平成6年度 運輸白書

第4章 観光レクリエーションの振興

第4章 観光レクリエーションの振興

第1節 観光の振興

    1 国際観光の振興
    2 90年代観光振興行動計画(TAP90's)
    3 観光資源の保存・活用を通じた観光の振興
    4 魅力ある観光地づくり
    5 旅行の振興


1 国際観光の振興
(1) 外国人訪日旅行の促進
(ア) 外客誘致活動の充実
 国際経済社会における相互依存関係が高まる中で、国際的な友好・信頼関係の増大は国家存立の絶対条件であり、外国人観光旅客(以下この章において「外客」という。)の誘致は、文化的背景の異なる諸国との相互理解・相互交流の機会を提供し、市民レベルでの国際親善を進めていく上で、重要な意義を有している。
 しかしながら、5年の訪日外客数は341万人と日本人海外旅行者数1,193万人の約29%にとどまっており、近隣アジア諸国に比べても低い水準となっている。また、円高の進行により対日旅行費用の高騰が進む状況の下、外客数は伸び悩んでいる現状にある。
 このため、運輸省としては外客誘致活動の充実を図るため以下の施策を重点的に推進している。
(イ) コンベンション法の制定等
(a) コンベンション法の制定及び国際コンベンションの振興
 国際コンベンションの振興は、国際的な相互理解・友好関係の確立に寄与するとともに、地域観光需要の増大を通じた地域経済の活性化及び地方の国際化を図るうえで重要な課題である。
 しかし、我が国の国際会議の開催件数は情報や都市の知名度の不足、滞在費用の高さ等の理由から欧米諸国に比較してまだまだ少なく、都市別に見ても欧米の主要都市はもとより、アジアのシンガポール、香港にも水をあけられている。
 一方、我が国の国際会議の開催件数の伸びは極めて大きく、昭和63年から平成4年の5年間に、世界の伸びが4%であるのに対し、我が国の伸びは31%となっている。
 また、各地方都市において大規模なコンベンション施設の整備、コンベンション推進機関の設立・活動が進むにつれ、国際コンベンションの地方分散が大幅に進む等地方都市における国際コンベンションの振興に対する取組みが着実に進展しつつある。
 このように現状では、実績面で立ち遅れ状態にある我が国の国際コンベンションも、その振興を図るうえでの環境の整備は進展しつつあり、6年6月に成立した「国際会議等の誘致の促進及び開催の円滑化等による国際観光の振興に関する法律」(コンベンション法)に基づき、国、国際観光振興会及び地方自治体が一体となって総合的な振興策を講じていくことが必要である。
 このための第一歩として、同年10月、コンベンション法に基づき、運輸大臣は札幌市をはじめとする40都市を「国際会議観光都市」として認定した〔2−4−1図〕
 国際観光振興会は、認定を受けた都市に対して国際会議等の誘致を促進するため、国際会議等の誘致に関する情報の定期的提供、海外における国際会議観光都市の宣伝等を行うとともに、国際会議観光都市において開催される一定の要件を満たす国際会議等の開催の円滑化を図るため、寄付金の募集、交付金の交付等を行う。
 運輸省では、コンベンション法の施行により、21世紀初頭には我が国で開催される国際会議等の開催件数を2倍にすることを目標としている。
(b) 国際会議場の整備
 民活法に基づき、整備計画の認定を受け国際会議場の整備を行う民間事業者に対し支援を行っており、5年度までに3施設に係る整備計画の認定を行った。
 そのうち、横浜国際平和会議場については、3年7月より、宇奈月国際会館については、5年8月より、それぞれ供用を開始している。また、4年7月に認定したりんくうゲートタワービル国際会議場(大阪府泉佐野市)については、引き続き整備を推進しているところである。
(ウ) 国際観光振興会の改革
 運輸省においては、外客の来訪を促進するため、海外における日本の観光宣伝、外客に対する観光情報提供等を国際観光振興会を通じて実施している。
 振興会はより効果的な外客誘致を行うため、事業実施体制等の改革を実施しており、6年度から国際コンベンションの振興、海外プロモーションの振興関係業務等を中心として具体的な外客誘致効果の得られる事業を拡大するー方、既存の案内関係業務の合理化を進めている。
 今後は21世紀に向けた諸状況の変化に適応した事業運営体制を確立するとともに、地方公共団体や関係業界との協同体制を確立し、日本旅行に関する各種の旅行情報の戦略的提供、地域に対応した的確なマーケッティングに基づく旅行の開発、外客に対する受入れ体制の充実等の施策の積極的展開を通じて訪日旅行の拡大を図っていく必要がある。
(エ) 登録ホテル・旅館等の整備
 運輸省では、訪日外国人の利便の増進、国際観光の振興の観点から、国際観光ホテル整備法に基づき、ハード・ソフト両面で外国人客の宿泊に適したホテル・旅館の登録を行い、税制上の優遇措置等により、その整備を推進するほか、これらの登録ホテル・旅館に関する情報を外国人に提供している。また、国際観光レストラン登録規程に基づき、外客が容易かつ快適に食事ができる優秀なレストランについても登録を行い、その整備を推進しており、観光に欠くことのできない宿泊及び食事の両面から外客接遇の充実を図っている。登録基準の緩和等の措置を講じて、ハード・ソフト両面からの充実を図っている。
 なお6年9月末現在、846軒のホテル、1,808軒の旅館及び147軒のレストランが登録されている。
(2) 国際交流及び国際協力の推進
(ア) 世界観光大臣会議等の開催
 6年11月2日から6日まで、大阪市において、世界初の観光サミットである「世界観光大臣会議」を中心とした「OSAKAワールド・ツーリズム・フォーラム'94」が開催された。
 本フォーラムは、6年9月に開港した関西国際空港の開港を記念して、国際社会における相互理解と友好の促進を図るための観光の重要性を世界に向けて訴えることを目的として開催したものである。
 「世界観光大臣会議」においては世界の78の国及び地域、18の州及び5の国際機関からのあわせて101にものぼる政府、機関の代表(52人の観光大臣)の参加を得て、21世紀を見据えた地球の未来のメッセージである「OSAKA観光宣言」を採択するとともに、関西府県との交流を深める「親善交流ツアー」も行われた。
 また、期間中には、世界の観光分野のオーソリティの参加による「世界観光セミナー」を開催するとともに世界各国の政府機関・民間企業をはじめ、国内の自治体・企業の出展による「世界観光フィエスタ」が同時開催され、日本と世界各国との国際交流に寄与した。
(イ) 日米観光交流拡大プログラムの推進
 日米間の相互理解を増進させるとともに、日米間の国際収支の改善を図ることは、今後の日米関係、ひいては国際関係を考える上で重要であり、そのためには日米間の観光交流の拡大を図ることが非常に重要となってくる。
 このため、よりよい日米関係を構築するため、6年6月に日米両国の観光担当の次官級協議を行い、12年を目途に日米観光交流を倍増させ、800万人とすることを内容とする「日米観光交流拡大プログラム」の策定に合意するとともに、6年8月には第1回日米観光交流促進協議会を開催し、日米共同のキャンペーンの実施、各種姉妹交流の促進等の施策を推進することとした。
(ウ) 国際協力の推進
 国際機関への協力として世界観光機関(WTO)、経済協力開発機構(OECD)、国連アジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)及びアジア太平洋経済協力(APEC)の行う観光関係の活動に協力するとともに、資金・技術協力の面で東南アジア諸国連合貿易投資観光促進センター(ASEANセンター)の事業に協力している。
 また、二国間協力としては、開発途上国に対する技術協力の一環として、国際協力事業団を通じた観光分野の研修員の受入れ、専門家の派遣及び開発調査等を行っている。
 さらに、開発途上国への技術協力の効率化を図るため、民間活力を利用して開発途上国への観光開発等の調査研究を行うとともに、専門家の派遣、研修員の受入れ等の技術協力を推進している。
 なお、5年10月に開催された第10回WTO総会におけるWTOアジア太平洋事務所(仮称)誘致の成功を受け、できるだけ早期に大阪府に同事務所を設置する方向で、現在準備を進めている。

