平成6年度 運輸白書
第8章 豊かなウォーターフロント計画
第3節 国民生活の質の向上をめざした港湾・海岸の整備
1 国内物流と港湾の整備
2 地域の経済活動を支える港湾の整備
3 ゆとりある快適な港湾空間の創造
1 国内物流と港湾の整備
〔2−8−6図〕
国内物流において、海運は44.5%の輸送量(トンキロベースであり、フェリー貨物は自動車貨物として計上)を担う手段として活躍している。都市において大量に必要とされる新聞・雑誌用の紙や牛乳等北海道〜東京の生産地と消費地を結ぶ輸送のほか、沖縄等の離島における食料等の生活必需品の輸送など、生活に密着したこれらの輸送の多くは海運に依存しており、適切な港湾の整備は必要不可欠である。
また、近年、CO2排出に伴う地球温暖化等の環境問題、労働力問題、道路交通渋滞の激化等の諸問題に対応した物流の効率化のため、幹線物流において、省力型・低公害型の大量輸送機関である海運及び鉄道の活用を図るモーダルシフトを推進する政策を進めている。
しかし、石油や鉄鋼といった重厚な品目と比較して生活物資の海運分担率は低く、今後さらに生活物資のモーダルシフトを推進するためには、トラックとの複合一貫輸送が可能なフェリー、RORO船、内航コンテナ船の利便性の向上が必要不可欠である。このため、貨物の積み卸しから保管までの作業を一体的かつ連続的に行うことができる荷さばき施設や、十分な駐車スペースを備えた内貿ユニットロードターミナルの整備を進めるとともに、市街地からターミナルへの良好なアクセスを確保するための幹線道路が必要であり、6年度には19港でターミナルの整備を、17港で幹線臨港道路の整備を行っている。
さらに、開発の進められているテクノスーパーライナーもモーダルシフトの推進に貢献することが期待されており、テクノスーパーライナーに対応した高速荷役システムや港湾の配置等について検討を行っている。
2 地域の経済活動を支える港湾の整備
生活や輸送活動、地域間交流の拠点である港湾の整備は、地域の経済社会の多方面に開発効果をもたらし、さらには、国土の均衡ある発展にも資するため、今後ともその役割は重要であり、積極的に行う必要がある。
具体的には、既存の地場産業のさらなる振興や、新たな産業おこし等の基盤となる地域産業振興港湾の整備を、秋田港など110港で行っており、雇用の確保及びそれによる所得水準の向上等を通じて、地域の人々の生活の安定を図っている。
また、地域の産業振興を支えるとともに、港湾背後都市の住宅地や工業用地等が混在している状況を改善し、さらには良好な環境を創造するために、物流・産業施設を再配置し、生活のための基盤施設を整備する等の新たな用地需要に応えていく必要があり、6年度には広島港等81港で用地造成を行っている。
さらに、港の持つ情緒、歴史性、文化性などは観光資源ともなるため、これら港の魅力の発掘や整備などに努め、地域経済において大きな比重を占める観光産業の育成・振興を図っている。
3 ゆとりある快適な港湾空間の創造
(1) 人々に親しまれ、生活に密着した港湾づくり
(ア) 美しく快適な港湾空間の形成
〔2−8−7図〕
〔2−8−8図〕
豊かさを実感できる国民生活の実現が強く求められる中で、港湾においても人々が憩い集う、美しく快適な空間の形成が重要となってきている。このため運輸省では、港湾空間を豊かな生活空間として形成するための施策を推進している。6年度は、親水性豊かなイベント広場の提供、魚釣り施設や親水護岸の整備等を含む緑地等施設の整備を伏木富山港、大阪港等144港で推進している。
さらに、運河、れんが造りの倉庫等の歴史的港湾施設を港湾文化の貴重な財産として保全するとともに、周辺地域を歴史的な情緒の漂う美しいウォーターフロント空間とする歴史的港湾環境創造事業を北九州港等10港で、海・船等の港湾特有の景観資源を活用した美しい港づくりを進めるための計画策定と、それに基づく良好な景観形成を進める港湾景観形成モデル事業を青森港等で実施している。また、近年の親水ニーズの高まりを踏まえ、一般市民が港へ自由に安全かつ快適に行き来ができ、海や港の魅力を十分楽しむことができる港と親しむプロムナード(港のパブリックアクセス)の確保を推進し、人々の利用に供される港湾区域内の水際線延長を21世紀初頭には現状の5倍の750kmとすることとしている。
一方、マリーナ等は、魅力あるウォーターフロントを形成し、地域振興にも資する中核施設であることから、運輸省ではその積極的な整備を推進しているが、特に近年の海洋性レクリエーンョンの進展に対応し、また、港湾等に放置されたいわゆる放置艇を解消するために、昭和63年に策定された「全国マリーナ等整備方針」に基づきさらなる整備を図っている。平成6年度には公共マリーナの整備を小名浜港等35港で、プレジャーボートの簡易な係留施設であるプレジャーボートスポットの整備を大分港等15港で実施している。他方、民間及び第三セクターが行うマリーナの整備に対しても各種の財政的な支援制度を活用し、その整備を支援している。また、施設及び管理・運営面で優れた質の高いマリーナの普及を目的とする優良マリーナ認定制度に基づき、社団法人日本マリーナ・ビーチ協会は6年6月までに50マリーナを優良マリーナに認定している。
海域環境に対しても、従来から実施している公害防止のための施策に加え、より快適な海域環境の創造を総合的に実施する「シーブループロジェクト」の一環として、ヘドロの堆積した海域において覆砂等を行うことにより水質・底質等を改善する海域環境創造事業を6年度は瀬戸内海、松島港等2海域8港で実施している。また、水域の環境改善と併せ緑地等の陸域の環境整備事業を複合的に実施してアメニティ豊かなウォーターフロントを創出する水域利用活性化事業(リフレッシュ・シーサイド事業)を伏木富山港等3港で実施している。
