平成6年度 運輸白書

第9章 航空ネットワークの充実に向けた取組み

第2節 航空サービスの充実

    1 我が国航空輸送の現状
    2 我が国航企業の競争力の強化
    3 航空運賃の弾力化
    4 国際航空ネットワークの充実
    5 「空の日」、「空の旬間」事業の展開


1 我が国航空輸送の現状
(1) 我が国の航空輸送の実績
 (景気後退の影響により国内旅客は減少・国際旅客は微増)
 平成5年度の国内旅客輸送実績は約6,958万人(対前年度比約0.1%減)、国際旅客輸送実績は約3,600万人(対前年度比約4.4%増)となった。3年度以降の景気の後退の影響を強く受け、国内旅客輸送は8年ぶりに前年をわずかながら下回り、国際旅客輸送も旅客数の伸びは低いものとなっている。
 また、貨物輸送については、5年度国内貨物輸送実績が69.2万トン(対前年度比2.8%増)、国際貨物輸送実績が171.7万トン(対前年度比11.2%増)となった。景気後退の影響を受け伸び悩んだ前年に比べ、5年度は国内貨物輸送実績が増加に転じ、国際貨物輸送実績も前年度以上の伸びを示している〔2−9−7図〕〔2−9−8図〕
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(2) 我が国航空企業の経営状況
 (平成5年度の我が国航空企業の収支は景気後退等の影響により悪化)
 我が国航空企業の収支は、昭和62年度以降は、需要の伸びに支えられて順調に推移してきた。しかしながら、平成3年度以降は国際・国内の景気後退の影響を強く受け、4年度には航空3社(日本航空、全日本空輸、日本エアシステム)計で経常損失を生じるに至った。さらに、最近における景気低迷等による需要の落ち込みと国際的な競争激化による収入の落ち込みは予想以上に激しく、5年度においても3社計で360億円の経常損失を計上するに至っている〔2−9−9図〕。
 今後とも、三大空港プロジェクトの進捗に伴う航空関連施設の整備、新規機材の導入等により毎年巨額の設備投資が必要であり、また、三大空港プロジェクト完成後は競争の激化により、経営環境が一段と厳しくなることが予想されることから、一層の合理化・効率化等によりコスト競争力の強化に努めるとともに、サービスと営業力の向上等により増収を図る努力が必要である。
(3) 国内線のダブル・トリプルトラック化、国際線の複数社化の推進
 現在、我が国においては、昭和61年6月及び平成3年6月の運輸政策審議会答申の趣旨に沿って、安全運航の確保を基本としつつ、航空会社間の競争促進を通じて利用者利便の向上を図るため、国内線については、高需要路線を中心にダブル・トリプルトラック化を、また、国際線については複数社化を推進している。ダブル・トリプルトラック化については、更なる利用者利便の向上を図るため、4年10月にダブル・トリプルトラック化の基準となる年間旅客数を引き下げ、現在ダブルトラック化については原則70万人以上から原則40万人以上(空港整備状況等を勘案し、羽田空港関係路線については当分の間原則50万人以上)、トリプルトラック化については100万人以上から原則70万人以上(羽田空港関係路線については当分の間原則80万以上)に引き下げたところである。この基準に基づき、6年9月に東京−青森線、大阪−大分線及び大阪−熊本線のダブルトラック化、東京−宮崎線、大阪−長崎線及び大阪−宮崎線のトリプルトラック化が実施された。また、同審議会の答申に沿って、旅客・貨物便合わせて現在23路線(休止中のものは除く。)の国際線の複数社化が進められている〔2−9−10表〕〔2−9−11表〕
(4) 地域航空輸送の展開
 (地域の創意工夫による地域的ネットワークの充実)
 地域航空輸送、特に離島については、航空輸送が離島住民の足として生活に密着した役割を果たしているが、こうした離島路線の必要性等を踏まえ、国においては、着陸料や航行援助施設利用料の軽減措置や、離島航空に使用する小型航空機を購入する際の航空機購入費の一部補助を行っている。また、地方公共団体においても、固定資産税の軽減措置、欠損補助等の助成を行っている他、6年5月に運航を開始した大阪−但馬路線で航空運送事業者が使用する航空機について、当該航空機の購入主体に対して一部補助等が行われている。さらに5年12月には、長崎県の離島航空路線の安定的維持運営を目的として、離島航空振興基金が発足している。このように、離島を中心とする地域航空輸送については、国、地方公共団体、航空企業のそれぞれが維持できるよう努めていく必要がある。

