報体制の強化、輸送施設及び交通機関の災害予防対策、国土保全対策、災害復旧事業を総合的かつ計画的に推進している。

    1 災害予防の強化
    2 国土保全の推進
    3 我が国における地震・津波災害への対応
    4 国際防災の10年の推移


1 災害予防の強化
(1) 予報・監視体制の強化
(ア) 気象情報の提供等
 気象庁は、昭和63年度からL−ADESS(地方中枢気象資料自動編集中継装置)の更新整備を進め、平成5年度の沖縄をもってコンピュータネットワークの全国展開を完了した。
 また、量的予報の拡充及びより的確な防災情報の提供を柱とする気象業務の強化・充実を図るため、6、7年度の2ケ年でCOSMETS(気象資料総合処理システム)を更新整備する。観測装置については、気象レーダーの更新(札幌レーダーを小樽市の毛無山に移設・更新:2年計画の初年度目)、積雪深計の更新(20ケ所)、高層気象観測自動処理装置の整備(輪島、名瀬)等を実施して近代化、効率化を図ることとしている。また、関西国際空港及び新東京国際空港に航空機の離着陸に重大な影響を与えるウインドシヤ−を探知することができるドップラーレーダーを整備し、航空気象観測体制を強化することとしている。
 海洋に関する情報については、高潮や津波に対する注意報・警報の発表をはじめ、日本近海及び北西太平洋域の海水温・波浪・海氷の解析及び予報等の情報を作成提供し、船舶及びマリンレジャー等の安全確保に寄与するとともに、引き続き解析・予報精度の一層の向上を図っている。また、エルニーニョ監視センターでは、世界的な異常気象の原因の一つであり気候変動にも大きな影響を与えるエルニーニョ現象の解析及び情報の提供を行っている。
(イ) 地震対策
 気象庁は、全国的な地震観測を行い、津波予報、地震情報等防災上必要な情報を提供している。気象庁長官は東海地震の発生のおそれがあると判断した場合には、内閣総理大臣に「地震予知情報」を報告することとされており、このため、各種観測データをリアルタイムで処理し、総合的に監視する「地震活動等総合監視システム(EPOS)」を運用しているが5・6年度には、同システムの改良更新を行う。また、5年度に整備した津波地震早期検知網及び緊急情報衛星同報システムによる迅速な津波予報発表体制の確立を図るとともに、これらにより地震・津波情報の高度化が可能になる基盤が整備されたこと等の状況に鑑み、気象審議会に「今後の地震・津波情報の高度化のあり方について」諮問を行い、10月6日答申を受けた。さらに、顕著な地震活動等に対して的確な地震情報の提供を図るため、通常の地震観測網を補完する地震機動観測業務を強化することとしている。なお、6年6月24日札幌管区気象台に地震火山課を設置し、体制を強化している。
 海上保安庁は、地震予知に必要な基礎資料を得るため、南海トラフ等において、海底地形・地質構造調査、潮汐観測、地磁気観測、重力観測等を実施し、これらのデータを地震予知連絡会に提供している。
(ウ) 火山対策
 気象庁は、全国83の活火山のうち、活動的な19火山の常時監視を行い、その他の火山については、火山機動観測班が計画的に基礎調査を実施している。噴火等の異常時には、同観測班が出動して緊急観測・監視を行うこととしている。また、6年度には、東京管内の普通観測火山の観測強化を図るため、震動観測データの気象庁本庁へのテレメータ化及び観測機器の改良更新を図る。これらの観測成果に基づき、緊急火山情報及び臨時火山情報等を関係都道府県知事等防災機関に適時適切に通報・伝達する。
 海上保安庁は、南方諸島・南西諸島海域の海底火山活動を的確に把握するため、定期的に航空機等による観測を実施し、これらのデータを火山噴火予知連絡会に提供している。
(2) 防災対策
(ア) 鉄道の防災対策
 鉄道事業は、鉄道施設について鉄道運転規則及び軌道運転規則に基づく定期点検等を行い、危険箇所を早期に把握するとともに、必要に応じ橋梁等の構造物の取替え又は改良を実施している。さらに、雨期や台風時期に被害の発生する恐れのある箇所の点検を強化し、災害防止に努めている。運輸省においては、旅客会社等が行う防災施設の設置のうち、治山、治水等の公共防災事業に準じるものについて、所要の助成措置を講じている。また、消防庁と協議のうえ地下鉄道の火災対策に関する技術基準を作成し、これに基づいて必要な指導を鉄道事業者に行っている。
(イ) 港湾の防災対策
 地震対策として、観測強化地域及び特定観測地域とその周辺の港湾を中心に、耐震強化岸壁等の整備を実施しているほか、既存の岸壁等の液状化対策工事を実施している。また、火山対策として避難施設緊急整備地域の伊豆大島波浮港及び長崎県島原港において、避難岸壁等の整備を実施している。
(ウ) 海上防災体制
 海上保安庁は、海上における災害の発生に備え、自ら排出油防除資機材の整備等を行うほか、海上災害防止センターを中心とした民間の海上防災体制の充実を図るとともに、流出油災害対策協議会の設置を促進するなど官民の協力体制の強化に努めている。また、中央防災会議において決定された「当面の防災対策の推進について」(昭和58年)及び「南関東地域直下の地震対策に関する大綱」(平成4年)に基づき、立川広域防災基地における海上防災関係施設及び横浜海上防災基地の整備を推進し、立川広域防災基地については6年7月から運用を開始している。
(エ) 空港における消火救難体制及び雪害対策
 各空港ではICAOの基準に基づき、化学消防車、救急医療資器材の整備等消防体制と救急医療体制の整備を進めている。特に、6年4月の名古屋空港における中華航空機事故を契機に、改めて消火救難体制の総点検を行いその強化充実を図るよう努めるとともに、地方公共団体が管理する空港に対しても同様の指導を行った。
 積雪寒冷地の空港においては、除雪車両の整備等除雪体制を強化し、除雪期の航空機運航の安全性及び定時制確保に努めている。