(イ) 生活に密着した港湾づくり
地方港湾における乗降旅客数が、4年には全国の港湾の乗降旅客数約1億8千万人のうちの55%を占めたことに表されるように、本土と離島の間や半島地域における日々の交通手段として、海上交通が中心的な役割を担っている。そこで、地域の旅客ターミナルを整備し、同時に海上交通の安全を図ることは極めて重要であり、係留施設や防波堤等の整備を進めている。また、様々なクルージング需要の増大、旅客交通の高速化への要請等に対応した旅客ターミナルの整備を、6年度には高松港、宮崎港等51港で行っており、最近では、旅客船の乗降客とともに気軽に立ち寄った人々も楽しめるよう配慮した展示施設や緑地等の施設の整備もなされている。
また、都市における廃棄物等については、中間処理による減量化や再資源化が進められているものの、内陸部での処分場確保の困難さから最終処分場を海面に求める要請が高いため、廃棄物を適正かつ安全に処分するための廃棄物埋立護岸の整備を6年度は北九州港等36港及び大阪湾で実施している。特に大阪湾圏域では、広域臨海環境整備センター法に基づき、複数の府県において生じた廃棄物を広域的に処理するための最終処分場を整備するフェニックス事業を行っており、2年1月から廃棄物を受け入れている。また、資源のリサイクルを促進するため、首都圏の建設発生土を地方の港湾等において広域的に利用するプロジェクトに基づく事業を6年度から開始した。
(2) 新しい港湾空間づくり
(ア) 民活プロジェクトの推進
近年、豊かで潤いのあるウォーターフロントに対する国民の関心が高まっており、21世紀に向けて、物流・産業・生活に係る機能が調和した高度な機能を発揮できる総合的な港湾空間の創造が求められている。このような要請に対応するためには、関連公共事業との連携を図りつつ、民間事業者のノウハウと資金力を積極的に活用して、国際会議場施設、旅客ターミナル施設、港湾文化交流施設など、多様な機能を有する施設の整備等を推進していく必要がある。このため、昭和61年度より、開発整備の拠点となる民間施設の整備に対して、税制面、資金調達面の支援等の措置を講じているほか、港湾再開発等のマスタープランづくりとしてのポートルネッサンス21調査、マリンタウンブロジェクト調査等を実施している。
港湾関係の民活事業としては、@民活法特定施設整備事業、A特定民間都市開発事業、B沖合人工島の整備、C小型船拠点総合整備事業、D臨海部再開発促進事業、E多極分散型国土形成促進法関連事業、F総合保養地域整備法特定民間施設整備事業の7つの事業制度により、港湾に対する多様な要請に対処するとともに、年々事業制度の拡充を図ってきている。
港湾関係民活プロジェクトは、全国各地で着実に推進されており、平成5年度までに、民活法の特定施設として45プロジェクト62施設を認定するとともに、特定民間都市開発事業として48プロジェクトを支援してきている。6年度には、横浜港、北九州港等において輸入促進地域の整備を推進するための物流高度化基盤施設等の整備を支援するほか、長崎港の港湾文化交流施設や伊良湖港の旅客ターミナル施設等の地方圏における民活プロジェクトの展開についても、積極的に支援することとしている。
なお、6年度には、アジア太平洋トレードセンター、秋田ポートタワー、室蘭港・小樽港のフェリーターミナル等が相次いで開業し、輸入促進及び交流・賑わいの拠点、利用客への高質なサービスを提供する拠点として、地域の活性化に大きく貢献している。
(イ) 沖合人工島の整備の推進
〔2−8−9図〕
沿岸域における多様な経済社会の活動空間を確保するにあたり、自然の海岸を保全しつつ、背後に利用可能性の高い静穏海域を創出するために、従来の港湾整備事業の組み合わせを図りながら民間活力を積極的に活用することとしており、6年度に、この民間活力を活用した我が国初の沖合人工島として和歌山マリーナシティの基盤整備が完成し、6年7月16日から9月25日まで「世界リゾート博」の会場となった。また、博多アイランドシティは、6年7月11日に起工式が行われ、建設段階に入っているほか、下関港、北九州港等における沖合人工島計画についてもその事業の推進を図っている。
(3) ふるさとの海岸づくり
人口・資産の集中している“みなとまち”の海岸の整備では、高潮、津波、海岸侵食等に対する安全性の確保は当然のこととして、人々と海とのふれあいや良好な海岸景観を創出する「ふるさとの海岸づくり」を積極的に推進し、国民の生活環境の質の向上を図っている。
6年度には全国260の港湾海岸で高潮・侵食対策事業を推進しており、特に津田港海岸等25海岸においては、元年度に創出した「ふるさと海岸整備モデル事業」によって、離岸堤、海浜、緩傾斜護岸等を組み合わせた面的防護方式により海岸の保全を図るとともに、地域住民が気軽に海辺とふれあえる質の高い海岸保全施設の整備を重点的に実施している。また、安全で快適な海辺づくりを進め、海洋性レクリエーンョンの振興を図るため、6年度は博多港海岸等113海岸でビーチの整備を実施している。特に、リゾート地においては、マリーナ等とあわせた複合的なビーチの整備を促進する「ビーチ利用促進モデル地区制度」を伏木富山港海岸等4海岸で実施している。さらに近年では、海岸整備においても自然環境や景観と調和した施設整備が求められており、豊かな海岸環境の創出を図るため、6年度より「自然環境保全型海岸整備モデル事業」によって、自然生態系や景観と調和した海岸整備を徳山下松港海岸等2海岸で実施する。
平成6年度
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