平成6年度 運輸白書

第11章 運輸における安全対策・技術開発の推進
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第4節 情報化の推進 |
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運輸分野は、利用者利便の向上、安全性の向上、企業経営の効率化等の観点から、他分野に先んじて、各種の高度情報システムが構築されてきた。例えば、鉄道部門、航空部門等では、昭和30年代より、予約システムが稼働し、昭和40年代からは、交通機関を安全に、かつ、計画的に運行させるための運行管理システムが整備されてきた。
しかしながら、最近の「マルチメディア」の議論に見るように、あらゆる分野における情報化が、今後、国民生活向上のファクターとして重要度を加速させていくことは疑いのないところである。また、近年、運輸分野への国民のニーズはますます多様化、高度化してきており、その一方で、労働力不足、環境問題等の各種制約要因も顕在化してきていることを勘案すると、情報処理技術、通信技術の進展の動向を十分把握しつつ、より高度な情報システムを運輸分野に活用していくことが、今後一層重要になると考えられる。
1 運輸における電子データ交換化の推進
2 ICカード等運輸分野におけるカードシステム導入の推進
3 総合観光情報システム等の推進
4 気象情報サービスの高度化の推進
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1 運輸における電子データ交換化の推進
- (1)EDIの概要
- EDI(Electronic Data Interchange)とは、「異なる企業間で、商取引のためのデータを広く合意された規約に基づき、コンピュータ間で交換すること」であり、現在、「納品書」「送り状」「請求書」等の帳票(ペーパー)の郵送もしくは電話、ファクシミリ等によって伝達されている情報をコンピュータを介して、電子的に交換しようとするものである。
このような「コンピュータ」を介したデータ交換を行うことにより、取引先情報を瞬時に送付でき(迅速性)、帳票から帳票へのデータの転記が不要となり(効率性)、またその際の誤記が解消される(正確性)ほか、「広く合意された規約(EDI標準規約)」に基づくことで、取引先ごとで異なる複数の端末機への二重入力(いわゆる多端末現象)等の問題が解消されるものである。
- (2)国際的な状況
- EDI規約の標準化は、昭和61年より国連欧州経済委員会の貿易手続簡易化作業部会(UN/ECE/WP.4)において「EDIFACT(行政、商業、運輸のための電子データ交換規則)」と呼ばれる国際標準規約の策定により進められている。標準規約の策定を効率的に進めるため、世界の6つの地域(汎米、西欧、東欧、オーストラリア/ニュージーランド、アジア、アフリカ)を代表する地域専門家(ラポーター)が派遣されており、ラポーターの活動を支援するための組織として各地域にEDIFACTボードが設けられている。
我が国は、2年度にアジアEDIFACTボードを設立し、アジア地域を代表してラポーターを派遣するなど、アジア地域における主導的役割を果たしている。
6年8月現在、既に運輸分野等における合計42のEDIFACTに基づく標準メッセージが勧告されるなど多くの標準メッセージの開発が進められている。特に、6年4月より、シンガポール港湾庁へのコンテナ積付け情報(ベイプラン)の提出がEDIFACTに準拠したものとすることが義務付けられるなど、EDIFACTの導入が国際的に進展してきている。
- (3) 我が国における取り組み
- 我が国においては、学識経験者、物流関係企業、関係官庁からなる「物流EDI研究会」において、我が国物流分野におけるEDIの導入を推進するための活動を精力的に行っている。今年度は、国内物流の分野では、荷主と物流事業者間において、標準メッセージを用いたデータ交換実験を実施し、その結果を踏まえEDI導入のためのガイドラインをとりまとめるなど、啓蒙普及活動に努めるとともに、国際物流の分野では情報処理の促進に関する法律に基づき、外航海運分野における「電子計算機の連携利用に関する指針」を策定するなど、EDIFACTの本格的導入を推進することとしている。
さらに、旅行予約等の人流部門についても、近年、国際的なEDI標準化の動きが活発化してきていることから、6年8月に学識経験者、旅行関連企業、関係官庁からなる「旅行EDI研究会」が設置され、国際交通、宿泊の予約についての標準メッセージの検討等を精力的に行うこととなった。
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2 ICカード等運輸分野におけるカードシステム導入の推進
- (1) 共通乗車カードの導入
