平成6年度 運輸白書

第8章 豊かなウォーターフロントの形成

第8章 豊かなウォーターフロントの形成

第1節 港湾及び海岸の整備の基本的方向

    1 豊かなウォーターフロントをめざして
    2 港湾に関する広域的な施策の展開
    3 環境共生港湾(エコポート)をめざして
    4 人と地球にやさしい港湾をめざして


1 豊かなウォーターフロントをめざして
(1) 21世紀を展望した港湾整備
 四方を海に囲まれた我が国にあっては、毎日の食事の材料、石油やガスなど国民経済を支えるエネルギー等、日常生活に不可欠な物資の多くは港湾を利用して輸送・輸入されている。
 地域社会における港湾は生活や経済、輸送活動、地域間交流の拠点となっており、地域の経済・産業振興を図り雇用の促進や所得水準の向上等多方面に開発効果をもたらすものである。特に、離島・辺地では、港湾が生活物資を安定供給したり、暮らしの足を確保するうえで、前提となっており、港湾の整備なしには住民の生活・経済は成り立た ない。
 また、港湾は、台風、高潮、津波等の自然の脅威から国民の生命や財産を守る等、暮らしの安全の確保という観点から重要な役割を果たしているほか、生活や都市活動に伴い発生する廃棄物等を港湾の廃棄物埋立処分場に受け入れるなど、都市問題の解決にも役立っている。
 さらに、海洋性レクリエーションのニーズが高まっている今日、港湾における人工海浜、マリーナ等は、国民にやすらぎと開放感が実感できる貴重な場所を提供している。このように、様々な点で港湾は国民の暮らしの支えになっており、今後21世紀に向けて豊かでゆとりのある生活の実現がより重要になっていく中で、港湾整備の必要性は一層高まっていくものと考えられる。
 平成5年度の財政制度審議会において、港湾はいわゆる「産業基盤」として分類されたところであるが、港湾整備は、経済成長を支える基軸インフラ整備であるとともに上記にあげたような種々の生活関連の社会資本整備であるともいえる。6年度の港湾整備事業の予算においては、〔2−8−1図〕の通り、産業基盤関係事業費の割合は約20%であり、親水緑地や人工海浜、廃棄物埋立処分場の整備など生活環境関係事業費が約32%、外貿ターミナル等の国土骨格・国際交流基盤関係事業費が約36%を占めるに至っている。今後も多様な国民のニーズに合致した港湾整備が求められているところであり、また、港湾整備の国民生活における重要性への国民の幅広い理解を得ることが必要である。
(2) 第8次港湾整備五箇年計画〔2−8−2表〕
 我が国の経済発展を支えるうえで、港湾は物流、生産の拠点として、また地域の生活基盤として重要であることから、経済基盤強化を図り国民経済の健全な発展に寄与することを目的として、昭和36年度以来7次にわたり港湾整備五箇年計画を策定し、計画的に整備を進めてきた。第8次港湾整備五箇年計画は、近年の港湾をめぐる諸情勢に的確に対応し、引き続き強力かつ計画的に港湾整備を行うために、計画期間を平成3〜7年度とし、総投資規模を5兆7,000億円(うち港湾整備事業費は3兆5,900億円)とすることが3年3月に閣議了解され、同年11月に港湾整備事業の実施の目標と事業の量について閣議決定が行われた。
 これまでの五箇年計画が主として産業・物流の基盤としての港湾の整備をめざしてきたのに対し、3年度からの現五箇年計画は、2年に策定した「豊かなウォーターフロントをめざして」に基づき、日本経済の成熟化の一層の進展等を背景として、港湾空間への生活機能の導入による総合的な港湾空間創造に取り組み、さらには地球規模の環境問題への対応、あるいは廃棄物を処分するための海面処分場の整備にも重点を置くなど、国民生活に直結した分野への投資を積極的に行うものとなっている。
(3) 第5次海岸事業五箇年計画
 国民生活、生産、物流等の諸活動が集中している臨海部を、高潮、津波、侵食等の災害から防護することは緊要な課題であることから、昭和45年度以来4次にわたる海岸事業五箇年計画に基づき海岸の整備を進めてきた。
 こうした中、引き続き計画的に海岸の整備を推進するため、計画期間を平成3〜7年度とし、総投資規模を1兆3,000億円とする第5次海岸事業五箇年計画が3年11月に閣議決定された。この計画は、国土保全のための海岸保全施設の整備及び魅力のある海岸環境の保全と創出を図り、計画期間中に海岸の整備率を10%向上させることとしている。
 なお、我が国の海岸線延長約34,500kmのうち、保全が必要な延長線約16,000kmに対する海岸の整備率は、5年度末現在約50%である。

2 港湾に関する広域的な施策の展開
 三大湾(東京湾、大阪湾、伊勢湾)については、複数の港湾が近接し、経済社会活動が高密度に展開されていることに鑑み、運輸省では、三大湾における湾全体を広域的かつ総合的視点から開発、利用及び保全するための指針となる「港湾計画の基本構想」を策定している。このうち、伊勢湾について4年3月に新たな基本構想を策定したところであり、東京湾、大阪湾については、6年度末を目途として基本構想の見直しを進めている。
 また、瀬戸内海については、海を活かした地域づくりのため、6年には瀬戸内海の持つ個々の自然及び文化遺産を有機的に結び付け、歴史とロマンの海の交流圏(海の路)を形成する「瀬戸内・海の路事業」を創設し、瀬戸内海地域の一体化を図りつつ地域振興を推進している。
 このように、港湾整備構想等において各地域の特性に応じた広域的な施策の展開を図っている。

3 環境共生港湾(エコポート)をめざして〔2−8−3表〕
 運輸省では、今後の港湾環境政策のあり方について幅広い議論を進めるため、4年12月に「港湾・海洋環境有識者懇談会」を設置し、この懇談会の提言及び5年11月に制定された環境基本法の理念を踏まえて、6年3月に「新たな港湾環境政策−環境と共生する港湾<エコポート>をめざして」を策定した。
 この政策では、@将来世代への豊かな港湾環境の継承、A自然環境との共生、Bアメニティの創出の三つを基本理念とし、環境と共生する港湾(エコポート)の形成を目標としている。
 この政策に基づき、これまでの環境政策の一層の推進とあわせて、@将来世代への豊かな港湾環境の継承、Aエコポートモデル事業の実施B港と親しむプロムナード(港のパブリックアクセス)づくりC首都圏からの建設発生土の有効活用の推進D生物の浄化作用を活用した海域浄化のための新形式護岸の現地実験や干潟の浄化実験などの環境創造技術の開発等の諸施策を進めていくこととしている。

4 人と地球にやさしい港湾の技術をめざして
 国の内外を巡る社会情勢の変化、国民のニーズの高度化・多様化に対応した港湾・海岸を実現するため、運輸省は、4年6月に「人と地球にやさしい港湾の技術をめざして−港湾の技術開発の長期政策−」を発表し、@人と地球にやさしいウォーターフロントの形成、A人と情報の国際交流と世界への貢献という2つの理念のもとに、港湾空間の質の向上や港湾工事の省力化等10の重点課題と運輸省・民間企業・大学等のそれぞれの独自性と相互の連携・協力を踏まえた技術開発の推進方策を示し、様々な技術開発を進めている。



平成6年度

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