平成6年度 運輸白書

第2章 変貌する国際社会と運輸

第2節 国際経済問題の対応した運輸行政の展開


(1) 運輸ハイレベル協議
 運輸省では、主要運輸当局と密接な意思疎通を図ることにより、運輸分野における諸課題について円滑な調整を行うため、運輸審議官と諸外国の次官クラスとの間で、運輸ハイレベル協議を実施している。平成6年には、4月に欧州委員会第7総局長(運輸担当)を迎え、航空、海運、GATTウルグァイ・ラウンドの今後等日EU間の運輸分野における重要問題を中心に協議が行われた。
(2) 日米包括経済協議
 日米包括経済協議は、経済面における日米関係の新たな枠組みを構築するため、5年7月の日米首脳会談において枠組みの設置について両首脳間で合意されたもので、マクロ経済面、セクター別・構造面での協議及び「地球的展望に立った協力のための共通課題」がその柱となっている。
 セクター別・構造面問題には、特に運輸省管轄の行政と関連の深い自動車・自動車部品問題等が、また、「地球的展望に立った協力のための共通課題」には日米運輸技術協力が含まれており、運輸省としても積極的な対応を行ってきたところである。
 このうち、自動車・自動車部品分野の一つである補修用自動車部品分野については、6年9月末近くになって米国が自動車分解整備制度の最終的な廃止等を強く主張してきた。これに対し、我が国は、安全確保及び公害防止を支える根幹である制度そのものの廃止は不可能であるが、これらに支障を生じない範囲での規制緩和は行うとの姿勢で合意に向け精力的に米国との協議を行ったが、10月初頭の時点では合意に至らなかった。
 なお、米国政府は6年10月同国の通商法301条に基づき、一方的に我が国の自動車補修部品分野に関する調査を開始することを発表した。
(3) 日米運輸技術協力
 日米運輸技術協力は、日米両国に有益な運輸技術に関する協力により運輸分野全般における包括的な協力関係を構築するとともに、両国における効率的かつ安全な交通体系の整備に資することを目的とするものであり、5年7月の日米首脳会談で日米包括経済協議の中の「地球的展望に立った協力のための共通課題」の一つとして位置付けられ、6年2月に運輸大臣及び米国運輸長官との間で実施取決めを締結したものである。
 上記実施取決めに基づき 6年10月、第1回専門家会合を開催し、協力の枠組み及び高速鉄道技術、船舶からの油流出防止技術等7項目を優先協力項目として取り上げることに合意した。今後、専門家会合を定期的に開催するとともに、各項目ごとにワーキンググループを設け協力の具体的細目及び方法を確定して協力を進めていくこととしている。
(4) 日米建設協議
 我が国の大型公共事業への外国企業の参入等に関しては米側より問題提起されたことを受け、日米協議を経て導入された「大型公共事業への参入機会等に関する我が国政府の措置」(昭和63年)及びその追加的措置(平成3年)を着実に実施してきたところであるが、米国側はなおも5年4月、日本の公共事業市場は閉鎖的であるとして、制裁措置の実施も辞さないという態度を表明した。
 我が国は、6年1月、GATT政府調達協定の内容等を踏まえ、国際的な視点も加味した透明で客観的な入札・契約手続として「公共事業の入札・契約手続の改善に関する行動計画」を策定し、基準額以上の国及び政府関係機関の工事について、一般競争入札方式、基準額以上の設計・コンサルティング業務について、公募型方式を採用することとした。
 米国側はその内容を評価すると発表し、協議は一応の終結を見た。
(5) GATTウルグァイ・ラウンド
 昭和61年より開始されたGATTウルグァイ・ラウンドにおける交渉は、平成5年12月15日に実質妥結し、6年4月15日にはモロッコのマラケシュにおいて交渉参加国が「世界貿易機関を設立するマラケシュ協定」(以下「WTO協定」という。)等を添付した最終文書への署名を行ったところであり、早ければ7年1月に発効することとなっている。
 GATTウルグァイ・ラウンドにおいては、新たに運輸、金融等のサービス分野が取り上げられ、その自由化促進のためのルールを定めた「サービスの貿易に関する一般協定」がWTO協定の附属書として作成されたが、サービス分野における主要交渉分野であった海運については8年6月まで継続交渉を行うこととなっており、我が方としては、海運継続交渉においても引き続き海運自由化の推進を図るべく対応していく必要がある。
(6) APEC(アジア太平洋経済協力)
 アジア・太平洋地域における経済関係の緊密な協力を図り、地域の一層の発展に資するため、元年に設立されたAPECは、昨年、初の首脳会議が開催されるなど、米国の同地域重視の政策とも相俟って急速な盛り上がりを示している。
 このような中にあって、運輸省では、運輸ワーキンググループ及び観光ワーキンググループを中心に、成長著しい同地域において、米国、アジア諸国等と密接な連携をとりつつ、積極的な貢献を果たしている。
(ア) 運輸ワーキンググルーブの動き
 昨年、米国より規制緩和、民営化、環境問題、インフラ整備、人材育成等を内容とする政策提言がなされたが、アジア諸国の米国提案に対する反対が強く、米国は提案をとり下げた。今後は、我が国より提案した域内の研究機関、研究分野等のリストを作成する「APEC運輸技術研究データベース」等を中心として積極的に対応していくこととしている。
(イ) 観光ワーキンググループの動き
 @データの整備、交換A観光開発と自然環境の保全B重要イベント等に関する情報の提供C観光振興の経済的阻害要因と促進方策D人材育成、について検討されているが、我が国は、Aに関連し、5年度を初年として、観光と環境に関する問題点、解決方策の把握等を目的として全般的な調査を実施している。
(7) 自動車基準・認証制度の国際化
 我が国は、自動車基準・認証に関し、従来より諸外国の意見等を踏まえ必要な措置を講じてきている。特に、米国については、6年3月、デトロイトに運輸審議官を団長とする型式指定取得促進ミッションを派遣し、型式指定の利点を米国メーカーに説明するとともに、4月から米国メーカーによる型式指定取得を支援するためにデトロイト総領事館に自動車審査担当官を常駐させている。
 また、米国及び欧州より要望のあった個別の技術的問題については、自動車基準・認証に関する専門家の意見交換等を通じ適切に対応していくこととしている。
 今後とも、欧米の政府機関及び業界との意志疎通を図るとともに、国連欧州経済委員会自動車安全公害専門家会議に積極的に参画し、自動車基準・認証の一層の国際化を図っていくこととしており、乗用車のブレーキの国際調和基準については、すでにその成果を国内基準に取り入れたところである。
(8) OECD造船協議
 OECD造船部会では、元年10月より、政府助成の削減と加害的廉売の防止を図り造船業における公正な競争条件を確保するための新たな協定に関する協議が行われてきたが、6年7月には本協定の基本的内容について我が国を含む関係国間で合意に達した。今後、8年1月の協定発効を目指して関係国間で所要の手続きを進めることとしている。協定発効により、国際造船市場における健全な競争条件の確立が図られ、ひいては、市場の秩序維持、安定化が進展することが期待される。



平成6年度

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