2 90年代観光振興行動計画(TAP90's)の推進等

(1) 観光立県推進地方会議の開催
 観光の推進が地域の活性化、国民のゆとりある生活の実現、国際相互理解の増進等に大いに貢献することから、21世紀を目指して観光のより一層の振興を図るため昭和63年4月「90年代観光振興行動計画 (TAP90's)」を策定した。
 この行動計画は、中央及び選定された地域ごとに有識者からなる観光立県推進会議を開催し、官・民・中央・地方がー体となって観光振興に関する具体的施策を提言し、実行に移そうとするものである。
 観光立県推進地方会議は、5年度までに10回開催され、6年度は、9月19日から21日まで岐阜県・滋賀県において第11回地方会議が開催された〔2−4−2図〕。これらの地方会議では、それぞれの地域の特性を生かした観光振興方策について活発な審議が行われ、会議での提言は、各地域の協議会等フォローアップ推進組織を通して、逐次実施に移されるなど、観光立県推進運動は着実な成果をあげている。
(2) 地域伝統芸能等を活用した観光の振興
 地域伝統芸能等(地域の伝統的な芸能及び風俗習慣)は、地域固有の歴史、文化等を色濃く反映したものであり、これを活用することは、地域の特性をいかした観光の振興を図るためには極めて効果的である。
 そのため4年6月に成立した「地域伝統芸能等を活用した行事の実施による観光及び特定地域商工業の振興に関する法律」に基づき、地域伝統芸能等を活用したイベントに対して支援を行っている。
 また、(財)地域伝統芸能活用センターが6年10月7日から9日まで開催した「第2回地域伝統芸能全国フェスティバル(熊本)」の支援を行った。