2 我が国航空企業の競争力の強化
(1) 我が国航空企業の競争力の低下
 近年、世界的な航空不況が続く中で、米国における巨大航空企業による寡占化、欧州における国境を超えた企業間の連携、アジアにおける低コスト企業の台頭など、世界の航空業界は大きな変貌を遂げようとしており、日本発着の国際航空需要の積取りにおける我が国航空企業のシェアはこの10年で4割から3割に低下している。このような状況下で、我が国航空企業は懸命な合理化等の経営改善努力により体質強化を図ろうとしているが、従来から安定した経営基盤を有しているとはいえないことに加えて、景気後退による国内、国際需要の伸び悩み、国内線・国際線の双方における一層の競争激化等により、その収支は近年急速に悪化し、生き残りまで危惧されるような深刻な経営状態にある。しかし、今や国民の足として必要不可欠となっている国内航空はもちろん、国際航空においても、我が国の国際社会における地位の高まりに対応して、我が国航空の果たすべき役割はますます重要なものとなっており、利用者の立場からみても我が国航空企業の競争力強化は喫緊の課題となっている。
 このような状況を踏まえ、各航空企業においては、ウェットリース、コードシェアリング等の手法を用いた外部の生産資源の活用による自社の生産体制の強化・効率化を行ってきており、最近では、日本航空がジャパン・エア・チャーターからのウェットリースにより、6年6月より東京−ホノルル線の運航を開始した。また、コミューター輸送等の特定の航空市場の需要に対応した分社化等の推進による効率化の徹底を図る観点から、6年7月より、エアーニッポンの運航する北海道の離島路線が新たに設立されたエアー北海道(エアーニッポン80%、北海道20%出資)に移管された。
(2) 航空審議会答申
 運輸省では、我が国航空企業の競争力を向上するための諸方策について、運輸大臣の諮問機関である航空審議会に5年9月30日に諮問し、6年6月13日に同審議会より「我が国航空企業の競争力向上のための方策について」と題する答申を得たところである。
 答申においては、まず我が国航空企業を取り巻く環境の変化、我が国航空企業の競争力の向上の必要性及び我が国航空企業の国際競争力の向上を図るための課題について述べた上で、我が国航空企業の競争力向上のためには、以下の方策が重要であるとしている。
(ア) 航空企業における対策
 (収支の改善を図るための方策)
(a) 低コスト体質への転換
 低コスト体質への転換のためには、固定費を中心とするコストの削減、整備作業の海外への展開や乗務員への外国人導入等によるコストの外貨化、ウエットリース等の低コスト運航形態の活用、幅広い分野での業務の共同化等が必要である。
(b) 収益力の強化
 収益力の強化のためには、増便をはじめとして、需要規模に応じた共同運送、ウエットリース等の活用、維持困難な路線の休廃止、チャーター運航の実施による新規需要の開拓等の路線運営の改善を行うとともに、新国際航空運賃制度の活用、新たな販売戦略の活用及びサービスの多様化等に努めることが必要である。
(イ) 行政による環境の整備
 一方、このような航空企業における対策が円滑に進むよう、行政による環境整備もまた大変重要であるとしているが、その具体的内容は以下の通りである。
(a) 適時適切な規制の見直し
 定例整備の海外委託の促進に関する規制の見直しや、運航乗務員の技能証明等の実地試験におけるシミュレーター化の推進等の技術関係の規制の見直し、さらにウエットリース、共同運送、コードシェアリング等の実施要件の緩和、チャーター運航の効率的実施に資する規制の緩和等が必要である。
(b) 市場の実態に即した現実的な解決を目指した航空交渉
 シカゴ体制の下での二国間航空交渉を進めるに当っては、路線・便数の面でできる限り我が国の利用者の利益の確保に努めるとともに、我が国航空企業の存立にも配慮することを基本とするべきである。日米航空交渉においては、米国航空企業の関西国際空港への乗り入れ問題について、双方が需要に見合う供給力について合意するべく現実的解決を目指すとともに、日米の航空権益の不平等・不均衡問題についても今後とも十分協議を続けていくことが必要である。なお、今後の国際航空の枠組みのあり方に関する検討にも積極的に参加し、我が国の考え方を主張していくことが適切である。
 なお、答申においては、国際線と国内線を接続する我が国初の国際ハブ空港となる関西国際空港においては、国際路線網の拡充に加えて、国際線と国内線の接続の本格的な充実が可能となることから、我が国航空企業にとっては、関空を中心としたネットワークを形成し、その効果を十分活用することが課題である。
 また、我が国航空企業の競争力の向上を図る観点から、空港使用料について、行政として対応すべきことがあるか否かについて、空港整備財源の考え方との関連を踏まえつつ検討が行われたが、現行の空港使用料の水準に対する評価についても触れられている。
 運輸省としては、今般の航空審議会答申に沿って、さらに適時適切な対策を講じていきたいと考えている。