2 国土保全の推進
(1) 安全で快適な生活を支える海岸事業の推進
 港湾海岸事業では、人口・資産が集積する“みなとまち”を高潮、侵食、津波等の自然災害から守り、良好な海岸環境を創出する「ふるさとの海岸づくり」を進めており、東京湾、伊勢湾、大阪湾等における高潮対策、新潟港西海岸等での侵食対策、三陸・土佐沿岸での津波対策、熱海港海岸等での海岸環境整備事業等を推進している。
 特に、全国の海岸の中で他の模範となるような海岸を選定し、「ふるさと海岸整備モデル事業」及び「ビーチ利用促進モデル地区制度」を活用して「白砂青松」の再生や、大規模で複合的なビーチの整備を推進している。
(2) 災害復旧事業の実施
 港湾施設及び港湾内の海岸保全施設等について、5年においては、1月の釧路沖、2月の能登半島沖、7月の北海道南西沖と3件の地震のほか1月の冬期風浪、7月の豪雨、8月の台風7号、9月の台風13号等の被害により、合計約380億円の被害が発生した。このうち釧路沖地震と北海道南西沖地震の被害総額は約260億円にのぼり、全体の68.5%を占める。これらの被害及び3年、4年に発生した被害を早期に復旧させるため、5年度に実施した災害復旧事業費は約331億円である。

3 我が国における地震・津波災害への対応
(1) 北海道南西沖地震への対応
 5年7月12日22時17分頃、北海道南西沖の深さ34kmを震源とするマグニチュード7.8の地震が発生し、気象庁は、22時22分に北海道の日本海沿岸と太平洋沿岸等に津波警報・注意報を発表した。
 港湾関係では、奥尻港、函館港等の道南7港において岸壁、物揚場等に沈下、亀裂といった被害が発生しており、港湾機能の早期回復をめざし、被災した施設の復旧工事に力を入れている。
 海上保安庁は、北海道南西沖地震後の緊急研究として、深海用サイドスキャンソナーを使用して震源付近海底の微細地形を測量し、震源の西側で海底が圧縮されてできたとみられる構造を発見し、地震発生のメカニズムを知るための基礎資料とした他、地震による奥尻島周辺の地殻上下変動の実態を明らかにするため、同島の周辺の水上岩の高さを測定し、同島の沈降現象を解明した。
(2) 雲仙岳噴火災害への対応
 気象庁では、雲仙岳の活発な火山活動に対処するため、地震計、遠望観測装置、傾斜計、空振計、地磁気観測装置等の各種観測機器を整備し、一層の観測・監視体制の強化を図り、これらの観測データに基づいて火山情報を迅速的確に発表している。また、土石流の発生し易い状況は続いており、長崎海洋気象台では、体制を強化し、注意報・警報の適切な発表、防災機関への適切な対応に努めている。
 港湾局においては、港湾管理者との連絡調整を図りつつ、島原港において避難岸壁、避難広場等の整備を推進している。
 海上保安庁は、発災後から、付近海域の監視・警戒、海底地形・変色水等の調査等に万全を期しており、現在も引き続き情報の収集に努めるともに避難民の輸送等万一の場合に備え、巡視船艇・航空機が即応できる体制を確保している。
(3) 8月豪雨、台風13号等による土砂災害への対応
 鉄道関係においては、JR九州本社に災害復旧本部を設置する等、被害状況の調査及び、復旧工事を行い5年11月29日までに全線復旧した。
 港湾関係においては、港湾施設等の被害で緊急に復旧を要する箇所については、既に応急工事を完了させ、本格復旧工事についても鋭意施工中である。

4 国際防災の10年の推進
 自然災害による被害の世界的な軽減を図るため、国連において1990年代を「国際防災の10年」とすることが決定され、これを受けて政府は、元年に内閣総理大臣を本部長とし、運輸大臣、国土庁長官等を副本部長とする〔国際防災の10年推進本部〕を設置し、国際防災の10年の活動を積極的に推進することとしている。また、中間年にあたる平成6年5月に横浜市において「国際防災の10年」世界会議が開催されたところである。運輸省、海上保安庁及び気象庁としても国際防災10年の活動に積極的に対応している。



平成6年度

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