3 観光資源の保存・活用を通じた観光の振興〔2−4−3図〕

 地域固有の貴重な文化遺産や自然景観などの観光資源を保存・活用していくことは、魅力ある観光地づくりのために欠くことができない要素である。
 こうした観光資源の保護、継承のために(財)日本ナショナルトラストでは、岐阜県白川郷合掌造り民家やトラストトレイン(SL列車)といった貴重な観光資源について保護・活用等の事業を行っており、これらの活動を通じて地域の特性をいかした観光の振興を図っている。

4 魅力ある観光地づくり
(1) 観光基盤施設の整備
(ア) 家族旅行村の整備
 家族旅行村は、家族が恵まれた自然の中で手軽に観光レクリエーション活動ができるようキャンプ場、ピクニック緑地、スポーツレクリエーション施設、簡易宿泊施設等を整備するもので、現在、42地区において整備が終了し、5地区において整備が行われている。
(イ) 国際交流村の整備
 国際交流村は、国際観光モデル地区における外客誘致の拠点として、外客に地域の自然、文化、歴史等の紹介や外客の伝統的生活文化体験のための施設、イベントを通じた外客と地域住民の交流の場となる施設等を一体的に整備するもので、現在、9地区において整備が終了し、3地区において整備が行われている。
(ウ) 家族キャンプ村の整備
 家族キャンプ村は、国民の余暇活動の増大、自然志向の高まり等のニーズに対応するものとして、豊かな自然の中に手軽・低廉でかつ快適に利用できる質の高いオートキャンプ施設(車をテントサイドまで乗り入れることのできるキャンプ場)を整備し、このキャンプ施設を滞在基地として周辺の観光レクリエーション施設等との連携を図るものであり、現在10地区において整備が行われている。
(2) 総合保養地域の整備
 ゆとりある国民生活の実現と地域の振興を図ること等を目的とした総合保養地域整備法に基づき、6年3月までに総合保養地域の整備に関する41道府県の基本構想が承認され、各地域で自然環境の保全等に配慮しつつ総合保養地域の整備が進められている。

5 旅行の振興

(1) 旅行業の現状
 近次、景気低迷の影響を受けて業況が悪化した旅行業は、旅行者の低価格志向等の影響を受けて、主要旅行業者35社の5年度の取扱高は4兆9,800億円と前年度に比べて微減となった。なお、6年度になってからは、海外旅行の取扱額が前年を上回るなど一部に明るさが見えてきている。
 また、旅行業者の数は年々増加し、6年4月1日現在、一般旅行業者952社、国内旅行業者6,944社、旅行業代理店業者4,726社の計12,622社となっている。
(2) 「ゆとりある休暇」の実現
 国民は、物質的な豊かさよりも、ゆとり、文化、生きがいといった精神的な充足感をもたらすものを強く希求するようになってきている。
 このような国民意識の変化に対応して、国民が各自の希望に応じた多様かつ充実した余暇活動を実現できる環境を整えていくことが肝要である。
 このため、6年4月に学識経験者、民間団体、関係行政機関等をメンバーとする「ゆとりある休暇」推進協議会を開催し、連続休暇等の普及拡大に努めるとともに、充実した休暇を過ごすための環境の整備を図っていくこととしている。
(3) 安全な旅行の確保
 近年、海外旅行者が増加する一方、日本人が海外において事故・事件等に遭遇するケースが増大していることから、緊急・危険時における英語表現を集めたリーフレットを作成し、旅行者に配布するとともに、海外旅行の安全に関する情報ビデオを作成し、空港等において放映するなど旅行者の安全意識の向上を図っている。
(4) 消費者保護の充実
 旅行業に関しては、旅行取引に関する債権の保護を図るため、旅行業者について予め一定額を国に供託することを内容とする営業保証金制度を設けており、5年度には、旅行業者が供託すべき営業保証金の額の引上げを行うなど、消費者の保護を図っているところである。
 また、旅行業を取り巻く情勢の変化に対応し、消費者の保護の充実と消費者利便の向上をはかるため「旅行業問題研究会」を開催し、旅行業制度全般にわたって検討を行っている。



平成6年度

目次