3 航空運賃の弾力化
(1) 国際航空運賃の弾力化
 国際航空運賃については、認可運賃と実勢価格の乖離を是正し透明性の高い運賃制度を構築するとともに、利用者にとって使いやすく、かつ、低廉な運賃を提供することを目的として、6年4月から新運賃制度が実施されている。この制度の下では、認可運賃のレベルの大幅な引き下げ、一人より適用可能な旅行商品に対する運賃の導入、利用者が直接購入できる個人型割引運賃の適用条件の緩和等を行うとともに、航空事業者による弾力的な運賃設定を可能とするよう、一定の幅の中で自由に運賃を設定し、また変動させることができる制度を導入している。
 国際線については、円高の下で国際競争はますます厳しくなっており、各航空会社の経営環境にも大きな影響を与えている。こうした中で、国際線における競争力を高めるために、各航空会社はリストラを通じた生産性向上、コスト引き下げ努力を行っている。新国際航空運賃制度の導入により、各航空企業が自らの競争力に応じ一定の幅の中で自由に運賃の設定ができることとなったが、今後は、更に新国際航空運賃制度を活用し利便性の高い商品の開発を行うこと等により運賃面における収益力の向上を図ることが、国際競争力の強化のために不可欠である。
(2) 国内航空運賃の弾力化
 国内航空運賃については、いわゆる「南北格差」(北海道や東北を結ぶ路線の賃率が相対的に割高となっていること)に見られるような賃率格差に対する利用者の不公平感を是正するため2年6月に27路線で値下げが実施されるとともに、割引運賃制度の導入・拡充が進められている。
(ア) 運賃体系の整備
 国内運賃については、普通運賃について、いわゆる「南北格差」に見られるような賃率格差に対する利用者の負担を是正すべく、標準原価方式の考え方が導入されている。標準原価方式とは、国内の各路線の原価をもとにして、単位距離当たりの原価と距離の関係を求め(標準原価曲線:固定費の高い航空業の特性を反映して、距離が長くなれば単位距離当たりの原価が低下するという距離逓減的な曲線)、路線別の特性を反映させるために当該曲線の上下に一定幅を設定し、運賃をできる限りその幅の中に収めることにより、@同一距離同一運賃帯への志向、A遠距離逓減の徹底、を図ることを目的とした運賃設定方式である。これを受けて、2年6月に当時の標準原価曲線の上限を上回っていた27路線について値下げが行われた。今後、利用者の負担や競合する他の輸送機関の運賃水準とのバランスに留意しつつ、標準原価方式を用いた運賃体系の整備を進めていく必要がある。
(イ) 多様な割引運賃の導入
 近年、国内航空に対する利用者のニーズが高度化・多様化し、個人型の割引運賃の充実を求める声が高まってきていることなどに対応して、事業者が自主的な判断により利用者ニーズに対応した運賃・料金設定を行うことを一層容易なものとするため、割引率50%までの営業政策的な割引運賃及び料金について届出で足りることとし、それを内容とする航空法の一部を改正する法律が6年6月に成立した。これにより多様化するニーズに対応した割引運賃制度が一層充実するとともに、サービスが向上し、需要の喚起や増収につながるといった効果が期待されている。ちなみに、現行の各種割引については、往復割引や回数割引等を除いて、単身赴任割引や家族割引のように利用主体について制限の付されているものが多い。今後の割引運賃の導入に当たっては、国際線や欧米の国内線で広く導入されているような事前購入型割引や利用率の低い深夜・早朝便に係る割引等、利用主体に制限のない新しい種類の割引運賃の導入を検討していくことが望まれる。