- 従来より、乗車カードの共通化が鉄道、バス等の公共交通機関において進められてきたところであるが、6年10月より東京都特別区における乗車カードの導入に伴い、神奈川県(横浜市、川崎市エリア)におけるストアードフェア方式によるバスの乗車カードの共通化が東京都特別区まで拡大され、1枚のカードによって都県を越えたサービスが受けられるようになった。
運輸省としても、利用者利便の一層の向上を図る観点から、共通利用地域の一層の拡大を呼びかけるとともに、他の輸送モードも含め複数以上の公共交通機関が共通利用できるカードの積極的な導入を推進していくこととしている。
- (2) ICカードの導入
- 現在の磁気カード方式に比較し、記憶容量が格段に大きく、高度な機密保持機能を有するICカードについては、移動体の自動識別や利用者の様々な情報の蓄積に優れた機能を有するため、運輸部門における今後の有効な情報媒体として利用可能性が高いとされている。
運輸省としても、5年度より3年間の計画で、学識経験者を交え、運輸分野におけるICカードの活用方策について検討を進めてきているところである。初年度においては、具体的利用分野の絞り込み等を行ったところであり、それを踏まえ、6年度はバス・鉄道等乗車券、貨物追跡管理等の利用分野ごとに諸外国の事例調査、ニーズ調査等を実施し、活用する場合の概略システムをとりまとめ、導入に当たっての諸課題のとりまとめを行っているところである。今後は、それら各々についてのフィージビリティを確認した上で標準的なシステムづくりを目指すこととしている。
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3 総合観光情報システム等の推進
〔2−11−4図〕
- 近年の秘境・秘湯ブーム、グルメブームに代表されるように、近年、旅行・レジャー分野における国民のニーズが個性化、多様化しており、これらのニーズに対応するための詳細かつ迅速な情報提供が求められているところである。
こうした状況を踏まえ、運輸省では、パソコン通信やマルチメディア技術を活用し、安価で使いやすい観光情報提供サービスについて検討を行ってきている。4年度には地方公共団体がパソコン通信により地元観光情報を提供するための標準フォーマットを作成し、5年度においては、このフォーマットに基づき、観光写真、地図、音声付き動画によるマルチメディア情報を一般利用者に提供する公開実験サービスを行うとともに、併せて、パソコン通信の双方向性を活かして、利用者の質問に地方公共団体が回答するサービス(Q&Aサービス)の実効性についても検証を行った。
今年度は、この検討結果を踏まえ、地方公共団体が主体となった具体的な観光情報システムのあり方、運営主体等について検討を進めていくこととしており、観光に付随する各種サービスを盛り込んだ魅力ある総合観光情報システムの構築を目指すこととしている。
さらに、近年のマルチメディア環境の急速な進展にも鑑み、本情報システムとも関連づけながら、公共交通機関の運行情報等を画像・音声を組み合わせて双方向で交換できる運輸関連情報ネットワークの構築を図るなど運輸部門においてもマルチメディア化への対応を検討することとしている。
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4 気象情報サービスの高度化の推進
- 国民生活の多様化に伴い、気象情報に対する国民の要望は一層高度化、多様化するものと考えられる。このような要望に対処するためには、利用者の個別的目的に適合する局地的な天気情報や、気象情報を基にした付加価値情報等を、様々な情報メディアを活用し個々の利用者の必要に応じて選択的に提供する、情報化社会に相応しい気象情報サービスの実現を図っていく必要がある。但し、気象情報は防災情報と一体となったものであり、一般の利用に供していくためには、その品質の保証が欠かせない。以上のような観点から、気象審議会は4年3月に「社会の高度情報化に適合する気象サービスのあり方について」を答申し、気象庁からの高度な各種支援データの提供と、予報技術者の資格制度の導入等を前提とする民間気象業務の推進方策を提言した。
これを受け、5年5月気象業務法が改正され、指定機関を用いた気象庁からの各種支援データの提供と、気象予報士制度の導入が定められた。これに伴い、6年5月には、(財)気象業務支援センターが各種データの分岐配信業務、及び気象予報士試験の事務を担う各々の指定機関として指定され、上記業務を始め気象庁からの技術移転等、気象庁と民間気象業務を結んだ総合的な気象業務の推進のセンターとしての業務を開始した。
また、民間の気象予報業務を的確に行うため、新たに創設された気象予報士制度に関しては、第1回の試験が同年8月に実施され、500人が合格した。試験は今年度更に2回実施され、来年度以降は年1回行われる予定である。
明7年5月には改正気象業務法が適用になり、予報業務の許可事業者による局地予報の一般への提供が始まり、この業務を中心に情報化社会に向けた民間気象業務の新たな展開が開始される。

平成6年度

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