平成6年度 運輸白書

第7章 海運、造船の新たな展開と船員対策の推進

第2節 高度化をめざす造船業

    1 我が国造船業の現状
    2 造船業の課題と対策
    3 中小造船業対策
    4 舶用工業対策の推進


1 我が国造船業の現状
 我が国造船業は、世界的な景気停滞による海運・造船市況の低迷、円高の影響等もあって受注活動において苦戦しているものの、平成5年度の新造船受注量については、前年度受注量が低迷したことに対する反動等もあって、242隻、838万総トン、対前年度比61.8%(総トン数ベース、以下同じ)の増加となった。
 一方、5年度の竣工量は204隻、855万総トン(対前年度比10.9%増)と受注量を上回ったため、5年度末の手持工事量は248隻、996万総トン(対前年同期比6%減)とやや減少している。
 また、昨年来の円高の影響等により、我が国造船業は、概ね40%以上維持してきた世界の新造船受注量に占めるシェアを5年については33.3%に減少させ、国際競争力に懸念がもたれているところである。各事業者による生産性の向上等各種努力の結果、6年(1〜6月)はシェアを54.9%に回復させてはいるものの、6年6月末以降、我が国産業界は1ドル100円前後の厳しい円高環境にさらされており、造船業についても一層の国際競争力の強化が望まれる〔2−7−4図〕

2 造船業の課題と対策
 3年12月の海運造船合理化審議会答申「21世紀を展望したこれからの造船対策のあり方について」を踏まえ、運輸省では以下のような取組を行っている。
(1) 長期的な需給の安定化
 今後の世界の新造船建造需要は、50年前後に大量建造された大型タンカーを中心とする代替建造需要に支えられ、21世紀に向けて増加するものと見込まれている。しかしながら、一時的な需要の増加を対象とした造船能力の拡大は、その後に予想される代替需要一巡後の需要下降期において、石油危機以降長期にわたり経験した構造的需給不均衡を再び招来するおそれがある。したがって、我が国としては、現状の設備能力を堅持するとともに、この需要下降期に備え、新たな船舶の開発や造船技術を活用した周辺分野への事業展開の推進等により新規需要の創出に努めている〔2−7−5図〕
(2) 産業基盤の整備
 我が国造船業の健全な発展を図るためには、国際競争力強化によって世界の造船業において需給安定等の面で指導的役割を果たすとともに、我が国社会経済の成熟化の中で事業内容や就労条件面で魅力ある産業に転換していくことが重要である。
 このため、舶用機器の標準化、CIM(コンピュータ統合生産システム)導入による生産性向上等を通じて価格競争力を強化するとともに、新形式超高速船(テクノスーパーライナー)等の次世代船舶の技術開発を通じて創造的技術ポテンシャルの維持・向上に努める等、各種の対策に積極的に取組んでいる。
 また、抜本的に産業基盤の強化を図るためには、過去の不況対策の過程で各事業者に散逸・縮小化されたまま残されている資本、労働力、造船設備等の経営資源の有効活用策についても検討することが重要であり、今後、事業提携、集約等に対する各企業の積極的な取組みが期待される。
(3) 国際協調の推進
 国際的な単一市場を分けあう世界の造船業にとって、調和ある発展を図る上で国際的な協調を推進することは不可欠な要件である。我が国は造船分野のリーディングカントリーとして国際協調のための各般の取り組みに積極的に参画している。
(ア) 先進造船国との政策協調
 6年7月にOECD造船部会において政府助成措置の削減と加害的廉売行為の禁止を内容とする協定が基本合意されたところであるが、この協定は世界の造船市場における公正かつ自由な競争を促進し、造船業の健全な発展に資するものであることから、我が国としても世界最大の造船国として、本協定の早期発効、さらにはその後の適正な運用に向けて、他の造船国との政策協調に努めている。
 また、OECD造船部会、我が国と合わせて世界の約3分の2の新造船シェアを占める韓国との政策対話等の場を活用しつつ、造船国間での共通の市場動向認識の醸成とそれに対応した設備政策の展開の重要性を国際的に訴え、世界の需給安定化に貢献していくこととしている。
(イ) 地球環境問題等への対応
 船舶の高齢化の進行、サブスタンダード船(1974年の海上人命安全条約等の基準に適合していない船舶)の増加が航行安全のみならず環境保全に脅威を与えている状況にかんがみ、環境保全対策等に積極的に取り組むことが重要である。したがって、船舶に関する環境保全技術の開発を促進するとともにその成果の普及を図るため、運輸省では、3年度から造船業基盤整備事業協会が実施しているタンカーからの油流出防止技術及び船舶用機関の排気ガス浄化技術の研究開発に対し助成措置を講じている。
 また、環境、安全、海運市況の安定化等の観点から船舶解撤の促進も重要な課題となっており、OECD造船部会やアジア太平洋造船専門家会議の場において、国際的な船舶解撤の促進について検討が行われている。

3 中小造船業対策
 我が国中小造船業は、内航船、漁船等の製造・修繕を通じ、安定的な海上輸送の確保、水産資源の採取を支えるとともに、地場産業として地域経済の振興及び雇用機会の創出に寄与してきたが、今後ともモーダルシフト等社会ニーズの多様化・高度化に伴いその重要性は増していくものと考えられる。
 しかしながら、近年の国際的な漁業規制の強化と国内景気の低迷等により中小造船事業者を巡る経営環境は厳しいものになってきている。また、脆弱な経営基盤、過当競争体質、労働力の高齢化等の構造的問題は依然として解消されておらず、これらの課題に対し積極的に取り組んでいくことが必要である。
 このような現状を踏まえ、中小造船業の健全な発展を図るため、5年7月から「中小企業近代化促進法」に基づいた第4次構造改善事業(社会ニーズ対応型)を実施している。

4 舶用工業対策の推進
 我が国舶用工業は、長期不況を脱し緩やかな回復基調にあったが、5年からの急激な円高、国内の新造船建造量の伸び悩み等から生産額が6年ぶりに減少に転じるなど、先行き不透明な状況となっている〔2−7−6図〕
 我が国舶用工業は、その製品の約8割が国内向けで、国内市場に依存しているが、急激な円高の進行に伴い、船主・造船所の間では、舶用工業製品の海外調達に向けた動きも活発化しており、一層のコスト低減、技術力の強化による国際競争力の確保が緊急の課題となっていることに加え、若年技術者の不足、生産設備の近代化の遅れ等により産業基盤が脆弱化している。
 このため、船主・造船所・舶用メーカーの3者が協力して「船用機器の標準化」を推進し、コストの低減、操作性・信頼性の向上を図るとともに、省力化設備投資、生産・開発体制の集約化の促進等の施策により舶用工業の基盤強化、競争力の確保を図っているところである。



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