4 国際ネットワークの充実
(1) 関西国際空港の開港による新しい展開
(ア) 関西国際空港開港前の我が国の国際航空市場
 我が国は、関西国際空港開港直前の平成6年8月時点で38か国1地域50社の外国航空企業が乗り入れる世界有数の国際航空市場であった。平成5年度における我が国発着の国際航空需要は、旅客については約3600万人であり5年前の昭和63年度と比較すると35%も増加しており、貨物についても171万トンであり同22%の増加であった。このような需要の伸びを反映して、外国又は外国航空企業からの我が国への増便や新規乗り入れの申し入れが多数に及び、平成6年8月時点で新規の航空協定締結申し入れ国は43か国となっている。これら外国航空企業の多くは、東京を第一としつつこれが不可能な場合は大阪への就航を強く要望しているが、成田・伊丹の両空港とも、空港の処理能力上の問題、周辺の環境問題等により新たな便の就航が不可能な状況であったため、この状況の緩和のためにも一刻も早い関西国際空港の開港が待たれるところであった。
(イ) 関西国際空港の開港
 このような状況の中で、平成6年9月4日に我が国初の本格的な24時間離発着可能な国際空港として関西国際空港が開港した。同空港へは、従来伊丹空港に乗り入れていた国際線に加え、これまで要望を認めることができなかった外国航空企業が増便や新規乗り入れを行い、開港時において乗り入れ国が21か国、乗り入れ航空企業が29社、就航便数が週337便といずれの点においても従来の伊丹空港(10か国、15社、193便)を大幅に上回る規模となった。また、我が国の他の国際空港に見られない同空港の特徴としては、今後とも改善を図っていく必要はあるが、国際線と国内線の乗継ぎの便利さ、24時間空港の利点を生かした深夜便の就航等が挙げられ、今後関西国際空港がアジアの主要な国際ハブ空港として活用され、多様な利用者ニーズに適切に応じた国際航空ネットワークが構築されることが期待されている。
(ウ) 未だに残る空港制約の問題
 関西国際空港の開港により、外国航空企業の我が国への増便及び新規乗り入れが行われ、我が国の国際航空ネットワークは大幅に拡大した。しかし、我が国最大の国際航空ネットワークを有する成田空港については、引き続き外国又は外国航空企業からの増便や新規乗り入れ要望に応えることができない状況にあることから、同空港の整備問題の解決が、今後国際航空ネットワークの一層の充実を図っていく観点からも喫緊の課題となっている。
(2) 更なるネットワークの拡充
(ア) ネットワーク形成の方向
 ビジネス旅客及び近距離の観光旅客に多い直行型の旅行パターンに対応した直行路線の充実を図るとともに、中・長距離の日本人観光旅客に多い数か所を回遊する旅行パターンに対応した回遊型ネットワークの形成を企業間提携の促進等を通じて進めることが必要である。このため、航空交渉等を通じ、5年10月から6年8月にかけて、アデレード−シドニー−成田−ダーウィン−シドニー(カンタス航空)(6年3月)、成田−バンコク−チェンマイ(タイ国際航空)(6年3月)等相手国内数地点を回遊する合計8路線の新規路線を開設している。
(イ) 直行型の手軽な旅行の実現
 特に近距離国際航空の分野では我が国の地方都市から目的地へ直行するパターンが好まれることもあり、最近では、5年11月に広島−シンガポール線(シンガポール航空)、同年12月に仙台−香港線(香港ドラゴン航空)、6年4月に函館一ユジノサハリンスク線(アエロフロート)並びに同年7月に小松−ルクセンブルグ線(カーゴルックス)及び富山−ウラジオストック線(アエロフロート)の開設など地方空港発着の直行路線の開設を推進しているほか、我が国の国際チャーター便の利用状況が全体の輸送量の1%未満と低い水準にとどまっていることから、「フライ・アンド・クルーズ」等の多彩なパック旅行に対応した片道のみの包括旅行チャーターの導入検討や国際チャーター専門会社を活用したチャーター便の適切な活用を推進している。

5 「空の日」、「空の旬間」事業の展開
 平成4年に、民間航空再開40周年を記念して、従来の「航空日」に代えて「空の日」(9月20日)・「空の旬間」(9月20日〜30日)が定められた。これは各種の行事を通じて広く航空に親しんでもらうことにより、国民の航空に対する理解と関心をより一層深めようとするものである。
 平成6年度においてもその趣旨を引き継ぎ、「もっと感動、空はフロンティア」をキャッチフレーズに、記念式典、空の日芸術賞、名古屋地区における「'94スカイフェスタなごや」のほか、全国各地の空港などで、一日空港長、施設見学、体験搭乗、航空教室、物産展など多彩な催しが開催された。また、6年度の新規事業として、次世代を担う中学生に航空や空港について考えてもらうべく、中学生海外主要空港派遣事業を実施した。



平成6年度

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